ナンゴクホウビシダかホウビシダ
沼津 鷲頭山・大平山で2回目の観察会を行いました。参加された皆さんで手分けして谷筋や大きな岩壁の周りなどを探しいろいろなシダにお目にかかることができました。
鷲頭山・大平山にはいくつもの登山コースがあり、1回目に歩いたコースとは別のコースを歩きました。前回および今回同じ 鷲頭山・大平山でシダを観察することでこの地域のおおよそのシダの種類や特徴が分かってきました。前回の報告で載せたシダの写真とかぶるシダが多く出てきますが、ご了解ください。
トウゲシバの仲間
トウゲシバ・オニトウゲシバが見られました。
オニトウゲシバ
オニトウゲシバは沢筋のウエットな崖で見られました。葉は紡錘形で地上茎は3~4回枝分かれしていた。
イワヒバの仲間
イワヒバ、カタヒバ、イヌカタヒバ、ヒメクラマゴケ、小形のタチクラマゴケ似のクラマゴケの仲間(仮称:ハコネタチクラマゴケ)が見られました。
タチクラマゴケの仲間(仮称:ハコネタチクラマゴケ)あるいは小形のタチクラマゴ
日陰の岩壁に小さい群落をつくって生育。同じような環境にヒメクラマゴケも生育しているので、よく見ないと見過ごしてしまう。タチクラマゴケによく似るが違いは①植物体は崖面や岩上に貼りつくように平面的に生育しタチクラマゴケのように立体的にならない。②森の中に生育。③葉や茎は小さく、柔らかく、葉は薄く、光沢無し、中肋部分はやや膨らみが確認できる。④背葉はあまり反り返らない。胞子葉はつけていなかったが、箱根で採取した個体を栽培すると、タチクラマゴケのような胞子をつけた茎を長く立ち上げるのではなく、どちらかというとヤマクラマゴケの胞子嚢穂を少し長くしたような胞子嚢穂を枝の先に1つ立ち上げるようにしてつける。タチクラマゴケの環境変異型あるいは地域変異型かもしれないが興味深い種である。
(1)(2)ハコネタチクラマゴケ(仮称)あるいは小形のタチクラマゴ
(1)(2)ハコネタチクラマゴケ(仮称)あるいは小形のタチクラマゴ、腹葉と背葉
ヒメクラマゴケ
日陰の岩壁に小さな群落をつくって生育。ときどき見られた。腹葉・背葉を込み合ってつけ、腹葉は太ったバナナ形で先端は円頭。この季節胞子嚢穂はつけていない。
(1)日陰の岩壁に小さな群落をつくって生育するヒメクラマゴケ
(2)ヒメクラマゴケ、腹葉と背葉
イズハイホラゴケ
切り立った薄暗い岩壁に生育。葉のサイズは長さ20㎝程度(葉柄は葉身の1/2程度で6~8㎝)・幅は6~8㎝。大きなハイホラゴケの仲間。胞子は60個程度確認でき、大きさ・形が整い有性生殖種と思われる。
詳しい方に生葉と胞子画像を見ていただき、イズハイホラゴケとのコメントを頂きました。「ミウラハイホラゴケの可能性もありますが、羽片の幅が広いことと根茎がやや太く見えますのでイズハイホラゴケと判断しました。」
(1)イズハイホラゴケ
(2)イズハイホラゴケ、根茎および葉柄
(1)イズハイホラゴケ、葉身
(2)イズハイホラゴケ、羽片および根茎
(1)(2)(3)イズハイホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
セイタカホラゴケ (オオハイホラゴケ×ハイホラゴケ)
オオハイホラゴケとハイホラゴケとの雑種と推定される。ウエットで薄暗い切り立った岩壁の下部に群生。長さセイタカホラゴケとあまり変わらないが、羽片は小さく葉身の幅がスリム。葉の長さ20㎝程度(葉柄は葉身の1/2程度で6~8㎝)・幅は4~5㎝程度。
詳しい方に生葉と胞子画像を見ていただき、「これはセイタカホラゴケでよい。」とのコメントを頂きました。
(1)薄暗い岩壁に生育するセイタカホラゴケ
(2)セイタカホラゴケ(オオハイホラゴケ×ハイホラゴケ)
(1)セイタカホラゴケ、葉身下部
(2)セイタカホラゴケ、根茎および葉柄
(1)セイタカホラゴケ、胞子嚢群
(2)セイタカホラゴケ、包膜
(1)(2)(3)セイタカホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
コハイホラゴケ(ハイホラゴケ×ヒメハイホラゴケ)
※ミツイシハイホラゴケからコハイホラゴケに訂正いたしました。2022年1月21日
切り立った岩壁に群生。葉はコハイホラゴケのように葉身はシャープで、羽片は立体的ですが葉の長さは15㎝程度。葉柄は葉の大きさに比べ短く葉身の1/3程度。包膜は長さの割に径が大きく先端の唇やや広がる程度。
詳しい方に生葉と胞子画像を見ていただき、コハイホラゴケとのコメントを頂きました。「葉身が立体的な感じですので、ヒメハイホラゴケが関係している雑種だと思いますが、コハイホラゴケにしてはおっしゃる通りやや大きいですがこの程度のコハイホラゴケはあり、コハイホラゴケの大型品です。」
(1)コハイホラゴケ、葉身
(2)コハイホラゴケ、葉身および根茎
(1)コハイホラゴケ、葉柄および根茎
(2)コハイホラゴケ、葉柄
(1)(2)(3)コハイホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
ハイホラゴケ
切り立った日陰の岩壁に群生。葉の大きさは12~16㎝(葉柄はやや短く葉身の1/3程度で3~5㎝)・幅は2~3センチ程度、披針形~卵状披針形。
詳しい方に生葉と胞子画像を見ていただき、ハイホラゴケとのコメントを頂きました。「これも雑種的な胞子ですが、やはりコハイホラゴケにしてはやや大きく、外部形態ではハイホラゴケそのものがもっとも近いと思います。3倍体のハイホラゴケというのがあるそうですので、そうであれば胞子が正常でないことも納得ができます。」
(1)ハイホラゴケ、羽片および胞子嚢群
(2)ハイホラゴケ、包膜
ハナワラビの仲間
稜線部でシチトウハナワラビ、オオハナワラビを観察。
シチトウハナワラビ
稜線の乾燥した明るい林床に生育。すぐそばにオオハナワラビも生育。オオハナワラビに比べると葉の質は柔らかく葉縁の鋸歯が弱い。雑種の可能性も考えられるので胞子を観察する必要がある。
(1)(2)シチトウハナワラビ(左)、オオハナワラビ(右)
イノモトソウの仲間
イノモトソウ、オオバイノモトソウ、マツザカシダ、アマクサシダ、ナチシダなどが見られた。
マツザカシダ
山麓付近の林床では普通に見られ、オオバノイノモトソウよりも多く見られた。
山麓沢筋の林床に普通にみられるマツザカシダ
ナチシダ
小さ群落(2~3株)が2箇所で見られた。
沢筋などに2~3株がまとまって生育するナチシダ。
アマクサシダ
山地の中~上部の林床でときどき目にした。
山地の中~上部の林床に生育するアマクサシダ
タキミシダ
ウエットな空気に包まれた岩壁に生育。1つの岩壁に4~5株観察。大きい葉は20㎝近くある。
(1)(2)ウエットな空気に包まれた岩壁に生育するタキミシダ
(1)タキミシダ、胞子嚢群
(2)タキミシダ、胞子嚢群をつける溝
チャセンシダの仲間
クルマシダ、コウザキシダ、コバノヒノキシダ、ホウビシダなどが見られた。
クルマシダ
林内の切り立った岩壁に生育していた。葉の大きさは40㎝程度。
林内の切り立った岩壁に生育するクルマシダ
コウザキシダ
ウエットな林内の岩上に生育。裂片の端(前側)に胞子嚢群をつける。
(1)ウエットな林内の岩上に生育するコウザキシダ
(2)コウザキシダ、胞子嚢群
ナンゴクホウビシダかあるいはアイホウビシダかホウビシダ
最初観察会では、ホウビシダとしましたが、その後、湯ヶ島温泉-浄蓮滝での観察会でホウビシダを観察する機会があり、ナンゴクホウビシダあるいはアイホウビシダ(ナンゴクホウビシダ×ホウビシダ)の可能性があることが分かり訂正いたします。2022年2月27日
※浄蓮の滝周辺で観察されたホウビシダ
林内、水が滴るようなウエットな岩壁に群生。生育確認したのは1地点であるが個体数は非常に多い。葉の大きさは30~40㎝、鮮緑色~緑色。羽片は左右非対称の広披針形、先の方はやや鎌曲し鋭頭。胞子嚢群はやや辺縁寄りにつく程度でナンゴクホウビシダは一般にはもっと辺縁寄りと言われている。ホウビシダとナンゴクホウビシダの雑種、あるいはホウビシダの可能性も考えられる。
(1)林内、水が滴るようなウエットな岩壁に群生するナンゴクホウビシダかホウビシダ
(2)ホラシノブの仲間、オリヅルシダ、ノコギリシダなどとともに生育するナンゴクホウビシダかホウビシダ
(1)ナンゴクホウビシダかホウビシダ、羽片
(2)ナンゴクホウビシダかホウビシダ、胞子嚢群
メシダ属の仲間
ヤマイヌワラビ、ヒロハイヌワラビなどが生育。
ノコギリシダ属の仲間
ノコギリシダ、シロヤマシダなどが生育。
シロヤマシダ
大形のシダ、葉の大きさは80㎝程度。中腹~山麓の林床に生育。
(1)山地中腹部~山麓の林床に生育するシロヤマシダ
(2)シロヤマシダ、葉柄
(1)山地中腹部~山麓の林床に生育するシロヤマシダ
(2)シロヤマシダ、葉柄
ベニシダの仲間
ベニシダ、サイゴクベニシダ、エンシュウベニシダが見られました。
エンシュウベニシダ
林内の沢近くの転石の間に生育。沢の水をかぶったせいか葉の状態は良くなかった。1株確認。
(1)ンシュウベニシダ、羽片
(2)ンシュウベニシダ、羽片裏側
(1)(2)ンシュウベニシダ、胞子嚢群
サイゴクベニシダ
腐植が堆積する林床~岩が露出する林床など時々見られた。
(1)転石が堆積した林床に生育するサイゴクベニシダ
(2)サイゴクベニシダ、葉柄の鱗片
(1)サイゴクベニシダ、羽片
(2)サイゴクベニシダ、胞子嚢群
イノデの仲間
ジュモンジシダ、オリヅルシダ、イノデ、イノデモドキなどが見られました。
オリヅルシダ
林内、ウエットな空気に包まれた岩壁に生育。
(1)ウエットな空気に包まれた岩壁に生育するオリヅルシダ
(2)オリヅルシダ、胞子嚢群