Top / 観察会レポート / 平成29年2月19日(日)大磯町 高麗山周辺
高麗山周辺で見られたシダ
海からほど近いところに急に聳える小高い山です。地質は風化した白い粘土質の岩が目立ちました。この小高い山地を形づくる地層は珪質泥岩や凝灰岩以外に玄武岩質の枕状溶岩も見られるそうです。南の海からやってきたのでしょうが地層の中には過去の海底火山の記憶が残っています。
森のようすは照葉樹と夏緑広葉樹の森が主でシイやタブノキに混ざってホルトノキやカゴノキ、モクレイシや灌木ではオオアリドオシが目立ちました。一部の谷や谷戸の奥にはスギ・ヒノキの植林も見られました。今回はこの山の地形やコースをよくご存じの方や以前シダ観察で歩かれた方にいろいろなシダを案内していただきました。
なお、3月17日に再度高麗山を訪れ画像を追加しました。一月前にくらべ温かくニリンソウが咲き始めていました。
クラマゴケの仲間
コンテリクラマゴケが生育していました。
ハナワラビの仲間
シチトウハナワラビやオオハナワラビが見られました。
ハイホラゴケの仲間
上部を竹林に覆われた粘土質の崖に群生していました。葉身は平面的で裂片が細長く葉の大きさは最大で8㎝程度でした。上部を崖の上の草や樹木に覆われた乾燥気味の崖に生育していました。胞子のう群をみなさんで探したのですが今回見つけることができませんでした。また改めて探してみたいと思います。
3月17日再度高麗山を訪れ、胞子のう群を探したところ、わずかですが確認することができました。しかしほかの生育地にくらべ胞子をつけた株は少ないように思いました。胞子のう群を顕微鏡下で崩すと胞子のうは水面に浮かびあがり胞子ともども不充実で、充実した胞子であれば壊れた胞子嚢からこぼれた胞子をスライドグラス上でいくつか確認できるのですが今回は確認できませんでした。
ハイホラゴケの仲間(上左)
ハイホラゴケの仲間、展開したばかりの若い葉(上右)
ハイホラゴケの仲間、根茎(上左)
ハイホラゴケの仲間、新芽(上右)
イワガネゼンマイの仲間
イワガネゼンマイ、イワガネソウ、フイリイワガネソウなどが見られました。
イノモトソウの仲間
イノモトソウ、オオバイノモトソウ、マツザカシダ、セフリイノモトソウが見られました。
セフリイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ)
樹林下、オオバイノモトソウの群落の中で見られました。
顕微鏡下で胞子嚢を確認すると不充実でした。冬の標本なので、改めてよい季節に観察してみたいと思います。
セフリイノモトソウ(上左)
オオバノイノモトソウ広葉typeと一緒に生育するセフリイノモトソウ(上右)
セフリイノモトソウ、栄養葉(上左)
セフリイノモトソウ、胞子葉(上右)
セフリイノモトソウ、胞子のう群:実体顕微鏡
セフリイノモトソウ、胞子のう群:生物顕微鏡
マツザカシダ
今は水は流れていませんでしたが、林床をややえぐるように流れる川岸に生育。
ノコギリシダの仲間
ヒカゲワラビ
この季節、地上部はほとんど枯れていてわずかに緑を残す葉を確認できる程度でした。生育地は谷戸の最奥のやや平坦で細長く伸びる森の林床で、今は水は流れていませんが林床をえぐるように天然の水路が穿たれています。枯れた株の多さから、1m程度のヒカゲワラビが多数茂る林床を思い描くことができます。
枯れ残ったヒカゲワラビの小株(上左)
ヒカゲワラビ、羽片の柄(上右)
ヒカゲワラビ、胞子のう群は線形・中軸寄りにつく(上左、上右)
ヤブソテツの仲間
テリハヤブソテツやツヤナシヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、オニヤブソテツ、メヤブソテツ、ナガバメヤブソテツが見られました。
オニヤブソテツ
高麗山南側、白岩神社の石垣やその周辺にに多数生育していました。石垣の個体は小さく15~25㎝、地表に生えているものは大きく60~80㎝ありました。
石垣に生育するオニヤブソテツ(上左)
石垣に生育するオニヤブソテツ、胞子のう群(上右)
標本2 地表に生育する個体
地表に生育するオニヤブソテツ(上左)
地表に生育するオニヤブソテツ、胞子のう群(上右)
ナガバヤブソテツ
山地林内の石垣やブロック状の土留めなどには普通に見られました。葉の辺縁がなめらかな個体と辺縁が粗い鋸歯縁になっているものが並んで生育していました。
ナガバヤブソテツ(上左)
ナガバヤブソテツ、羽片(上右)
メヤブソテツ
3月17日再度訪れた時、高麗山東側の照葉樹や夏緑広葉樹が混生する山地林床に生育、ややウエットな急斜面に6株生育していました。
顕微鏡下では1つの胞子嚢から27個~32個の胞子を確認することができ、胞子の形は定形で、粒の大小や形の歪な胞子は確認されず、無融合生殖種と言えます。
メヤブソテツ(上左、上右)
メヤブソテツ、最下羽片(上左、上右)
メヤブソテツ、羽片(上左、上右)
メヤブソテツ、頂羽片(上左、上右)
メヤブソテツ、羽片辺縁(上左、上右)
メヤブソテツ、胞子のう群(上左、上右)
メヤブソテツ、包膜(上左、上右)
メヤブソテツ、胞子を上から見た形(上左)
メヤブソテツ、胞子の横の形(上右)
ナガバメヤブソテツ(ナガバヤブソテツ×メヤブソテツ)
ナガバヤブソテツとメヤブソテツの雑種と推定される。生育環境は照葉樹林の乾燥気味の急斜面の崖に生育していました。特徴はナガバヤブソテツに似て葉が厚く光沢がある。またメヤブソテツに似て羽片の辺縁には細鋸歯があり包膜の辺縁に鋭い鋸歯がある。顕微鏡で観察された胞子の特徴は、胞子の大きさは大小さまざまで形が歪なものが多く混ざる。雑種と思われる。雑種かどうか確認する意味で胞子を栽培中。配偶体が発芽するか、さらに胞子体が育つなど気長に調べてみたいと思います。
ナガバメヤブソテツ(上左)
ナガバメヤブソテツ、葉身(上右)
ナガバメヤブソテツ、1つの胞子のうを壊したところ。胞子数60個程度・胞子大小あり・いびつな形が混ざる:実体顕微鏡(上左):生物顕微鏡(上右)
ナガバメヤブソテツ、胞子の形状(上左、上中、上右)
イノデの仲間
ヒメカナワラビ、イノデ゙、アスカイノデ、アイアスカイノデ、ミウライノデなどが見られました。
ヒメカナワラビ
同行の方に案内していただきました。一つの急傾斜の谷に歩きながら確認しただけで6~7株生育していました。1つの谷の流れの近くの崖からその谷の中部くらいの高さの崖まで広く生育していました。山の葉は40㎝近くあり、元気よく生育していました。
岩壁に生育するヒメカナワラビ(上左)
ヒメカナワラビ、葉身(上右)
ヒメカナワラビ、羽片裏側
アスカイノデ
3月になるとイノデの仲間は新芽を伸ばし始めていました。アスカイノデは披針形の細く捻じれた鱗片をつけていましたが、基部近くの鱗片には先のほうに栗色がはいることがあります。
アスカイノデ
アスカイノデ、葉柄上部の鱗片(上左)
アスカイノデ、葉柄下部の鱗片(上中)
アスカイノデ、葉柄基部の鱗片(上右)
アスカイノデ、羽片(上左)
アスカイノデ、胞子のう群(上右)
カナワラビの仲間
同行の方に案内していただきました。個体数は多く確認できませんでした。
オオカナワラビ
1株ですが大きな株で60㎝程度ありました。谷の水辺の近くに生育していました。
オオカナワラビ、最下羽片(上左)
オオカナワラビ、胞子のう群(上右)
コバノカナワラビ
照葉樹が生える森で下草はそれほど生えていませんが、コバノカナワラビの大きな株が1株生育していました。同行の方が以前見つけられたものを案内していただきました。
葉を叢生させるコバノカナワラビ(上左)
コバノカナワラビ、最下羽片(上右)
ハカタシダ 胞子のう群は中間につく
2形性を示し、胞子葉の葉柄は長く葉身と同長。葉身の大きさは40~80㎝で側羽片は4対程度、胞子のう群は中間についていました。谷部の急斜面や崖などにやや普通に見られる。
小形のハカタシダ 胞子のう群は辺縁寄りにつく
2形性を示し、胞子葉の葉柄は長く葉身よりも長い。葉身の大きさは手のひらよりもやや大きいサイズで側羽片は2対以下、胞子のう群はやや辺縁寄りについていました。ハカタシダの個体変異と思われるが、できればよい時期に胞子を観察してみたい。
側羽片の少ない小形のハカタシダ(上左)
小形のハカタシダ、葉身(上右)
小形のハカタシダ、羽片裏側(上左)
小形のハカタシダ、胞子のう群(上右)
イタチシダの仲間
海に近いこともあり、関東の中では温暖な地域にあたり里山を代表するイタチシダの仲間は多く見られました。ことに高麗山周辺では崖や急斜面が多くイタチシダの仲間が生育しやすい環境が整っているように見えました。ナンカイイタチシダ、オオイタチシダ、ベニオオイタチシダ、ヤマイタチシダなどが見られました。
オオイタチシダはさらに・ツヤナシオオイタチシダtype、・アツバオオイタチシダtype、・アオニオオイタチシダtype、・オオイタチシダ小形・細身typeの各typeが見られました。
① ナンカイイタチシダ
上部はタブノキの大木の樹冠に覆われ南側が開けた明るい、乾燥気味の急斜面(この季節は日が当たる)に1株生育。付近にはほかのホシダ・オオイタチシダの仲間も生育。葉の大きさは40~50㎝。葉は厚く光沢が無い。(※光沢のある個体もあるそうです)
羽片は基部は広いがその後急に細長く伸び、先のほうは鎌形に曲がらない。最下羽片後側(下側)第1小羽片は発達する。展開したばかりの葉は紅色を示す。
ナンカイイタチシダには2倍体有性生殖種と3倍体無融合生殖種がある。今回顕微鏡下では胞子数は28~32個・胞子の形は整い(大きさの大小・形の歪なし)で、無融合生殖種と言える。ただし観察した胞子嚢8個中2個では、1つは胞子数30個確認できるが多少胞子に大小が見られた。もう1つは胞子数60個程度確認できるが胞子には大小があり形もいびつなものが多く混ざっていた。
胞子の数や形を含め、展開したばかりの葉の色が紅色を示すかなど、あらためてよい季節に訪れて調べてみたいと思います。
ナンカイイタチシダ(上左)
ナンカイイタチシダ、生育環境(上右)
ナンカイイタチシダ、葉柄(上左)
ナンカイイタチシダ、葉身(上右)
ナンカイイタチシダ、葉柄基部の鱗片(上左)
ナンカイイタチシダ、中軸の鱗片(上右)
ナンカイイタチシダ、羽片(上左)
ナンカイイタチシダ、胞子のう群(上右)
胞子数32個程度・形が整っているナンカイイタチシダの胞子(上左)
胞子数30個程度・形が整っているナンカイイタチシダの胞子(上右)
胞子数30個程度・胞子に多少が大小あるナンカイイタチシダの胞子(上左)
胞子数60個程度・胞子大小あり・いびつな形が混ざるナンカイイタチシダの胞子(上右)
ナンカイイタチシダ、胞子を上から見た形(上左)
ナンカイイタチシダ、胞子の横の形(上右)
ナンカイイタチシダ、胞子を上から見た形(上左)
ナンカイイタチシダ、胞子の横の形(上右)
② オオイタチシダ
・オオイタチシダ (アオニオオイタチシダtype)
広く見られますが、オオイタチシダの中ではより乾燥した環境や岩場を好むようです。葉は厚く、ガラス様の強い光沢あり、平面的。胞子嚢群は中間につく。葉身の長さにくらべ幅は広いです。図鑑によってはヒロハtypeと記されています。
オオイタチシダ(アオニオオイタチシダtype)(上左、上右)
オオイタチシダ(アオニオオイタチシダ)、羽片(上左)
オオイタチシダ(アオニオオイタチシダ)、胞子のう群(上右)
・オオイタチシダ (アツバオオイタチシダtype)
普通に見られました。葉が厚く、光沢が強く小羽片や裂片の辺縁が内曲します。図鑑によってはナガバtypeと記されていています。
オオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)(上左、上右)
オオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)、羽片(上左)
オオイタチシダ(アツバオオイタチシダtype)、胞子のう群(上右)
・オオイタチシダ (ツヤナシオオイタチシダtype)
乾燥気味の環境を好むようです。葉が厚く、葉の表面は光沢がありません。辺縁は多少内曲します。
オオイタチシダ(ツヤナシオオイタチシダtype)、羽片(上左)
オオイタチシダ(ツヤナシオオイタチシダtype)、胞子のう群(上右)
・オオイタチシダ (オオイタチシダ小形で細身type)
乾燥気味のところで見られ、個体数はそれほど多くありません。葉はそれほど厚くなく、光沢はあるが際立たない、平面的。大きさは平均的なヤマイタチシダ程度のものが多く、葉は細身。観察者によってはオオイタチシダ アツバオオイタチシダtypeやアオニオオイタチシダtypeの小株とみることもできると思います。
オオイタチシダ(オオイタチシダ小形で細身type)、羽片(上左)
オオイタチシダ(オオイタチシダ小形で細身type)、胞子のう群(上右)
オオイタチシダ(オオイタチシダ小形で細身type)、羽片(上左)
オオイタチシダ(オオイタチシダ小形で細身type)、胞子のう群(上右)
③ ヤマイタチシダ
普通に見られました。葉は厚く、光沢は無いかあっても際立たない。辺縁は内曲する。羽片と羽片の間の隙間が大きく、一般的に30~50㎝の大きさの個体が多いですが、写真の個体は大きく80㎝近くありました。
④ ベニオオイタチシダ (ベニオオイタチシダtype)
普通に見られました。葉は薄く、光沢あり、アイロンをかけたように平面的。葉は大きく生育環境によっては100㎝程度になる。若い包膜は中心がピンク~紅色を帯びる。
ベニオオイタチシダ (ベニオオイタチシダtype)、最下羽片(上左)
ベニオオイタチシダ (ベニオオイタチシダtype)、胞子のう群(上右)
そのほかのオシダ属の仲間
ベニシダ、トウゴクシダ、オオベニシダなどが見られました。
葉が薄く柔らかいベニシダ
高麗山でもベニシダは個体変異が多いですが、山の北側で葉が薄く柔らかいベニシダが見られました。有性生殖種の可能性もあるので改めてよい時期に胞子数を数えてみたいと思います。
葉が薄く柔らかいベニシダ
葉が薄く柔らかいベニシダ、最下羽片(上左)
葉が薄く柔らかいベニシダ、羽片(上右)
葉が薄く柔らかいベニシダ、葉身先端(上左)
葉が薄く柔らかいベニシダ、羽片裏側(上右)
キノクニベニシダ
1,2株観察。ベニシダに似るが羽片は中軸に直交してつき、各羽片は水平気味に葉を広げ横から見ると階段状に見えることがある。小羽片も羽軸に対して直交気味につく。胞子のう群は小羽片の先までつき、若い包膜は紅色で辺縁は淡くなる。
キノクニベニシダ(上左)
キノクニベニシダ、羽片裏側(上右)
ウラボシ科の仲間
マメヅタ
ウエットな岩壁では葉は大きく、乾燥した岩壁では小さくなります。
クリハラン
渓谷の切り立った崖の上部に生育。
クリハラン(上左)
クリハラン、胞子のう群(上右)
その他
オオアリドオシ(上左、上右)
イカルの風切り羽
カラスのように黒い羽の中に白い斑が一つ入る。
森の中で羽が散乱していました。同行の方に教えていただきました。このあたりはオオタカが生息し、襲われたのではないかとのことでした。画像も同行の方から頂きました。
3月17日
ボケの花に密を吸いにきたメジロ
おしまいに
高麗山は起伏に富んだ地形です。いろいろな自然環境があり、いろいろなシダが見られるようです。
山地の北側、辻に立つ古い道祖神