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2014年4月29日神奈川県西部海岸周辺観察会レポート
今回は午後から少し雨に降られましたが予定していたコースを歩くことができました。ただ、途中からカメラの調子が悪く、後半撮影できなくなりました。画像で紹介できないシダがたくさんあり、お話だけですみません。機会があれば改めてご紹介したいと思います。
今回歩いた神奈川県西部海岸周辺は、相模湾の西の端の岩場やその背後の森で形成されています。海からの潮風に晒されているにも関わらず、クスノキやクロマツ等の樹木を中心に照葉樹の樹冠が潮風を遮り林床や渓谷には多様な植物が生育しています。
イノデの仲間
イノデの仲間は海岸に近づくに従いミウライノデ(アスカイノデとイノデの雑種と推定)よりもアスカイノデがよく見られるようになり、海のそばではミウライノデはときどき見られる程度です。オオタニイノデらしき個体も見られましたが画像が無く、紹介できませんでした。
アスカイノデ
アスカイノデ(上左、上右)
アスカイノデ、葉柄上部の鱗片(下左)
アスカイノデ、葉柄下部の鱗片(下右)
ミウライノデ
ミウライノデ(上)
ミウライノデ、葉柄上部の鱗片(下左)
ミウライノデ、葉柄下部の鱗片(下右)
オオイタチシダの仲間
海岸周辺の森では普通にいろいろなtypeのオオイタチシダが見られました。ベニオオイタチシダ(type2)は新しい葉を展開していましたが、そのほかのアツバオオイタチシダ(type1)、ツヤナシオオイタチシダ(type3)、アオニオオイタチシダ(type4)はまだ新葉を展開していませんでした。
アオニオオイタチシダ(type4)(上)
ベニオオイタチシダ(type2)(下左)
ツヤナシオオイタチシダ(type3)(下右)
イノモトソウの仲間
イノモトソウの仲間ではイノモトソウ、オオバイノモトソウ、マツザカシダ、アマクサシダが見られました。半島で見られるマツザカシダにはやや明瞭な白斑が入っていました。
テンリュウカナモドキ カナワラビの仲間
テンリュウカナモドキについて(画像はありません)。海が見えるややウエットな崖でテンリュウカナモドキ(オオカナワラビとホソバカナワラビの雑種と推定)が2~3株見られました。私は外観の見た目から、ソーラスなどを詳しく見ないでオオカナワラビとしてしまうところでしたが、同行の方からソーラスの位置や葉の質などからテンリュウカナモドキであるとのご指摘を頂きました。付近の乾燥気味の林床にはホソバカナワラビの大群落があります。
テンリュウカナモドキは外見はオオカナワラビに似ていますが、葉はオオカナワラビよりも硬め、胞子のう群は中肋と辺縁の中間生。
オニヤブソテツとヒメオニヤブソテツ ヤブソテツの仲間
山側から海岸方面に向かって歩いていくとはじめはテリハヤブソテツやナガバヤブソテツやが見られました。海岸線周辺ではほとんどがオニヤブソテツとヒメオニヤブソテツになります。ちょうど新芽の芽立ちの時期でナガバヤブソテツの新芽には微毛が見られ、オニヤブソテツには微毛が無く、両者の区別は明瞭でした。
典型的なヒメオニヤブソテツは植物体が小さく葉身は8~15㎝程度です。葉は非常に厚く、羽片も5~6対程度、海に面した水しぶきがかかりそうな切り立った岩場に着生しています。同じ岩壁の上部の草付き付近ではオニヤブソテツが生育しています。ところが、中間地帯にはオニヤブソテツかヒメオニヤブソテツどちらかに態度を決めかねる、形態も中間の個体が見られ、両者の雑種なのか、栄養や生育環境の違いによるものなのか、明瞭に区別することができませんでした。
常緑のハシゴシダ
丘陵地の稜線部や乾燥気味の林床ではハシゴシダが見られました。ハシゴシダは県内では普通夏緑性になることが多いですが神奈川県西部海岸周辺の森では場所にもよりますが常緑性のシダのようにふるまう個体も見られました。
クジャクフモトシダ フモトシダの仲間
神奈川県西部海岸周辺ではフモトシダは優勢でよく見られました。クジャクフモトシダは5~10株程度の小さな群落が2~3か所見られました。最初はフモトカグマかと思いましたが、同行の方から最下羽片が最大であることを指摘されてはじめて気づきました。クジャクフモトシダはフモトシダとイシカグマの雑種と推定されています。
クジャクフモトシダとフモトカグマの区別点は以下のようです。①葉の形:クジャクフモトシダは下部羽片が発達し基部が幅の広い広披針形。フモトカグマは羽片中~下部が最大で長楕円状披針形。②羽状:フモトシダは1回羽状中~浅裂。クジャクフモトシダは葉身中~下部では1回羽状深裂、葉身上部は1回羽状中裂でフモトシダと変わらない。フモトカグマは葉身中~下部では2回羽状複葉。葉身上部は1回羽状深裂。
クジャクフモトシダ
クジャクフモトシダ(上左、上右)
クジャクフモトシダ、羽片(下)
クジャクフモトシダ、胞子のう群(下下左)
クジャクフモトシダ、包膜(下下右)
フモトシダ
セイタカナチシケシダ シケシダの仲間
シケシダの仲間はいくつか見られました。シケシダ、ナチシケシダ(推定)、セイタカシケ、セイタカナチシケシダ(セイタカシケシダ×ナチシケシダの雑種と推定)などが見られました。
ナチシケシダはまだ胞子のう群をつけていませんでしたのでたぶんナチシケシダとします。
セイタカナチシケシダは、遠目には毛の生えていないセイタカシケシダに見えます。葉身の幅の広さにセイタカシケシダの特徴が表れ、植物体全体に毛が少ないことと荒い鋸歯縁の包膜にナチシケシダの特徴が表れています(同様に葉身の幅が広く毛が少ないセイタカシケシダ×シケシダと推定されるムサシシケシダと外観は似ていますが、ムサシシケシダの包膜の辺縁は鋸歯縁とはなりません)。付近にはセイタカシケシダも見られますので比較して観察するとおもしろいと思います。
セイタカナチシケシダ、羽片裏側(上左)
セイタカナチシケシダ、包膜(上右)
ベニトウゴクシダ・ベニシダmix個体 ベニシダの仲間
興味深いことですが、ベニシダ様の葉とベニトウゴクシダ様の葉が1つの株から生えている個体が見られました。観察されたベニトウゴクシダは葉の表面に光沢をもつtypeで、包膜は紅色でした。ベニシダ様の葉は最下羽片の小羽片はほとんど切れ込まない一般的なものでした。以前からベニシダと光沢のあるtypeのトウゴクシダは包膜の色を除けばよく似たシダだなあと思っていましたが、今回の個体はベニシダとトウゴクシダ(ベニトウゴクシダ)が非常に近い関係であることを示していると思います。
ベニトウゴクシダ・ベニシダmix個体のベニトウゴクシダ様の葉身(上左)
ベニトウゴクシダ・ベニシダmix個体のベニトウゴクシダ様の葉身の最下羽片(上右)
※上の画像は同行の方が撮影されまた。
光沢のないトウゴクシダ
半島の稜線部で光沢なしtypeのトウゴクシダも観察されました。
シロヤマシダ
半島の北側ではシロヤマシダ小さな群落が見られました。葉身もそれほど大きくなく80~90㎝程度でした。
シロヤマシダ(上左)
シロヤマシダ、新芽(上右)
シロヤマシダ、羽片(下左)
シロヤマシダ、包死のう群(下右)
林内の着生シダ
ヘラシダは丘陵地林内の切り立ったウエットな崖に群生し、長さ40㎝・幅は2㎝程度の立派な葉身の個体群が見られました。林内の石垣ではハート形のマメヅタが見られました。
ヘラシダ
ハート形をしたマメヅタ
ホラシノブの仲間
海岸線に見られる岩壁は安山岩質溶岩でできていますがところどころの崖では白っぽい色の火山砂のような噴出物の堆積地層が見られます。海岸線の切り立った崖では、ハマホラシノブ似の個体群が見られました。八丈島産のハマホラシノブに詳しい方からは普通のホラシノブではないか、別の方からはハマホラシノブの雑種ではないかとの意見が出ました。画像を示してご紹介できないことが残念です。
おしまいに
この季節は駅前のお店の軒先や丘陵地内の道端の無人の露店で清見みかんが並んでいます。観察会の間、清見ミカンで喉を潤しながら歩きました。粒は小さめですが味が濃く、価格が安いです。
ベニトウゴクシダ・ベニシダmix個体やシケシダの雑種(セイタカナチシケシダ)、ハマホラシノブの仲間、テンリュウカナモドキなど画像に残したいシダは多くあります。いつか日を改めて再度撮影にチャレンジしたいと思います。帰り際また清見ミカンを買ってリュックに詰め、また来れることを願いながら神奈川県西部海岸周辺を後にしました。