Top / 観察会レポート / 平成26年8月17日(日)箱根旧街道-二子山周辺
畑宿の七曲りの上から旧街道沿いではイノデの仲間やヤブソテツの仲間、イヌワラビの仲間やシケシダの仲間、ベニシダの仲間などが見られました。標高を上げていくとともに見られるシダにも変化があり、はじめに見られたサイゴクイノデやヒロハイヌワラビは姿を消し、イノデモドキやツヤナシイノデ、またミヤマイタチシダやムクゲシケシダなどが姿を現すようになりました。また岩壁ではオオクボシダの群生が見られました。旧街道沿いではところどころで樹齢を経たスギ・ヒノキまた夏緑広葉樹が生育するやや平坦な地形が広がるところが見られます。このようなところはシダやコケの好い観察地になっていて観察できるシダの種類の多さに驚かされます。シダ類の多様さと生育のよさには、樹齢を経た森林の林床の特徴かもしれませんが、林床にはシダやコケなどがほしがる程度の適度に木漏れ日の差し込み、それに加えこの辺りは火山周辺の地形特有の水はけのよさ(たぶん薄い林床の腐植を剥ぐと溶岩の大小のブロックが堆積している)や箱根のカルデラ盆地特有の常にウエットな空気なども加わっているようです。
ベニシダの仲間
ベニシダの仲間では、ベニシダ、マルバベニシダ、クロゲマルバベニシダ(鱗片の黒いマルバベニシダ)、キノクニベニシダ、トウゴクシダ、オオベニシダなどが見られました。
マルバベニシダ
マルバベニシダ(上左)
マルバベニシダ、葉柄下部の鱗片(上右)
マルバベニシダ、胞子のう群(下左)
マルバベニシダ、包膜。(下右)
クロゲマルバベニシダ(鱗片の黒いマルバベニシダ)
胞子のう群は中肋寄りにつくが典型的な個体にくらべると離れる。マルバベニシダにくらべ、鱗片が黒褐色である。また小羽片は鎌形に曲がり先端はやや尖る。胞子のう群の位置を確認しないとベニシダと迷ってしまうほど似ている。
キノクニベニシダ
樹齢を経たスギ林林床に生育。葉柄に対し各羽片を直角に開出してつける。各羽片は水平ぎみに羽片を広げ立体的に見える。写真の個体では胞子のう群ははやや中肋寄りにつく。
キノクニベニシダ
キノクニベニシダ、羽片(上左)
キノクニベニシダ、胞子のう群(上右)
キノクニベニシダ、最下羽片の基部小羽片(上左)
キノクニベニシダ、包膜(上右)
イタチシダの仲間
イタチシダの仲間では大きな転石や岩壁にヤマイタチシダが見られ、数は少なかったですがリョウトウイタチシダも旧街道沿いの大きな転石の側面に着生していました。
カナワラビの仲間
カナワラビの仲間ではリョウメンシダ以外はナンゴクナライシダ、オオカナワラビ、オニカナワラビが見られました。
オオカナワラビ
オオカナワラビ(上)
オオカナワラビ、胞子のう群(下左)
オオカナワラビ、包膜(下右)
イノデの仲間
イノデの仲間についてはイノデ、サイゴクイノデ、イノデモドキ、アイアスカイノデ、ツヤナシイノデ、雑種のドウリョウイノデ(アイアスカイノデとイノデの雑種と推定)、ヨコハマイノデ(イノデモドキとアスカイノデの雑種と推定)が見られました。ドウリョウイノデは非常に大きな株で葉は120㎝程度ありました。ヨコハマイノデに関してはイノデモドキに似て葉柄や中軸の鱗片に鋸歯が多いこと、アスカイノデに似ている点は葉の光沢が強く先端は尾状に伸びない、また葉柄基部の鱗片が多少ねじれているなどです。ただしヨコハマイノデの周辺ではイノデモドキは見られましたがアスカイノデは確認できませんでした。下部羽片の胞子のう群の付き方などもっと丁寧に確認すればよかったと後で思いました。
ドウリョウイノデ(アイアスカイノデ×イノデ)
ドウリョウイノデ(上左)
ドウリョウイノデ、葉柄下部の鱗片(上右)
ドウリョウイノデ、羽片(下左)
ドウリョウイノデ、胞子のう群(下右)
ヨコハマイノデ(イノデモドキ×アスカイノデ)
ヨコハマイノデ(上)
ヨコハマイノデ、中軸下部の鱗片(上左)
ヨコハマイノデ、葉柄下部の鱗片(上中)
ヨコハマイノデ、葉柄基部の鱗片(上右)
ヨコハマイノデ、葉の光沢(上左)
ヨコハマイノデ、胞子のう群(上右)
イヌワラビの仲間
イヌワラビの仲間については、イヌワラビ、ヤマイヌワラビ、ヒロハイヌワラビ、ホソバイヌワラビなどが生育していました。
ホソバイヌワラビ
ホソバイヌワラビ(上)
ホソバイヌワラビ、羽片(下左)
ホソバイヌワラビ、小羽片の軸上の刺(下右)
コバノイシカグマの仲間
コバノイシカグマの仲間ではイヌシダ、オウレンシダ、コバノイシカグマが見られました。イヌシダ、オウレンシダは林縁や石垣などで見られましたが、コバノイシカグマはスギ・ヒノキが生育するウエットな林内で見られました。
コバノイシカグマ
コバノイシカグマ(上左)
コバノイシカグマ、小羽片(上右)
コバノイシカグマ、胞子のう群(上左)
コバノイシカグマ、包膜(上右)
ヒメウラボシ科の仲間
オオクボシダ
着生する岩壁はそれほどウエットではないが、生育している林内など生育環境はウエットである。
オオクボシダ(上左)
岩壁に群生するオオクボシダ(上右)
オオクボシダ、葉の裏(下左)
オオクボシダ、胞子のう(下右)
そのほかのオシダの仲間
オシダ
オシダは群生していることはありませんが、株によっては人の肩の高さ近くまであるものも見られました。
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やや平坦なスギ林床で120㎝はある大きな葉を叢生する大きな株のオシダが見られました。
イワヘゴ
'イワヘゴ(上左)
'イワヘゴ、胞子のう群(上右)
ミヤマイタチシダ
甘酒茶屋を過ぎて少しずつ標高を上げていくとある地点から突如出現しはじめます。やはり涼しいところが好きなシダなのだと感じさせられます。
ミヤマイタチシダ(上)
ミヤマイタチシダ、最下羽片(下左)
ミヤマイタチシダ、胞子のう群(下右)
お玉が池は二子山の麓に位置し湖畔に葦や蒲の仲間が茂る美しい湖です。池の周辺は一部が木道になり、植物を観察しやすいように整備されていました。ヌマトラノオやホソバカモメヅル、チダケサシなどが生育し、周辺の沼地や草地ではコウヤワラビやコゴミ、ヒメシダが群生していました。湖畔の疎林内ではオクタマゼンマイ(ヤシャゼンマイ×ゼンマイ)が生育していました。オクタマゼンマイはほかの地域でもヤシャゼンマイが生育する渓流から相当離れても見られることがあります。周囲の林はすべてクラマゴケに覆われ、谷によってはイワヘゴの群生していたり、ムクゲシケシダが見られたりしました。シケシダの仲間に関しては今回もたくさんの種類を見ることができました。
クラマゴケ
箱根では民家の周りなどいたるころでクラマゴケとヒメノキシノブが見られます。年間を通してウエットな箱根の気候の特徴を表しているようです。
オクタマゼンマイ
ゼンマイとヤシャゼンマイの雑種と推定される。
オクタマゼンマイの片親であるヤシャゼンマイは湖の畔には生育し得ないが、胞子が須雲川から風に運ばれてきたものと推測できる。
オクタマゼンマイ(上左)
オクタマゼンマイ、小羽片(上右)
シケシダの仲間
シケシダの仲間について、今回もいろいろなシケシダの仲間を観察することができました。シケシダ、ハクモウイノデ、ホソバシケシダ、フモトシケシダ、ムクゲシケシダ、またそれらの雑種もいろいろと出現しているのではないかと思いました。基本種は広く点在して生育していますが、雑種は栄養生殖で増えるためか、ときにコロニーをつくってまとまって生育していることがあります。
ホソバシケシダ 標本1
包膜の辺縁に細鋸歯が見られるホソバシケシダ。
ホソバシケシダ(上)
ホソバシケシダ、胞子のう群(上左)
ホソバシケシダ、包膜(上右)
ホソバシケシダ 標本2
包膜の辺縁は巻き込まず展開しているが、辺縁の細鋸歯がはっきりしない包膜が混ざるホソバシケシダ。
ホソバシケシダ(上)
ホソバシケシダ、胞子のう群(下左、下右)
ホソバシケシダ、包膜(下下)
ムクゲシケシダ 標本1
撮影するのによい形をしていたが、株がやや小さいためか包膜は未発達。
ムクゲシケシダ
ムクゲシケシダ 標本2
ムクゲシケシダ、栄養葉(上左)
ムクゲシケシダ、胞子葉と栄養葉(上右)
ムクゲシケシダ、栄養葉中軸の毛(上左)
ムクゲシケシダ、胞子葉中軸の毛(上右)
ムクゲシケシダの胞子のう群(左から若い順)
ムクゲシケシダ、若い胞子のう群の包膜(上左)
ムクゲシケシダ、熟した胞子のう群の包膜(上右)
フモトシケシダ
タマシケシダ(シケシダ×フモトシケシダ)として紹介したものを変更します。2014年9月10日
観察された個体には包膜上には小さな突起が見られるどうかなのでタマシケシダかフモトシケシダか迷いましたが、外観の典型的な特徴からフモトシケシダとします。若い包膜の辺縁は巻いています。(胞子のう群が成熟して包膜が開いてくると細鋸歯が見られるかもしれません)
フモトシケシダ、胞子葉と栄養葉(上左)
フモトシケシダ、胞子葉(上右)
フモトシケシダ、葉柄および中軸(上左)
フモトシケシダ、胞子のう群(上右)
ホソバフモトシケシダ(ホソバシケシダ×フモトシケシダ)
ホソバシケシダとフモトシケシダの雑種と推定される。
葉身は細長いが最下羽片はやや発達する。包膜の辺縁には細かい鋸歯が見られる。包膜上には微細な毛が確認できる。
ホソバフモトシケシダ(上左)
ホソバフモトシケシダ、胞子のう群(上右)
ホソバフモトシケシダ、包膜上の細かい突起~微毛(上左、上右)
ムクゲムサシシケシダ(ムクゲシケシダ×シケシダ)
ムクゲシケシダとシケシダの雑種と推定される。
遠目にはシケシダに毛が密生した感じ。中軸には淡色の鱗片が密に生える。包膜上には毛が生えている。包膜の辺縁は巻き込んでいるが熟した包膜の辺縁には微細な鋸歯が見られることもある。
ムクゲムサシシケシダ(上左)
ムクゲムサシシケシダ、中軸の鱗片(上右)
ムクゲムサシシケシダ、胞子のう群(下左)
ムクゲムサシシケシダ、包膜(下右)
箱根旧街道-お玉が池周辺で見られた草花
旧街道沿いの森で見られた花
ハクウンラン(上左)
ツチアケビ(上右)
ソウシシヨウトチバニンジン
旧街道沿いの明るい林で見られた花
フジウツギ
お玉が池の周りで見られた花
コバノカモメヅル(上左)
ヌマトラノオ(上右)
キノコの仲間
ナラタケモドキ
箱根旧街道-二子山周辺で観察されたシダ
○クラマゴケ
○スギナ
○ゼンマイ・オオバヤシャゼンマイ
○カニクサ
○イヌシダ・フモトシダ・オウレンシダ・コバノイシカグマ
○イワヒメワラビ
○ワラビ
○タチシノブ
○オオバイノモトソウ
○トラノオシダ
○テリハヤブソテツ・ヤマヤブソテツ
○ジュウモンジシダ・イノデ・イノデモドキ・サイゴクイノデ・・ツヤナシイノデ・ドウリョウイノデ・ヨコハマイノデ
○オオカナワラビ・オニカナワラビ・リョウメンシダ・ナンゴクナライシダ、
○オシダ・イワヘゴ、・オクマワラビ、・クマワラビ、・アイノコクマワラビ・ヤマイタチシダ・ベニシダ・マルバベニシダ・トウゴクシダ・オオベニシダ・キノクニベニシダ・ミヤマイタチシダ・リョウトウイタチシダ・キヨスミヒメワラビ
○ヒメワラビ・ミドリヒメワラビ・ミゾシダ・ゲジゲジシダ・ヤワラシダ・ハリガネワラビ・ヒメシダ、○フクロシダ
○イヌワラビ・ヤマイヌワラビ・ヒロハイヌワラビ・ヘビノネコザ・ホソバイヌワラビ
○ホソバシケシダ・シケシダ・ハクモウイノデ・セイタカシケシダ・ムクゲシケシダ・ムクゲムサシシケシダ・ホソバフモトシケシダ・タマシケシダ
○クサソテツ・イヌガンソク
○ヌリワラビ、・キヨタキシダ ○シケチシダ・ハコネシケチシダ
○オオクボシダ
○ノキシノブ・ヒメノキシノブ・マメヅタ・ミツデウラボシ