Top / 観察会レポート / 平成27年1月10日(土)湯河原新崎川-しとどの窟周辺
林縁や民家のそばで
石垣や用水路など民家の周辺に生育。イワヒメワラビやイノモトソウ、イヌカタヒバ、シケシダの仲間などが見られました。
イワヒメワラビ、イヌカタヒバ
イワヒメワラビ(上左)
イヌカタヒバ(上右)
シケシダの仲間
民家の石垣に生育。上部を植え込みの樹木の樹冠が覆っているためこの季節まで枯れずに残っていた。葉の質からナチシケシダではないかと思われましたが、包膜の状態が観察に不適で、正確なところはわかりませんでした。
シケシダの仲間
渓谷沿いのウエットな崖で
葉身下部まで鱗片が生えるヘラシダ
照葉樹林内渓谷部の切り立った岩壁で同行の方が毛深いヘラシダを見つけられました。葉柄~葉身下部にかけて黒褐色の鱗片が密生していました。
湯河原の他の生育地を含め、一般にヘラシダは群生して生育しますが、ここではウエットな溶岩の切り立った岩壁に1株だけ生育していました。葉柄は短く5~12cm、葉柄~葉身下部にかけて黒褐色の鱗片を密生させていました。葉の大きさは最大で16cm程度。葉を5、6枚つけ、胞子のう群は辺縁寄りについていました。
同じ岩壁にはカンスゲやほかのシダ(リョウメンシダ、オニカナワラビ、イワガネゼンマイ、イワトラノオなど)が着生していました。
早速、詳しい方から葉柄の毛深いヘラシダに関して情報を頂きました。鹿児島姶良や屋久島・奄美大島産の標本で毛深いヘラシダが見つかっており、葉柄の短い個体に見られるとのことでした。
葉身下部まで鱗片が生えるヘラシダ
アオホラゴケやウチワゴケ、イワトラノオ
水が滴り落ちるほどではないが、上部を樹冠に覆われた湿度の高い渓谷内の切り立った岩壁にはアオホラゴケやウチワゴケ、イワトラノオが群生していました。
アオホラゴケ
アオホラゴケの胞子のう群(上左)
アオホラゴケの偽脈(上右)
クリハラン
林内のウエットな渓谷沿いの岩壁、転石などに着生。1地点、個体数は多い。
岩場や崖で
コウヤコケシノブやコハイホラゴケ
山地中腹部、斜面を緩やかに巻きながら登る山道沿いに突き出した岩や切り立った岩壁にコウヤコケシノブやコハイホラゴケが見られました。乾燥気味の環境ですが、上部は樹冠に覆われています。両種が共に生育するところではより下部にコハイホラゴケが生育していました。
コウヤコケシノブ
ホラシノブ
林縁の明るい岩壁に生育。この季節、陽当たりの良いところに生育する個体は美しく紅葉していました。
岩壁に着生するホラシノブ(上左、上右)
オニヤブソテツ、ナガバヤブソテツ
林床でも見られるが、林縁の明るい崖や岩壁で多く見られました。
オニカナワラビ、ハカタシダ
林床でも見られるが、林内の岩が露出した崖や岩場で多く見られました。
アオニオオイタチシダ(広葉型)、ツヤナシオオイタチシダ
標高の低いところ~中腹まで乾燥気味の林縁の崖や明るい岩壁に生育していました。写真は幕山公園内の陽当たりのよい崖でアオニオオイタチシダ(広葉型)、ツヤナシオオイタチシダの両種が並んで生育していました。
アオニオオイタチシダ(左)、ツヤナシオオイタチシダ(右)
アオニオオイタチシダ(上左)
ツヤナシオオイタチシダ(上右)
河川や渓谷の河原で
イブキシダ
やや陽当たりのよいところから日陰まで。新崎川では河原の岩壁や転石の間など増水時には水中に没する位置に生育。大きな個体では80~90㎝になる。葉身基部の羽片は短縮する。観察地では個体数はそれなりに確認できるが新崎川そのものがそれほど長い河川ではなく、上流域や下流域では見られない。
水際の生育するイブキシダ(上左)
イブキシダ、葉身下部の羽片(上右)
イワヘゴ
川や渓谷のそばや河原周辺の上部が樹冠に覆われているようなところではイワヘゴが見られました。4~5株。
イワヘゴ
メヤブソテツ
山地中腹渓谷沿いに広がるタブやヒサカキなどの照葉樹林内の沢の転石の間に生育していました(1株)。葉の大きさは30~40cm、成株で胞子のう群をつけていました。
そのほか、テリハヤブソテツ、オニヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、ツヤナシヤマヤブソテツ、ホソバヤマヤブソテツなどが岩場や林縁の土手などいろいろなところで見られました。
メヤブソテツ(上左、上右)
メヤブソテツ、胞子のう群(上左)
メヤブソテツ、包膜(上右)
ウエットな林床で
ややウエットなスギ林林床ではリョウメンシダやベニシダやトウゴクシダ、オオバノイノモトソウなどに混じってコバノイシカグマ(1地点2株)やマツザカシダ(1地点1株)が見られました。
コバノイシカグマ
中腹のスギ林林床でベニシダ、トウゴクシダなどがよく生育するややウエットな林床斜面で1か所小さな群落が見られました。
マツザカシダ
中腹のスギ林林床でベニシダ、トウゴクシダなどがよく生育するややウエットな林床斜面で1株見られました。付近にはたくさんオオバノイノモトソウは見られました。もっと沢山見られてもよさそうなものなのに以外に少ないものです。なお湯河原の沿岸部では普通に見られます。
マツザカシダ(上左)
マツザカシダ、羽片(上左)
イノデ
幕山公園付近ではイノデが見られ、標高が上がるに従って、しとどの窟屋付近ではイノデモドキ、最上部の尾根道ではサイゴクイノデを観察しました。
イノデ(上左、上右)
イノデ、葉柄基部の鱗片(上左)
イノデ、葉柄の鱗片(上中)
イノデ、中軸下部の鱗片(上左、上右)
乾燥気味の尾根沿いで
南に面した尾根沿いの林床は乾燥気味でマルバベニシダやアマクサシダ、フユノハナワラビ、ハシゴシダなどが元気よく生育していました。
アマクサシダ(4地点)
南に面した陽当たりのよい尾根斜面の乾燥気味の林床ではときどき見られましたが、それ以外のところではほとんど見られませんでした。
そのほか、ヤマイタチシダ、フユノハナワラビ、クマワラビなどが陽当たりの良い林縁で見られました。
アマクサシダ(上左)
アマクサシダ、葉身(上右)
マルバベニシダ(1地点3株)
観察された個体は、典型的な個体にくらべると小羽片の先はやや鋭頭であったが、葉柄基部の鱗片は典型的な明赤褐色披針形でまっすぐ伸びていた。マルバベニシダが変化に富むことを示すよい標本でした。
マルバベニシダ、葉柄基部の鱗片。(上左、上中)
マルバベニシダ、葉柄下部の鱗片。(上左)
マルバベニシダ、葉身下部の羽片の胞子のう群(上左)
マルバベニシダ、葉身上部の羽片の胞子のう群(上右)
乾燥気味の林床で
ウラジロ
林内~草地まで乾燥気味の斜面では普通に見られました。
キジノオシダ
乾燥気味のスギ林林床に1株、生育していました。
キジノオシダ(上左)
キジノオシダ、羽片基部(上右)
アツバオオイタチシダ(細葉型)、ベニオオイタチシダ(長葉型)
標高の低いところ~中腹まで乾燥気味の林床や山道沿いの斜面で普通に見られました。
ツヤナシヤマヤブソテツ、テリハヤブソテツ、ホソバヤマヤブソテツ
乾燥気味の林床や山道沿いの斜面で普通に見られました。
カナワラビの仲間
オニカナワラビ
オニカナワラビは、葉の質が硬く最下羽片がよく発達する大きな個体(葉の大きさ70~90cm)が1株と、葉はそれほど硬くなくしなやかな葉質で最下羽片が多少発達する程度の個体(葉の大きさは最大で60cm程度)が沢山見られました。
葉の質が硬く大きな個体はあまりウエットでないスギ林林床斜面で、ややしなやかな個体は主に岩壁や岩場で観察されました。
ハカタシダ
ハカタシダは、林道沿いの土手などやや明るい林縁~林内まで見られました。胞子葉を高く立ち上げ2形性をはっきり示す個体と胞子葉が栄養葉とそれほど変わらない個体が見られました。
コバノカナワラビ
やや明るい乾燥気味の林床に生育。幕山公園内で観察。ホソバカナワラビと同様な環境に3株、生育していました。葉は叢生。
ホソバカナワラビ
乾燥気味の照葉樹林林床~やや明るいスギ林床斜面に群生する。葉身は3回羽状に分かれる個体~3、4回羽状に細かく分かれる個体(幕山公園付近)が見られました。
ホソバカナワラビ(上左)
ホソバカナワラビ、最下羽片(上右)
ホソバカナワラビ、羽片(上左)
ホソバカナワラビ、胞子のう群(上右)
フモトシダの仲間
フモトシダ、ケブカフモトシダ
乾燥気味の林床・林沿に生育。両種は同様な環境で観察することができましたが、ケブカフモトシダは、フモトシダよりさらに明るいとこと、乾燥気味なところでもよく見られました。
ケブカフモトシダ(上)、フモトシダ(下)
ケブカフモトシダ、葉柄(上左)
ケブカフモトシダ、中軸(上右)
クジャクフモトシダ 1地点、4株。
ケブカフモトシダとイシカグマの雑種と推定されます。スギ林林縁のやや明るい斜面に生育していました。付近にはフモトシダやケブカフモトシダがありました。
- 最下羽片が最大(羽片の中で大きさが一番大きい)。
- 葉柄・中軸には表側・裏側共に毛が生える。
- 羽片は基部(基部は全裂)を除き深裂~中裂する。
- 葉の表面には毛が生える。
クジャクフモトシダ(上左)
クジャクフモトシダ、葉身(上右)
クジャクフモトシダ、葉柄基部(上左左)
クジャクフモトシダ、葉柄(上左)
クジャクフモトシダ、葉柄の毛(上右)
クジャクフモトシダ、中軸(上右右)
クジャクフモトシダ、羽片の表側(上左)
クジャクフモトシダ、羽片の裏側(上右)
クジャクフモトシダ、小羽片の表側(上左)
クジャクフモトシダ、小羽片の裏側(上右)
クジャクフモトシダ、胞子のう群(上左)
クジャクフモトシダ、包膜(上右)
オオバノイノモトソウの仲間
外観から以下の4つの仲間が見られました。
細葉type
- 葉の質は柔らかく、葉縁の鋸歯はめだたない。
- 羽片は披針形・先端が尾状に伸びる。
- 個体数は多く、林内、林縁、河原、民家の周辺などいたるところに生育。
コユルギイノモトソウtype
葉柄・中軸は漆黒。目につきやすいためかも知れませんが、幕山周辺では明るい林縁でしばしば見られました。
広葉type
- 葉は黄緑色。
- 葉は丸みを帯びた披針形。
- 遠くからでも明るい黄緑色が目立つ。
- 葉の幅がどのくらいから区別するかはあいまい。
硬葉type
- 葉の質が硬く、辺縁の鋸歯が目立つ。
- 側羽片の先端は尾状にならない。
- 1地点で観察。