大楠山から前田川周辺を歩きました。前田川沿いの遊歩道は崖崩れの影響で残念ながら歩くことができませんでした。大楠山の登り下りの道沿いでは木陰の斜面にイノデ類やイタチシダの仲間・ハナワラビの仲間などがたくさん生育していました。
ハナワラビの仲間
大楠山の道沿いでは、オオハナワラビ、フユノハナワラビ、シチトウハナワラビ、アカネハナワラビ(オオハナワラビ×アカハナワラビ)などが見られました。
オオハナワラビ
もっともたくさん見られました。群生して生育していました。
標本1
オオハナワラビ
(1)オオハナワラビ、葉身上部
(2)オオハナワラビ、葉身下部
標本2
オオハナワラビ
シチトウハナワラビ
道沿いの夏緑広葉樹やササなどが生えるブッシュの中などで2~3か所で見られた。オオハナワラビに似ている。フィールドでの区別はシチトウハナワラビはオオハナワラビよりも柔らかい葉を水平に広げ、辺縁の鋸歯はオオハナワラビのように鋭くない。
(1)シチトウハナワラビ、葉身上部
(2)シチトウハナワラビ、葉身下部
(1)シチトウハナワラビ、羽片
(2)シチトウハナワラビ、裂片
アカネハナワラビ(オオハナワラビ×アカハナワラビ)
オオハナワラビが群生する中で1株だけ紅葉していました。オオハナワラビも林縁などやや明るいところに生育する個体は紅葉することがありますが、ここでは樹林下で群生するオオハナワラビはすべて緑色でした。アカハナワラビに似ているところは①羽片や小羽片の先がアカハナワラビに似て尖っていること。②葉の表面をよく観察するとアカハナワラビに似て葉の表面に斑(絣模様)が確認できます。オオハナワラビに似ているところは葉の辺縁の鋸歯がアカハナワラビよりもはっきりしているところ。
オオハナワラビの群生の中に生育するアカネハナワラビか(オオハナワラビ×アカハナワラビ)
(1)アカネハナワラビ(オオハナワラビ×アカハナワラビ)
(2)オオハナワラビとアカネハナワラビの裂片の形および辺縁の鋸歯の比較
(1)アカネハナワラビ(オオハナワラビ×アカハナワラビ)、小羽片および裂片の先は鋭頭
(2)アカネハナワラビ(オオハナワラビ×アカハナワラビ)、葉の辺縁の鋸歯
(1)(2)アカネハナワラビ(オオハナワラビ×アカハナワラビ)、葉の表面の斑
参考1 アカハナワラビの斑(駿河小山)
(1)アカハナワラビ、羽片
(2)アカハナワラビ、小羽片
参考2 アカハナワラビの斑(相模湖)
アカハナワラビの斑(相模湖)
アカハナワラビ、小羽片の斑
フユノハナワラビ
やや稜線の上部の方で2~3株観察された。
コシダ
ふもとの人家周辺の崖に群生。
フモトカグマ
乾燥気味の稜線の樹林下に生育。数株がまとまって生育する小さな群落。
(1)フモトカグマ、羽片裏側
(2)フモトカグマ、胞子嚢群
イノモトソウの仲間
オオバノイノモトソウ、イノモトソウ、マツザカシダ、アマクサシダなどが見られました。
アマクサシダ
乾燥気味の樹林下の崖に生育。
イワトラノオ
日陰の泥岩の露頭や石垣に生育するイワトラノオ。同じような環境にコバノヒノキシダも生育。
ヤブソテツ属の仲間
オニヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、テリハヤブソテツ、ヤマヤブソテツ(ツヤナシヤマヤブソテツtype・ヒラオヤブソテツtypeなど)などが見られた。ナガバヤブソテツの中には耳垂が発達するものが見られ雑種ではないかと考えたが胞子を観察できる状態ではなかった。機会があれば改めて胞子を観察してみたい。
耳垂があるナガバノヤブソテツあるいは雑種か
いままで羽片の辺縁に鋸歯があるだけのナガバヤブソテツは確認しているが、羽片基部前側に耳垂ができている個体がナガバヤブソテツであるか雑種であるか確認していない。
乾燥気味の崖に生育する耳垂があるナガバノヤブソテツあるいは雑種か
(1)耳垂があるナガバノヤブソテツあるいは雑種か、葉身上部
(2)耳垂があるナガバノヤブソテツあるいは雑種か、羽片
胞子を確認し雑種ではなくナガバノヤブソテツと考えられます。2021年6月28日
胞子嚢群を形成している胞子嚢はほとんど不充実であった。ただし、いくつかの胞子嚢群の中にはその中に2~3個の充実した胞子嚢確認できた。
胞子のようすは、胞子数は60個程度確認でき、大きさ・形が整っており有性生殖種と考えられる。
結論として、充実した胞子嚢は非常に少ないがナガバノヤブソテツそのものと考えられる。採取の時期を変えると、胞子嚢群全体が充実しているかもしれないが、今後の課題である。
(大楠山を案内していただいた方にお願いして胞子が付いた時期に葉を採取しお送りいただき、胞子のようすを観察することができました。)
(1)ほとんどが不充実な胞子嚢でできた胞子嚢群(ソーラス)
(2)、(1)の胞子嚢群(ソーラス)を壊したようす
(1)ほとんどが不充実な胞子嚢でできた胞子嚢群(ソーラス)
(2)、(1)の胞子嚢群(ソーラス)を壊したようす
オシダ属の仲間
ベニシダ、オオベニシダ、ミサキカグマ、クマワラビ、オクマワラビ、アイノコクマワラビ(クマワラビ×オクマワラビ)、ヤマイタチシダ、オオイタチシダ、ヒメイタチシダなどが見られた。
ヒメイタチシダ
稜線沿いの樹林下の斜面に生育。オオイタチシダに比べ葉の幅が広く最下羽片は発達し全体として五角形となる。葉は柔らかい革質、光沢のない鮮緑色。葉柄下部の鱗片はオオイタチシダよりも幅があり黒に近い黒褐色、辺縁が淡色になることがある。
オオイタチシダ
大楠山ではオオイタチシダは普通にみられる。アツバtype、ツヤナシtype、アオニtypeが見られた。アオニtypeは1株確認された。
イノデ属の仲間
イノデ、アスカイノデ、ミウライノデ(イノデ×アスカイノデ)、ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)が観察された。アスカイノデは関東の内陸部では珍しいシダであるが海岸線沿いには普通にみられる。
ミウライノデ(イノデ×アスカイノデ)
アスカイノデやイノデが生育する中でときどき見つかる。両親の影響が表れる特徴的な鱗片をつける。胞子嚢群は中間につき、イノデ類の雑種に多くは胞子嚢群が固まるが、ミウライノデの胞子嚢群は崩れる。
〇アスカイノデの鱗片と比べると:アスカイノデは葉柄上部や中軸ではねじれて糸状に見えることがあるがミウライノデもねじれるがずっと幅が広い。
〇イノデの鱗片に比べると:イノデ同様葉柄~中軸にかけて密に鱗片をつけるが、イノデの鱗片は縁に細かい鋸歯のある卵状披針形であまりねじれないがミウライノデの鱗片は縁の鋸歯は目立たず広披針形でねじれることが多い。
(1)ミウライノデ、葉柄上部の鱗片
(2)ミウライノデ、中軸下部の鱗片
ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)
大楠山の北西面で一ヶ所数株が生育していた。アスカイノデの影響が出て、葉身は細身で葉柄は長い。胞子嚢群はやや辺縁寄りにつく。胞子嚢群は崩れず固まる。