Top / 観察会レポート / 平成29年7月2日(日)西沢渓谷(第2回)
西沢渓谷の第2回目です。渓谷の標高は1100m~1400mあります。渓谷内を歩いていても、標高を上げるに従い植生が変化することを実感しました。深い渓谷と変化に富んだ滝がいくつもあり美しい観察コースでした。
全体を通してよく見られたシダはホソバコケシノブ、フクロシダ、イワデンダ、オサシダ、シシガシラ、ヤマイヌワラビ、ツルデンダ、イワシロイノデ、イワイタチシダあるいはイヌイワイタチシダ、ナンタイシダ、ミヤマイタチシダ、ミヤマクマワラビ、オシダ、ミツデウラボシ、ミヤマウラボシ、などでした。
コスギラン属の仲間
渓谷沿いではトウゲシバの仲間ではトウゲシバ、ヒメスギランを観察。
ヒメスギラン
Huperzia miyoshiana ヒカゲノカズラ科 コスギラン属
ウエットな岩壁に着生していた。大きさは12㎝程度。小葉は針状で途中で分岐して枝を出す。小葉の長さは2~3㎜で小葉の付け根にには2枚貝状の胞子嚢をつける。先端にはエビの尻尾のような無性芽をつける。
コケシノブの仲間
コケシノブのなかまではホソバコケシノブ、ヒメコケシノブ、コケシノブを観察。
コケシノブ
Hymenophyllum wrightii コケシノブ科 コケシノブ属
標高の高いところで見られた。1か所に沢山群生していたが生育地点数は少ないようである。、夏緑広葉樹林内林床の樹木の切り株に根元から樹幹を覆うようにして生育。葉の大きさは小さく1.5~2.5㎝程度。
(1)コケの仲間と共に生育するコケシノブ
(2)切り株に群生するコケシノブ
ナヨシダの仲間
ナヨシダの仲間ではヤマヒメワラビを観察しました。
ヤマヒメワラビ生育の悪いナンタイシダCystopteris sudetica ナヨシダ科 ナヨシダ属
切り立った岩壁の基部、日陰の水が滴る岩上にやや間隔をあけて20枚程度の葉をつけていた。はっきりとした胞子嚢群も確認できず、現地では近くにナンタイシダが生育していたので、生育の悪いナンタイシダと思いそのままにしていた。
※ヤマヒメワラビとしたものを生育の悪いナンタイシダに訂正いたします。2022年11月10日
ヤマヒメワラビ
(1)ヤマヒメワラビ生育の悪いナンタイシダ、葉柄基部の鱗片
(2)ヤマヒメワラビ生育の悪いナンタイシダ、羽片裏側
(1)、(2)ヤマヒメワラビ生育の悪いナンタイシダ、最下羽片
ヤマヒメワラビ生育の悪いナンタイシダ、胞子嚢群か(写真ピンボケ)
チャセンシダの仲間
チャセンシダの仲間ではイワトラノオとヒメイワトラノオを観察しました。
ヒメイワトラノオ
Asplenium capillipes チャセンシダ科 チャセンシダ属
ウエットな岩壁(花崗岩質)の岩の裂け目に生育。1m四方程度の範囲に15株程度生育。生育地点数は少ないようである。葉の大きさは4~8㎝、葉柄は葉身よりも長くなることがある。2回羽状に分かれる。小羽片は瓜実形。ある程度の大きさの葉はほとんど中軸の途中に無性芽をつける。一般には石灰岩地帯に生えると言われている。観察された胞子数は30個程度確認できアポガミー(無融合生殖種)と思われる。
(1)、(2)ヒメイワトラノオ
(1)ヒメイワトラノオ、葉柄と葉身
(2)ヒメイワトラノオ、包膜
(1)ヒメイワトラノオ、胞子上面
(2)ヒメイワトラノオ、胞子側面
(1)ヒメイワトラノオ、胞子上面
(2)ヒメイワトラノオ、胞子側面
(1)ヒメイワトラノオ、胞子上面
(2)ヒメイワトラノオ、胞子側面
(1)ヒメイワトラノオ、胞子上面
(2)ヒメイワトラノオ、胞子側面
イワトラノオ
標高が高いためか意外と少なく北斜面のウエットな岩場でわずかに見られました。
(1)イワトラノオ
(2)イワトラノオ、胞子数
ヒメシダの仲間
公園入口では明るい草原にヒメシダが群生していました。渓谷沿いでは林床にミヤマワラビ、岩場や崖などではイワハリガネワラビが見られました。
イワハリガネワラビ
Thelypteris musashiensis ヒメシダ科 ヒメシダ属
イワハリガネワラビ
イワデンダ属の仲間
イワデンダとフクロシダは岩場や岩壁では普通に見られました。
フクロシダ
Woodsia manchuriensis イワデンダ科 イワデンダ属
フクロシダ
シシガシラの仲間
シシガシラの仲間ではシシガシラとオサシダが見られました。ミヤマシシガシラも見つかる可能性があると思います。
オサシダ
切り立った岩壁ではよく見られました。
(1)岩壁に生育するオサシダ
(2)オサシダ、葉身
メシダ属の仲間
イッポンワラビや大きなヤマイヌワラビが見られました。
イッポンワラビ
Athyrium crenulatoserrulatum メシダ科 メシダ属
標高を上げるに従い次第に普通に見られるようになりました。群生して生育していました。
葉の大きさの割合に対して葉柄や中軸はやや太い感じがする。葉の質感は草質で葉柄・中軸・羽片まで柔らかい感じがする。全体に淡い黄緑色で羽軸の分岐はやや紅色を示す。胞子嚢群は円形~楕円形。
(1)、(2)イッポンワラビ
(1)イッポンワラビ、羽軸の付け根(最下羽片)
(2)イッポンワラビ、羽軸の付け根
ヤマイヌワラビ
Athyrium vidalii メシダ科 メシダ属
葉の大きさが大きいものでは1mに達する個体が見られました。
ヤマイヌワラビ
シケシダの仲間
シケシダの仲間では、ミヤマシケシダの仲間が多く見られました。一般にハクモウイノデ・ミヤマシケシダ・ウスゲミヤマシケシダの3種類ですが、西沢渓谷ではもう1種類「毛深いウスゲミヤマシケシダあるいはウスゲミヤマシケシダ×ハクモウイノデの雑種」が見られました。そのほかたぶんホソバシケシダ、フモトシケシダと思われるシケシダの仲間が見られましたがまだ胞子をつけていませんでした。
ハクモウイノデ
Deparia orientalis メシダ科 シケシダ属
中形のミヤマシケシダの仲間。葉の大きさは35~60㎝。やや2形性を示し胞子葉は立ち上がる。根茎の径は2~3㎝太いものでは4㎝程度。葉柄基部~中軸にかけて白い毛が密に生え、基部には半透明の鱗片が混ざる。夏緑広葉樹林内林床~林縁にかけて見られる。西沢渓谷では標高は低いところ、私たちにとってなじみ深いミヤマシケシダに仲間
(1)ハクモウイノデ
(2)ハクモウイノデ、葉柄
ミヤマシケシダ
Deparia pycnosora メシダ科 シケシダ属
小形~中形のミヤマシケシダの仲間。葉の大きさは35~50㎝。根茎の径は2~3㎝。葉柄基部には膜質淡褐色~褐色の鱗片が貼りつくようにつくが葉柄は無毛。葉柄は細く太さは2~3㎜程度。主に渓谷沿いの夏緑広葉樹林内斜面林床で観察。やや標高を上げるとみられるようになる。葉柄基部に鱗片がつくが葉柄下部~中軸には鱗片や毛をつけない。根茎の直径は2~3㎝。葉柄葉細く太さは2㎜程度。
(1)ミヤマシケシダ
(2)ミヤマシケシダ、根茎
(1)ミヤマシケシダ、葉柄および葉身
(2)ミヤマシケシダ、羽片
ウスゲミヤマシケシダ
Deparia mucilagina メシダ科 シケシダ属
大形のミヤマシケシダの仲間。葉の大きさは100㎝程度。やや2形性。根茎の太さ(径)は8㎝程度になる。根茎の付け根は粘液に包まれる。葉柄基部には膜質淡褐色~褐色の鱗片が貼りつくようにつくが葉柄は無毛~わずかに毛が生える。中軸下部は無毛~わずかに毛が生え上部では多少毛が生える。林内および渓谷沿いの森が開けた場所で高生草本類と共に生育。西沢渓谷では標高の高いところで見られた。
(1)、(2)ウスゲミヤマシケシダ
(1)ウスゲミヤマシケシダ、根茎の付け根
(2)ウスゲミヤマシケシダ、葉柄~中軸
(1)ウスゲミヤマシケシダ、中軸表側
(2)ウスゲミヤマシケシダ、中軸裏側
(1)ウスゲミヤマシケシダ、羽片
(2)ウスゲミヤマシケシダ、胞子嚢群
毛深いウスゲミヤマシケシダか、ウスゲミヤマシケシダ×ハクモウイノデの雑種
メシダ科 シケシダ属
中形~大形のミヤマシケシダの仲間。ウスゲミヤマシケシダに似た大形のシダで根茎の付け根は湿っている程度で粘液がほとんど見られず、葉柄上部~中軸にかけて白色の毛が多い。改めて胞子のようすを観察して雑種かどうか判断したいと思います。
毛深いウスゲミヤマシケシダかウスゲミヤマシケシダ×ハクモウイノデの雑種
ノコギリシダ属の仲間
標高を上げていくとミヤマシダが見られました。キヨタキシダも上流の方までときどき見られた。
ミヤマシダ
Diplazium sibiricum var. glabrum メシダ科 ノコギリシダ属
林縁や明るい林床に生育。
(1)ミヤマシダ
(2)ミヤマシダ、胞子嚢群
カナワラビ属の仲間
リョウメンシダ、ホソバナライシダ、シノブカグマが見られました。
ホソバナライシダ
夏緑広葉樹林の急な斜面で局所的に見られた。渓谷沿いではあまり見られませんでした。
イノデの仲間
イワシロイノデとホソイノデとその雑種と推定されるチチブイノデを観察しました。そのほかジュウモンジシダ、ツルデンダを観察しました。
イワシロイノデ
Polysichum ovatopaleaceum var.coraiense オシダ科 イノデ属
出現数はそれほど大くないが渓谷の入口から最奥部まで広く見られた。
葉柄の長さは15~25㎝。葉身下部の羽片は短縮しない。胞子嚢群は中間につく。
(1)(2)イワシロイノデ
(1)イワシロイノデ、胞子嚢群
(2)イワシロイノデ、胞子数
(1)イワシロイノデ、胞子上面
(2)イワシロイノデ、胞子側面
(1)イワシロイノデ、胞子上面
(2)イワシロイノデ、胞子側面
(1)イワシロイノデ、胞子上面
(2)イワシロイノデ、胞子側面
ホソイノデ
Polystichum braunii オシダ科 イノデ属
葉柄は短く5~10㎝。葉身下部の羽片は次第に小さくなり最下羽片は2~3㎝。胞子嚢群は中肋寄りにつく。
渓谷内では標高が上がると見られるようになった。
葉柄の長さは5㎝程度
(1)ホソイノデ、葉柄および葉身下部
(2)ホソイノデ、葉柄の鱗片
チチブイノデ(イワシロイノデ×ホソイノデ)
Polystichum x titibuense オシダ科 イノデ属
イワシロイノデとホソイノデの雑種と推定される。葉柄の長さはホソイノデほど短くならず10~15㎝。葉身下部の羽片は次第に小さくなるがホソイノデほど短縮せず最下羽片は4~5㎝で、また長さにむらがある。胞子嚢群はイワシロイノデに似て中間につく。また、この渓谷では有性生殖種のイノデの仲間はイワシロイノデとホソイノデしか観察できませんでした。
また今回は観察した季節がよく、胞子嚢群は雑種の特徴をよく表し、胞子嚢群は①黒く熟さず(両親の胞子嚢群はすでに黒色に熟している)②薄緑色で盛り上がる(一般にイノデ類の雑種ではこの後次第にあめ色にかわり弾けず固まる)。
(1)、(2)チチブイノデ
ツルデンダ
Woodsia manchuriensis オシダ科 イノデ属
ツルデンダ
オシダ属の仲間
○岩場ではナンタイシダは普通種でした。ウエットで薄暗い日陰ではミヤマクマワラビが、木漏れ日がさすような明るい林床ではオシダが生育。岩場矢岩壁ではイワイタチシダあるいはイヌイワイタチシダが生育していました。
イワイタチシダ
Dryopteris saxifraga オシダ科 オシダ属
岩壁ではやや普通に見られました。大きさは小さいものが多く10~15㎝、大きいものでは20㎝程度の個体も見られました。まだ胞子は観察できないので改めて見てみます。
イワイタチシダ
(1)イワイタチシダ、葉柄の鱗片
(2)イワイタチシダ、中軸の鱗片
ウラボシ科の仲間
○ウラボシ科のシダではミツデウラボシ、ミヤマウラボシ、ノキシノブ、ナガオノキシノブ、ミヤマノキシノブ、オシャグジデンダなどが見られました。
ミヤマウラボシ
Crypsinus veitchii ウラボシ科 ハカマウラボシ亜科 ミツデウラボシ属
ミヤマウラボシ
ミヤマノキシノブ
isorus ussuriensis var. distans ウラボシ科 オキナワウラボシ亜科 ノキシノブ属
岩壁や樹幹に着生するミヤマノキシノブ
(1)ミヤマノキシノブ、葉柄
(2)ミヤマノキシノブ、胞子嚢群
オシャグジデンダ
Polypodium fauriei ウラボシ科 エゾデンダ亜科 エゾデンダ属
大木の樹幹に群生していました。谷の下の方から生えているため視線の高さで見ることができました。
オシャグジデンダ
※同行の方から画像を頂きました。
オオクボシダ
Micropolypodium okuboi ウラボシ科 ヒメウラボシ亜科 オオクボシダ属
切り立った岩壁でコケの仲間と共に生育。
(1)オオクボシダ
(2)岩壁に群生するオオクボシダ
そのほかの植物
同行の方に教えていただきながらいろいろな草木を観察しました。
なお同行の方からご指摘を受けたものは変更いたしました
マルバアオダモ
(1)マルバアオダモ
(2)マルバアオダモ、冬芽
ミヤママタタビ
(1)枝先の葉
(2)葉
ニシキウツギ
(1)ニシキウツギ、花
(2)渓谷に生育するニシキウツギ
ウダイカンバ
(1)渓谷沿いに生育するウダイカンバ
(2)ウダイカンバ、葉
オノオレカンバ
(1)渓谷に下る尾根筋に生育するオノオレカンバ
(2)オノオレカンバ、葉
(1)クロカンバ、葉
(2)クロカンバ、雌花花?
(3)クロカンバ、葉縁
オニツルウメモドキ
(1)オニツルウメモドキ
(2)オニツルウメモドキ、葉脈上の毛
おしまいに
西沢渓谷は距離は少し長いですが、美しい渓谷でした。寒い地域のシダを沢山観察することができました。シャクナゲやヒカゲツツジの咲くころ、また紅葉の季節も美しいそうです。