西伊豆周辺を車で下見しました。観察したシダを紹介します。修善寺からまず土肥へ向かい、そこから仁科川まで南下し、道々いくつかの谷に入りながら西伊豆に生育するシダを観察しました。
ヒメクラマゴケ
林縁のやや明るい崖に生育。この季節、明るい所では紅葉する。
無融合生殖種あるいは雑種の可能性があるアオホラゴケ無融合生殖種アオホラゴケ(ヌマヅアオホラゴケ:仮称)
林内、流れのそばの岩陰に群生。胞子の数は少なく、大きさ・形は整っているもの・乱れているものが見られ無融合生殖種あるいは雑種の可能性がある。胞子を数えたところ無融合生殖種(ヌマヅアオホラゴケ:仮称)ではないかと思われる。
詳しい方からご意見を頂き一部訂正いたします。以下、頂いたコメントです。2020年4月8日
もしアオホラゴケ無融合生殖が見つかれば初記録になると思いますが、胞子がイレギュラーで雑種にも見えます。ほかの方のご意見では2倍体(普通)と4倍体(稀)の交雑した3倍体の不稔雑種であろうとのことでした。関東近辺でも3倍体雑種は見つかっているようです。
無融合生殖種あるいは雑種の可能性があるアオホラゴケアオホラゴケ無融合生殖種
(1)(2)無融合生殖種あるいは雑種の可能性があるアオホラゴケアオホラゴケ無融合生殖種
(1)(2)無融合生殖種あるいは雑種の可能性があるアオホラゴケアオホラゴケ無融合生殖種、偽脈
セイタカホラゴケ(ハイホラゴケ×オオハイホラゴケ)中形の雑種のハイホラゴケの仲間
川沿いのスギ・ヒノキ植林地林内、崩れた炭焼き釜の内側の側面に群生。葉の大きさは葉柄込みで15㎝前後。葉柄5~8㎝・葉身7~9㎝、幅6㎝前後で中形の大きさ。包膜は2弁状で先端で僅かに開く。また、包膜の辺縁は少し凸凹が見られる。胞子は数が少なく大きさに大小が見られ雑種と推定される。
※詳しい方に生葉を見て頂き名前を教えていただきました。以下は頂いたコメントです。
葉のサイズ、形状、根茎の太さなど、セイタカホラゴケ(ハイホラゴケ×オオハイホラゴケ)でよいと思います。ミツイシハイホラゴケ(ヒメハイホラゴケ×オオハイホラゴケ)の可能性もゼロではありませんが、生葉の葉身部分は長さの割に幅が広いので、ミツイシハイホラゴケの可能性は低いと思います
(1)セイタカホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
(2)、(1)の拡大
(1)セイタカホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
(2)、(1)の拡大
(1)セイタカホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
(2)、(1)の拡大
(1)セイタカホラゴケ、1つの胞子嚢を壊したようす
(2)、(1)の拡大
オオバノアマクサシダ
幼形成熟型のオオバノアマクサシダ。そばには白い斑が入った幼株が見られた。
(1)斑の入った幼株と共に生育するオオバノアマクサシダ
(2)オオバノアマクサシダ、幼株
ハチジョウシダモドキ
樹林内からやや明るい林縁に生育。葉柄と葉身は軸折れせず、羽片は有柄。
アイコハチジョウシダ
シカの食害のせいか、林床にはイノモトソウ属のシダ以外はあまり見られなかった。スギ・ヒノキ植林地樹林下、林道わきに生育。葉柄はやや軸折れし、羽片は無柄。
(1)アイコハチジョウシダ、羽片は無柄
(2)葉身はやや軸折れするアイコハチジョウシダ
(1)アイコハチジョウシダ、葉身上部
(2)アイコハチジョウシダ、羽片
(1)葉身はやや軸折れするアイコハチジョウシダ
(2)アイコハチジョウシダ、羽片裏側
ヤワラハチジョウシダ不明なハチジョウシダの仲間(アイコハチジョウシダかヤワラハチジョウシダ)
採取した株を栽培しヤワラハチジョウシダであることが分かりました。樹林下の石垣や傾斜の急な林床に生育。葉柄は細く、葉身と接するところで軸折れする。葉は薄いが色などはわからない。羽片は無柄。羽軸上の刺が目立つ。小羽片基部後側第1脈は羽軸から直接出たり羽軸と小羽軸の接点から出たりする。葉が枯れていたので改めてよい季節に観察してみたい。
(1)ヤワラハチジョウシダかアイコハチジョウシダ、葉身上部
(2)ヤワラハチジョウシダかアイコハチジョウシダ、羽片基部
(1)(2)ヤワラハチジョウシダかアイコハチジョウシダ、胞子嚢群
(1)(2)ヤワラハチジョウシダかアイコハチジョウシダ、小羽片基部側脈
栽培個体
現地で採取した株を育てました。
(1)(2)ヤワラハチジョウシダ
(1)軸折れするヤワラハチジョウシダ
(2)ヤワラハチジョウシダ、裂片基部後側の第1葉脈
(1)(2)ヤワラハチジョウシダ、羽片
シシラン
川沿いの風通しがよい日陰の大きな岩にコケの仲間と共にヌリトラノオとシシランが生育していた。
川沿いの岩壁にコケの仲間と共に生育するヌリトラノオとシシラン
クルマシダ
渓谷の流れがえぐったような狭い崖の両側の側面に生育。葉は50㎝程度ある。
ヌリトラノオ
あまりウエットではない林縁の土手~ウエットな崖まで生育。葉の先端が切れたところに無性芽をつける。
イヌチャセンシダ
上部は樹冠に覆われるが明るい崖に生育。明るくややドライな崖なのでチャセンシダかと思われたが、中軸に3つの翼が確認できた。
コウザキシダ
林内の岩上に生育。葉の大きさは25~30㎝。アオガネシダと一緒に生えるいくつかの岩壁ではコウザキシダが下側(地表近く)でアオガネシダは乾燥気味のより上部に生育する。
アオガネシダ
渓谷沿いの大木の樹幹や林内の岩壁に群生する。コバノヒノキシダに似ているが環境のよいところでは大きく成長し葉の大きさは30~45㎝。
(1)大木の樹幹に群生するアオガネシダ
(2)林内の岩上に生育するアオガネシダ
小形のコバノヒノキシダ
薄暗い林内のウエットなコンクリート製の橋の上に生育。最初イワトラノオかと思ったが、よく見ると小形のコバノヒノキシダであった。胞子をつけた成株。一般に日の当たる石垣などでは小形化したコバノヒノキシダをよく見かけるが、ウエットな岩上・コンクリート壁などでも見られる。
オリヅルシダ
林内の岩壁に生育。普通、羽片は辺縁は全縁であるが、鋸歯のある葉も見られた。同じ岩壁にコウザキシダやアオガネシダが生育しているところも見られた。
ミヤコカナワラビ
西伊豆町白川周辺では岩がところどころ露出する照葉樹林下、西伊豆町安良里周辺ではスギ・ヒノキ林内岩がむき出しになった林床に広い範囲に生育する。根茎は長く這う。ホソコバカナワラビ(ホソバカナワラビ×コバノカナワラビ)の可能性もあるので、改めて胞子をつける時期に観察したい。
(1)(2)照葉樹林下、岩が露出する林床に群生するミヤコカナワラビ
イヌイワヘゴ
渓谷の川岸にいくつかある大岩の岩上に生育。上部は樹冠に覆われるがある程度で明るい。岩の上に登って観察。岩上であるが、生育している植物が多く堆積層がある。一緒にアオガネシダ・イワヒバも生育。葉の大きさは80~90㎝、葉脈は凹まず葉には表面は平面。中軸の鱗片はイワヘゴにくらべ赤味を帯びた黒褐色で辺縁には短い鋸歯がある。胞子嚢群はやや中肋寄り~全体につく。
(1)岩上に生育するイヌイワヘゴ
(2)イヌイワヘゴ、葉身中部
ナンカイイタチシダ
照葉樹林下、岩面を細い流れが流れ下るサイドの岩の割れ目。そばにはベニオオイタチシダも生えていた。葉は厚く、光沢は無く白緑色。葉柄基部の鱗片は赤味を帯びた黒褐色。最下羽片は発達し、側羽片はシャープに伸びる。
(1)小さな滝のそばの岩壁の割れ目に生育するナンカイイタチシダ
(2)ナンカイイタチシダ、葉身下部
(1)ナンカイイタチシダ、全長(撮影環境で色は相当変化する)
(2)ナンカイイタチシダ、小羽片
(1)ナンカイイタチシダ
(2)ナンカイイタチシダ、葉柄基部の鱗片
オオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)
林縁の斜面や林道沿いの崖などで普通に見られる。
スギ・ヒノキ林内林道沿いの崖に生育するオオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)
(1)オオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)羽片
(2)オオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)小羽片
ナガバノイタチシダ
沢沿いに流れでえぐり取られ窪んだ地形の中に生育。大きな個体では葉の長さは1mに達していた。
(1)川沿いに生育する1mに達するナガバノイタチシダ
(2)ナガバノイタチシダ、羽片
リュウキュウイタチシダか
リュウキュウイタチシダか、あるいは小形のナガバノイタチシダか。洞窟(芋穴か)の側面の切り立った壁から垂れ下がりようにして生育。葉柄は細い。根茎は大きく球形で地中に埋もれず外に露出している。
(1)(2)穴の側面の切り立った壁に生育するリュウキュウイタチシダか
※詳しい方に写真を見て頂きました。以下は頂いたコメントです。
写真では生態および形態からはリュウキュウイタチシダにも見えます。葉柄を含め全長10cm未満の小型品でもソーラスをつけていればリュウキュウイタチシダにほぼ間違いないのですが、葉身で10cm、葉柄を含めて15~20cm程度でも可能性は高いです。同程度のナガバノイタチシダは通常胞子をつけていないと思います。大きさが同じ程度であればリュウキュウイタチシダの葉柄は細く華奢です。
※頂いたリュウキュウイタチシダの標本写真を掲載します。
(1)(2)リュウキュウイタチシダ
ヌカボシクリハラン
上部を樹冠に覆われた岩が露出するやや明るい崖。に生育。
(1)ヌカボシクリハラン
(2)ヌカボシクリハラン、葉の裏側
イワヒトデ
スギ・ヒノキ植林地、樹林内の切り立った大岩の岩上に群生。
(1)イワヒトデ、胞子葉・栄養葉表側
(2)イワヒトデ、胞子葉・栄養葉裏側
フジノキシノブとノキシノブの雑種か(ノキ×フジサガミコノキシノブ:仮称)
河原の大きな転石上に着生。上部を樹冠に覆われているが明るい環境。葉身の幅の広く1.5mm程度。フジノキシノブかと思っって採取したが、胞子は乱れ、雑種であった。フジノキシノブとノキシノブの雑種(ノキ×フジ)と推定される。
(1)明るい樹林内、河原の大きな転石上に着生するフジノキシノブとノキシノブの雑種か
(2)フジノキシノブとノキシノブの雑種か、葉の先
(1)(2)フジノキシノブとノキシノブの雑種か、浮き出る中肋
(1)(2)(3)フジノキシノブとノキシノブの雑種か、盾状鱗片
(1)(2)フジノキシノブとノキシノブの雑種か、1つの胞子嚢を壊したようす
(3)(4)フジノキシノブとノキシノブの雑種か、1つの胞子嚢を壊したようす
ヤノネシダ
照葉樹林下の岩場、細い流れのそばの岩上に群生。胞子をつけた葉の大きさは12~15㎝。胞子は胞子嚢に対して相当大きく、20~28個程度確認でき、小さく歪なものを含めると30個程度確認できた。胞子の数が少ないのは個々の胞子が大きいためすべての胞子が大きくなれなかった可能性が考えられる。胞子の数からいえば無融合生殖種ではないかと考えてしまうが、いくつか胞子嚢壊して胞子を観察すると充実した胞子(成熟し中に葉緑体を形成している胞子)を含む胞子嚢では、すべて胞子の数は少ないが胞子の大きさ・形がきれいに整い有性生殖種のような趣がある。もちろん雑種の可能性も考慮するが、今後もう少し多くの標本を観察していきたい。
※詳しい方にお尋ねしました。以下、頂いたコメントです。
ヤノネシダもこの胞子を播いて、できた配偶体と親種の染色体数を調べて同じであれば無融合生殖といえますが、“無融合生殖種”と判断するためには1個体だけではダメで、この個体の胞子をまいて出てきたものがみな無融合生殖をしていることの確認が必要でしょう。但し、ウラボシ科で無融合生殖をするものは少なくとも日本では知られていませんので、ヤノネシダも有性生殖の胞子が何らかの原因で少なかったという可能性が高いと思います。さらに研究が必要だと思います。
成熟した胞子標本
(1)(2)ヤノネシダ、1つの胞子嚢を壊したようす
まだ成熟していない胞子標本
上の成熟した胞子を採取した葉と同じ葉から採取した。同じ葉の中でも胞子の成熟の程度が異なり、未成熟な胞子嚢では下の写真のような形態を示す。(これだけを見ると雑種のように見えるので胞子の成熟度を考慮しながら胞子観察を行う必要がある。)
(1)(2)ヤノネシダ、1つの胞子嚢を壊したようす(胞子がまだ充実していない胞子嚢)
その他
チャツボミゴケか
鍾乳洞で見られる段々のプールに似た形態の地形が見られ、チャツボミゴケが一帯に密生していました。湧き出す鉱泉の水は石灰岩とは逆で酸性か(なめてみました)。プールの壁を作っているものは赤色の土壌のようなもので、段々のプールを形成していました。チャツボミゴケが優勢に生育し、その他の植物はほとんど見られませんでした。このプールから流れ込む水はそのあたりだけ川底の石などが赤茶色をしていました。チャツボミゴケは酸性のところを好むようですが、新鮮な水が常に流れるようなところでなければ育たず、止水状態のところでは枯死していた。撮影用に標本をシール袋に採取しましたが、ウエットな状態で採取した標本は一晩で黒変してしまいました。