Top / 観察会レポート / 平成28年2月6日(土)小田原西部久野-三竹周辺その2
小羽片が欠けない(左右対称の)オオバノハチジョウシダ
今回、一つの尾根の上部(北斜面)一帯、やや乾燥気味のヒノキ林林床で羽片・小羽片(最下羽片下側基部に1つだけつく)が完全に左右対称のオオバノハチジョウシダの群生が見られました。頂羽片や各羽片の頂小羽片は2~4㎝と短く、個体数は大小の株を合わせて100株以上です。今までオオバノハチジョウシダの幼株を観察する機会はありませんでしたが、今回はじめて観察し、幼株にはオオバノアマクサシダにみられるような白い斑は見られませんでした。
オオバノハチジョウシダ
オオバノハチジョウシダ(上左)
オオバノハチジョウシダ、最下羽片(上右)
オオバノアマクサシダ
また、左右対称のオオバノハチジョウシダが見られた同じ山の谷部のスギ・ヒノキ林内、谷沿いのウエットな林床では典型的なオオバノアマクサシダがよく見られました。各羽片の下側にのみ小羽片をつける形をとっています。付近で見られる幼株には明瞭な白斑が入り、大きくなるに従い白斑は薄くなります。
オオバノアマクサシダ
オオバノアマクサシダ、幼株(上左)
オオバノアマクサシダ、やや成長した幼株(参考画像:洒水の滝)(上右)
大形のオオバノアマクサシダ
1mを超す大きな株でも羽片の先端の小羽片がよく発達した個体や上部羽片や最下羽片下側小羽片が片側だけに裂片がつき左右非対称になる個体は多く見られます。洒水の滝(足柄山地)では、大きな葉で一見オオバノハチジョウシダに見えますが、頂小羽片が長くオオバノアマクサシダであることを表しています。上部羽片を含め羽片の一部が非対称であったり、同じ株から完全に非対称の典型的なオオバノアマクサシダの葉が出ている個体もよく見られます。
オオバノアマクサシダオオバノハチジョウシダとオオバノアマクサシダの中間type(参考画像:洒水の滝)(上左)
オオバノアマクサシダオオバノハチジョウシダとオオバノアマクサシダの中間type(参考画像:大雄山)(上右)
上左の画像の一部を拡大
オバノアマクサシダの葉(上左)
オバノアマクサシダ、頂小羽片(上右)
大形のオオバノアマクサシダ2
頂小羽片が長く発達し、オオバノアマクサシダであることがわかる。
大形のオオバノアマクサシダ一部非対称のオオバノハチジョウシダ(上左)
大形のオオバノアマクサシダ一部非対称のオオバノハチジョウシダ、最下羽片下側小羽片(上右)
まだまだ多くの個体を観察してみなければわかりませんが、オオバノハチジョウシダとオオバノアマクサシダを区別する方法として幼株に白斑が出ないか、白斑が出るかで区別することができるかもしれません。もしこれが確かな形質であるならば中間型が多いオオバノハチジョウシダとオオバノアマクサシダも区別しやすくなると思います。ただ、どこにでも小さな幼株(およそ15㎝程度まで)が見つかるわけではありませんので、もし出会った時にはよく観察してみてください。
ヒメクラマゴケ
スギ林内のウエットな谷部の中央を深くえぐるようにしてできた深さ2m・幅80~1m、谷に沿って長く続く薄暗い溝の中の壁面に生育していました。崖面縦40㎝×横30㎝の範囲に10㎝程度の長さの株が20本程度まとまって生育。栄養葉は壁面に貼りつくように扁平に腹葉を開出して密につける。西日本のほうではそれなりに観察することができますが関東では非常に少ないようです。
特徴:①腹葉は葉先が鈍頭でいびつなおむすび形・背葉は小さく先端は急に細くなり鋭くとがり細く伸びる。腹葉・背葉とも辺縁には鋸歯がある。②胞子のう穂は扁平な長いわらじ形(長い小判形)で背葉は大きく、横に張り出し、腹葉は小さく基部に胞子のうを抱え込む。③他のクラマゴケの仲間と異なり、胞子茎を立ち上げ(あるいは垂下させ)複数の胞子のう穂を房状につける。
この季節、胞子のう穂は観察できませんでしたが、小さな群生なので胞子のう穂をつけるかどうかわかりません。夏季に改めて胞子のう穂を確認してみたいと思っています。
ヒメクラマゴケ(上左、上右)
ヒメクラマゴケ、腹葉(上左)
ヒメクラマゴケ、背葉(上右)
ヒメクラマゴケ、腹葉の鋸歯(上左)
ヒメクラマゴケ、新芽(上右)
以前、奥湯河原白雲滝や小田原大雄山最乗寺などで観察されたタチクラマゴケを、特徴をよく確認しないまま誤ってヒメクラマゴケと記載しホームページに載せてしまい、その後、削除と訂正をさせていただいたことがありました。
ベニオオイタチシダイタチベニシダの仲間について
アケボノオオイタチシダは標高の低い林内の土手などで観察されました。標高を上げるとアケボノオオイタチシダは見られなくなりました。ベニオオイタチシダはアケボノオオイタチシダよりも標高の高いところまで見られました。5~6月頃歩くと新芽や包膜の色などよく観察できると思います。
アケボノオオイタチシダと思われる個体
※この画像は同行の方が撮影されました。久野周辺の標高の低い森の中ではときどきアケボノオオイタチシダに出会うことができます。ベニオオイタチシダ%%イタチベニシダ%%の新芽はえんじ色~チョコレート色ですがアケボノオオイタチシダは淡い紅色~鮮やかな紅色を呈します。
オオイタチシダの仲間について
ツヤナシオオイタチシダtype・アオニオオイタチシダtype・アツバオオイタチシダtypeは普通にみられました。
民家から離れた森ではシカの食害が目立ちました。オオバノイノモトソウはシカに荒らされた森でもよく生育していました。普通のtype以外に硬葉type、黄緑色の広葉typeが見られました。
オオバノイノモトソウ広葉type
オオバノイノモトソウ広葉type(上左)
オオバノイノモトソウ広葉type(上右)
キジノオシダの仲間について
一つの尾根の南北でキジノオシダとオオキジノオが見られました。山地の南側やや標高の高いところの谷部でキジノオシダが見られました。北面標高の低いややウエットなスギ林林床、傾斜のきつい林内ではオオキジノオの群生が見られました。
オオキジノオ(上左)
オオキジノオ葉身上部(上右)
イノデの仲間について
今回はアスカイノデを観察しました。小高い丘陵地の上部のやや明るいヒノキ林内で小群落を形成していました。前回観察されたミウライノデ(アスカイノデ×イノデ)、オオタニイノデ(アスカイノデ×アイアスカイノデ)が観察された谷からはそれほど離れていない(約500m)ところです。
ウスバイシカグマについて
根茎周辺の毛や鱗片を観察しようと思ったのですが、表土を剥ぎ取らなければ確認できないことが分かり、確認するのをあきらめました。新芽だけ撮影しました。新芽は濃褐色の毛に包まれていました。
ウスバイシカグマ、新芽
カナワラビの仲間について
山地最上部スギ・ヒノキ林急傾斜林床にホソバカナワラビの大群落が見られました。
丘陵地の山頂付近に群生するホソバカナワラビ(上左)
ホソバカナワラビ、葉身(上右)