Top / 観察会レポート / 平成29年5月21日(日)西沢渓谷(第1回)
西沢渓谷周辺 第1回
渓谷に沿って徐々に標高を上げていくようになります。渓谷を挟んで南斜面・北斜面となっており、南斜面は主に渓谷沿いに歩き、北斜面は渓谷よりも少し上部の林内を歩くことになります。最初から予想していましたが、長い距離は歩けず、観察コース全体の1/3程度でした。花崗岩質の岩が目立ち、場所にもよりますが風化してマサになっているところも多くありました。場所によってはシャクナゲやヒカゲツツジは多く、名残の花が盛りの頃のおもかげをとどめていました。
岩場に生育するシダ
フクロシダ、イワデンダ、ミヤマウラボシ、イワハリガネワラビ、ナンタイシダ、ミツデウラボシ、オオクボシダなどが見られました。
シシガシラ
シシガシラは急傾斜の林床~花崗岩が風化した岩壁斜面に生育していました。
花崗岩が風化した岩壁斜面に生育するシシガシラ
シシガシラ、新芽(上左)
シシガシラ、葉柄の鱗片(上右)
オサシダ
オサシダは岩壁や岩棚などに多く見られました。
岩棚に群生するオサシダ(上左、上右)
オサシダ、新芽(上左)
オサシダ、葉柄の鱗片(上右)
オオクボシダ
日陰の切り立ったややドライないわ壁に生育。よく探せば数か所で観察することができた。2~3㎝程度の葉を叢生。
オオクボシダ
オオクボシダ、葉の表側(上左)
オオクボシダ、葉の裏側(上右)
オオクボシダ、葉の表側の毛(上左)
オオクボシダ、胞子嚢群(上右)
ミヤマウラボシ
まだ、伸展しきっていない葉でも大きいものは12㎝ほどありました。完全に展開するともう少し大きくなると思われます。今まで2500~3000m級の山の岩場の岩壁でもっと小さな(5~8㎝)個体しか見たことがありませんでした。
ミヤマウラボシ(上左、上右)
岩壁に群生するミヤマウラボシ(上左、上右)
ミヤマウラボシ、胞子嚢群(上左、上右)
イワイタチシダ
岩壁ですぐに見つかると思っていましたが、葉柄の鱗片の付き方を見るとイヌイワイタチのように見える個体が多く見られました。次回の観察会の時もう一度調べてみたいと思います。
イヌイワイタチシダ(イワイタチシダの無融合生殖種)
イヌイワイタチシダのように見えます。葉の質・色などは艶が無く緑色も薄くイワイタチシダとよく似ていましたが葉柄・中軸の鱗片はイワイタチシダほど規則的で・密ではなく乱れていました。東北地方で見られるイヌイワイタチシダと同様だと思われます。次回もう一度お目にかかれれば胞子の数を数えて無融合生殖種かどうか確認してみたいと思います(胞子が熟していればよいのですが)。
標本1
イヌイワイタチシダ(イワイタチシダの無融合生殖種)(上左)
イヌイワイタチシダ(イワイタチシダの無融合生殖種)、葉柄の鱗片(上右)
''標本2
岩壁のすき間に生育する小さなイヌイワイタチシダ(上左)
イヌイワイタチシダ、葉柄基部の鱗片(上右)
イヌイワイタチシダ、葉身の裏側(上左)
イヌイワイタチシダ、胞子嚢群(上右)
イワハリガネワラビ
岩場や岩棚で見られました。まだ新葉を展開中です。
イワハリガネワラビ(上左)
イワハリガネワラビ、葉身(上右)
イワハリガネワラビ、葉柄基部の鱗片(上左、上中、上右)
ホソバコケシノブ
ウエットな岩壁にはホソバコケシノブが群生し、ややドライな岩壁ではヒメコケシノブが群生していました。
ホソバコケシノブ(上左)
ホソバコケシノブ、胞子嚢群(上右)
ヒメコケシノブ
やや乾燥気味の岩壁ではヒメコケシノブが群生していました。
ヒメコケシノブ
ヒメコケシノブ、葉身(上左)
ヒメコケシノブ、胞子嚢群(上右)
イワヒバ
大きな個体は見られず、岩上をに小さな個体が貼りつくように生育していました。
林床に生育するシダ
今回歩いた部分は主に渓谷沿いで正確に林床に生育するシダと岩場に生育するシダを区別することはできませんが、一応分けてみました。
オウレンシダ、ヘビノネコザ、ミヤマワラビ、ミヤマシダ、イッポンワラビ、イワシロイノデ、ミヤマクマワラビ、ミヤマシケシダ、ミヤマイタチシダ、シノブカグマ、ホソバシケシダなどが見られました。
ハクモウイノデ
ハクモウイノデは渓谷の入口付近(標高の低いところ)で観察されました。
ハクモウイノデ(上左)
ハクモウイノデ、葉柄(上右)
ミヤマシケシダ
渓谷に沿って標高を上げていくとミヤマシケシダが見られるようになりました。観察されたのは栄養葉で今後長い葉柄を持つ胞子葉が出てくると思われます。葉柄には褐色で膜質の鱗片をつけていました。(葉柄基部の新芽の中心が粘性を帯びるウスゲミヤマシケシダではありません)
ミヤマシケシダ(上左)
ミヤマシケシダ、葉柄(上右)
イワシロイノデ
鱗片の形・つき方はツヤナシイノデに似ていますが、葉柄や中軸の鱗片は淡い白っぽい褐色でこの新芽を展開する時期は植物体全体が特に白っぽく見えます。中軸の鱗片の形には個体差はあるが卵状披針形~広披針形。それに対しツヤナシイノデの中軸の鱗片は色が濃く広卵形で丸い。
イワシロイノデ(上左、上右)
イワシロイノデ、中軸の鱗片(上左、上右)
ミヤマシダ
岩がところどころ露出する林床に生育。
ミヤマシダ(上左)
ミヤマシダ、羽片(上右)
イッポンワラビ
やや明るい渓谷沿いの斜面に群生。葉はまだ展開しきっていないが大きさは40~50㎝程度。
谷沿いの草地に群生するイッポンワラビ(上左)
イッポンワラビ、展開中の若葉(上右)
イッポンワラビ、羽片裏側(上左)
イッポンワラビ、小羽片裏側(上右)
シノブカグマ
渓谷の入口付近では見られなかったが、標高を上げていくとだんだんシノブカグマが多く見られるようになりました。
シノブカグマ
ミヤマワラビ
岩がところどころ露出する林床に生育していました。
ミヤマワラビ(上左)
軸折れするミヤマワラビ(上右)
ミツデウラボシ
ミツデウラボシはたいへん小さく5~10㎜程度のものばかり見られました。胞子嚢群はつけています。
樹幹に生育するシダ
同行の方が以前観察されていて、案内していただきました。トチの大木に着生するホテイシダ、オシャグジデンダ、シノブ、ミヤマノキシノブなどが見られました。
オシャグジデンダ
大木の樹幹のところどころに着生していました。冬緑性なので夏には葉を落とすと思われますが、まだまだ枯れずに緑色の葉を茂らせていました。
トチノキの大木の樹幹に着生するオシャグジデンダ(上左、上右)
ミヤマノキシノブ
大木の樹幹に群生。遠いのではっきりとは確認できませんが、特徴的な長い葉柄が確認できました。
ホテイシダ
大木の幹から横に張り出した太い枝に単葉のウラボシ科と思われる新芽が芽吹いていました。まだ新芽を伸ばしている途中で、他のシダの可能性はないかというご意見もあったのですが、そばに昨年の葉が見当たらず常緑性のシダではなく、幅広の新芽だけが確認されたので、夏緑性のシダであるホテイシダとしました。次に訪れるころには葉を広げていると思われます。
ホテイシダ
ホテイシダ
同行の方から最新の画像を頂きましたので掲載いたします。撮影日:2017年6月11日
そのほかの植物
渓谷に咲く花はいろいろ見られましたが、シャクナゲ、ヒカゲツツジ、イワウチワなどは花期を過ぎてしまっていました。
コヨウラクツツジ コヨウラクツツジ属
岩壁に生育していました。ゆがんだ壺型の花・葉の表面と縁に毛が多い。同行の方から画像および説明をいただきました。
コヨウラクツツジ(上左)
コヨウラクツツジ、葉(上右)
アズマシャクナゲ ヒカゲツツジ シャクナゲ亜属
同行の方から画像および説明をいただきました。
アズマシャクナゲ、雄蕊(おしべ)は10本(上左)
ヒカゲツツジ(上右)
キバナウツギ タニウツギ属
明るい谷の斜面に生育していました。
キバナウツギ(上左、上中、上右)
コハクウンボク エゴノキ属
明るい林内・林縁に生育していました。渓谷の入口ではハクウンボクも見られました。
コハクウンボク(上左、上右)
コミヤマカタバミ カタバミ属
山道沿いの林床に生育していました。同行の方から画像をいただきました。
コミヤマカタバミ
シコクハタザオかもしれないイワハタザオ ヤマハタザオ属
岩壁に生育していました。同行の方からご指摘いただき訂正いたします。
シコクハタザオかもしれないイワハタザオ
クリンユキフデ イブキトラノオ属
岩壁に生育していました。
クリンユキフデ
テバコモミジガサ コウモリソウ属
ウエットな沢沿いの岩場に群生していました。小さなモミジガサという感じもしますが、モミジガサ?と比較すると葉の大きさだけでなく形もだいぶ違います。
テバコモミジガサ
エビゴケ エビゴケ科
岩壁で普通に見られました。先端が2本のエビの触角のようになることから・頂端近くの葉の中央脈が毛状に細長く突出。同行の方から画像および説明をいただきました。
エビゴケ
ヤシャビシャク ユキノシタ科 スグリ属
大木の幹と太い横枝の股に着生。そばにはホテイシダが生育。
同行の方から最新の画像および説明を頂きましたので掲載いたします。撮影日:2017年6月11日
大木の太い横枝の股に着生ヤシャビシャク
今回はここまででした。次回はまた続きを歩いてみたいと思いますが、梅雨の時期なのでお天気次第となります。