青梅市 中央部の森4
青梅市中央部の森を皆さんで歩きました。このあたりの植物や動物に詳しい方にご案内いただきました。シカの食害はそれほどでもなく、いろいろなシダを観察することができました。ご案内していただいた方のお話によると、この辺りはシカよりもカモシカの方が多いくらいであるとのこと。実際観察会の途中で大形動物の白骨化した死骸が見られましたが短い角が見られカモシカでした。
青梅市中央部は山の標高こそそれほど高くはありませんが、いくつもの谷が刻まれ様々な環境の森が広がっていました。
シケチシダ
スギ植林地内沢沿いではあるが流れのそばのウエットな林床~谷沿いではあるがあまりウエットではない林床まで広く生育し、群生することが多い。葉の大きさは50㎝程度。よく成長した株では最下羽片の小羽片は中裂する。シケチシダは人の手が入らない自然度の高い森では葉身下部では3回羽状中裂になるようである。
標本1
スギ・ヒノキ林内、群生するシケチシダ
標本2
小羽片が切れ込み隣り合う羽片と羽片が独立したシケチシダ
※今回、下草刈りなど人手が入らない深い森では、葉が大きく(50㎝程度)、葉身下部羽片の小羽片が切れ込み隣り合う羽片と羽片が独立したシケチシダを多く目にした。この姿は優勢に育ったシケチシダ本来の姿ではないかと思われる。
タカオシケチシダ
スギ植林地内沢のそばのウエットな林床に生育。付近にはタカオシケチシダは群生せず単独で点在して生育していた。シケチシダとタカオシケチシダの生育状態について混生しているあるいは住み分けているなど調べていない。この周辺の森では両者が見られるので生育環境に違いがあるのかどうか調べてみることもできる。葉の大きさは50㎝程度。よく成長した株では最下羽片の小羽片は中裂する。タカオシケチシダは人の手が入らない自然度の高い森では葉身下部では3回羽状中裂になるようである。
(1)タカオシケチシダ、羽片
(2)タカオシケチシダ、中軸上の肉芽
(1)タカオシケチシダ、小羽片裏側
(2)タカオシケチシダ、胞子嚢群および羽軸上の毛
ホソバイヌワラビ
沢筋の林内林床に生育。ヤマイヌワラビの仲間の中では葉の幅はやや狭くスリム葉身
ヤマホソバイヌワラビか
廃道になった旧街道のわきの法面の崖に生育。夏緑性なので葉の状態はあまりよくなかった。胞子を観察したが、この時期、ほとんど弾けてしまっているように見え、葉に残っている胞子を観察した。雑種かどうかを含め再度よい季節に観察してみたい。
ヤマイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種と推定される。初めてお目にかかった。①小羽軸上の長い棘からホソバイヌワラビの血が入っていることはわかるが、②ホソバイヌワラビに比べ全体に大形。③葉の形はヤマイヌワラビに似て幅の広い楕円状披針形(ホソバイヌワラビは細身の三角形に近いややシャープな形をしている)。④羽片もヤマイヌワラビに似て幅が広い(ホソバイヌワラビの羽片はシャープ)。⑤小羽片はホソバイヌワラビよりも深く切れ込む。そのほか、羽軸の裏には微毛が密生する。むかご(無性芽)はつけていなかった。(この季節、ホソバイヌワラビはむかご(無性芽)をつけていることがある)
(1)旧街道のわきの法面の崖に生育するヤマホソバイヌワラビ
(1)ヤマホソバイヌワラビとヤマイヌワラビ(上)
(2)ヤマホソバイヌワラビ、葉身
(1)ヤマホソバイヌワラビ、羽片
(2)ヤマホソバイヌワラビ、羽片裏側
(1)ヤマホソバイヌワラビ、冬芽
(2)ヤマホソバイヌワラビ、羽軸上の微毛
※以下の画像は参考程度にご覧ください。来夏、胞子が実った観察に適した頃再度撮影したいと思います。(冬のこの季節、シダの種類にもよりますが不良な胞子嚢だけが胞子嚢群の中に残留していることがあり、雑種なのか有性生殖種なのか胞子ではわからないことがあります。今回のヤマホソバイヌワラビと思われる胞子もそのような状態でした。)
(1)(2)ヤマホソバイヌワラビ、1つの胞子嚢を壊したようす
(1)ヤマホソバイヌワラビ胞子1、胞子上面
(2)ヤマホソバイヌワラビ胞子1、胞子側面
(3)ヤマホソバイヌワラビ胞子2、胞子上面
(4)ヤマホソバイヌワラビ胞子2、胞子側面
(5)ヤマホソバイヌワラビ胞子3、胞子上面
(6)ヤマホソバイヌワラビ胞子3、胞子側面
ミドリカナワラビ
低山のどちらかというと中~上部のスギ・ヒノキ林に生育。案内してくださった方の話ではあまり人が入らないところのようである。林床に優雅に幅の広い葉を広げていた。間隔を空けて2枚の葉をつけていた。おそらく1株と思われる。周辺を探すとほかにも見つかるかもしれないが、生育数は少なそうである。
葉柄は褐色を帯び、下部には淡褐色・膜質の鱗片を纏わりつくようにしてつける。葉の大きさは50~60㎝、横幅の広い三角形、光沢があり厚みの割に柔らかい葉をつける。小羽片・葉身下部羽片の裂片は鈍頭でカナワラビの仲間にしては鋭い感じがない。
(1)ミドリカナワラビ、葉身
(2)ミドリカナワラビ、葉柄下部の鱗片
(1)ミドリカナワラビ、胞子嚢群
(2)ミドリカナワラビ、包膜
(1)ミドリカナワラビ胞子1、胞子上面
(2)ミドリカナワラビ胞子1、胞子側面
(3)ミドリカナワラビ胞子2、胞子上面
(4)ミドリカナワラビ胞子2、胞子側面
トウゴクシダ
スギ・ヒノキ林の沢沿いで見られた。トウゴクシダの葉形は多形であり今回のような最下羽片は発達する個体からベニシダに似たものまで見られる。一般に羽片がやや角度をなして中軸につくこと・最下羽片後側第1小羽片は第2小羽片よりも短縮するがベニシダは耳状であるのに対しトウゴクシダは短くても羽状に分かれる。
スギ・ヒノキ林の沢沿いで見られた最下羽片が発達するtypeのトウゴクシダ
サイゴクベニシダ
一般に尾根近くの岩が露出するような環境を好むが、スギ・ヒノキ林内の沢に近い低地に生育していた。
リョウトウイタチシダ
林縁の岩壁にリョウトウイタチシダやコウヤコケシノブが生育。13㎝程度の小株であったが胞子をつけていた。葉はややスリムで淡緑色。葉柄の鱗片はイタチシダの仲間にしては幅が広く黒色に近い。
岩壁に生育するリョウトウイタチシダとコウヤコケシノブとタマゴケ
いろいろなイノデモドキ
スギ・ヒノキ植林地の一つのウエットな谷ではシカの食害がほとんどなく、谷を挟んで山の中腹ではイノデ・アイアスカイノデ・イノデモドキなどイノデ類やベニシダの仲間、ハカタシダなど、谷の底部ではサイゴクイノデ・ツヤナシイノデ・ツヤナシイノデかイワシロイノデか判断に迷う個体、チャボイノデ・小羽片が切れ込んだ大きなシケチシダ、イヌイワガネソウ、ホソバイヌワラビ、トウゴクシダなどがよく生育していました。もちろん普通種のミゾシダやジュウモンジシダ、リョウメンシダなどはよく茂っています。
イノデモドキは多形です。葉柄が短いtypeや長いtype、最下羽片に耳垂に優先して胞子嚢群がつくtypeとそうでないtype、葉面が白緑色を帯びるtype、葉身下部羽片が3回羽状になるtype、ネッコイノデなどです。今回は葉面が暗緑色で強い光沢をもつtype、3回羽状typeが見られました。
葉面が暗緑色で強い光沢をもつイノデモドキ
谷の中腹部で3~4株見られました。弾けないで固まった胞子も見られましたが同行の詳しい方に見ていただきました。
葉面が暗緑色で強い光沢をもつイノデモドキ
(1)スギ・ヒノキ林内の谷の中腹に生育する葉面が暗緑色で強い光沢をもつイノデモドキ
(2)葉面が暗緑色で強い光沢をもつイノデモドキ、胞子嚢群
葉身下部が3回羽状のイノデモドキ
同じ株から葉身下部が3回羽状の葉と2回羽状の葉を一緒につけている。
葉身下部が3回羽状のイノデモドキ
葉身下部が3回羽状の葉と2回羽状の葉を一緒につけるイノデモドキ
葉身下部が3回羽状のイノデモドキ、最下羽片
チャボイノデ
案内していただいた一つの谷ではチャボイノデがたくさん見られた。谷によってはチャボイノデは全く見られなかったり谷の片側だけ(北斜面)に見られることがあった。同じ谷にはイノデやアイアスカイノデ、イノデモドキ、ドウリョウイノデ(イノデ×アイアスカイノデ)、ハタジュクイノデ(イノデモドキ×アイアスカイノデ)などが生育していた。チャボイノデはどちらかというとよりウエットな谷の低部や沢近くの多く見られた。
クロノキシノブ
旧道の峠道のソメイヨシノの幹に生育。根茎が長く這い根茎の先端付近に葉を2~5㎜の間隔を空けてつける。ノキシノブに比べると葉柄は明瞭で葉柄~中軸にかけて黒に近い臙脂色。山地では普通にみられる。ノキシノブの仲間も雑種が多く同定が難しい。葉の幅が広く20㎝を超える大きな個体は雑種である可能性が高い。
(1)(2)クロノキシノブ
※生態写真を撮影し忘れました。クロノキシノブの雑種も多く、葉柄が黒くても葉の幅が1㎝を超えるものは雑種を疑った方がよいと思います。
ヒメノキシノブ
同じく旧道の峠道のソメイヨシノの幹に着生。根茎は長く這い先端付近にやや間隔を空けては葉をつける。葉はやや長く、胞子嚢群も先端に4~5対つけていたので、雑種の可能性も考えて胞子を調べたが60個程度確認でき有性生殖種と考えられヒメノキシノブであった。
根茎は長く這い先端付近にやや間隔を空けては葉をつけるヒメノキシノブ
(1)やや間隔を空けては葉をつけるヒメノキシノブ
(2)葉の先に4~5対の胞子嚢群をつけるヒメノキシノブ
(1)ヒメノキシノブ、胞子を観察した葉(表)
(2)ヒメノキシノブ、胞子を観察した葉(裏)
(1)ヒメノキシノブ胞子1、胞子上面
(2)ヒメノキシノブ胞子1、胞子側面
(3)ヒメノキシノブ胞子2、胞子上面
(4)ヒメノキシノブ胞子2、胞子側面
フジノキシノブか
旧道の峠道の山の陰になるウエットな苔むしたコンクリートの擁壁面でフジノキシノブと思われる株を観察。群生せず点在して2~3株程度生育を確認。
葉は混み合ってつける。葉柄は淡緑色、葉柄と葉身の区別は不明瞭。葉は10~15㎝、淡緑色黄緑色でやや幅が広く波打つ柔らかい葉を広げる。中肋は葉の表側で浮き出る。葉は厚みがあったが、葉の厚味は含水量によって相当変化するので注意を要する。
胞子を観察したところ、1つの胞子嚢の中に形が整た胞子が60個程度確認でき有性生殖種と考えられる。ノキシノブもフジノキシノブも有性生殖種であり、ノキシノブは2倍体・染色体数2n=50、フジノキシノブは4倍体・染色体数は2n=100と明確に違いがあるが、外観の判別は注意を要する。
淡緑色黄緑色やや波打つ柔らかい葉を広げるフジノキシノブと思われる個体
(1)フジノキシノブと思われる個体、胞子を観察した葉(表)
(2)フジノキシノブと思われる個体、胞子を観察した葉(裏)
(1)(2)フジノキシノブと思われる個体、1つの胞子嚢を壊したようす
(1)フジノキシノブと思われる個体胞子1、胞子上面
(2)フジノキシノブと思われる個体胞子1、胞子側面
(3)フジノキシノブと思われる個体胞子2、胞子上面
(4)フジノキシノブと思われる個体胞子2、胞子側面
(1)フジノキシノブと思われる個体胞子3、胞子上面
(2)フジノキシノブと思われる個体胞子3、胞子側面
(3)フジノキシノブと思われる個体胞子4、胞子上面
(4)フジノキシノブと思われる個体胞子4、胞子側面
そのほかに観察したシダ
トウゲシバ、フクロシダ、タチクラマゴケ、カタヒバ、イヌカタヒバ、ナンゴクナライシダ、コバノヒノキシダ、イワトラノオ