良い天気のもと、皆さんで久野周辺の森を歩きました。この季節はいろいろなシダが新葉を展開し、花の咲かないシダでも美しい色合いを見せてくれます。
ヒカゲノカズラの仲間
トウゲシバやヒカゲノカズラが観察された。
ヒカゲノカズラ
標高200m付近に生育。関東南部(関東北部はほとんど足を運んだことがないので)では、標高の高い山地以外では他の地域に比べヒカゲノカズラを見かけることは少ない。理由はよくわからないが関東平野に広く載っている関東ローム層も影響しているのではないかと疑ってしまう。今回は箱根外輪山の裾野に広がる久野の林床(久野川の氾濫原に広がる森)で観察することができた。
やや日当たりのよい林縁の林床に生育するヒカゲノカズラ
ハナヤスリの仲間
コヒロハハナヤスリが観察された。
コヒロハハナヤスリ
樹冠に覆われた神社の境内でに群生していた。小さなシダで、足元に生えていることを言われなければ見過ごしてしまいそうであった。栄養葉の基部には短柄が観察されたがはっきりわからないものも見られた。
(1)群生するコヒロハハナヤスリ
(2)コヒロハハナヤスリ、栄養葉と胞子葉(胞子嚢穂)
ノコギリシダ属の仲間
キヨタキシダ、ヒカベワラビ、シロヤマシダ、ヒュウガシダの可能性があるシダなどが見られました。
ヒュウガシダの可能性があるシダ
シロヤマシダとコクモウクジャクの雑種と言われている。木漏れ日が入るスギ植林地斜面。高茎草本が茂る中、数株が群生。シロヤマシダの毛深い個体にによく似ているが、葉柄基部および葉柄下部にはよく目立つ黒褐色の鱗片がついていた。小羽片の側脈は単条~2条。胞子嚢群は中間につく。改めて成葉になったころ、胞子を含め再度調べてみたい。
詳しい方に成葉を見ていただき、以下のコメントを頂きました。
「胞子が成熟する頃の成葉を観察しなければ正確なことはわからないが、葉柄基部の鱗片がやや明るいこと、側脈が単条~2条になることからヒュウガシダの可能性がある。」
(1)ヒュウガシダか、小羽片の裏側
(2)ヒュウガシダか、胞子嚢群
カナワラビの仲間
ハカタシダ、オオカナワラビ、オニカナワラビ、テンリュウカナワラビ、テンリュウカナモドキ、オニカナワラビ×ミドリワラビ、など雑種と思われるものが多く見られた。今後、胞子のようすの観察していきたい。
テンリュウカナモドキか
オオカナワラビとホソバカナワラビの雑種と推定されている。まだ胞子のようすは確認できていない。スギ林の中を流れる渓流沿いの崖に生育。オオカナワラビに比べるとスリムで羽片は細長い。胞子嚢群もオオカナワラビに比べるとやや内側についている。改めてよい季節に胞子の様子を確認してみたい。
テンリュウカナモドキか、羽片裏側
テンリュウカナモドキか、胞子嚢群
オオカナワラビテンリュウカナワラビ
※オオカナワラビに訂いたします。2022年9月22日
オオカナワラビとコバノカナワラビの雑種と推定される。同行の方から、「場所によってはオオカナワラビより多く見られる」くらい生育しているようです。久野の森でもいろいろなところでたびたび目にすることができました。スギ植林地林床に群生あるいは点在して生育。
葉は長卵形で羽片は上部に行くに従い徐々に短縮しコバノカナワラビ的。下部の羽片の後側第1小羽片は発達し、最下羽片後側小羽片は1~3本ほど発達することがある。胞子嚢群は辺縁寄りやや内側につく。包膜の辺縁には鋸歯がある。
標本1
スギ植林地林床に生育するオオカナワラビテンリュウカナワラビ
オオカナワラビテンリュウカナワラビ、羽片裏側
オオカナワラビテンリュウカナワラビ、包膜
標本2
スギ植林地林床に生育するオオカナワラビテンリュウカナワラビ
オオカナワラビテンリュウカナワラビ、葉身下部
オオカナワラビテンリュウカナワラビ、羽片裏側
オニカナワラビ×ミドリカナワラビか
平坦なスギ植林地。周辺には普通のオニカナワラビが生育。オニカナワラビは普通、均整の取れた美しい形をしているが、この個体は葉の形はあまり整っておらず、羽片を開出気味につける。最下羽片後側第1小羽片の裂片は小羽軸に流れてつきミドリカナワラビに似る。葉柄基部の鱗片には褐色~黒褐色の鱗片をつける。同行の方からはミドリカナワラビの血が入っていれば葉質がもう少し柔らかいのではないか、とのご意見を頂いた。
改めて胞子の様子を確認してみたい。
(1)(2)オニカナワラビ×ミドリカナワラビか、葉柄
(2)オニカナワラビ×ミドリカナワラビか、葉柄の鱗片
オニカナワラビ
いろいろなオニカナワラビが生育。
標本1
オニカナワラビ
(1)オニカナワラビ、最下羽片
(2)群生するオニカナワラビ
(1)オニカナワラビ、最下羽片
(2)オニカナワラビ、胞子嚢群
イノデの仲間
イノデ、アイアスカイノデ、アスカイノデ、ミウライノデ、ドウリョウイノデ、オオタニイノデなど雑種も含めて多く見られた。
アスカイノデ
海岸から離れたところでアスカイノデを観察すると、昔この辺りに海が来ていたのかとつい思ってしまう。
いろいろなイノデが生育するシダ谷に生育するアスカイノデ
オオタニイノデ(アイアスカイノデ×アスカイノデ)
アイアスカイノデとアスカイノデの雑種と推定される。木漏れ日が射す樹齢を経たスギ林の緩やかな谷、イノデ類やカナワラビの仲間が茂るシダ谷に生育。葉の大きさは1m程度。葉身はアスカイノデに似てやや細身で艶はあるが弱い。葉柄には中央に栗色が入る幅の狭い鱗片が付き、基部では辺縁が淡色でほぼ栗色になる。
アスカイノデやアイアスカイノデが生育するシダ谷で見られたオオタニイノデ
ミウラウイノデ(イノデ×アスカイノデ)
イノデとアスカイノデの雑種と推定される。前出の同じシダ谷に生育。葉の大きさは1m程度。
(1)ミウラウイノデ(イノデ×アスカイノデ)、葉柄基部の鱗片
(2)ミウラウイノデ(イノデ×アスカイノデ)、葉柄中部の鱗片
(2)ミウラウイノデ(イノデ×アスカイノデ)、葉柄上部の鱗片
(1)ミウラウイノデ(イノデ×アスカイノデ)、葉身上部
(2)ミウラウイノデ(イノデ×アスカイノデ)、羽片
ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)
イノデとアイアスカイノデの雑種と推定される。葉は大きく、100~120㎝。葉柄基部の鱗片はイノデに似て幅が広く先の方に栗色が入るが全く入らない個体もみられる。葉身はアイアスカイノデに似てスリムで光沢は弱い。
(1)(2)ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)葉柄基部の鱗片
(3)ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)葉柄基部の鱗片 拡大
オオキヨズミシダ
普通樹林下の岩場周辺で見られることが多いが、今回がスギ植林地の斜面で観察。
スギ植林地斜面の林床に生育するオオキヨズミシダ
オオキヨズミシダ、葉柄の鱗片(ピンボケですみません)
(1)(2)オオキヨズミシダ、胞子嚢群
ベニシダの仲間
ベニシダ、ミドリベニシダ、キノクニベニシダ包膜白色type(ミドリキノクニベニシダ)、マルバベニシダ、オオベニシダなどが見られた。
ミドリベニシダ
新葉が緑のミドリベニシダや新葉が紅色で包膜だけが白いベニシダも見られます。
(1)ミドリベニシダ、葉柄の鱗片
(2)ミドリベニシダ、胞子嚢群
キノクニベニシダ包膜白type(ミドリキノクニベニシダ)
新葉が緑のミドリベニシダや新葉が紅色で包膜だけが白いベニシダも見られます。
キノクニベニシダ包膜白type、葉身
キノクニベニシダ包膜白type、胞子嚢群
ベニオオイタチシダの仲間
ベニオオイタチシダ、ベニオオイタチシダ艶無しtypeが見られた。
ベニオオイタチシダ
葉面はフラットで光沢があるベニオオイタチシダ
ベニオオイタチシダつやなしtype(アケボノオオイタチシダ)
スギ植林地林床で観察。葉は大きく100㎝に達する。新葉は鮮やかな紅色やピンク色を示すが、成葉は艶のない白緑色。大きな個体では最下羽片後側第1小羽片はクロスする。
小田原や鎌倉、三浦半島など沿岸部で見られる。新芽は鮮やかな紅色やピンク色を示すが、内陸部で長く栽培すると鮮やかないろはくすんでくる。