オキノクリハラン属の仲間 2021年春
屋久島では海岸林~低標高の渓谷沿いでいろいろな種類のオキノクリハラン属のシダを観察することができた。水がしみわたるウエットな海岸林林床では、同じエリア内で2種類の雑種(シンテンウラボシ・ヒトツバイワヒトデオオバヤリノホラン※いずれも胞子のようすは調べていない。)が見られたが、親種としてはヤリノホクリハラン・オオイワヒトデが確認できただけでもう1種類の親種が存在すると思われるが確認することができなかった。機会があれば改めてゆっくり調べてみたい。
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
「ヤリノホクリハランと単葉のシンテンウラボシ、ヒトツバイワヒトデの区別は難しい場合があり、アマチュアでは遺伝子解析もままならず、正常な胞子ができるか、不稔かで判断せざるを得ません。また、シンテンウラボシとヒトツバイワヒトデの区別も必ずしも簡単ではありません。オオイワヒトデとイワヒトデの形質の差異が雑種に反映されるという前提で、シンテンウラボシは葉裏の葉脈がよく見え、文献などでは根茎が4~5mmと太く、ヒトツバイワヒトデは葉裏の葉脈は見えず、同じく根茎が3~4mmとやや細いということで区別されますが、根茎の太さは明確に区別できない場合も多く、また、葉脈もどちらともいえない個体があります。そのような場合は自生環境などもあわせて見当をつけるしかないと思っています。」
№1 オオイワヒトデ 田代海岸
(1)ウエットな海岸林や人家のそばの林内を流れる川のそばで見られたオオイワヒトデ
(2)(3)海岸林の林内を流れる川のそばで見られたオオイワヒトデ
№2 イワヒトデ 明星岳
(1)切り立った岩と岩に挟まれたウエットな空気に包まれた薄暗い岩壁に生育するイワヒトデ
(2)切り立った岩と岩に挟まれたウエットな空気に包まれた薄暗い岩壁に生育するイワヒトデ
№3 イワヒトデあるいはイワヒトデが関わる雑種 中瀬川
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
イワヒトデだと思いますが、雑種かどうかは胞子を確認しませんんとなんとも言えません。
※少し変わったイワヒトデ。一般的なイワヒトデにくらべると①頂羽片が長くよく発達している。②頂羽片基部には非対称に切れ込みやふくらみが見られる。③側羽片の数が左右で異なる。④側羽片の形が変わっている(基部がくびれず中央部の幅が狭い)。⑤幼株の側羽片は片側だけにつくことが多い。まだ胞子嚢群の付き方・胞子を確認していない。
(1)渓谷沿いの岩上で観察されたイワヒトデあるいはイワヒトデが関わる雑種
(2)イワヒトデあるいはイワヒトデが関わる雑種、左右で枚数が異なる側羽片
(3)イワヒトデあるいはイワヒトデが関わる雑種、基部に非対称に凹凸が見られる頂羽片
№4 アイイワヒトデあるいはオオイワヒトデ 田代海岸
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
写真で見る限り、葉形は大きくありませんのでアイイワヒトデの可能性はあると思いますが、胞子を調べませんとなんとも言えません。
胞子や葉の裏側のようすなど詳しく調べていないので、よくわからないシダとして紹介する。
岩上ではなく地表に生育。一般にオオイワヒトデは群生し、田代海岸の別の場所では80㎝程度のオオイワヒトデが密に群生しているところもみられる。このウエットな海岸林林床ではヒトツバイワヒトデとともにアイイワヒトデの可能性のあるシダが群生せず散在して生育している。羽片の幅はオオイワヒトデよりも細く、羽片数が少ない個体が多い。オオイワヒトデ似の大きな株~イワヒトデ似の小形の株まで見られる。胞子をつけた葉を見つけることができず胞子嚢群は確認できていない。機会があれば再訪し胞子を調べてみたい。
(2)オオイワヒトデ(左)とアイイワヒトデ(右)
(3) (2)の右側を拡大、そばを水が流れるウエットな海岸林林床に生育するアイイワヒトデか
(4)アイイワヒトデかとヒトツバイワヒロデ
(5) アイイワヒトデか
№5 いろいろな形態のヤリノホクリハラン
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
写真3、4は葉柄の翼があまりなく、シンテンウラボシにも見えますが、胞子を調べませんとシンテンウラボシともいえず、難しいところです。その他はヤリノホクリハランでよいと思います。
低山ウエットな渓谷~海岸林に生育する。やや2形成。栄養葉の葉柄は不明瞭、紡錘形~広披針形で横に葉をひろげる。胞子をつける葉(胞子葉)は葉柄を立ち上げ細長い紡錘形。胞子数は60個程度確認、大きさ・形も整っており有性生殖種と思われる。
写真標本1 渓流の流れのそばの岩上 中瀬川
小さな渓流の流れのそばの苔むした転石上に生育。
(1)内陸の低山ウエットな渓谷に生育するヤリノホクリハラン
(2)内陸の低山ウエットな渓谷に生育するヤリノホクリハラン
(3)ヤリノホクリハラン、栄養葉
(6)ヤリノホクリハラン、胞子1上面
(7)ヤリノホクリハラン、胞子1側面
(8)ヤリノホクリハラン、胞子2上面
(9)ヤリノホクリハラン、胞子2側面
写真標本2 砂防ダムの擁壁面 中瀬川
標本1の近くの小さな砂防ダムの擁壁面に群生。
(1)内陸の低山ウエットな渓谷に生育するヤリノホクリハラン
(2)流れのそばの岩上に生育するヤリノホクリハラン、栄養葉
(3)流れのそばの岩上に生育するヤリノホクリハラン、胞子をつけた葉
写真標本3 深い渓谷の流れのそばの岩上 落ノ川
上部を厚く樹冠に覆われた深く暗い谷底、流れのそばの岩上に生育 ※以前(2017年3月)の写真を使用しています。
(1)深く落ち込んだ谷底、流れのそばの岩上に生育するヤリノホクリハランあるいはシンテンウラボシ
(2)ヤリノホクリハランあるいはシンテンウラボシ、胞子葉
(3)ヤリノホクリハランあるいはシンテンウラボシ、胞子嚢群
写真標本4 海岸林内のウエットな林床 田代海岸
(1)海岸林のウエットな林床に生育するヤリノホクリハランあるいはシンテンウラボシ
(2)海岸林のウエットな林床に生育するヤリノホクリハランあるいはシンテンウラボシ、胞子嚢群
写真標本5 海岸林内のウエットな林床 田代海岸 (※以前(2017年3月)の写真を使用しています。)
海岸林内で観察。栄養葉は有柄、葉身基部は急に狭まる広披針形、先端は鋭頭、基部の幅が最も広い。胞子をつけた葉(胞子葉)は栄養葉よりも背が高く、長い葉柄の先に基部の幅が最大となる鏃(やじり)形広披針形の葉身をつける(葉身先端に向けて長いひし形)。栄養葉・胞子葉とも葉柄には翼が葉身~葉柄下部まで連続的につく。
(2)ヤリノホクリハラン、胞子葉
(3)ヤリノホクリハラン、栄養葉
(4)ヤリノホクリハラン、胞子葉裏側
(5)ヤリノホクリハラン、胞子嚢群
写真標本6 海岸林内のウエットな林床 田代海岸
(1)(2)海岸林のウエットな林床に生育するヤリノホクリハラン、胞子嚢群
№6 ヤリノホクリハランあるいはヤリノホクリハランが関わる雑種 小瀬田(※以前(2017年3月)の写真を使用しています。)
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
翼がはっきりしていますので、ヤリノホクリハランでよいと思います。
低山スギ植林地林床に群生。ヤリノホクリハランは胞子をつけた葉は長い柄を立ち上げることが多いですが、この株では胞子をつけた葉と栄養葉の高さがあまり変わらず、葉の表面は平坦で胞子をつける位置で洗濯板状に膨らまない。ヤリノホクリハランが関わる雑種の可能性もある。
胞子をつける葉は翼のある柄を持つがそれほど長くなく、葉の大きさは15〜20センチ、広披針形~紡錘形・先端は鈍頭〜鋭頭・葉の表面は胞子をつける位置で洗濯板状に膨らまず平坦な葉をやや立ち上げ、胞子嚢群は線形。栄養葉は10〜18センチ、翼のある柄を持ち、葉は横に広げ、葉身の形は広披針形、先端は鈍頭。まだ胞子は調べていない。改めて胞子のようすを調べてみたい。
(1)人家の周辺のスギ植林地に生育するヤリノホクリハランあるいはヤリノホクリハランが関わる雑種
(2)ヤリノホクリハランあるいはヤリノホクリハランが関わる雑種、手で持っている葉は胞子葉
(3)ヤリノホクリハランあるいはヤリノホクリハランが関わる雑種、胞子嚢群
(4)(5)ヤリノホクリハランあるいはヤリノホクリハランが関わる雑種、胞子嚢群
№7 オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン) 花揚川
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
ヒトツバイワヒトデの可能性が高いと思いますが、胞子を調べませんと確かなことはいえません。
オキノクリハラン属の不明種。低山の深い渓谷内の岩上に生育。栄養葉・胞子葉とも葉身はスリムな単葉。胞子葉の大きさは25~30㎝・幅は1.5~2.0㎝、細長い紡錘形。葉柄は葉身とほぼ同長。葉の裏面で葉脈は見えない。胞子嚢群は中肋に対してほぼ45°の角度でつく。栄養葉は胞子葉より小形で20~25㎝、葉柄は葉身よりもやや短い。
(1)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)
(2)(3)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)
(4)(5)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)、葉柄
(6)(7)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)、栄養葉
(8)(9)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)、胞子葉裏側
(10)(11)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)、胞子嚢群。
(12)オキノクリハラン属の不明種(仮称:ナガバヤリノホラン)、胞子嚢群。
№8 雑種1 シンテンウラボシ 田代海岸
ウエットな海岸林に群生する。個体数は多い。周辺には親種のオオイワヒトデとヤリノホクリハランが生育する。
(1)ウエットな海岸林林床に群生するシンテンウラボシ(オオイワヒトデ×ヤリノホクリハラン)
(2)シンテンウラボシ(オオイワヒトデ×ヤリノホクリハラン)
(3)(4)シンテンウラボシ(オオイワヒトデ×ヤリノホクリハラン)胞子嚢群
(5)シンテンウラボシ(オオイワヒトデ×ヤリノホクリハラン)胞子嚢群
(6)親種と思われるヤリノホクリハラン(中央および右)と一緒に生育するシンテンウラボシ(左下)
№9 雑種2 ヒトツバイワヒトデ(単葉形) 田代海岸
詳しい方にお尋ねして以下のコメントを頂いています。
オオイワヒトデと混生しているのであれば、シンテンウラボシの可能性が高いと思いますが、葉脈の状態が分りませんので、形態からはシンテンウラボシかヒトツバイワヒトデか判断できません。シンテンウラボシ、ヒトツバイワヒトデともに単葉のものは珍しくありません。
イワヒトデとヤリノホクリハランの雑種と言われている。生育地周辺ではオオイワヒトデ(アイイワヒトデか)は確認できたがイワヒトデは確認できていない。改めて現地に行く機会があれば再度イワヒトデを探してみたい。
海岸林内、そばに水が流れるようなごくウエットな林床に(10m×5m)の範囲に生育。栄養葉・胞子をつけた葉はともに単葉、紡錘形、胞子をつけた葉は上に立ち上がり大きさは30~40㎝、栄養葉はそれほど立ち上がらず大きさは15~25㎝。葉身下部が左右非対称の個体や葉身下部に小さな耳のような側羽片の痕跡が付いたり葉身先端が2叉したりする葉もみられ雑種と思われる。
一緒に生育しているシダがオオイワヒトデであるならば、ヒトツバイワヒトデ(単葉形)の周辺では親種としてヤリノホクリハランとオオイワヒトデしか見つからず、ヤリノホクリハランとオオイワヒトデの雑種の可能性も考えられ外観の異なるシンテンウラボシ(単葉形)ということにもなる。
(1)ヤリノホクリハランの胞子葉(左)と単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシの胞子葉(右) ※以前(2017年3月)の写真を使用しています。
(2)(3)海岸林内、水が流れるウエットな環境に生育する単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシ
(4)単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシの群生
(5)単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシ、胞子をつけた葉と栄養葉。左上はアイイワヒトデ
(6)オオイワヒトデ(左)、アイイワヒトデ(右)と単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシ(右上)と葉身の上部が2裂する個体(右下)
(7) (6)の拡大。葉身の上部が2裂する単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシ(上中央)
(8)単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシ(左)とオオイワヒトデあるいはアイイワヒトデ(中央および右)と親種と思われるヤリノホクリハラン(下中央)
(9)親種と思われるヤリノホクリハラン(左)と単葉のヒトツバイワヒトデあるいはシンテンウラボシ(中央)とオオイワヒトデあるいはアイイワヒトデ(右)
№10 タイワンクリハラン 中瀬川他
上部を樹冠に覆われたウエットな空気に包まれた谷の中の岩上や流れのそばの転石上に生育。
(1)流れのわきの岩上に生育するタイワンクリハラン
(2)(3)ウエットな空気に包まれた渓谷内の岩上に生育するタイワンクリハラン
ウエットな空気に包まれた渓谷内の岩上に生育するタイワンクリハラン
(4)(5)タイワンクリハラン、葉身
ウエットな空気に包まれた渓谷内の岩上に生育するタイワンクリハラン
(6)(7)タイワンクリハラン、胞子嚢群
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