飯能市の中央部、入間川の支流に沿って低山帯を皆さんで歩きました。この辺りは中生代秩父帯で多くの谷は構造線に沿って同じ方向に刻まれています。飯能の周辺はシダの種類が豊かで暖地性のシダから寒いところを好むシダまでいろいろ見ることができます。今年は前日まで長い梅雨が続き、今日やっと梅雨明けでしょうか。長雨のせいで川沿いの森の中はキヨスミイトゴケがよく茂っていました。そのほかのシダやコケはよく成長しているようでした。この辺りはさほど標高が高くなく石灰岩の岩壁がある山地を除けば観察地は標高は200~300mでした。観察会当日は一度雨に降られる程度で、支流の川の水は澄んでいました。
ヒカゲノカズラ
明るい樹冠の下、表土が薄い環境に生育。同行の方のお話では、以前は黒山三滝でも観察されたとのこと。
個体数が少ないので見つけても撮るだけでお願いします。
(1)群生するヒカゲノカズラ
(2)ヒカゲノカズラ、主茎と側枝
(1)(2)ヒカゲノカズラ、胞子嚢穂
マンネンスギ
標高のある所では時々お目にかかるが、標高の低いところでは初めて観察である。
海抜200mあたり、上部は樹冠に覆われるが明るく風通しが良い環境、薄い腐植の上にコケ類とともに群生。主茎(地下茎)は地中を這う。地上に現れた側枝はスギの穂先にそっくりである。先端部には直立する胞子嚢をつける。
個体数が少ないので見つけても撮るだけでお願いします。
(1)コケ類とともに群生するマンネンスギ
(2)マンネンスギ、胞子嚢
ウチワゴケ
ウチワゴケも大きく育っていた。
ウエットな岩上に群生するウチワゴケ
(1)(2)ウチワゴケ、包膜
ハリガネワラビ(青軸)
軸が淡緑色のハリガネワラビを観察。はじめアオハリガネワラビかと思ったが、植物体の大きさ・胞子嚢群のつく位置・包膜上の毛の長さが、葉柄の色を除いてハリガネワラビと同じであった。葉柄は太く直径1.5㎜程度。胞子嚢群は羽片の辺縁寄りにつき、包膜上の毛は長い。
参考:箱根のハリガネワラビ(青軸)。
参考:箱根のアオハリガネワラビ・九頭龍川のアオハリガネワラビ。
(1)ハリガネワラビ(青軸)、羽片
(2)ハリガネワラビ(青軸)、羽片裏側
(1)(2)ハリガネワラビ(青軸)、包膜
オオヒメワラビの胞子
ウエットな谷の流れのそばでときどき見られた。オオヒメワラビはシケシダの仲間であるが無融合生殖種で外部の形態が異なるものが見られることがある。今回、いくつかの株の胞子を調べたところ胞子の状態が株によって異なっていた。すべて正常な形をしたものと雑種のようにいびつに変形したものばかり見られるものがある。石灰岩地帯の沢沿いでは葉の切れ込みが浅く葉が黄緑色の個体が生育していた。今後、調べていきたい。
(胞子の形)
(1)胞子嚢1胞子a上面
(2)胞子嚢1胞子a側面
(3)胞子嚢2胞子a上面
(4)胞子嚢2胞子a側面
(1)胞子嚢2胞子b上面
(2)胞子嚢2胞子b側面
(3)胞子嚢3胞子a上面
(4)胞子嚢3胞子a側面
(胞子の形)
(1)胞子嚢4胞子a上面
(2)胞子嚢4胞子a側面
(3)胞子嚢4胞子b上面
(4)胞子嚢4胞子b側面
(1)胞子嚢1胞子a上面
(2)胞子嚢1胞子a側面
(3)胞子嚢1胞子b上面
(4)胞子嚢1胞子b側面
(1)胞子嚢2胞子a上面
(2)胞子嚢2胞子a側面
(3)胞子嚢2胞子b上面
(4)胞子嚢2胞子b側面
オニヒカゲワラビ
上部を樹冠に覆われた沢沿いの林道、山側林縁斜面に生育。大形のノコギリシダ属のシダ。葉の大きさは80~90㎝。葉柄基部は黒褐色でぶつぶつしている。葉は淡緑色・光沢がない。最下羽片の柄は長く基部は黒褐色を帯びる。羽軸や小羽軸には細かい毛状の突起が密生する。胞子嚢群は中肋に接する~寄りに付く。包膜には鋸歯があり目立つ。
(1)(2)林内沢沿いに生育するオニヒカゲワラビ
(1)オニヒカゲワラビ、葉柄基部
(2)オニヒカゲワラビ、葉柄
(1)オニヒカゲワラビ、最下羽片
(2)オニヒカゲワラビ、羽軸や小羽軸裏側
(1)オニヒカゲワラビ、胞子嚢群
(2)オニヒカゲワラビ、包膜
3回羽状のイノデモドキ
新しい葉は3回羽状であるが、それ以前に出た葉はほぼ2回羽状であった。この辺りには渓谷沿いに決まった範囲ではあるが相当数の個体が確認できた。同行の方のお話ではイノデモドキではときどき見られることがあるとのこと。
3回羽状のイノデモドキ
(1)イノデモドキ、2回羽状と3回羽状の葉がまっざる。
(2)3回羽状のイノデモドキ
(1)3回羽状のイノデモドキ、羽片。
(2)3回羽状のイノデモドキ、胞子嚢群。
(1)(2)(3)3回羽状のイノデモドキ、葉柄下部の鱗片。
小羽片が大きく胞子が飛ばないイノデモドキ
渓谷沿いのウエットな斜面でときどき見られた。小羽片は大きく、光沢があり、胞子嚢群は雑種のように大きく膨らみ、弾けていない。胞子嚢・胞子を観察すると、胞子嚢はやや光を通し淡黒褐色(正常なものは光を通さない)、胞子の大きさ・形は問題ないが、正常な胞子に比べ色が薄く(正常な胞子は光を通さない)胞子自身がが正常に発芽するかどうか疑わしい。同行のかたのお話ではこれもフィールドではときどき見られるとのこと。
(1)(2)小羽片が大きく胞子が飛ばないイノデモドキ、胞子嚢群。
(1)小羽片が大きく胞子が飛ばないイノデモドキ、葉柄。
(2)小羽片が大きく胞子が飛ばないイノデモドキ、葉柄下部の鱗片。
(1)(2)小羽片が大きく胞子が飛ばないイノデモドキ、葉柄の鱗片。
(1)(2)小羽片が大きく胞子が飛ばないイノデモドキ、1つの胞子嚢を壊したようす
一般的なイノデモドキ
イノデモドキの外観は多様である。これは葉柄が短いtypeのイノデモドキ
チャボイノデ
ウエットで薄暗く、両岸が岩がところどころ露出するような急傾斜の谷でチャボイノデが群生。イノデモドキに似るが、鱗片の色・形は異なる。
(1)チャボイノデ、葉柄~中軸の鱗片
(2)チャボイノデ、胞子嚢群
アイアスカイノデ
''シムライノデ・アイアスカイノデ・チャボイノデ・イノデモドキの形質が表れたイノデの仲間訂正2020年12月1日訂正アイアスカイノデかスヤマイノデ(アイアスカイノデ×チャボイノデ)訂正2020年11月27日訂正
チャボイノデの群生地内で観察。中形のイノデの仲間。黄緑色~鮮緑色でスリムな葉身。葉柄は短く葉身の1/3程度、葉柄の鱗片は辺縁が淡色の栗色・披針形でねじれるように巻き辺縁はあまりほつれない。胞子嚢群は最下羽片~先端までつき辺縁寄り、最下羽片およびその周辺の羽片では耳垂に1個ずつつく。葉柄の鱗片がねじれている点はチャボイノデ似、葉柄の鱗片が栗色な点はシムライノデあるいはアイアスカイノデ、最下羽片周辺の胞子嚢群が耳垂に1個ずつつく点はイノデモドキ似。観察会では最初は同行の方々とスヤマイノデ(チャボイノデとアイアスカイノデの雑種)あるいはアイアスカイノデではないかと話し合ったが、栗色の鱗片が中軸周辺までつくことからシムライノデの形質が表れていることが考えられる。疑問点が残るイノデの仲間である。
詳しい方から以下のコメントをいただきました。2020年12月1日
「写真では胞子嚢がよくはじけていることがわかり正常な種の可能性が高い。スヤマイノデは胞子嚢はほとんど裂開せず・胞子嚢群は葉身下部にはつけない・アイアスカイノデよりも光沢は弱くさらに狭長で華奢な感じ。葉柄のねじれが強く出ている写真があるがその部分を見ているとチャボイノデが関係しているように見えるがアイアスカイノデの鱗片のねじれも変化があり、この程度に著しいものもある。スヤマイノデもチャボイノデもイノデモドキも関係がなく、アイアスカイノデそのものでよいと思います。」
葉が黄緑色でやや艶があるサイゴクイノデ
雨で濡れていたせいもあるかもしれないが、葉にはやや光沢が見られ、葉の色は黄緑っぽく最初キヨズミイノデ(サイゴクイノデとイノデモドキの雑種)ではないかと思ったが、胞子が正常でサイゴクイノデであった。
(1)葉が黄緑色を帯びたサイゴクイノデ
(2)葉が黄緑色を帯びたサイゴクイノデ、葉身
胞子の形状
(1)胞子嚢A胞子a上面
(2)胞子嚢A胞子a側面
(3)胞子嚢A胞子b上面
(4)胞子嚢A胞子b側面
(1)胞子嚢A胞子c上面
(2)胞子嚢A胞子c側面
(3)胞子嚢B胞子a上面
(4)胞子嚢B胞子a側面
サイゴクイノデ(普通の)
林床でときどき見られた。葉の表面は白緑色で艶がない。
普通のサイゴクイノデ
ツヤナシフナコシイノデか艶のあるツヤナシイノデ
葉柄には大きくて丸い鱗片があり、葉はイノデのような色と艶がある。ツヤナシイノデとイノデの雑種ツヤナシフナコシイノデか。胞子は飛散しているようにも見えたので、艶のあるツヤナシイノデの可能性もある。
ツヤナシフナコシイノデか艶のあるツヤナシイノデ
(1)(2)ツヤナシフナコシイノデか艶のあるツヤナシイノデ
ツヤナシイノデ(普通の艶の無い)
艶のないツヤナシイノデ
ドウリョウイノデ(イノデとアイアスカイノデの雑種)
大きく育ち、よく目立つ。葉の大きさは120㎝に達する。葉柄基部の鱗片には栗色が入りアイアスカイノデの特徴が表れる(栗色が全く入らない個体もみられる)。
ドウリョウイノデ(イノデとアイアスカイノデの雑種)
(1)ドウリョウイノデ(イノデとアイアスカイノデの雑種)、葉柄
(2)ドウリョウイノデ(イノデとアイアスカイノデの雑種)、葉柄基部の鱗片
クロノキシノブ
山道沿いに落ちていたスギの側枝にクロノキシノブが着生していた。胞子の数・大きさ・形がほぼ整っているのでクロノキシノブ(4倍体)でよいと思われる。クロノキシノブは葉を間隔を空けてつけるが、側枝にできたこぶ状の上に着生したためか葉を込み合ってつけていた。
(1)(2)スギの側枝に着生するクロノキシノブ
1つの胞子嚢を壊したようす
クロノキシノブ、胞子嚢1
クロノキシノブ、胞子嚢2
(胞子の形)
(1)クロノキシノブ、胞子嚢1胞子a上面
(2)クロノキシノブ、胞子嚢1胞子a側面
(3)クロノキシノブ、胞子嚢1胞子b上面
(4)クロノキシノブ、胞子嚢1胞子b側面
(1)クロノキシノブ、胞子嚢4胞子a上面
(2)クロノキシノブ、胞子嚢4胞子a側面
(3)クロノキシノブ、胞子嚢4胞子b上面
(4)クロノキシノブ、胞子嚢4胞子b側面
クロノキシノブが関わる雑種
林内、川の流れのそばの夏緑広葉樹の樹幹に生育。「ノキ×クロ」か「クロ×フジ」と考えられる。葉の辺縁が多少波打ち「クロ×フジ」かもしれないが、倍数性を調べなければわからない。「ノキ×クロ」は3倍体、染色体数2n=75。「クロ×フジ」は4倍体、染色体数2n=100。
川の流れのそばの夏緑広葉樹の樹幹に生育する「ノキ×クロ」か「クロ×フジ」
(1)(2)「ノキ×クロ」か「クロ×フジ」、1つの胞子嚢を壊したようす
石灰岩の岩壁で見られたシダ
疲れていたので、あまり詳しく観察することができませんでした。
石灰岩1(キンモウワラビ ツルデンダ)
石灰岩3(黄緑色・切れ込みの浅いオオヒメワラビ)
オオヒメワラビモドキに似るが、葉柄はほとんど無毛~淡褐色の鱗片が貼り付く。
そのほか