Top / 観察会レポート / 平成25年10月22日(火) 洒水の滝-21世紀の森
御殿場線「山北駅」で下車し、洒水の滝(標高200m)から、その南側の21世紀の森まで歩きました。同行の方に教えていただいたのですが、山北駅がある御殿場線は、丹那トンネルが完成し東海道線が現在のコースになるまでは東海道線だったそうで、駅周辺に往時の面影が残っていました。
洒水の滝へ向かって駅からしばらく歩いたところの民家の脇の水路でシケシダの仲間のホソバフモトシケシダ(ホソバシケシダとフモトシケシダの雑種と推定)ホソバシケシダ2016年11月7日訂正、タマシケシダ(シケシダとフモトシケシダの雑種と推定)サツマシケシダ(シケシダとナチシケシダフモトシケシダの雑種と推定)2016年11月7日訂正と思われる個体を観察しました。シケシダの仲間はいつも難しいです。
ホソバシケシダホソバフモトシケシダ(ホソバシケシダ×フモトシケシダ)2016年11月7日訂正
胞子のうは正常にはじけて胞子を飛ばしていました。葉は厚みがあり、ナチシケシダの可能性もありましたが包膜の辺縁は激しくほつれずに細鋸歯でした。
ホソバシケシダホソバフモトシケシダ2016年11月7日訂正
ホソバシケシダホソバフモトシケシダ2016年11月7日訂正包膜(上左、上右)
サツマシケシダ(シケシダ×ナチシケシダ)タマシケシダ(シケシダ×フモトシケシダ)2016年11月7日訂正
包膜の辺縁は一部は巻きこんでいる部分と一部は巻き込まず激しくほつれている部分に分かれていました。葉の厚みや光沢からサツマシケシダ(シケシダ×ナチシケシダ)としました。
サツマシケシダタマシケシダ2016年11月7日訂正
サツマシケシダタマシケシダ2016年11月7日訂正包膜(上左、上右)
西から東へ向かって流れる酒匂川がここ山北付近で北からの支流を合わせて相模湾ヘ向けて南へ大きく進路を変えています。流れは豊かで西丹沢の森の水が全てここに集まってきています。最近台風の影響でさらに水量は増えていました。洒水の滝は酒匂川に注ぐ支流の一つにありますが、周辺には集落もあり、遠目の風景からは滝がどこにあるのかわかりません。
滝のある支流に入るとだんだん谷は狭まり両側の尾根が高くなり、滝の存在を予感させてくれるようになります。夏ではないので空気のひんやり感はよくわかりませんでしたが、空気はウエットになり、周りの植生には滝の影響がすぐに現れ始めました。滝の手前100m程は両岸の崖や石垣にはいちめんにシダの仲間・コケの仲間が生育していました。多少ともエントランスを持つ滝は周辺に独特の植生”滝周辺植生”とでも言うのでしょうか、我々にとってはたいへん興味をそそられる植生が見られました。
滝周辺の植物を一通り見たあと滝の南側の山に登りました。この山の頂上付近は”21世紀の森”と呼ばれる森林公園になっています。21世紀の森は足柄峠・矢倉岳方面から東に伸びる尾根の先端で、標高は500m程度の小高い山の頂上部にはわずかになだらかな地形が広がり、北側には洒水の滝を有する渓谷が刻まれています。
21世紀の森は面積がおよそ100haあり、スギ・ヒノキなどの樹木の品種改良を行っている林業試験場のようなところですが、広大か面積の中にはいくつものハイキングコースがあり、センターとなる”森林館”では木工工作体験を行っていました。私たちが訪れたのは平日であったこともあるためか誰とも出会いませんでした。また、ここは箱根や大雄山から足柄峠・矢倉岳方面と山北駅を結ぶ登山道となっています。(ここでは21世紀の森を単に「山」と呼ぶことにします)
このあたりの岩は礫岩で、地元では”さざれ石”と呼ばれていました。
滝周辺で
滝周辺ではいろいろなシダを見ることができました。オオイタチシダの仲間、シケシダ・ホソバシケシダ・セイタカシケシダ・ハクモウイノデなどシケシダの仲間やイノデ、アイアスカイノデ、リョウメンシダ、ハカタシダ、イワガネゼンマイ、ノコギリシダ、キヨタキシダ、クリハラン、サジラン、オオバノアマクサシダ、オオバノハチジョウシダ、ヒメカナワラビ、マメヅタなどです。その中で主なものを紹介します。
サジランやマメヅタは滝の近く樹幹や岩に着生していました。サジランの葉身の長さは10~15cmで、個体数(葉の数)は多いのですがざっと見た感じでは胞子のう群を付けた株は見つかりませんでした。
イワヤナギシダサジラン2014年10月11日訂正
イワヤナギシダ(上左)
イワヤナギシダ、根茎(上右)
滝のそばでよく目につくシダはノコギリシダです。ノコギリシダは滝近くでは両側の斜面に他のシダや草本類に混じって広範囲に生育していました。またクリハランやヒメカナワラビ、オオバノアマクサシダは足もとの石垣の隙間などにも幼株がたくさん見られました。
ノコギリシダ
ノコギリシダ
ノコギリシダ、葉身(上左)
ノコギリシダ、胞子のう群(上右)
クリハラン
クリハラン(上左)
クリハラン、胞子のう群(上右)
ヒメカナワラビ
ヒメカナワラビ(上左)
ヒメカナワラビ、包膜(上右)
ヒメカナワラビ、中軸の鱗片(上上)
ヒメカナワラビ、葉柄の鱗片(上左、上右)
イノモトソウの仲間
イノモトソウの仲間では、イノモトソウやオオバイノモトソウ、両種が見られるところではセフリイノモトソウが見られました。
オオバノアマクサシダは滝周辺などウエットなところで多く見られましたが、山の中~上部でも見ることができました。
オオバノハチジョウシダは滝周辺から山の中~上部まで広く生育し大きな葉を広げていました。 アマクサシダは山の中~上部(標高400m)で見られました。
滝付近ではオオバノアマクサシダかオオバノハチジョウシダの幼株と思われるもので白い斑が入った個体が何株か見られました。株が生長すると斑の色は薄くなるようです。滝付近にはオオバノハチジョウシダも少し生育しているので、正確にどちらの幼株なのかわかりません。
オオバノアマクサシダ(幼形成熟type)は、オオバノハチジョウシダの幼株とたいへんよく似ていて各羽片の上側小羽片が欠けています。オオバノハチジョウシダの幼株と異なるところは胞子のう群をつけている点です。(両者の区別がつきにくい個体も見られるので今後も注意して観察していきます)
オオバノアマクサシダ(幼形成熟type)
オオバノアマクサシダ(幼形成熟type)
オオバノアマクサシダ(幼形成熟type)、裂片(上左)
オオバノアマクサシダ(幼形成熟type)、胞子のう群(上右)
オオバノアマクサシダ、幼株(上左)
オオバノアマクサシダ、白斑が薄くなった幼株(上右)
オオバノアマクサシダオオバノハチジョウシダ
※まだ胞子のようすは確認できていませんが、最下羽片後側小羽片の形や羽片先端の頂小羽片の長さからオオバノアマクサシダに訂正いたします。2019年9月20日
オオバノアマクサシダオオバノハチジョウシダ(上左)
オオバノアマクサシダオオバノハチジョウシダ、胞子のう群(上右)
アマクサシダ、最下羽片(上左)
アマクサシダ、胞子のう群(上右)
山の北斜面を登りながら
森の中~上部ではアマクサシダ、イノデモドキ、オニカナワラビ、オオカナワラビ、ナンゴクナライシダ、ミヤコヤブソテツ、キヨスミヒメワラビ、ヌリワラビ、オオベニシダなどが見られました。標高を上げるにしたがってシダを含む植生の変化が楽しめました。その中で主なものを紹介します。
''オオイタチシダの仲間'
オオイタチシダはtype1(アツバオオイタチシダ)とtype3(ツヤナシオオイタチシダ)が見られました。やはり里のシダなのでしょうか、それ以降、標高を上げるとあまりお目にかかることはありませんでした。
type1(アツバオオイタチシダ)
type1(アツバオオイタチシダ)最下羽片(上左)
type1(アツバオオイタチシダ)胞子のう群(上右)
type3(ツヤナシオオイタチシダ)
type3(ツヤナシオオイタチシダ)
type3(ツヤナシオオイタチシダ)最下羽片(上左)
type3(ツヤナシオオイタチシダ)胞子のう群(上右)※画像の個体は胞子のう群が辺縁寄りに付いている
カナワラビの仲間
カナワラビの仲間では、滝周辺(標高200m)ではハカタシダのみが見られ、標高を上げるに従いオオカナワラビやオニカナワラビ(標高400m前後)が見られるようになりました。
ハカタシダ、オオカナワラビ
ハカタシダ(上左)
オオカナワラビ(上右)
オニカナワラビ
オニカナワラビ(上左)
オニカナワラビ、小羽片(上右)
ヤブソテツの仲間
ヤブソテツの仲間ではテリハヤブソテツ、ヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、ヒラオヤブソテツ、ホソバヤマヤブソテツ、ミヤコヤブソテツなどが見られました。
テリハヤブソテツ、ヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、ヒラオヤブソテツは滝周辺から山の中~上部まで見られました。ヒラオヤブソテツについては標高の高いところで見られた個体は羽片が大きく15~20cmある個体群が見られました。
ミヤコヤブソテツは滝周辺では見られず、標高の高いところで落葉広葉樹とスギの混生林・傾斜のきつい斜面の林床に20株程度群生していました。
ホソバヤマヤブソテツは山の中~上部のスギ林内の谷部に生育していました。
ヒラオヤブソテツ
ヒラオヤブソテツ
ヒラオヤブソテツ、胞子のう群を付けていない羽片(上左)
ヒラオヤブソテツ、胞子のう群を付けた羽片(上右)
ミヤコヤブソテツ、羽片(上左)
ミヤコヤブソテツ、胞子のう群(上右)
ホソバヤマヤブソテツ
ホソバヤマヤブソテツ(上左)
ホソバヤマヤブソテツ、羽片(上右)
ヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ
ヤマヤブソテツ(上左)
ナガバヤブソテツ(上右)
イノデの仲間
イノデの仲間についてはイノデ、アイアスカイノデ、標高を上げるに従いイノデモドキ、サイゴクイノデが見られました。イノデモドキはもともと多形ですが、標高の高いところで見られた個体では葉の表面が白緑色のイノデモドキが一帯に生育しているところがありました。
ヌリワラビ
ヌリワラビ(上左)
ヌリワラビ、胞子のう群(上右)
山の上部の森で
山の上部の森(標高500~600m)ではオオハナワラビ、ヒメノキシノブ、ナガバノイタチシダ、ハリガネワラビ、サイゴクイノデ、シノブなどが見られました。
シノブ、ヒメノキシノブ
シノブ(上左)
ヒメノキシノブ(上右)
怪しいオオハナワラビ
山頂で見られた怪しいオオハナワラビを紹介します。普通のオオハナワラビにくらべ葉身は平面的で、羽片はシャープ。裂片は普通のオオハナワラビにくらべやや丸い。
怪しいオオハナワラビ
普通のオオハナワラビ
山麓の林縁の草地に生育。
オオハナワラビ(上左)
オオハナワラビ、栄養葉(上右)
ナガバノイタチシダ
ナガバノイタチシダ(上左)
ナガバノイタチシダ、胞子のう群(上右)
ハリガネワラビ
ハリガネワラビ(上左)
ハリガネワラビ、胞子のう群(上右)
山の南側の森で
最後に立ち寄った森の南側では、谷に沿った渓谷そばの陽地でクサソテツやコウヤワラビが群生していました。また谷から脇に伸びる支流のスギ林では渓谷沿いでワカナシダかその雑種と思われるシダ・ノコギリシダ・シケチシダ、セイタカシケシダ、非常に大きなシケシダなどが生育し、渓谷の両脇の緩やかな傾斜の林床では見るからに大きな株でドウリョウイノデかなにかの雑種と思われるイノデの仲間を含むイノデ類の群生地が広がっていました。時間が遅く森の中は暗くなりかけていたので、よい写真を撮影することができませんでした。とくに生態写真はピンボケになってしまいました。ワカナシダについては今まで実物は見たことがありませんのでまちがっているかもしれません。また、改めて詳しく観察して報告したいを思います。
クサソテツ
クサソテツ (上左)
クサソテツ、胞子葉(上右)
シケチシダ セイタカシケシダ
シケチシダ(上左)
セイタカシケシダ(上右)
イヌイワヘゴワカナシダ
今までワカナシダとして掲載してきましたが、再訪する機会がありイヌイワヘゴであることが分かりました。お詫びして訂正いたします。2017年6月2日
イヌイワヘゴワカナシダ(上左、上右)※ピンボケですみません。
イヌイワヘゴワカナシダ、羽片(上右)※ピンボケですみません。
イヌイワヘゴワカナシダ、中軸の鱗片(上左)
イヌイワヘゴワカナシダ、中軸と羽軸(上右)
イヌイワヘゴワカナシダ、胞子のう群、羽片は中裂(上左)
イヌイワヘゴワカナシダ、包膜(上右)
美しい花やキノコ
今回も秋の美しい花やキノコを幾つか見ることができました。同行の方に名前を教えていただきながら観察しました。
滝のそばで
ヤブミョウガがるり色の実をつけていたり、キチジョウソウが咲いていました。
キチジョウソウ
陽当りのよい草原や山道脇で
メナモミとコメナモミの違いやアザミの仲間の見分け方を教わりながら歩きました。
コメナモミ(上左)
コメナモミ、花(上右)
トネアザミ、花
シオデ(上左)
シオデ、実(上右)
森の中で
花は少ない季節でしょうか。サラシナショウマ、セリの仲間、野菊の仲間がモノトーンの花を咲かせていました。
サラシナショウマ、花穂(上左)
サラシナショウマ、花(上右)
ウスゲタマブキ
ウスゲタマブキ(上左)
ウスゲタマブキ、花(上右)
林縁や明るい林で
シラネセンキュウ(上左)
セキヤノアキチョウジ(上右)
森の中で見られたキノコの仲間
アマタケ(上左)
ベニサラタケ(上右)
おしまいに
今回歩いたことでこの地域(箱根東外輪山外側)のおおよその地形の特徴を掴むことができました。時間の関係で立ち入れなかったりゆっくり観察できなかった21世紀の森の中の「自然林」や南側の谷、北側である洒水の滝上部の谷についは改めてゆっくり歩いてみたいと考えています。
今回、観察されたシダ一覧
○トウゲシバ
○イヌカタヒバ
○スギナ・トクサ
○オオハナワラビ
○ゼンマイ
○カニクサ
○イヌシダ・フモトシダ・ウスバフモトシダ・ケブカフモトシダ
○イワヒメワラビ
○ワラビ
○シノブ
○ハコネシダ・クジャクシダ
○タチシノブ
○イワガネソウ・フイリイワガネソウ・イワガネゼンマイ
○イノモトソウ・オオバイノモトソウ・セフリイノモトソウ・オオバノハチジョウシダ・オオバノアマクサシダ
○コバノヒノキシダ・トラノオシダ・イワトラノオ
○コモチシダ
○テリハヤブソテツ・ヤマヤブソテツ・ヒラオヤブソテツ・ホソバヤマヤブソテツ・ナガバヤブソテツ・ミヤコヤブソテツ
○ジュウモンジシダ・イノデ・アイアスカイノデ・イノデモドキ・サイゴクイノデ・ドウリョウイノデ・ヒメカナワラビ
○オオカナワラビ、ハカタシダ、オニカナワラビ、・リョウメンシダ、・ナンゴクナライシダ
○ナガバノイタチシダ、・ワカナシダあるいは切れ込みの深いイワヘゴ・オクマワラビ、・クマワラビ、・アイノコクマワラビ・ヤマイタチシダ、・オオイタチシダtype1・type3・ベニシダ・オオベニシダ、・ミサキカグマ・キヨスミヒメワラビ
○ヒメワラビ・ミドリヒメワラビ・ミゾシダ・ゲジゲジシダ・コゲジゲジシダ・ホシダ・ヤワラシダ・ハリガネワラビ
○イヌワラビ・ヤマイヌワラビ・カラクサイヌワラビ・ヒロハイヌワラビ・ヘビノネコザ
○ホソバシケシダ・シケシダ・ハクモウイノデ・セイタカシケシダ
○クサソテツ・コウヤワラビ
○ヌリワラビ・キヨタキシダ・ノコギリシダ
○シケチシダ
○ノキシノブ・ヒメノキシノブ・マメヅタ・サジラン