Top / 観察会レポート / 平成26年7月6日(日)御岳山ロックガーデン
はじめに
御岳神社周辺からロックガーデンを歩いてきました。この辺りは砂岩と比較的浸食に強いチャートから成り立っており、砂岩でできた谷に急峻なチャートが岩壁として景色を作り出しているといった感じです。神社周辺の森は、宿坊のある賑やかな通りを離れると夏緑広葉樹林帯の原生林と樹齢を経たスギ・ヒノキの植林が広がっていました。
御岳山山頂部の南西側にはロックガーデンと呼ばれるシダとコケのエリアが広がっています。この独特の地形は、地質図を見る限りおよそ南北に横たわるチャートの地層がダムのよう役目をして浸蝕を食い止め、上流部にやや平坦な渓谷(ロックガーデンを)を形成したようです。ここではシダやコケ以外にいろいろな草花が見られ同行の方に教わりながら楽しく歩きました。ギンバイソウ、テバコモミジガサやカツラ、オヒョウ、チョウジザクラなどが見られました。
宿坊周辺の石垣で
御岳山山頂付近はいつのころから存在しているのかわかりませんが、御嶽講の宿坊を兼ねた御師の村が参道に寄り添うように並んでいます。稜線沿いなので平地はほとんど無く、石垣を組んでわずかな居住空間を作り出しています。周辺は狭い道と石垣だらけです。さまざまなコケや着生性のシダが見られました。
ビロウドシダ
イワトラノオ
ノキシノブ
渓谷の岩壁やその周辺で
ナンタイシダ
渓谷の岩壁でナンタイシダの大きな群生地が見られました。チャートの岩壁で水しぶきがかかるようなところに着生していました。観察されたのはのは1~2ヶ所でしたが、個体数は多く、大きな個体では葉の大きさは45~50㎝程度ありました。高い山や切り立った岩壁などに生育していることが多くなかなか観察しやすいところに生育していることは少ないのですが、ここではていねいに観察することができました。
渓谷に群生するナンタイシダ(上左)
ナンタイシダ、葉身(上右)
ナンタイシダ、小羽片(下左)
ナンタイシダ、胞子のう群(下右)
ナンタイシダの周辺ではミサキカグマも見られたが、両者は棲み分けを行ていた。ナンタイシダはウエットな岩壁、ミサキカグマはウエットな岩壁から離れたところ。ほとんど重なることはない。両者は色や羽状の回数などが似ており、そばに生えているとよく見ないと見過ごしてしまいそうでした。
ナンタイシダとミサキカグマ(上)
イワハリガネワラビ
ウエットな岩場で観察することができました。外観は葉身・羽片の大きさや葉柄・中軸の太さなど全体的に華奢で最下羽片もあまり膨らまず線形、ソーラスの位置は裂片の中肋と辺縁の中間につく、包膜上の微毛はハリガネワラビよりも短いなどが特徴です。
イワハリガネワラビ(上上)
イワハリガネワラビ、葉柄基部(上左)
イワハリガネワラビ、葉柄上部(上右)
イワハリガネワラビ、胞子のう群(下左)
イワハリガネワラビ、包膜(下右)
コケシノブの仲間
ホソバコケシノブ
ウエットで切り立った岩壁ではコケシノブの仲間がよく見られました。コウヤコケシノブ、ホソバコケシノブ、ウチワゴケなどが見られました。
ホソバコケシノブ、新芽
イワイタチシダとイヌイワイタチシダ
渓谷沿いの岩壁などのウエットなところにはイワイタチシダが着生していました。イワイタチシダはヤマイタチシダにくらべるとやや小型のものが多く、葉身は細身で葉の表面は艶がなく白緑色~青緑色のものが多いです。最大の特徴は葉柄および中軸の鱗片が軸に対し直角に開出してつく。同様な岩場にヤマイタチシダに似たイヌイワイタチシダも見られました。イヌイワイタチシダも小型の個体が多く、特徴は葉の表面には艶があり、葉柄および中軸の鱗片は基部が袋状で先端はいろいろな方向に伸びたり、ちじれたりしています。イヌイワイタチシダはヤマイタチシダとイワイタチシダの雑種と推定されています。
イヌイワイタチシダ
イヌイワイタチシダ(上上)
イヌイワイタチシダ、羽片(下左)
イヌイワイタチシダ、中軸鱗片(下右)
イヌイワイタチシダ、葉柄上部鱗片(下下左)
イヌイワイタチシダ、葉柄基部鱗片(下下右)
イワイタチシダ
イヌイワイタチシダ(上左)
イヌイワイタチシダ、羽片(上右)
イヌイワイタチシダ、中軸鱗片(下左)
イヌイワイタチシダ、葉柄上部鱗片(下右)
山頂付近の原生林で
御岳山山頂付近の森は、夏緑広葉樹林帯の原生林とスギ・ヒノキの植林が広がっていました。ところどころにミズナラやツガ、トチ、イタヤカエデなどの大木が茂り、ヤマグルマも見られました。中間層にはマンサクやサワフタギの大木(胸高直径20~25㎝)、タカノツメ、ヒトツバカエデなども見られました。バイカツツジは初めて見ました。可愛い花を咲かせていました。今回も同行の方からいろいろな珍しい植物をたくさん教えて頂きました。林床には広くミヤマシキミが群生しているところが見られました。イチヤクソウもかわいい花茎を立ち上げていました。
ヤマイタチシダとリョウトウイタチシダ
御岳山では標高に関係なく尾根沿いや人家の周辺などやや乾燥気味のところでヤマイタチシダが見られました。
また、稜線近くの落葉広葉樹林のやや明るい山道の崖の上部にはリョウトウイタチシダが生育していました。葉身の形はやや細身の三角形、淡緑色、薄い紙質。
ヤマイタチシダ
ヤマイタチシダ(上上)
ヤマイタチシダ、羽片(下左)
ヤマイタチシダ、中軸鱗片(下右)
ヤマイタチシダ、葉柄上部鱗片(下下左)
ヤマイタチシダ、葉柄基部鱗片(下下右)
リョウトウイタチシダ
リョウトウイタチシダ(上)
リョウトウイタチシダ、葉柄の鱗片(下左、下右)
ミヤマノキシノブ
山頂付近の宿坊のそばの1つの落葉広葉樹の樹幹にはミヤマノキシノブ、オシャグジデンダが着生していました。御岳山ではまだほかのところでは観察していません。丹沢の蛭ヶ岳や檜洞丸など主稜線では普通に見られるシダですが、見に行くのが大変でしたが御岳山は手軽に行けて見学することができました。
ミヤマノキシノブ(上)
ミヤマノキシノブ、葉柄(下左、下右)
ミヤマノキシノブ、胞子のう群(下下)
ハリガネワラビとアオハリガネワラビ
ハリガネワラビ(御岳山麓海沢産の個体の画像)は、樹林下林床で普通に見られますが、渓谷などの岩場ではウエットなところにイワハリガネワラビ、そうでないところにハリガネワラビと住み分けていました。ただ樹林下林床でも両種が混生しているところも見られました。ハリガネワラビは海沢産の個体の画像を載せます。
ハリガネワラビ(上上)
ハリガネワラビ、葉柄基部(上左)
ハリガネワラビ、葉柄上部(上右)
ハリガネワラビ、胞子のう群(下左)
ハリガネワラビ、包膜(下右)
アオハリガネワラビは山頂付近の原生林内で見られました。ハリガネワラビも普通に見られるので比較して観察できました。ハリガネワラビに比べると全体的に華奢ですが、胞子のう群は小羽片の片縁寄りについていました。
ミサキカグマ
ミサキカグマは低地から御岳山山頂の森まで広く見られます。御岳山山頂でも山道沿いの石垣や尾根近くの斜面でよく見られた。葉の色や形、華奢な感じはナンタイシダと似ています。
ミサキカグマ(上左)
ミサキカグマ、羽片(上右)
ミサキカグマ、羽片裏側(下左)
ミサキカグマ、胞子のう群(下右)
ミヤマイタチシダ
山頂部の北側の森やウエットなロックガーデン内で普通に見られました。特に山頂北側の原生林の林床ではある程度まとまった群落を形成していました。やや2形性を示し、胞子のう群をつけた葉を高く立ち上げていました。
ミヤマイタチシダ(上左)
ミヤマイタチシダ、胞子のう群(上右)
オシダ
オシダは未成株でしたが、山頂夏緑広葉樹林内ではオシダとミヤマクマワラビ両種を観察することができました。オシダは明るい山道沿いで、ミヤマクマワラビは山の北側で観察することができました。ほかのところを歩いても思うことですが、ミヤマクマワラビはオシダにくらべるとよりウエットで日陰を好むように思います。
ウエットなロックガーデン内の森で
七代の滝~綾広の滝の間は傾斜の緩やかな渓谷が続きます。
クマオシダミヤマクマワラビ
山頂北側夏緑広葉樹林内や渓谷沿いではミヤマクマワラビがときどき観察されました。渓谷沿いではミヤマクマワラビに似たクマオシダ(ミヤマクマワラビとオシダの雑種と推定)が観察されました。裂片の葉脈が一部2叉していました。
クマオシダミヤマクマワラビ(上上左)
クマオシダミヤマクマワラビ、葉身上部(上上右)
クマオシダミヤマクマワラビ、葉柄の鱗片(上左)
クマオシダミヤマクマワラビ、葉柄基部の鱗片(上右)
クマオシダミヤマクマワラビ、裂片の側脈(下左、下右)
クマオシダミヤマクマワラビ、胞子のう群(下左)
クマオシダミヤマクマワラビ、包膜(下右)
シケチシダとハコネシケチシダ
シケチシダは南側スギ植林地斜面で背の高い林床植生と競合するようにして生育。ハコネシケチシダはロックガーデン内の樹冠が重なったウエット林床や岩混じりの林床に小さな群落をつくって点在して生育。
シケチシダ
シケチシダ(上左)
シケチシダ、羽片(上右)
シケチシダ、羽片裏側(下右)
シケチシダ、胞子のう群(下右)
ハコネシケチシダ
ハコネシケチシダ(上左)
ハコネシケチシダ、中軸上の肉芽(上右)
ハコネシケチシダ、胞子のう群(下左)
ハコネシケチシダ、羽軸裏面の微毛(下右)
ナライシダとタカヤマナライシダ
ナンゴクナライシダは山頂付近の明るい森からウエットな森まで広く観察されました。また、ウエットな森の岩場の周辺ではタカヤマナライシダが見られました。タカヤマナライシダはナンゴクナライシダとホソバナライシダの雑種と推定されています。ホソバナライシダは見つかりませんでしたが、個体数をたくさん観察する必要はありますが、確認するポイントを理解していると区別は容易になります。
ナンゴクナライシダ:①葉柄~中軸にかけて鱗片は少ない。②羽軸や小羽軸上には毛が密生。③第2羽片下側第1小羽片は小さい(短い)。
タカヤマナライシダ:①葉柄~中軸にかけて鱗片は多い。②羽軸や小羽軸上には毛が密生。③第2羽片下側第1小羽片は小~大見られる。④大きな株は1mに達する。
ホソバナライシダ:①葉柄~中軸にかけて鱗片は多い。②羽軸や小羽軸上には毛がない(実は少しある)。③第2羽片下側第1小羽片は大きい(長い)。
ナンゴクナライシダ
ナンゴクナライシダ(上左)
ナンゴクナライシダ、羽軸や小羽軸上の微毛(上右)
ナンゴクナライシダ、左から葉柄基部、葉柄中部、葉柄上部(下左、下中、下右)
ナンゴクナライシダ、中軸(下下左)
ナンゴクナライシダ、第2羽片下側第1小羽片(下下右)
タカヤマナライシダ(ナンゴクナライシダ×ホソバナライシダ)
タカヤマナライシダ(上左)
タカヤマナライシダ、羽軸や小羽軸上の微毛(上右)
タカヤマナライシダ、左から葉柄基部、葉柄上部(下左、下右)
タカヤマナライシダ、中軸(下下左)
タカヤマナライシダ、第2羽片下側第1小羽片(下下)
ミヤマシシガシラか?
北側のウエットな岩壁で薄い表土の載った急斜面にコケとともに生育していました。普通のシシガシラよりも長い胞子葉をつけて個体が8株ほど点在していました。胞子葉は栄養葉の2倍を超えるものもあり、ミヤマシシガシラの可能性もあると思われます。御岳山では鳩ノ巣からの登山道の途中、明るい稜線近くの山道沿いでシシガシラは観察されていますが、胞子葉は栄養葉よりも少し長い程度です。
胞子葉の発達したシシガシラ(上左、上右)
胞子葉の柄の基部(下右)
胞子葉(下右)
草花や木
御岳山でみられた花や樹木を紹介します。
樹木
草花
そのほか
ホウライタケの仲間
ヒミズ
おわりに
御岳山山頂付近の森を1日歩きました。原生林のまま残されている豊かな森が広がり、地形の変化にも富み、さまざまな自然環境に生育する植物を観察することができました。ご紹介できたのはそのうちのほんの一部です。またゆっくりと歩いてみたいと思います。