Top / 観察会レポート / 平成26年7月27日(日)御岳山周辺の山
はじめに
前回に引き続き御岳山周辺の山を歩きました。谷や稜線、いくつかのピークと鞍部などいろいろな地形・地質のところを歩きました。このあたりのピークは浸蝕に強いチャートや石灰岩から成り立っており、ピークとして存在する理由がなるほどと納得できました。
夏緑広葉樹の森ではバイカツツジやナガバノコウヤボウキが出迎えてくれました。途中、両側が切り立った尾根ではツガやツツジの仲間など、魅力的な痩せ尾根の植物群も見られました。
ナガバノコウヤボウキ
スギ林の谷で
激しい雷雨に会い、ゆっくり観察することができませんでしたが、谷の下部のスギ林内ではイッポンワラビが見られました。円形のソーラスや小羽片に短い柄が見られる点などからイッポンワラビとしましたが、ハコネシケチシダにもよく似ていました。前回の観察会でシケチシダ、ハコネシケチシダが観察されているので比較してご覧ください。
谷の中間部ではミヤマクマワラビの群生、イノデの仲間、オウレンシダなどが見られ、また、面白そうな岩場もありましたが、雨のために素通りしました。
谷の最上部はなだらかな鞍部となっておりミヤマクマワラビ、オシダ、ヌリワラビ、ハクモウイノデなどが生育していました。
イッポンワラビ(上左)
イッポンワラビ、胞子のう群(上右)
イッポンワラビ、羽軸基部(下左)
イッポンワラビ、小羽片の柄(下右)
尾根沿いの緩やかな稜線で
ピークとピークをつなぐ尾根沿いの緩やかな稜線は幅が広く、夏緑広葉樹林が広がっていました。シデの仲間、イヌブナ、ミズナラ、ヒトツバカエデ、マンサク、リョウブ、シナなど。ときどきヤマナラシやナツツバキも見られました。ナツツバキは自生の個体を初めて見ました。
林床では、フモトスミレの群生や細葉typeのトウゲシバが見られました。株によっては無性芽をつけている個体も見られました。
細葉typeのトウゲシバ、胞子のう(上左)
細葉typeのトウゲシバ、無性芽(上右)
稜線斜面の岩場で
夏緑広葉樹林下の稜線沿い斜面にはところどころに岩が突き出しているところも見られ、やや乾燥気味の岩壁にもいろいろなシダが生育していました。フクロシダ、ヤブソテツの仲間、ノキシノブの仲間やチャセンシダの仲間などが着生していました。
ミヤマノキシノブは急斜面に突き出した大きな岩の先端に着生していました。チャセンシダの仲間については同行の方がまわりに生えるイワトラノオよりも濃い緑色の個体を見つけられました。1株しか着生しておらすコバノヒノキシダではないか思いましたが、もしかしてオクタマシダではないかと思い雨の中とりあえず急いで何枚か写真を撮影しました。機会があれば出直し、ゆっくり観察し、改めて報告させていただきたいと思います。
※その後、ミサクボシダ(トキワシダ×オクタマシダ)に似ているとのご意見をいただきました。現地でも1株しか見られないので今後詳しく調べてみたいと思います。ここでは一応ミサクボシダとしておきたいと思います。
ミヤマノキシノブ
チャセンシダの仲間→ミサクボシダに訂正します。
ミサクボシダ(上左、上右)
ミサクボシダ、胞子のう群(下左、下右)
上の画像は同行の方から頂きました。
石灰岩の岩場で
地質図の通り歩きましたが石灰岩が確認できたところとできなかったところがありました。石灰岩の岩壁ではクモノスシダ、イワトラノオ、ツルデンダ、ヤブソテツ類の未成株などが着生していました。石灰岩の表面は長い年月の間雨や雪などによって浸蝕され、岩の表面が丸くなり、側面は「ひだ」の模様を形成されていました。
最近の窒素酸化物などによる酸性雨の影響で浸蝕のスピードが速まっているのではないかと思われます。石灰岩に生育するシダについては奥多摩では広く点在して分布しているので、これからも歩いてみたいと思っています。
石灰岩の露頭
クモノスシダ(下左)
ツルデンダ(下右)
険しいチャートの岩壁で
険しいピークはチャートで形づくられていました。北面の日蔭のウエットな岩壁ではこの季節イワナンテンが清楚な花を咲かせていました。岩場では絵になる花でした。艶のある厚葉のヤマグルマの小株やミズメの小株(ミズメは少し樹皮を削ったり折るとサロメチールの香りがするそうですが、確認するのを忘れました)が着生し、ツル植物ではイワガラミやツルアジサイがよく一緒に見られました。同行の方に簡単な見分け方を教えていただきました。鋸歯の荒さなどなれれば一目見ればわかるのでしょうが、一番簡単なのは葉っぱを1枚ちぎった匂いを嗅ぐことです。確かにイワガラミの葉はキュウリの香りがしました。そのほかマツブサの蔓も見られました。
シダ植物はミサキカグマ、ナンタイシダ、イワハリガネワラビ、フクロシダ、コウヤコケシノブなどが生着していました。イワハリガネワラビは稜線部では岩壁以外に岩混じりの林内林床にも広く生育していました。
また、岩壁の基部では「羽片の幅が広いヤワラシダ」が多く生育していました。この「羽片の幅が広いヤワラシダ」は裂片の側脈が辺縁に達していました。これだけではtypeが異なるかどうか判断できませんが、興味深いことです。
イワナンテン
イワハリガネワラビ
イワハリガネワラビ(上左)
イワハリガネワラビ、葉柄の鱗片(上右)
イワハリガネワラビ、胞子のう群(下左)
イワハリガネワラビ、包膜(下右)
イワハリガネワラビ、葉脈(下下)
ヒメシダ属の不明なシダ→イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtypeに訂正します。
「羽片の幅の広いヤワラシダ」あるいは「羽片の幅の広いイワハリガネワラビ」か。
ふつう、ヤワラシダは裂片の側脈は辺縁に達しないといわれていますが、本種は辺縁に達しています。また、裂片の側脈はヤワラシダでは単生か2叉、ハリガネワラビの仲間は単生と言われていますが、本種は単性と2叉。また本種は画像でははっきりと確認できませんが葉裏にわずかに腺点が認められるようです。
※、ご意見をいただき腺点が見られるとのことでハリガネワラビの仲間ではないかとのご意見をいただきました。ここではイワハリガネワラビの羽片の幅の広いtypeとしておきたいと思います。
※その後、腺点が見られるとのことでハリガネワラビの仲間ではないかとのご意見をいただきました。ここではイワハリガネワラビの羽片の幅の広いtypeとしておきたいと思います。
イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtype(上上左、上上右)
イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtype、新芽(上)
イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtype、胞子のう群(下左)
イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtype、包膜(下右)
イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtype、裂片の葉脈(下下)
イワハリガネワラビの羽片の幅の広いtype、裂片の葉脈(下下)
参考画像:ヤワラシダ
ヤワラシダ(上左)
ヤワラシダ、新芽(上右)
ヤワラシダ、胞子のう群(下左)
ヤワラシダ、包膜(下右)
ヤワラシダ、裂片の葉脈(下下)
御岳山周辺、痩せ尾根の植物群
両側が鋭く切り立った痩せ尾根を歩きました。このようなところはどこでも魅力的な植物群が見られます。関西や関東あるいは標高によっても生育する植物の種類は変化を見せますが、今回もいろいろな植物が見られました。アオハダ、ツガ、ヤマグルマ、ミズメ、サワシバ、オノオレカンバ、ナツハゼ、ホツツジ、アブラツツジ、バイカツツジ、トウゴクミツバツツジ、シロヤシオツツジなど。春には痩せ尾根を好む草花も美しい花を咲かせてくれるようです。
観察された草花や木
ヤマグルマ(上左)
岩壁に着生するヤマグルマとミズメ(上右)
キノコの仲間
おわり
今回は稜線部が中心ですが、興味深い植物を沢山見ることができました。途中、雨に降られ谷筋から稜線にかけてはゆっくり観察できませんでした。雨で歩けなかったコースや不明なアスプレニウムの仲間、ヒメシダ属の不明なシダなどもう一度見てみたいシダがいくつかあります。次に訪れるときの楽しみにしておきます。