日原方面を歩く予定でしたが、観察予定地が数年前の台風の影響でがけ崩れのため立ち入り禁止になっているところが多く、皆さんと話し合い日原での観察はあきらめました。当日、現地で連絡がうまく取れず、すでにバスに乗車された参加予定者の方が日原に向かわれるなど大変ご迷惑をおかけいたしました。今後、同様なことが起こらないように十分注意していきたいと思います。なお、今回は貴重なシダが観察されていますので、保護の意味で生育地は「奥多摩」とだけ記載しました。
チャセンシダ属の仲間
コバノヒノキシダ、トキワトラノオ、イワトラノオ、オクタマシダ、ミタケトラノオ(イワトラノオ×コバノヒノキシダ)、アイトキワトラノオ(トキワトラノオ×コバノヒノキシダ)などが見られました。
オクタマシダ
渓谷沿い、上部を樹冠に覆われた切り立った岩壁の上部に生育。
①②上部を樹冠に覆われた切り立った岩壁の上部に生育するオクタマシダ
ミタケトラノオか(イワトラノオ×コバノヒノキシダ)
主にイワトラノオが群生する林内の石垣で、時々観察されるシダ。ただ、まだ胞子の様子を確認していない。胞子の様子が乱れていればミタケトラノオ(イワトラノオ×コバノヒノキシダ)と推定することができる。改めて胞子が熟す頃に確認してみたい。
標本1
①②ミタケトラノオか(イワトラノオ×コバノヒノキシダ)
標本2
①②ミタケトラノオか(イワトラノオ×コバノヒノキシダ)
標本3
①ミタケトラノオか(イワトラノオ×コバノヒノキシダ)
②ミタケトラノオか、中軸向軸側
イセザキトラノオ(クモノシシダ×コバノヒノキシダ)再調査時に観察
林内の薄暗い石垣、コバノヒノキシダが主に生えている長い石垣。石垣はモルタルで固定されている。途中、クモノスシダが生育せている場所があり、その場所で観察された。石垣の中の地質の様子はわからないが、この辺りなので石灰岩質の岩が近くにあるのであろうか。
①暗い石垣に生育するイセザキトラノオ
②イセザキトラノオ
メシダ属の仲間
オオヒメワラビ
明るい林内の沢沿いや、高茎草本とともにウエットな林縁に生育。葉柄や中軸には褐色~黒褐色の鱗片が貼りつくようにつく。葉の大きさは80~100㎝、幅の広い長卵形、3回羽状深~中裂。羽軸には翼がある。1つの胞子のうを壊すと30個程度胞子が確認できる。わずかに歪な胞子が見られるが、ほとんどの胞子の形は整いきれいである。
①林内の沢沿いに生育するオオヒメワラビ
②ウエットな林縁に高茎草本とともに生育するオオヒメワラビ
オオヒメワラビモドキか羽軸の翼が狭いオオヒメワラビの仲間か
オオヒメワラビモドキ
※再調査時に下部羽片が2回羽状複葉に分かれるやや大きな個体を観察し、訂正いたします。2022年7月1日
林内の日陰の沢沿いの岩場周辺に生育。葉柄や中軸には黒褐色の鱗片が開出して棘のようにつくことが多いがあまり目立たない個体もみられる。葉の大きさは45~70㎝、卵状披針形、2回羽状深裂する。大きな個体では2回羽状複葉にりオオヒメワラビに似てくるが、翼の幅はオオヒメワラビに比べると明らかに狭い。
①②林内の沢沿いの岩場周辺に生育するオオヒメワラビモドキか翼が狭いオオヒメワラビの仲間か
③オオヒメワラビモドキか翼が狭いオオヒメワラビの仲間か、葉柄上部の鱗片
④オオヒメワラビモドキか翼が狭いオオヒメワラビの仲間か、中軸の鱗片
⑤オオヒメワラビモドキか翼が狭いオオヒメワラビの仲間か、羽片
⑥オオヒメワラビモドキか翼が狭いオオヒメワラビの仲間か、羽片裏側
⑦オオヒメワラビモドキか翼が狭いオオヒメワラビの仲間か、胞子のう群
大形の株
再調査の時に林内、沢沿いの岩場で観察。葉の大きさは70~80㎝。オオヒメワラビに似てくるが、羽軸にできる翼は狭い。
⑧翼が狭いオオヒメワラビの仲間
⑨翼が狭いオオヒメワラビの仲間、葉身
イノデの仲間
シムライノデ、ツヤナシイノデ、イワシロイノデ、イノデモドキ、サイゴクイノデ、カタイノデ、イノデ、アイアスカイノデ、オンガタイノデ、アカメイノデなどがみられました。
イワシロイノデ
ほとんど、ツヤナシイノデばかりであったが、イワシロイノデはわずかにみられた。葉柄の鱗片は淡褐色で幅に広いものが混ざる。中軸の鱗片は広披針形~披針形。葉は艶のない鮮緑色~艶のない暗青緑色。胞子のう群は葉身の上半分程度につき、下部ではやや辺縁寄りにつくことがあり、上部では中間につく。
①スギ・ヒノキ植林地に生育するイワシロイノデ
⑥⑦イワシロイノデ、胞子のう群
アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ※国内希少野生動植物種 採取禁止
※観察会当時、胞子の成熟度が微妙で雑種と判別できませんでした。現地でこのシダを複数の方に確認していただいたり、詳しい方に生葉を見ていたりして誤りをご指摘いただきました。訂正いたします。2022年7月1日
スギ・ヒノキ林植林地内で3数株見られました。正確に数えていませんが一定数生育しているのではないかと考えられます。同行の方が胞子のう群の付く位置や葉柄基部の栗色の鱗片に気づかれ生育を確認することができました。葉の大きさは40~80㎝。葉の色はカタイノデに似てい黒みを帯びた黄緑色、表面はほぼ平滑。小羽片の芒(のぎ)はやや長い。葉柄の鱗片は辺縁が淡色の濃い栗色で基部の鱗片は多少巻き気味。胞子のう群は辺縁寄りにつく。国内希少野生動植物種に指定されている採取禁止の見るだけのシダです。種の保全のためにも絶対に採取は控えなければならないシダです。(詳しい方に写真を見ていただきました。)
①スギ・ヒノキ植林地に生育するアイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ
②アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、葉身
⑤⑥アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、葉柄下部の鱗片(拡大)
⑦アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、中軸下部の鱗片
⑧アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、中軸の鱗片
⑪⑫アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、小羽片辺縁の棘状突起
⑬アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、羽片裏側
⑭アイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ、胞子のう群
⑮一緒に生えるカタイノデ(左)とアイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ(右)
⑯カタイノデ(左)とアイカタイノデ(黄緑色type)シムライノデ(右)
アイカタイノデ(暗緑色type)
アイアスカイノデとカタイノデの雑種と推測される。前出のアイカタイノデ(黄緑色type)と同じ林床に複数生育。アイカタイノデ(暗緑色type)とアイカタイノデ(黄緑色type)は混生するようにして生育。営林作業が進んだ林で林床はやや明るい。薄暗いところにも黄緑色typeは見られた。黄緑色typeは日焼けしたものと推測したいが、アイカタイノデには2つのtypeがあるのかもしれない。
①アイカタイノデ(暗緑色type)
②アイカタイノデ(暗緑色type)①の角度違い
③アイカタイノデ(暗緑色type)、葉柄
④アイカタイノデ(暗緑色type)、葉柄の鱗片
⑧アイカタイノデ(暗緑色type)、葉身
⑨アイカタイノデ(暗緑色type)、羽片
⑩アイカタイノデ(暗緑色type)、最下羽片
⑪アイカタイノデ(暗緑色type)、小羽片
⑫アイカタイノデ(暗緑色type)、羽片裏側
⑬アイカタイノデ(暗緑色type)、はじけない胞子のう群
葉柄が短いアイアスカイノデ
アイカタイノデをシムライノデと間違えた同じ林に複数株が生育。葉の独特の光沢があり葉柄が短い。複数の方に確認いただきました。
①葉柄が短いアイアスカイノデ
①葉柄が短いアイアスカイノデ、羽片
①葉柄が短いアイアスカイノデ、葉柄下部の鱗片
①葉柄が短いアイアスカイノデ、葉柄の鱗片
①葉柄が短いアイアスカイノデ、下部の胞子のう群
①葉柄が短いアイアスカイノデ、上部の胞子のう群
①葉柄が短いアイアスカイノデ、1つの胞子のうを壊したようす
①葉柄が短いアイアスカイノデ、胞子
オシダ属の仲間
マルバヌカイタチシダモドキ、ベニシダ、オオベニシダ、キノクニベニシダ、ミサキカグマ、イヌイワイタチシダ、リョウトウイタチシダ、オオイタチシダ(アオニオオイタチシダ)などがみられました。
イヌイワイタチシダ
ヤマイタチシダは確認できず、イヌイワイタチシダばかりであった。生育しているところは岩上で林床では見られなかった。葉面の端はヤマイタチシダ程内曲せず、葉柄の鱗片は開出気味につく。
①日陰の岩上に生育するイヌイワイタチシダ
②イヌイワイタチシダ、葉柄の鱗片
マルバヌカイタチシダモドキ
切り立ったチャートの岩場の岩上や岩上に薄く表土が載った林床に生育。周辺に3~4株生育を確認。
以前から気になっていたが(以前はエンシュウベニシダとして記載していた)、今回は状態の良い葉を観察することができた。
葉柄には濃褐色~黒褐色・披針形の鱗片をつける。葉の大きさは60~70㎝、葉は厚みがあり、鮮緑色~濃緑色、光沢は弱い。羽片には短柄があり中軸に直角につき先端はやや鎌曲する。小羽片は幅が広く先端は円頭、辺縁には明瞭な鋸歯がある。胞子のう群はやや中肋寄り(ベニシダ程度)。
①林内の岩場の急斜面に薄い表土が載った急斜面に生育するマルバヌカイタチシダモドキ
②マルバヌカイタチシダモドキ、葉身
③マルバヌカイタチシダモドキ、葉身裏側
⑧マルバヌカイタチシダモドキ、新芽
⑨マルバヌカイタチシダモドキ、新芽中軸の鱗片
⑭マルバヌカイタチシダモドキ、羽片
⑮マルバヌカイタチシダモドキ、羽片裏側
⑯⑰マルバヌカイタチシダモドキ、胞子のう群
再調査の時に撮影
⑱⑲マルバヌカイタチシダモドキ、新葉の展開
㉔マルバヌカイタチシダモドキ、下部羽片の胞子のう群
㉕マルバヌカイタチシダモドキ、胞子のう群
アイノコクマワラビ
オクマワラビとクマワラビの雑種と推定される。葉身下部の小羽片は先端がとがり、葉脈は明瞭に窪む。葉身上部の胞子のう群をつける羽片は短縮しない。葉脈が窪んでいるオクマワラビあるいは葉脈が窪まず胞子をつけた羽片が短縮しないクマワラビも見かけるので、小羽片の先の尖り具合や鱗片の色などよく観察する必要がある。胞子を観察することが確実であるが、胞子が成熟するとわずかな期間で胞子を散らしてしまうので難しい。