Top / 観察会レポート / 平成26年5月31日(土)鎌倉西部
谷戸の奥の田んぼで
鎌倉の賑やかな市街から一歩谷筋に入ると静かな谷戸が伸びています。ちょうどハコネウツギが咲き始めていました。谷戸の途中にある数枚の田んぼではオオアカウキクサが水面に広がり始めていました。谷戸の一番奥は両側の森が迫り、森に囲まれるようにして小さな田んぼが何枚か重なってちょっとした棚田をつくっていました。山際の田んぼの一つはオモダカとイヌスギナなどが茂る水田放棄地でした(クワイを栽培していたのかもしれません)。まだ夏草が茂っていないためか、この水を湛えた湿地はよく管理されたビオトープのようで美しかったです。その水面の上に突き出すように枝を伸ばしたアカメガシワの枝先にはモリアオガエルの卵塊がぶら下がっていました。ほかにも周りの高い木の枝先に2~3個卵塊がぶら下がっていました。今まで川崎や横浜の谷戸では田んぼの畔草にシュレーゲルアオガエルの卵塊を目にすることはありましたが、モリアオガエルの卵塊を見たことはありませんでした。
以前、丹後でホタルが飛ぶ頃、谷戸の奥の「つつみ」(灌漑用ため池)に行くと、湖面に差しかかる枝にいくつものモリアオガエルの卵塊がぶらさがっていて、卵からオタマジャクシがかえるころになると卵塊の下部からオタマジャクシがぽたぽた湖面に落ちて泳ぎ出します。湖面の下では何匹かのイモリが口を開けて?尾っぽを振りながら立ち泳ぎをしてオタマジャクシが落ちてくるのを待ち構えていました(口を開けていたかどうかははっきり覚えていませんが)。
この小さな棚田では溝にハンゲショウの群生、シケシダなども見られました。ひょっとしたらホタルも飛ぶのではないかと思いました。
オオアカウキクサ
谷戸の中の田んぼのいくつかにオオアカウキクサが生育していました。在来種か外来種かよくわかりませんでしたが、外来種が侵入してきた理由の一つにはアイガモ農法が関係しているとのお話を同行の方から伺いました。アイガモのエサとして自然に生えてくる雑草だけでは足りなくて「Azolla」をエサとして田んぼに放つことがあるそうです。
オオアカウキクサ(上左)
群生するオオアカウキクサ(上右)
イヌスギナ
水田放棄地に群生するイヌスギナは大きいものでは高さ50cmほどでした。主茎の先に胞子のう穂をつけているものは見当たらず、私自身、自信がなかったので、現地ではスギナかイヌスギナあるいはフォーリースギナ(スギナ×イヌスギナ)か決められませんでした。同行の方がたはイヌスギナと言われる方と、スギナでも湿地では大きくなり先端に胞子のう穂をつけてないとイヌスギナと断定しないと言われる方がおられたのでその場では決められませんでした。うちに帰って図鑑で確認しイヌスギナとわかりました。主茎の表面はなめらかで側枝の最下節(第1節)が主茎の袴(葉鞘)より短いのが特徴です。比較のためにスギナを撮影しましたので違いをご確認ください。
オモダカとともに群生するイヌスギナ(上左)
イヌスギナ、葉鞘および側枝基部(上右)
スギナ 参考画像
イヌスギナと比較するため掲載しました。スギナの主茎の表面はざらつき、側枝の最下節(第1節)は主茎の袴(葉鞘)より長い。
群生するスギナ(上左)
スギナ、葉鞘および側枝基部(上右)
シケシダ
鎌倉では森の中やウエットな岩壁でいろいろなシケシダの仲間が見られましたが、明るい田んぼや畑の周りではシケシダを観察することができます。まずは基本のシケシダの包膜を覚えていれば、それと比較することでその他のシケシダの判別に役立つものと思います。
シケシダ(上)
シケシダ、胞子のう群(下左)
シケシダ、包膜(下右)
鎌倉の森林で
鎌倉は古くから多くの人が住む街ですが、険しい地形の関係からか、谷戸沿いには人家が集中し尾根筋には細長く緑が残ります。広い森は少ないですが、それでもところどころには樹齢を経た安定した森が残っています。落葉広葉樹や常緑広葉樹が混生する森・スギおよびヒノキの植林の森が見られました。ゆっくり調べることができたら楽しそうな森でした。尾根沿いではキミノニワトコ、スギ林内ではコクランなどが見られました。山道沿いに生育するシダは色鮮やかなベニシダ、トウゴクシダ、オオベニシダなどベニシダの仲間。イノデやアスカイノデ、ミウライノデなどのイノデの仲間。ヤマイタチシダ、ベニオオイタチシダ(長葉型オオイタチシダ)、アツバオオイタチシダ(細葉型オオイタチシダ)などイタチシダの仲間。テリハヤブソテツ、ヤマヤブソテツ、ホソバヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、オニヤブソテツなどのヤブソテツの仲間。セイタカシケシダやフモトシケシダなどのシケシダの仲間、マツザカシダやオオバノイノモトソウなどイノモトソウの仲間、コンテリクラマゴケ、イワガネソウ、フモトシダ、ヘラシダ、ミドリヒメワラビ、オオハナワラビ、などが見られました。
マツザカシダ
安定したスギ林林床で2株ほど観察しましたが、いずれの株も白斑らしきものは見られませんでした。
アツバオオイタチシダ(細葉型)
アツバオオイタチシダ(上)
アツバオオイタチシダ、胞子のう群(下左)
アツバオオイタチシダ、包膜(下右)
ベニオオイタチシダ(長葉型) 標本1
ベニオオイタチシダ(上)
ベニオオイタチシダ、胞子のう群(下左)
ベニオオイタチシダ、包膜(下右)
ベニオオイタチシダ(長葉型) 標本2
包膜の紅色の薄い個体。
ベニオオイタチシダ(上)
ベニオオイタチシダ、胞子のう群(下左)
ベニオオイタチシダ、包膜(下右)
トウゴクシダ
もう少し切れ込みが浅いとミドリベニシダと区別が難しくなります。
トウゴクシダ(上左)
トウゴクシダ、包膜(上右)
セイタカシケシダ
セイタカシケシダ(上)
セイタカシケシダ、胞子のう群(下左)
セイタカシケシダ、包膜(下右)
日陰の崖で
鎌倉には寺や神社が多く、それらの中には海食崖の地形を生かし岩壁を背負って建てられているものも多くあります。また、鎌倉の市街と外を結ぶために掘られた切通しもいくつかあり、それらの岩壁はシダのよい観察地になっています。今回はそれらの崖でいろいろなのシダを観察することができました。イタチシダの仲間、ヤブソテツの仲間やホラゴケの仲間、シケシダの仲間などを観察することができました。また、崖や海食崖などの露頭の上部の森の林床にはホソバカナワラビの群生も見られました。特にこの季節、オオイタチシダのいろいろなtypeが新芽を伸ばし、目を楽しませてくれました。
アケボノオオイタチシダ(硬葉型)
紅色の新芽・紅色の包膜が特徴のオオイタチシダです。新芽はオオイタチシダの中でひときわ美しいです。成葉ではツヤナシオオイタチシダとアケボノオオイタチシダはどちらも葉に艶がありませんが、同行の方の表現ではどちらかというとアケボノオオイタチシダのほうがマット感が少ない(言い換えるとツヤナシオオイタチシダのほうが、より艶が無い)との感想でした。今回歩いたコースの範囲ではツヤナシオオイタチシダは広範囲に見られましたが、アケボノオオイタチシダの生育地は1箇所でした(個体数は多い)。今まで、小田原西部、神武寺などで観察しましたが、太平洋沿岸の森にはもっと生育していると思われます。
アケボノオオイタチシダ(上上左、上上右)
アケボノオオイタチシダ、新芽(上左)
アケボノオオイタチシダ(上右)
アケボノオオイタチシダ、胞子のう群(下左)
アケボノオオイタチシダ、包膜(下右)
ツヤナシオオイタチシダ
岩壁を好むオオイタチシダです。葉の表面はアケボノオオイタチシダよりも艶がありません。
ツヤナシオオイタチシダ(上)
ツヤナシオオイタチシダ、新芽(下左)
ツヤナシオオイタチシダ、羽片(下右)
アオニオオイタチシダ(広葉型)
主に岩壁に生育しています。以前の鎌倉東部の観察会では尾根沿いでよく見られました。葉の表面にガラス様の強い光沢があります。
アオニオオイタチシダ、新芽(上左)
アオニオオイタチシダ(上右)
ホラゴケの仲間
山中や切通しの崖に掘られたやぐらや、寺や神社の石造物にはハイホラゴケやウチワゴケなどホラゴケの仲間が群生していました。
メヤブソテツ
水が浸み出しているような岩の窪みでメヤブソテツの幼株が見られました。光があまり当たらず大きく育ちそうにありませんが小さな葉の葉縁には鋭い鋸歯がありメヤブソテツの特徴を表していました。ヤブソテツの仲間はいろいろな環境に生育しますが、どちらかといえば岩壁や石垣など好む仲間が多いようです。鎌倉には岩壁や切通しなどが多くいろいろなヤブソテツの仲間が見られました。
ナチシケシダ
シケシダの仲間は胞子のう群の様子を見てみないとなかなかわからないシダです。外形から判断できる仲間もいくつかありますが、雑種なども多く、外形から正確に判断することは難しいものも多いです。ナチシケシダは生育環境によって外形を変化させるようです。葉の質は厚いものが多いですが、薄い個体も見られます。葉の表面に毛のあるものと無いものが見られます。また、ホソバシケシダ様あるいはフモトシケシダ様に見える個体もあります。共通しているのは包膜の辺縁は巻き込まず、激しくほつれていることです。
ナチシケシダ(上左)
ナチシケシダ、包膜(上右)
ナチフモトシケシダ
ナチシケシダからナチフモトシケシダに訂正します。2014年9月12日
最下羽片は発達し外観からはフモトシケシダの様にも見えますが、包膜の辺縁は激しくほつれていました。
ナチフモトシケシダ
ナチフモトシケシダ、包膜(上左、上右)
不明なシケシダの仲間
シケシダの仲間を見分けるのにはどうしても包膜を見なければ決められません。写真の個体は葉身の幅が広く、葉の質は厚く濃緑色でした。シケシダの雑種ではないかと思うのですが、胞子のう群をつけた葉をつけていませんでした。
陽当たりのよい崖で
陽当たりのよい崖や土手ではコモチシダやホラシノブ、ミツデウラボシ、ホウライシダ、ゲジゲジシダ、イノモトソウが優勢に生育していました。これらのシダはもちろん日陰にも生育しますが、乾燥した崖という厳しい自然環境に耐えるシダの逞しい一面を見せてくれています。
ホラシノブ
ホウライシダ
日陰やウエットなところにも生育しますが、明るい乾燥気味の岩壁では大きな群落を形成することがあります。
岩壁に群生するホウライシダ(上左)
ホウライシダ(上右)
森で見られた蝶
森の蝶アカシジミをみました。翅の裏側の模様まではっきり見ることができるほど近くまで降りてきてくれました。ほかにはテングチョウやアカホシゴマダラチョウが見られました。白さが目立ち赤い紋が見られない春型です。これらの個体は奄美大島産のものではなく、ユーラシア大陸から来た(持ち込まれた)ものだそうです。
美しい花
ハコネウツギ
谷戸の入口ではハコネウツギの花が色を咲き分け、梅雨が近いことを告げていました。
5月に咲く萩
早咲きのミヤギノハギでしょうか。寺の庭で咲いていました。箱根の鎖雲寺でも見ましたが美しい萩です。
イワタバコ
ウエットな岩壁に群生していました。主に青紫色の花を咲かせる個体が多かったですが、同じ岩壁で赤紫色の花を咲かせる個体も少し見られました。
ムサシアブミ
花はもう終わりかけていました。鎌倉の神社の境内で見られました。県内では相模湖周辺で数ヶ所で観察されていますが、いずれも人家が近くにある林内でした。まだ深い森の中では見たことがありません。
お詫び
今回、集合場所を2日前に変更したため、2名の方がわざわざ鎌倉までいらしていながら集合場所でお会いできないことが起こりました。深くお詫びいたします。