Top / 観察会レポート / 平成29年7月23日(日)相模湖周辺イノデ雑種観察
相模湖ダム周辺でイノデ類の有性生殖種と雑種を中心に観察しました。この付近で観察されているイノデの仲間は以下のようになっています。有性生殖種が8種(ツヤナシイノデ、チャボイノデ、イノデ、カタイノデ、サイゴクイノデ、イノデモドキ、シムライノデ、アイアスカイノデ)、無融合生殖種が2種(オニイノデ、ヒメカナワラビ)、雑種は9種(ドウリョウイノデ・ハコネイノデ・ハタジュクイノデ・タカオイノデ・オンガタイノデ・ミツイシイノデ・ツヤナシイノデモドキ・葉柄基部の鱗片には広卵形大形の鱗片が混ざるサイゴクシムライノデ・アイカタイノデ)
イノデの仲間は主にスギ(およびヒノキ)植林地内の夏緑広葉樹や照葉樹が混生する谷筋で多く見られました。
イノデ類の種類によっては広範囲に生育する種類や、生育範囲が限定され谷によって生育しているイノデの種類が異なるものも多く見られました。以前陣馬山北側で行った観察会の記録もご参考ください。
また、種類によって雑種をつくりやすいものと作りにくいものの組み合わせがありいくら両親がたくさん混生していても雑種をつくりにくいもの(キヨズミイノデほか)と、雑種をつくりやすいもの(ドウリョウイノデミツイシイノデほか)が見られます。
そのほか、雑種ではミヤマキヨタキシダ、オオバヤシャゼンマイなどが見られました。
ツヤナシイノデモドキ(ツヤナシイノデ×イノデモドキ)Polystichum x pseudo-ovatopaleaceum
オシダ科 イノデ属
ツヤナシイノデモドキはツヤナシイノデとイノデモドキの雑種と推定される。
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものは中形で葉の大きさは40~60㎝。
- 葉柄基部の鱗片には広卵形大形の鱗片が混ざる。葉柄~中軸にかけて鱗片の辺縁には和紙を裂いたような鋸歯が目立つ。
- 葉は明るい緑色でやや光沢がある。
- 胞子嚢群は葉身の上から羽片の先からつき、葉身下部の羽片には胞子嚢群をつけない。
- 胞子嚢群は辺縁寄りにつく。
観察数
1地点、2株。相模湖周辺。
(1)(2)ツヤナシイノデモドキ、葉柄基部に混ざる広卵形大形の鱗片
ツヤナシイノデモドキ、胞子嚢群
標本2
ツヤナシイノデと一緒に生育するツヤナシイノデモドキ(ツヤナシイノデ×イノデモドキ)
(1),(2)ツヤナシイノデ(上)と、ツヤナシイノデモドキ(下)の葉身
ミツイシイノデ(カタイノデ×サイゴクイノデ)Polystichum X namegatae
オシダ科 イノデ属
ミツイシイノデはカタイノデとサイゴクイノデの雑種と推定される。
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものは中形~大型で葉の大きさは50~70㎝。
- 葉柄基部の鱗片にはカタイノデの特徴が表れ、広披針形あまりねじれない光沢のある黒褐色で辺縁にわずかに淡褐色の縁取りが入る鱗片が混ざる。
- 葉は暗い緑色で光沢は乏しい。
- 最下羽片では胞子嚢群は耳垂に優先して規則正しくつく。
- 胞子嚢群は中間~やや辺縁寄りにつく。
(1)ミツイシイノデ葉柄基部
(2)ミツイシイノデ、葉柄下部
(3)ミツイシイノデ、葉柄上部
観察数
1地点、カタイノデとサイゴクイノデが見られるところでは普通に見られる。相模湖周辺。
タカオイノデ(ツヤナシイノデ×アイアスカイノデ)Polystichum ×takaosanense
オシダ科 イノデ属
タカオイノデはツヤナシイノデとアイアスカイノデの雑種と推定される。
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものは大形で葉の大きさは100㎝に達するものが見られる。
- 葉柄基部の鱗片には広卵形大形の鱗片が混ざる。鱗片には先のほうに栗色が混ざるがよく観察しないとわからないものも見られる。
- 葉の色は黄緑色に近い鮮緑色でやや光沢がある。
- 胞子嚢群は葉身の上から羽片の先からつき、葉身下部の羽片には胞子嚢群をつけない。
- 胞子嚢群はやや辺縁寄りにつく。
観察数
1地点、3株。相模湖周辺。
ドウリョウイノデ(アイアスカイノデ×イノデ)Polystichum×anceps
オシダ科 イノデ属
ドウリョウイノデはアイアスカイノデとイノデの雑種と推定される。
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものは大形で葉の大きさは100㎝に達する。
- 葉柄基部の鱗片には広披針形の鱗片が密につく。鱗片には栗色が入るが先のほうにわずかに栗色が入るものも見られる。
- 葉は一般的な濃い緑色で光沢がある。
- 葉身下部の羽片には胞子嚢群をつけないかつけても耳垂優先につくことは無い。
- 胞子嚢群はやや辺縁寄りにつく。
観察数:
1地点、2株。相模湖周辺。
周りに生育するイノデモドキよりもはるかに大きいドウリョウイノデ。
(1)ドウリョウイノデ、羽片
(2)ドウリョウイノデ、小羽片
(1)ドウリョウイノデ、羽片裏側
(2)ドウリョウイノデ、胞子嚢群
ハタジュクイノデ(アイアスカイノデ×イノデモドキ)Polystichum x hatajukuense
オシダ科 イノデ属
ハタジュクイノデはアイアスカイノデとイノデモドキの雑種と推定される。
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものはやや大形で葉の大きさは80㎝に達する。
- 葉柄基部には中央に栗色が入り周りが淡い褐色の披針形の鱗片が密につく。葉柄~中軸にかけて鱗片には鋸歯が目立つ。
- 葉は一般的な濃い緑色で光沢がある。
- 最下羽片では耳垂に優先してつくが、サイゴクイノデほど規則的ではない。
- 胞子嚢群は辺縁寄りにつく。
観察数:
1地点、10株。相模湖周辺。
(1)ハタジュクイノデ、葉柄の鱗片
(2)ハタジュクイノデ、中軸下部の鱗片
(1)ハタジュクイノデ、羽片
(2)ハタジュクイノデ、小羽片
(1)ハタジュクイノデ、羽片裏側
(2)ハタジュクイノデ、胞子嚢群
(1)ハタジュクイノデ(上)とイノデモドキ(下)、葉身の比較
(2)ハタジュクイノデ(右)とイノデモドキ(左)、羽片の比較
ハコネイノデ(アイアスカイノデ×サイゴクイノデ)Polystichum x hakonense
オシダ科 イノデ属
ハコネイノデはアイアスカイノデとサイゴクイノデの雑種と推定される。
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものはやや大形で葉の大きさは80㎝に達する。
- 葉柄基部には栗色で辺縁に淡い褐色が入る披針形の鱗片が密につく。
- 葉は淡い緑色で光沢見られず、遠目には大形のサイゴクイノデに見える。
- 胞子嚢群は最下羽片まで付き、下部の数対の羽片では耳垂に優先してサイゴクイノデと同様に規則的につく。
- 胞子嚢群は辺縁寄りにつく。
観察数
1地点、5株。相模湖周辺。
(1)ハコネイノデ、葉柄基部
(2)ハコネイノデ、葉柄基部鱗片
(1)ハコネイノデ、最下羽片裏側
(2)ハコネイノデ、胞子嚢群
キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)Polystichum x kiyozumianum
オシダ科 イノデ属
キヨズミイノデはサイゴクイノデとイノデモドキの雑種と推定される。
※最初サイゴクシムライノデ(サイゴクイノデ×シムライノデ)として掲載しましたが、シムライノデの生育が誤りであったため、スオウイノデ(イノデ×サイゴクイノデ)に訂正いたします。2018年5月31日
※スオウイノデ(イノデ×サイゴクイノデ)として再掲載していましたが、キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)に再訂正いたします。2019年2月23日
観察された特徴
- 葉の大きさは40~50㎝、中形。
- 葉柄基部には栗色の鱗片と、栗色と辺縁に淡い褐色が入る披針形の鱗片が密につく。葉柄の鱗片は赤褐色~黒褐色。中央が濃くなるものが混ざる。辺縁には細かい鋸歯がある
があまり目立たない。 - 中軸下部の鱗片には栗色が中央に入る。辺縁には鋸歯がある。
- 葉の色は明るく黄緑色に近い鮮緑色で光沢がある。
- 小羽片は卵状三角形のものが見られる。
- 胞子嚢群は辺縁寄りにつき、下部の数対の羽片では耳垂に優先してサイゴクイノデと同様に規則的につく。
※観察地の周りはイノデモドキとサイゴクイノデが優勢に繁茂していることもあり観察会ではキヨズミイノデとしたが、葉の色・葉柄や中軸の鱗片の鋸歯のよすが異なり、①そばにシムライノデが生育している(15m程度の距離に1株生育)こと、②葉柄基部にすべて栗色の鱗片がつくこと、③葉柄~中軸の鱗片に栗色が入り2色となること、④鱗片辺縁の鋸歯がそれほど目立たないこと、⑤小羽片は卵状三角形のものが見られるなどからサイゴクシムライノデとした。しかし、キヨズミイノデの可能性も捨てがたい。
観察数:
1地点、1株。相模湖周辺。
(1)(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)、葉柄基部の鱗片
(1),(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)葉柄下部の鱗片
(1),(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)葉柄下部の鱗片
(1)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)葉柄中部の鱗片
(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)葉柄上部の鱗片
(1),(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)中軸下部の鱗片
(1)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)羽片
(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)最下羽片
(1),(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)小羽片
(1)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)羽片裏側
(2)キヨズミイノデ(サイゴクイノデ×イノデモドキ)胞子嚢群
オンガタイノデ(ツヤナシイノデ×サイゴクイノデ)Polystichum x ongataense
オシダ科 イノデ属
オンガタイノデはツヤナシイノデとサイゴクイノデの雑種と推定される
観察された特徴
- 相模湖ダム付近で観察されたものは中形で葉の大きさは40~50㎝。
- 葉柄基部には中央に栗色が入り周りは淡い褐色の卵形~広披針形の鱗片が密につき、ツヤナシイノデに似て大形で卵形の鱗片が混ざる。
- 葉はやや淡い緑色、多少艶がある程度で光沢は乏しい。
- 下部の数対の羽片では耳垂に優先してサイゴクイノデと同様に規則的につく。
- 胞子嚢群はやや辺縁寄りにつく。
観察数:
1地点、3株。相模湖周辺。
(1)オンガタイノデ、葉身下部裏側
(2)オンガタイノデ、羽片
ミヤマキヨタキシダ(ミヤマシダ×キヨタキシダ)Diplazium sibiricum var. glabrum x D. squamigerum
メシダ科 ノコギリシダ属
ミヤマキヨタキシダはミヤマシダとキヨタキシダの雑種と推定される。
生育している環境
林縁の林道脇に生育。片側が開けて明るく、定期的に草刈が行われている環境。付近の林内にはキヨタキシダが普通に生育。
観察された特徴
- 葉の大きさは30~45㎝。葉は3回羽状深裂、キヨタキシダとミヤマシダの中間的な形。裂片は深裂し前後の裂片と重ならない。
- 胞子嚢群は三日月形~線形。包膜は白っぽく見え、胞子嚢群は不充実で不充実な白っぽい胞子嚢と黒褐色の胞子嚢が混っている状態。
- 黒褐色の胞子嚢群の胞子を観察すると胞子の大きさに大小があり形が歪なものが混ざり、雑種である可能性を示している。
- 胞子の中には正常そうに見える胞子も多いので、播種して観察しないとはっきりしたことは言えないが、胞子体が出てくるかもしれえない。
観察数:
1地点、3株。相模湖周辺。
(1)ミヤマキヨタキシダ、羽片
(2)ミヤマキヨタキシダ、最下羽片の柄
(1)ミヤマキヨタキシダ、小羽片
(2)ミヤマキヨタキシダ、包膜
オオバヤシャゼンマイ(ゼンマイ×ヤシャゼンマイ) Osmunda × intermedia
ゼンマイ科 ゼンマイ属
オオバヤシャゼンマイはゼンマイとヤシャゼンマイの雑種と推定される。
生育している環境
現在の渓谷から標高で150mほど上の河岸段丘の末端部で緩やかにカーブして高くなる辺りに生育。あたりは一面のスギ植林地でイノデの仲間が群生する。下の渓谷の水辺にはヤシャゼンマイが生育するが、距離・高さとも相当離れている。
観察された特徴
- 葉の大きさは100~120㎝。
- 小羽片はゼンマイに似るが基部左右対称の広い楔形となる。
(1)オオバヤシャゼンマイ、葉身。
(2)オオバヤシャゼンマイ、小羽片。
観察数:
2地点、2株。相模湖周辺。