Top / 観察会レポート / 平成26年1月25日(土) 鎌倉東部


オリヅルシダ
鎌倉東部の森を歩きました。街中の石垣や河川の護岸などにはホウライシダやイヌカタヒバなどが生育し、丘陵地に近づくと河川沿いや民家のすぐ後ろに泥岩の高い露頭が見られるようになります。ホウライシダやヤブソテツやイノデの仲間、いろいろなコケの仲間が生育しています。丘陵地の谷戸の奥にはスギ・ヒノキの森が広がり、林内ではベニシダの仲間やオオイタチシダ、イノデの仲間が見られました。また、オリヅルシダ、ノコギリシダなどもよく見られました。
 隆起した泥岩からなる丘陵地の尾根筋は常緑および落葉広葉樹の森で林床は乾燥ぎみになり、数はすくなくなりますが、ウラジロやオオベニシダなどが見られました。
 また、このあたりは丘陵地を切り取るようにして切通し(鎌倉時代)が作られておりシダやコケの良い観察地となっています。


街中の石垣で

街中ではイヌカタヒバやイノモトソウ、ホウライシダ、ヤブソテツの仲間が見られましたが、ホウライシダは街中の石垣から林内の切り立った岩場まで広くが生育していました。
街路樹のサクラの木にはコフキサルノコシカケが生えていました。

イヌカタヒバ
イヌカタヒバ
イヌカタヒバ(上)
イヌカタヒバ、腹葉と背葉(下左)
イヌカタヒバ、背葉の鋸歯(下右)
イヌカタヒバ、カタヒバにくらべると主茎の背葉は広い。 イヌカタヒバ、背葉には鋸歯がある。 


コフキサルノコシカケ
サクラに木に着生。 
サクラに着生するコフキサルノコシカケ(上)
コフキサルノコシカケ、側面および下面(下)
下面は白~ベージュ色。 下方に向けて生長している。


スギ植林地の森で

谷の低~中部にはスギおよびヒノキの植林地が広がっている谷戸がところどころにあり、林内には崖など大小の泥岩の露頭が存在し、全体としてシダ谷を形成していました。イワガネゼンマイの仲間、カナワラビの仲間、ベニシダの仲間、オオイタチシダの各type、ヤブソテツの仲間、崖や泥岩の露頭などにはオリヅルシダ、ノコギリシダ、ハイホラゴケなどが生育していました。森の中では長い綿毛を付けたテイカカズラの実や、イヌビワの雄株の花嚢を観察しました。


イヌビワの雄株の花嚢
今回、写真のようなイヌビワの実が成っていたのですが、同行の方から雄株についた花嚢であることを教えていただきました。雄株につく花嚢内の雌花の胚珠に卵を産み付けるイヌビワコバチと卵を産み付けられるイヌビワとの共生関係を興味深く伺いました。
イヌビワコバチはイヌビワの雄株の花嚢内の雌花の胚珠に産卵する。
イヌビワの雄株の花嚢



テイカカズラ
この季節、1対の長く伸びた鞘がはじけ白く長い綿毛を付けた実が鞘からあふれるようについていました。
テイカカズラ、キョウチクトウ科特有の1対の実を付ける。 綿毛をつけた種子
テイカカズラ(上左)
テイカカズラの種子(上右)



トウゴクシダ
スギ林、林床に生育するトウゴクシダ。写真の個体はツヤのある葉で葉身の先端は急に細くなるtypeです。丘陵地の稜線近くでは艶が乏しく葉身の先端が急に細くならずなだらかに細くなるtypeも見られました。
トウゴクシダ
トウゴクシダ(光沢有り鉾形type)



イヌイワガネソウ
イワガネゼンマイの仲間はイワガネゼンマイ、イワガネソウ、フイリイワガネソウ、イヌイワガネソウ(イワガネソウとイワガネゼンマイの雑種と推定される)が見られました。今回みられたイヌイワガネソウの特徴は以下のようになっていました。
イワガネゼンマイに似ている部分

  1. 各小羽片の先端は急に尖る。
  2. 葉脈はわずかに網状になるが、全体として並行脈。

イワガネソウに似ている部分

  1. 胞子のう群は葉脈に沿って辺縁近くまで付ける。
  2. 葉脈はわずかに網状になる。
  3. 葉脈は葉の辺縁の鋸歯の中まで達していない。
    イヌイワガネソウ
    イヌイワガネソウ(上)
    イヌイワガネソウ、葉脈(下左)
    イヌイワガネソウ、胞子のう群(下右)
    イヌイワガネソウ、葉脈はイワガネゼンマイに似てほぼ並脈。 イヌイワガネソウ、胞子のう群はイワガネソウに似て羽片の辺縁近くまでつける。



カナワラビの仲間
スギ等植林地内林床ではリョウメンシダは優勢に生育。1m近いオオカナワラビがときどき見られました。
オオカナワラビ
オオカナワラビ



イノデの仲間
このあたりにはイノデ、アスカイノデ、アイアスカイノデおよびそれらの雑種と思われるオオタニイノデやミウライノデが見られました。
アスカイノデ アスカイノデ、胞子のう群
アスカイノデ(上左)
アスカイノデ、胞子のう群(上右)
アスカイノデ、葉柄上部(下左)
アスカイノデ、葉柄下部(下右)
アスカイノデ、葉柄上部 アスカイノデ、葉柄上部下部



オオイタチシダ
針葉樹林の森の中から落葉広葉樹の尾根筋までいくつかのtypeのオオイタチシダが観察できました。アツバオオイタチシダ(type1)、ベニオオイタチシダ(type2)、ツヤナオオイタチシダ(type3)、アオニオオイタチシダ(type4)です。ここ鎌倉ではアケボノオオイタチシダ(type5)も見られるのではないかと思うのですが、私にはまだこの季節の葉だけではツヤナシオオイタチシダと正確に区別することができません。アケボノオオイタチシダ(type5)が生育しているかどうかは鎌倉に住んでおられる方に春先の若葉の展開するころ調べていただくことにしました。
 ここ鎌倉の森では各typeのオオイタチシダが生育環境に合わせて緩やかに住み分けていました。特にアオニオオイタチシダは岩場や乾燥気味の尾根沿いでよく見られました。
アツバオオイタチシダtype1 ツヤナシオオイタチシダtype3
アツバオオイタチシダtype1(上左)
ツヤナシオオイタチシダtype3(上右)



ヤブソテツの仲間
ヤブソテツの仲間ではテリハヤブソテツ、ヤマヤブソテツ、ヒラオヤブソテツ(テリハヤマヤブソテツ)、ホソバヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、オニヤブソテツなどが見られました。
オニヤブソテツ、大きな株で葉の大きさは約1m オニヤブソテツ、葉身
オニヤブソテツ(上左)
オニヤブソテツ、葉身(上右)
オニヤブソテツ、葉身中部羽片(下左)
オニヤブソテツ、葉身上部羽片(下右)
オニヤブソテツ、葉身中部羽片の基部は心形。 オニヤブソテツ、葉身上部羽片の基部は丸形。



オリヅルシダ
スギ植林地内の多少岩が顔を出しているような斜面ではオリヅルシダやノコギリシダ、ハイホラゴケが見られました。生育場所はある程度限定されますが、個体数は多く生育に適した環境であることを物語っています。
オリヅルシダ 
オリヅルシダ(上)
オリヅルシダ、ランナー(下左)
オリヅルシダ、胞子のう群(下右)
オリヅルシダ、葉身の先端がランナーとなり長く伸び、先端には新芽を付ける。 オリヅルシダ、胞子のう群


尾根筋の森で

このあたりの丘陵地の尾根筋はツバキやヒサカキ、コナラなど常緑および落葉広葉樹の混生林で林床は乾燥しています。一般的にシダ植物は少なくなりますが、ウラジロやオオベニシダ、アオニオオイタチシダ、オオバノイノモトソウ(広葉type)などが見られました。
ウラジロ
尾根筋の乾燥気味の林床斜面や泥岩の露頭の最上部の草付きにウラジロが群生していました。
ウラジロ 
ウラジロ



アオニオオイタチシダ(type4)
アオニオオイタチシダ(type4)は岩場や乾燥気味の尾根沿いでよく見られました。
当日、現地でに生態画像を撮影できませんでしたので、神奈川県津久井湖畔で撮影した画像を参考資料として載せます。
アオニオオイタチシダtype4 
アオニオオイタチシダ(type4)、2012,02,12 津久井湖北岸(上)
アオニオオイタチシダ(type4)、羽片。2012,02,12 津久井湖北岸(下左)
アオニオオイタチシダ(type4)、羽片裏面。2012,02,12 津久井湖北岸(下右)
アオニオオイタチシダtype4、羽片表面にはガラス様の強い光沢がある。 アオニオオイタチシダtype4、葉の辺縁は巻き込まず平面。 



ホタルカズラ
尾根沿いの半日陰の草地にホタルカズラの群生地が見られました。はじめ何の冬芽かわかりませんでしたがホタルカズラと教えられ、花の美しさを思い浮かべました。花期は長いそうなので春にもう一度見に来れれば良いと思います。
ホタルカズラ
ホタルカズラ


泥岩の露頭で

このあたりの泥岩の露頭を含め鎌倉の町並みを取り囲む丘陵は逗子層と呼ばれ、正確にはやや粒の粗いシルト岩です。貝化石が含まれる地層であるためか石灰岩質の岩にもよく生育するツルデンダがあちこちで見られました。そのほかホウライシダ、コケシノブの仲間、ミツデウラボシ、マメヅタ、タチシノブ、ホラシノブ、オオバノイノモトソウ、マツザカシダ、シケシダなど着生性およびそれに準ずるシダがいろいろ生育していました。夏緑性のシケシダは枯れそうな葉しか付けていない個体も多く、あまり観察には適しいませんでした。
ツルデンダ
ツルデンダ
ツルデンダ(上)
ツルデンダ、冬芽(下左)
ツルデンダ、胞子のう群(下右)
ツルデンダ、冬芽。 ツルデンダ、胞子のう群。



シケシダ標本1
シケシダ シケシダ
シケシダ(上左)
シケシダ、包膜(上右)



シケシダ標本2
シケシダ シケシダ
シケシダ(上左)
シケシダ、包膜(上右)



ナチシケシダ
ナチシケシダ
ナチシケシダ(上)
ナチシケシダ、包膜(下)ピンボケですみません。包膜のようすがよくわからないので雑種の可能性もあります。
ナチシケシダ、包膜 ナチシケシダ、包膜



ホウライシダ
群生するホウライシダ ホウライシダ、民家周辺から丘陵地岩壁まで普通に生育。
ホウライシダ



イノモトソウの仲間
イノモトソウの仲間ではイノモトソウ、オオバイノモトソウ、オオバイノモトソウ(広葉type)、マツザカシダが見られました。明るい泥岩の露頭から樹林内の崖まで幅広く生育していましたが、オオバイノモトソウ(広葉type)は稜線近くの乾燥気味の林縁で1株生育を確認しました。
人家の石垣に生育するイノモトソウ イノモトソウ、根茎
イノモトソウ(上左)
イノモトソウ、根茎鱗片(上右)



マツザカシダ
泥岩の露頭や植林地斜面に時々見られました。見慣れると葉の艶や厚さ、形状で区別がつきやすくなりますが、見過ごしてしまいやすいシダです。(マツザカシダについては、いつも書いていますが、西(南)へ行くほどきれいな斑が入るようです)
マツザカシダ オオバノイノモトソウ(左)とマツザカシダ(右)
マツザカシダ(上左)
オオバノイノモトソウとマツザカシダ(上右)



羽片の幅の広いオオバノイノモトソウ
ときどき見かけるtypeですが今回は丘陵地の稜線に近い明るい林縁。オオバノイノモトソウの羽片の幅には変化が多く、写真の個体は広いtypeです。中間的な幅の個体も見られるので参考に載せました。
羽片の幅の広いオオバノイノモトソウ 羽片の基部まで鋭い鋸歯が見られる。
羽片の幅の広いオオバノイノモトソウ(上左)
羽片の幅の広いオオバノイノモトソウ、羽片基部の鋭い鋸歯(上右)




コハイホラゴケ(ハイホラゴケ×ヒメホラゴケ)
ハイホラゴケの仲間は生育場所によって8~20cmとはの大きさに変化が見られました。また、一つの群生地では、その群落全体が雑種のコハイホラゴケのように見えました。コハイホラゴケはハイホラゴケとヒメホラゴケの雑種と考えられています。コハイホラゴケの特徴は葉身が平面的でなく、各羽片が波打つように立体的になります。(参考)湯河原のコハイホラゴケ
コハイホラゴケ コハイホラゴケ、胞子のう群
コハイホラゴケ(上左)
コハイホラゴケ、胞子のう群(上右)


コケの仲間

切通し周辺ではいろいろなコケを観察することができました。教えていただいた中からいくつかのコケを紹介いたします。
ハタケゴケの仲間ジャゴケに訂正します。
ハタケゴケの仲間
葉状体の表面に鱗模様が確認できるとのご指摘をいただきました。 



ケゼニゴケ
水辺に生えるケゼニゴケは濃緑色で光沢があるように見える。 ケゼニゴケ、乾いた葉の表面はビロード状光沢。 

ケゼニゴケ



アズマゼニゴケ
アズマゼニゴケ、ジャゴケの上に生育。 アズマゼニゴケ、左上はジャゴケ。



コツボゴケ
コツボゴケ コツボゴケ、葉の辺縁に鋸歯がある。 
コツボゴケ(上左)
コツボゴケ、葉(上左)



エビゴケ
林内や林縁のやや明るい切り立った泥岩の露頭、乾燥気味の崖に群生していました。
エビゴケ、中央はミツデウラボシ。 エビゴケ 



ツクシナギゴケの仲間1
ツクシナギゴケの仲間 ツクシナギゴケの仲間 



ツクシナギゴケの仲間2
ツクシナギゴケの仲間 ツクシナギゴケの仲間  



ホソバオキナゴケ
ふだんはスギの樹の根元でよく見るコケですが、泥岩の表面に生えていました。
泥岩に生えるホソバオキナゴケ。 ホソバオキナゴケ  



オオハナシゴケ
切り立った泥岩壁を覆うように一面に生育していました。このあたりの泥岩には貝化石等が含まれるので、石灰岩質を好むコケが生育しやすい環境なのかも知れません。写真のコケは現地ではダンダンゴケとのことでしたが、その後、オオハナシゴケではないかとのコメントをいただきました。
オオハナシゴケ、切り立った泥岩壁を覆うように一面に生育。 
泥岩壁を覆うオオハナシゴケ(上)
オオハナシゴケ(下)
オオハナシゴケ オオハナシゴケ 



ツノコケの仲間
鎌倉在住の方に案内していただきました。
ツノゴケの仲間、さく(胞子体)はまだ伸びていない。