山崎厚氏・ひろちょん氏の案内で、桧原村南部の谷を歩きました。少しずつ紹介してまいります。
ゼンマイの仲間
ゼンマイ、ヤシャゼンマイ、オオバヤシャゼンマイが見られました。
ヤシャゼンマイ
渓谷を流れる川のそばの岩上に生育。
①水辺のそばの岩上に生育するヤシャゼンマイ
②ヤシャゼンマイ、葉身
③ヤシャゼンマイ、羽片
オオバヤシャゼンマイ(ゼンマイ×ヤシャゼンマイ)
ゼンマイとヤシャゼンマイの雑種と推定される。写真の株はヤシャゼンマイと同じ水辺であったが、水辺から相当離れた林道沿いでも見られた。
①水辺のそばの岩上に生育するオオバヤシャゼンマイ
イワガネゼンマイの仲間
イワガネゼンマイ、ウラゲイワガネ、チチブイワガネなどが生育。
チチブイワガネ
ウエットで深い森で見られる。イワガネゼンマイに比べ小羽片は幅が広い個体が目立つ。
標本1
①②チチブイワガネ
①②チチブイワガネ、葉の表面
シケシダ属の仲間
シケシダ、フモトシケシダ、ホソバシケシダ、セイタカシケシダ、ミドリワラビ※1、オオヒメワラビ、オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体・2回羽状深裂の個体)などが見られました。
※1:観察会に向かう途中小菅村の山林で観察しました。
オオヒメワラビ
水気の多いウエットな林床・林縁に生育。成長した株では羽片と羽片の間隔は広く1m以上に成長する。羽軸の翼は広い。包膜は大きく、胞子が成熟しても確認できる。胞子は30個程度確認でき無融合生殖種、わずかに歪な胞子は見られるが、大きさ・形はほぼ整っている。
⑫⑬オオヒメワラビ、1つの胞子のうを壊したようす
※1、胞子数は32個以上あるように見えるが、胞子の中身が胞子の外皮を破って外に出ているため。
オオヒメワラビモドキ似のシダ
林床や林道沿いの林縁で「オオヒメワラビモドキ似のシダ」が観察された。小形の個体はオオヒメワラビモドキによく似るが、2回羽状複葉のやや大形の個体もみられ、オオヒメワラビに似てくる。葉柄~中軸にかけて黒褐色の鱗片をつけ、中軸では棘状に開出してつけることがある。葉の色は黄緑色~淡緑色。羽片はやや込み合ってつけ、葉の表面には毛が生え、羽軸の翼は狭い。胞子が熟す頃には包膜は胞子のう群に埋もれるようになる。胞子は30個程度確認でき無融合生殖種、胞子の中には形が歪であったり、小さかったりする胞子が混ざり汚いことがある。
1,小形の株(2回羽状深裂)
葉の大きさは45~60㎝。林床や林縁に生育。オオヒメワラビモドキによく似ている。写真の個体は植林が皆伐されたところに生育し、葉は日焼して明るい黄緑色になっていると思われる。上部を樹冠に覆われた林床や林道沿いに生育する個体は緑色が濃くなる。
①オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)
②オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、羽片
③オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、葉柄
④オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、葉柄の鱗片
⑤⑥オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、中軸の鱗片
⑦オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、葉の表面
⑧オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子のう群
⑨⑩オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子を観察した葉
⑪⑫オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、1つの胞子のうを壊したようす
⑬オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、1つの胞子のうを壊したようす
⑭オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子1側面
⑮オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子1上面
⑯オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子2側面
⑰オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子2上面
⑱オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子3側面
⑲オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子3上面
2,小形の株(2回羽状深裂)
林内に生育する個体。葉は淡緑色。
①②樹林内に生育するオオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)
③オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、葉柄下部
④オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、葉柄上部
⑥⑦オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状深裂の個体)、胞子のう群
3,やや大きな株(2回羽状複葉)
やや大形のオオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)が数株観察された。葉の大きさは70~80㎝。葉の色は淡緑色。
①オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)
②オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、羽片
③オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、中軸
④オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、中軸の鱗片
⑤オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子のう群
⑥オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子を観察した葉
⑦オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子を観察した羽片
⑧⑨オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、葉柄の鱗片
⑩オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、羽軸の翼
⑪オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、羽片裏側
⑫⑬オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、包膜は胞子のう群に埋もれる
⑭⑮オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、1つの胞子のうを壊したようす
⑯オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子1側面
⑰オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子1上面
⑱オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子2側面
⑲オオヒメワラビモドキ似のシダ(2回羽状複葉の個体)、胞子2上面
オオヒメワラビモドキ:山口県周南市鹿野産
オオヒメワラビモドキ似のシダと比較するため山崎厚氏がオオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)を持参してくださいました。
①オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、葉の表面
②オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、葉の裏側
③オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、葉柄
④オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、葉柄の鱗片
⑤オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、葉身
⑥オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、羽片
⑧オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、羽片裏側
⑨オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子のう群
⑩オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子を観察した羽片
⑪オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子を観察した羽片裏側
⑫⑬オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、1つの胞子のうを壊したようす
⑭オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、1つの胞子のうを壊したようす
⑮オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子1側面
⑯オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子1上面
⑰オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子2側面
⑱オオヒメワラビモドキ(山口県周南市鹿野産)、胞子2上面
ミドリワラビ
観察会に向かう途中の小菅村のスギ植林地の谷沿いの林床に生育。付近にはオオヒメワラビも生育。オオヒメワラビに似るが羽軸の翼は狭く、小羽片にはさらに切れ込みが入る。胞子は60個以上確認でき、胞子の大きさ・形はほぼ整い有性生殖種。
①谷沿いの林床に生育するミドリワラビ
②ミドリワラビ、葉身中部
メシダ属の仲間
ヤマイヌワラビ、ヒロハイヌワラビ、ミヤコイヌワラビなどが見られました。
ヒロハイヌワラビ
ウエットな林床に生育。
ウエットな林床に生育ヒロハイヌワラビ
ミヤコイヌワラビ
深い谷に沿って奥まで続く林道沿いの崖に見られた。林道沿いで片側に開けたやや明るい環境であるためか、ほかのやや背の高い草本類と一緒に生育している。
①②林道沿いに生育するミヤコイヌワラビ
オシダ属の仲間
イヌイワイタチシダ、リョウトウイタチシダ、マルバベニシダなどが見られました。
マルバベニシダ
片側が開けたやや明るい石垣に生育。鱗片の色は栗色で一般的なものに比べ濃い。葉はやや明るいところに生育していて日焼けしている可能性もあるが淡緑色~黄緑色。石垣に生育しやや矮小化しているので小形のエンシュウベニシダの可能性も捨てられない。小羽片は全縁で先端は円頭。胞子のう群は中肋に接するようにつく。
①②片側が開けたやや明るい石垣に生育マルバベニシダ
③マルバベニシダ、葉柄基部の鱗片
④マルバベニシダ、葉柄の鱗片
⑦マルバベニシダ、胞子のう群
リョウトウイタチシダ
あまり日が差し込まない切り立った岩壁に生育していました。葉の大きさは30~45㎝、淡緑色、イタチシダの仲間の中では葉の質は薄く、やわらかい。葉柄。中軸の鱗片はやや幅がある披針形で黒に近い黒褐色。
①②切り立った岩壁に生育するリョウトウイタチシダ
①リョウトウイタチシダ、葉柄
②リョウトウイタチシダ、葉柄の鱗片
イヌイワイタチシダ
日陰のウエットな岩壁に生育。ヤマイタチシダとイワイタチシダの中間的な形を示す。イワイタチシダに似て鱗片はやや開出気味につくが、葉の色は緑色で白味を帯びた緑色ではない。
標本1
③イヌイワイタチシダ、葉身
④イヌイワイタチシダ、葉身下部および葉柄上部
③イヌイワイタチシダ、葉柄
標本2
③ウエットな岩壁に生育するイヌイワイタチシダ
④イヌイワイタチシダ、葉身
③イヌイワイタチシダ、葉柄
④イヌイワイタチシダ、中軸の鱗片
イワイタチシダ
切り立ったウエットな岩壁に生育。観察地の標高は350~400m程度でイワイタチシダの生育地としてはあまり標高は高くないが、深くウエットな谷で冷涼な環境のため生育しているものと思われる。葉の大きさは10~30㎝、白味を帯びた緑色、光沢はない。葉柄・中軸の鱗片は軸に直角に開出してつく。有性生殖種。
iwaitachi-erina220611
①深い谷、冷涼な環境の岩壁に生育するイワイタチシダ
②イワイタチシダ、葉柄
③④イワイタチシダ、葉柄の鱗片
ミヤマイタチシダ
イワイタチシダ同様、一般にはもう少し標高の高いところに生育していることが多いが、この谷は深くウエットで冷涼な環境のため生育しているものと思われる。
③深い谷に生育するミヤマイタチシダ
④ミヤマイタチシダ、羽片
ウラボシ科の仲間
マメヅタ、ノキシノブ、クロノキシノブ、ヒメノキシノブ、サジラン、ミツデウラボシ、オオクボシダなどが見られました。
サジラン
林道沿いの日陰でウエットな石積みに点在して群生。10株程度生育。
①日陰のウエットな石積みに生育するサジラン
②新芽を伸ばすサジラン
オオクボシダ
ウエットな切り立った岩壁、その中のあまり濡れていない岩壁面に点在して生育。
①②岩壁面に生育するオオクボシダ
参考画像ハツキイヌワラビ(タニイヌワラビ×ホソバイヌワラビ):岐阜金華山産
ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)タニイヌワラビとホソバイヌワラビの雑種と推定される。半常緑性。両種がともに生育しているスギ植林地に生育。山崎厚氏が持参され皆さんで観察しました。
①ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、葉身
②ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、葉
③ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、葉柄
④ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、葉柄基部の鱗片
⑤ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、羽片
⑥ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、最下羽片
⑦ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、胞子のう群
⑧ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、葉身上部の胞子のう群
⑩⑪ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、1つの胞子のうを壊したようす
⑫⑬ハツキイヌワラビ(岐阜金華山産)、1つの胞子のうを壊したようす
そのほかの植物