Top / 観察会レポート / 平成29年1月15日(日)小田原市狩野北東部周辺
ハナワラビ属の仲間
オオハナワラビ
小田原西部ではときどき観察されるがまだ胞子の画像は撮影できていません。オオハナワラビににくらべると同様に光沢があるが葉の質は薄く表面で葉脈が目立つ。小羽片~裂片はやや長い楕円形。裂片の辺縁はオオハナワラビ同様鋭い鋸歯がある。
オオハナワラビ
オオハナワラビ、羽片(上左)
オオハナワラビ、裂片(上右)
シチトウハナワラビ
まだ胞子を確認していませんので雑種の可能性もあります。外観のわずかな違いしか確認できていません。オオハナワラビの裂片は円形のものが見られますが、それに比べるとシチトウハナワラビの裂片は細長い形をしています。また、葉身は斜上することは無く、水平気味に葉を広げています。葉身や裂片の特徴は八丈島 ?の個体をご覧ください。
シチトウハナワラビ
キジノオシダ
2つの外観の異なるキジノオシダがみられました。個体差の範囲であると思いますがそれぞれ紹介します。もしかして雑種のアイキジノオかもしれないと思いましたが、いずれにしても胞子を確認しなければなんとも言えません。またよい季節に訪れればと思っています。
標本1 羽片辺縁の鋸歯が発達しない個体
葉の大きさは30~40㎝。羽片の辺縁にはわずかに鋸歯が認められる。
鋸歯が目立たないキジノオシダ(上左)
鋸歯が目立たないキジノオシダ、葉身(上右)
鋸歯が目立たないキジノオシダ、葉身下部(上左)
鋸歯が目立たないキジノオシダ、葉身上部(上右)
標本2 下部羽片上部に翼があり羽片辺縁の鋸歯が発達する個体
葉の大きさは15~20㎝。羽片の辺縁には鋸歯が目立つ。
生態写真では上部がちぎれたあまり鋸歯が目立たない大きな葉が確認できます。後から出た葉には下部羽片上部に翼があり鋸歯が目立つだけかもしれません。アイキジノオの可能性の考えられますので、また機会を見て胞子を観察してみたいと思います。
下部羽片上部に翼があり鋸歯が目立つキジノオシダ(上左)
下部羽片上部に翼があり鋸歯が目立つキジノオシダ、葉身(上右)
下部羽片上部に翼があり鋸歯が目立つキジノオシダ、葉身下部(上左)
下部羽片上部に翼があり鋸歯が目立つキジノオシダ、葉身上部(上右)
イノモトソウの仲間
オオバノイノモトソウの仲間はオオバノイノモトソウ普通type、オオバノイノモトソウ広葉type、コユルギイノモトソウtypeが見られました。オオバノハチジョウシダの仲間は、最下羽片下側第1小羽片が非対称のオオバノハチジョウシダ、小形で羽片も左右非対称のオオバノアマクサシダが見られました。そのほかアマクサシダ、マツザカシダ、ハチジョウシダモドキなどが見られました。
ハチジョウシダモドキ
生育している環境はスギ・ヒノキ植林地内あまりウエットではない林床で1株見られました。特徴は、葉の大きさは40~50㎝で7~8枚の葉をつけていた。葉の色は黄緑色、葉の質は薄くやや光沢あり。中軸は軸折れせず、葉は50~60度の角度をなして斜上してつける。羽片は、基部は広い楔形で羽片の幅はほぼ平行、柄があり鎌形の曲がらない。裂片基部後側小脈は遊離し羽軸から直接出る。
ハチジョウシダモドキ(上左)
ハチジョウシダモドキ、葉身(上右)
ハチジョウシダモドキ、胞子のう群(上左)
ハチジョウシダモドキ、葉脈(上右)
オオバノイノモトソウ広葉type
オオバノイノモトソウ広葉typeは、葉の色は黄緑色~鮮緑色。葉の質は薄いが硬い。羽片の幅には個体差があり、硬葉typeに似る個体も見られる。下部羽片下側につく小羽片は幅は広いが長さは短い。
オオバノイノモトソウ広葉type、葉の幅が広い個体(上左)
オオバノイノモトソウ広葉type、葉の幅がやや狭い個体(上右)
オオバノイノモトソウコユルギイノモトソウtype
オオバノイノモトソウコユルギイノモトソウtype
オオバノハチジョウシダ最下羽片下側第1小羽片非対称type(片側の裂片が欠如するtype)
大形のシダ。葉の大きさは1.2~1.6m。最下羽片下側小羽片は片側が欠け非対称となっていました。渓谷沿い、スギ・ヒノキのほか夏緑広葉樹も多く見られ、この季節やや明るい林床にやや普通に見られました。
オオバノハチジョウシダ最下羽片下側第1小羽片非対称type
オオバノアマクサシダ
葉の大きさは45~50㎝のオオバノアマクサシダ。近くには大形になるオオバノハチジョウシダ最下羽片下側第1小羽片非対称type(片側の裂片が欠如するtype)も生育しておりそれの未成株はオオバノアマクサシダとよく似ています。当初どちらかよくわからなかったのですが、撮影した画像ををよく見ると植物体の根元に白斑が入った小さな株が写っていることが分かりました。この白斑のある幼株からこの個体がオオバノアマクサシダと判断できました。
オオバノハチジョウシダおよびオオバノハチジョウシダ最下羽片下側第1小羽片非対称typeの幼株には白斑は入らないようです。
オオバノアマクサシダ(上左)
左画像のオオバノアマクサシダの葉柄基部周辺、幼株(上右)
メシダ属の仲間
この季節、夏緑性のヤマイヌワラビやヘビノネコザは地上部が枯れて姿を消しますが、常緑性のタニイヌワラビ見つけやすくなります。
タニイヌワラビ
地上部が枯れているものが多い中、タニイヌワラビが見られた。タニイヌワラビは他の夏緑の植物が枯れた季節のほうが見つけやすいこともあるようです。
タニイヌワラビ
ノコギリシダ属の仲間
狩野周辺ではキヨタキシダ、ヒカゲワラビ、オニヒカゲワラビ、シロヤマシダが見られます。この季節シロヤマシダを除いて地上部は枯れていました。
シロヤマシダ
スギ林林床で小さな群生が見られました。葉の大きさは最大でも70㎝程度でした。大雄山では150㎝ほどの大きな個体も見られました。
シロヤマシダ
オニヒカゲワラビ
スギ林林床で見られました。地上部は枯れていましたが、おおよその大きさは80~100㎝の大形のシダ。葉柄・中軸・羽軸には突起状の毛が密につく。小羽片は深裂し胞子のう群は裂片の中肋に接するようにつく。
オニヒカゲワラビ(上左)
オニヒカゲワラビ、羽片(上右)
オシダ属の仲間
中軸に直角に羽片をつけるトウゴクシダの仲間
葉の色は黄緑色に近い緑色でオオベニシダとトウゴクシダの中間のような形をしています。最下羽片があまり発達しないトウゴクシダにも見えますが羽片は中軸からほぼ直角に開出するようにつけています。
中軸に直角に羽片をつけるトウゴクシダの仲間
中軸に直角に羽片をつけるトウゴクシダの仲間、最下羽片
中軸に直角に羽片をつけるトウゴクシダの仲間、羽片裏側
最下羽片下側第1小羽片が発達するトウゴクシダ未成株
屋久島などで見られる3倍体無配生殖種のタカサゴシダ゙に似ていますが、写真の個体はまだ胞子のう群をつけていない未成株なのでトウゴクシダとします。トウゴクシダでは幼株では最下羽片下側第1小羽片が発達する個体はときどき見られます。
最下羽片下側第1小羽片が発達するトウゴクシダ未成株(上左)
最下羽片下側第1小羽片が発達するトウゴクシダ未成株、最下羽片(上右)
ナガバノイタチシダ
スギ・ヒノキ林内林道わき急傾斜の斜面に生育。
ナガバノイタチシダ、最下羽片(上左)
ナガバノイタチシダ、羽片裏側(上右)
ベニオオイタチシダ アケボノオオイタチシダtype
ベニオオイタチシダ アケボノオオイタチシダtypeと思われる個体が見られました。若葉は鮮やかな紅色で5月末くらいに歩けばほんとにそうなのか一目瞭然ですが、今の季節は判別が難しいです。葉の質は薄めで表面はアイロンをかけたように平、表面に光沢は乏しい。(葉が厚めならば アツバツヤナシオオイタチシダtypeとするところですが)
ベニオオイタチシダ アケボノオオイタチシダtype(上左)
ベニオオイタチシダ アケボノオオイタチシダtype、最下羽片(上右)
イヌイワヘゴ
外観だけではイワヘゴとしてしまいそうでしたが、鱗片を見ると基部にわずかに鋸歯が確認できる程度でほとんど鋸歯は見られませんでした。大雄山の谷沿いに生育。
イヌイワヘゴ
おしまいに
前回の神奈川県西部海岸で見られたハマホラシノブの胞子を培地に播種したところ前葉体が発芽したとのご連絡を頂きました。観察された個体が雑種ではないことが分かりました。配偶体(前葉体)が確認できただけでまだ胞子体が発芽するかどうか確認ができていません。2017年3月4日 訂正