Top / 観察会レポート / 平成28年11月3日(木)陣馬高原下-相模原市底沢周辺
秋も深まり花の少ない時期でした。少し色気のある植物は尾根沿いの道に咲くセンブリとリュウノウギク、シラキの紅葉、ミヤマシキミの実くらいでした。今回は陣馬山系の北麓側と南麓側でシダ゙を観察しました。
谷と尾根で見られたオオハナワラビについて
オオハナワラビは山麓では大きな個体が見られ、尾根沿いでは小さな個体が見られました。
オオハナワラビ
陣馬山の北側山麓や南側山麓(陣馬高原下、底沢)では大きなオオハナワラビ(栄養葉の幅25㎝程度)が見られました。栄養葉の幅25㎝程度で、胞子葉も背が高く40㎝程度になり2回羽状に分かれて胞子のうをつける。一般的なオオハナワラビで葉は大きい。山麓や渓谷でやや普通に見られる。
オオハナワラビ、大きな個体
オオハナワラビ、中軸や羽軸(上左)
オオハナワラビ、裂片(上右)
オオハナワラビ、胞子表面(上左)
オオハナワラビ、胞子側面(上右)
オオハナワラビ、胞子表面(上左)
オオハナワラビ、胞子側面(上右)
葉身が小さなオオハナワラビ
尾根の森(底沢峠付近:標高700m)で小さなオオハナワラビの群落が見られました。木漏れ日が入る風通しの良いスギ・ヒノキ林林床に30株程度が群生していました。どの個体も小さく栄養葉の幅10~15㎝で、12㎝程度のものが中心。胞子葉も全体的に華奢で高さ20㎝程度・1回羽状にわかれ胞子のうをつける。
別種の可能性も疑われましたが胞子のようすからオオハナワラビとします。
小さなオオハナワラビ(上左、上右)
小さなオオハナワラビ(上左)
小さなオオハナワラビ、胞子葉(上右)
小さなオオハナワラビ、羽片(上左)
小さなオオハナワラビ、裂片(上右)
小さなオオハナワラビ、胞子表面(上左)
小さなオオハナワラビ、胞子側面(上右)
小さなオオハナワラビ、胞子表面(上左)
小さなオオハナワラビ、胞子側面(上右)
ホソバイヌワラビの無性芽
観察会後、もう一度現地を歩いたときに観察しました。この季節、ホソバイヌワラビは葉身の先のほうに無性芽(むかご)を形成します。
ホソバイヌワラビ
ホソバイヌワラビ、羽片(上右)
ホソバイヌワラビ、小羽片(上右)
シケシダの仲間
ウエットな渓谷ではオオヒメワラビ、山中のやや明るい林道沿いの林縁ではセイタカシケシダが見られた。
オオヒメワラビ
オオヒメワラビ
セイタカシケシダ
胞子は確認できませんでしたが葉柄や中軸に毛が多くセイタカシケシダと思われます。生育地が林縁で明るいところなのでよく似たムサシシケシダ(シケシダ×セイタカシケシダ)の可能性もありますがムサシシケシダは一般に葉柄・中軸の毛は少ないですが、正確に判断するには胞子の状態を確認する必要があると思います。
セイタカシケシダ(上左)
セイタカシケシダ、包膜(上右)
セイタカシケシダ、葉柄~中軸(上左)
セイタカシケシダ、葉柄上部(上右)
ヤブソテツの仲間
テリハヤブソテツ、ツヤナシヤマヤブソテツ、テリハヤマヤブソテツ、ミヤコヤブソテツが見られました。
イノデの仲間
陣馬山北麓・南麓周辺はイノデの種類が豊かでイノデ、アイアスカイノデ、イノデモドキ、ツヤナシイノデ、サイゴクイノデ、、カタイノデ、チャボイノデ、オニイノデなどが見られました。当然それらの雑種も見られるので、現地では頭を悩ませることが多いです。雑種ではドウリョウイ(アイアスカイノデ×イノデ)、オンガタイノデ(ツヤナシイノデ×サイゴクイノデ)、オンガタイノデに似た雑種、ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)などが見られました。
オニイノデ
観察されたところはすべて切り立ったあるいは急傾斜の岩壁でした。
チャボイノデ
林道沿いの夏緑広葉樹林の山裾の斜面や渓谷沿いのスギ林斜面に生育。(葉柄の短いイノデモドキに似るが、葉柄・中軸の鱗片ほとんど鋸歯が無いことで区別は容易)
チャボイノデ(上左)
チャボイノデ、中軸下部の鱗片(上右)
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)
サイゴクイノデに似るが①葉はサイゴクイノデよりも緑色が濃くやや光沢があり、②サイゴクイノデよりも細身。葉柄基部の鱗片には栗色が入る。③葉身下部羽片ではサイゴクイノデに似て耳垂に優先してつくがサイゴクイノデほど整然としていない(ハタジュクイノデは同じく耳垂に優先してつくがほとんど1個づつ並ぶので区別は容易)胞子のうははじけずまとまって固まる。
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)葉身下部(上左)
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)葉身中~上部(上右)
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)葉身下部の羽片(上左、上右)
ハコネイノデ、葉身中~上部の羽片(上左)
ハコネイノデ、胞子のう群(上右)
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)とサイゴクイノデの葉の比較(上左)
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)とサイゴクイノデの羽片の比較(上中、上右)
オンガタイノデ
オンガタイノデはサイゴクイノデやツヤナシイノデとの雑種と推定されます。陣馬山北側、サイゴクイノデやツヤナシイノデが見られるスギ林ではオンガタイノデはときどき見られます。葉は艶が無くサイゴクイノデよりも濃い緑色。葉柄基部には中央に明瞭な栗色が入ったツヤナシイノデのような大きく幅の広い鱗片が混ざる。中軸には淡褐色で長卵形~披針形の鱗片が密につく。胞子のう群はやや辺縁寄りにつき、下部の羽片ではサイゴクイノデに似て耳垂に優先してつく。
オンガタイノデ、最下羽片の胞子のう群(上左)
オンガタイノデ、下部羽片の胞子のう群(上右)
オンガタイノデ似の雑種イノデ…細長い葉柄鱗片の個体
オンガタイノデの個体変異か、ひょっとしたらカネヤマイノデ(サイゴクイノデ×イワシロイノデ)かもしれないと思います。
これまでも陣馬山南側で観察されていますが、今回、陣馬山北側でも観察されました。外観はオンガタイノデよりも白味が強い緑色で、葉柄の基部鱗片は不明瞭に栗色を帯び、オンガタイノデほど幅は広くなく、細長くねじれています。
オンガタイノデ似の雑種イノデ、葉柄下部の鱗片(上左、上中、上右)
ドウリョウイノデ…鱗片が細い個体
今回、陣馬山南側で、葉柄・中軸の鱗片が細いドウリョウイノデ(アイアスカイノデ×イノデ)が観察されました。葉の艶・鱗片など外観はミウライノデに似ていましたが胞子のう群が辺縁寄りであること、葉柄の鱗片によく観察するとわずかに栗色が確認できることからドウリョウイノデとしました。(同じ山にチャボイノデも生育しているのでチャボイノデ×イノデの可能性も推測されました)
特徴は以下のとおり。葉は鮮緑色~濃緑色で光沢がある。葉身の先端は特に尾状に伸びることは無い。葉柄の長さは葉身の1/3~1/4。葉柄には褐色~明褐色で卵状披針形~披針形・多少ねじれた鱗片が密に生え、中軸には狭披針形~線形の鱗片が密に生える。葉柄の鱗片の先のほうには淡い栗色が入っているようにも見えるがはっきりとはしない。葉身下部羽片の下側小羽片は葉の表面に凹凸があり鋸歯の先はのぎ状に長く伸びるものも見られた。胞子のう群は辺縁寄りにつく。採取した胞子のう群からは胞子を散布することが確認された。顕微鏡下では胞子嚢や胞子は光を通し不稔を疑わせる。胞子の形・大きさも変化があり雑種と考えられる。すぐそばにはイノデやサイゴクイノデやイノデモドキが生育している。また、近くにはアイアスカイノデ、チャボイノデも生育している。
鱗片が細いドウリョウイノデ、羽片裏側(上左)
鱗片が細いドウリョウイノデ、胞子のう群(上右)
ハカタシダの仲間
陣馬山系南側では、渓谷の岩場ではやや普通にハカタシダ(ミドリハカタシダ)が見られます。フイリハカタシダははじめて観察となります。フイリハカタシダは関東では珍しい存在で観察数も少ない(4~5か所)ので的確な表現ではないかもしれませんが、普通のハカタシダ(ミドリハカタシダ)よりも乾燥気味あるいはより明るいところに生育しているように思われます。ウエットな渓谷沿いではフイリハカタシダは見られないようです。
フイリハカタシダ
陣馬山南麓、スギや夏緑広葉樹が生える林床、乾燥気味の南面尾根沿いの急傾斜地、わずかに岩が露出するようなところに成株1株とその周りに幼株5株程度が生育。このあたりでは高尾山でも確認されていますが、やはり山の中~上部です。
フイリハカタシダ(上左)
フイリハカタシダ、羽片(上右)
イワヘゴの仲間
陣馬山周辺で見られるイワヘゴは、陣馬山北側(八王子市)で胞子のう群が羽片の中間につくtypeと、陣馬山南側(相模原市)で今回初めてイヌイワヘゴが見られました。
イヌイワヘゴ
陣馬山南麓。スギ・ヒノキ林内、過去に山の斜面が崩落し崩壊した土砂や岩屑が山裾に堆積したところに生育。1地点、30~40株生育。葉は大きく大きさは80~90㎝、鮮緑色~深緑色、葉の表面は平面で窪まない。葉柄基部~中軸の鱗片は披針形~狭披針形、光沢があり、褐色~やや暗褐色の鱗片をつける。葉柄下部~中軸下部の鱗片では辺縁の鋸歯は目立たない。胞子のう群は中軸寄りから羽片全体につく。胞子数は22~31確認でき無配生殖種(アポガミー)であることが分かる。胞子の大きさは乱れる。
群落の中には鱗片の色が黒褐色に近いものも見られたので、鱗片の色や鋸歯、胞子など改めて調べてみたいと思います。普通のイワヘゴも見られるかもしれません。
イヌイワヘゴ、胞子のう群。相模原市 底沢);
イヌイワヘゴ、羽片裏側(上左、上右)
イヌイワヘゴ、胞子表面(上左)
イヌイワヘゴ、胞子側面(上右)
イヌイワヘゴ、胞子表面(上左)
イヌイワヘゴ、胞子側面(上右)
イヌイワヘゴ、胞子表面(上左)
イヌイワヘゴ、胞子側面(上右)
胞子のう群が中間につくイワヘゴ
陣馬山北側でときどき見かけるイワヘゴは胞子のう群が羽片の中間につき、葉の表面はほぼ平坦でなめらかか、あるいは葉脈に沿ってわずかに窪むものが多い。渓谷に沿って群生。個体数は多い。葉の大きさは70~90㎝、鮮緑色~深緑色。葉柄基部の鱗片は黒に近い黒褐色~濃褐色。中軸の鱗片は黒褐色~赤褐色で辺縁には鋸歯がある。胞子のう群は羽片の中間につくが、やや広がってつく個体も見られる。
いままでキヨズミオオクジャクとしていましたが、イワヘゴであるとのお話を聞き訂正いたします。1つの谷では非常に個体数が多いのですが、葉の裏全体に胞子のう群をつけている個体を探すことはできませんでした。このtypeは他では大雄山でも確認されています。
胞子のう群が中間につくイワヘゴ、中軸下部の鱗片(上左、上中、上右)
胞子のう群が中間につくイワヘゴ、中軸下部の鱗片(上左、上中、上右)
胞子のう群が羽片にやや広がってつく個体
胞子のう群が中間につくイワヘゴが多数を占める林床で、個体数は少ないが羽片にやや広く胞子のう群がつく個体が見られる。
胞子のう群が羽片にやや広がってつく個体
胞子のう群が羽片にやや広がってつく個体、羽片裏側(上左、上右)
岩屑の堆積地に生育するシダ群
観察会後に再度現地を訪れイヌイワヘゴなどが生育している生育地の状況を確認しました。生育していた場所は山の急斜面の一部が崖崩れを起こし下側の谷部に堆積しやや傾斜の緩やかな斜面ができたようです。その上にスギやヒノキが植林されています。このような環境にはいろいろなシダ仲間が豊富に見られました。イヌイワヘゴ、オシダ゙、トウゴクシダ(最下羽片が発達type)、サイゴクベニシダ、オオハナワラビ、トウゲシバ、ハリガネワラビなどがまとまって生育していました。