西沢渓谷を歩きました。少し距離はありますが1周しました。渓谷の入り口標高は1100mで最奥部では1400mになります。7月の下見の時に観察したシダも一緒に紹介いたします。
ミヤマシケシダの仲間 3種
西沢渓谷にはミヤマシケシダの仲間が3種生育しています。ハクモウイノデ、ミヤマシケシダ、ウスゲミヤマシケシダの3種です。その他にもこれら3種の雑種かもしれない個体個体1、個体2?、がいくつか観察されていますが胞子の様子を観察できていません。西沢渓谷では標高により住み分けが行われているように見られます。ハクモウイノデは標高1100mまで生育。そこから上ではハクモウイノデは見られずミヤマシケシダが見られます。ウスゲミヤマシケシダはさらにやや標高の高いところおよそ1250m以上で観察されました。
※西沢渓谷の観察路以外は歩いていませんので、さらに標高の高いところや逆に標高の低いところではどのようなミヤマシケシダの仲間が生育しているのか調べなければならないと思います。また、雑種かもしれないシダについては今後少しずつ整理し掲載いたします。
①標高1100mあたりで見られるハクモウイノデ
②ハクモウイノデ、葉柄
ヒメコケシノブ
コケシノブの仲間としてはそれほどウエットではない岩壁や切り立った崖に生育。一般にあまりウエットではない崖や岩の隙間に小形(2㎝程度)のヒメノキシノブが生育するが、ウエットな崖では大形(3~4㎝)の個体が生育する。葉は2~3回羽状に分かれ、黄緑色、裂片の先は円頭。胞子のう群は側羽片の先につけることもあるが、葉身の先にまとまってついたり穂状につけることが多い。1つの胞子のうには100個程度の胞子が確認でき、胞子には3稜があり球形、表面には細かい突起がある。
①ウエットな崖まで生育するやや大形のヒメコケシノブ
②ウエットな崖まで生育するやや大形のヒメコケシノブ
③やや大形のヒメコケシノブ
⑥やや大形のヒメコケシノブ、包膜
⑦やや大形のヒメコケシノブ、胞子のう
⑧やや大形のヒメコケシノブ、1つの胞子のうを壊したようす、胞子数104個程度
⑨やや大形のヒメコケシノブ、1つの胞子のうを壊したようす、胞子数104個程度
⑩やや大形のヒメコケシノブ、1つの胞子のうを壊したようす、胞子数90個程度
⑪やや大形のヒメコケシノブ、1つの胞子のうを壊したようす、胞子数94個程度
⑫やや大形のヒメコケシノブ、1つの胞子のうを壊したようす、胞子数84個程度
⑬やや大形のヒメコケシノブ、胞子1上面のようす
⑭やや大形のヒメコケシノブ、胞子1側面のようす
⑮やや大形のヒメコケシノブ、胞子2
タカネサトメシダ似のシダ
タカネサトメシダに似るが以下の点で異なる①葉身の形が三角形ぽくなく長卵形。②3回羽状深裂ではなく3回羽状中裂である。
上部を樹冠に覆われた渓谷沿いの岩が露出する林床に生育。根茎は直立。葉柄基部の鱗片は膜質で淡褐色。葉柄は淡緑色で葉身と同長。葉の大きさは30~40㎝、鮮緑色~濃緑色、長卵形~三角形、3回羽状中裂~深裂に分かれる。羽片は有柄で中軸に開出してつく。胞子嚢群は小羽軸寄りにつき、包膜の辺縁は和紙を裂いたようにほつれる。
標本1
①渓谷沿いウエットな林床に生育するタカネサトメシダ似のシダ
②タカネサトメシダ似のシダ、葉身
③タカネサトメシダ似のシダ、葉柄
④タカネサトメシダ似のシダ、葉柄
⑤タカネサトメシダ似のシダ、葉柄基部の鱗片
標本2
⑥渓谷沿いウエットな林床に生育するタカネサトメシダ似のシダ
⑦タカネサトメシダ似のシダ、胞子のう群
⑧タカネサトメシダ似のシダ、包膜
⑩タカネサトメシダ似のシダ、胞子側面
⑪タカネサトメシダ似のシダ、胞子上面
⑫タカネサトメシダ似のシダ、胞子側面
⑬タカネサトメシダ似のシダ、胞子上面
標本3 葉柄・中軸がやや暗紫色を帯びる株
※雑種(タカネサトメシダ×ヤマイヌワラビ)の可能性も疑われるが、よくわからない。
⑭葉柄がやや暗紫色を帯びるタカネサトメシダ似のシダ
⑮タカネサトメシダ似のシダ、やや暗紫色を帯びる葉柄
ヤマイヌワラビ
渓谷の入り口付近の林床で見られる。葉柄はえんじ色を帯びることが多い。葉の大きさは40~50㎝、羽片の柄は短い。包膜には鈎形のものが混ざる。1つの胞子のう中似60個以上形・大きさの整った胞子を観察、胞子は褐色であまり光を通さず充実していて有性生殖種と推定できる。
①沢沿いの林床に生育するヤマイヌワラビ
②ヤマイヌワラビ、葉身
⑩ヤマイヌワラビ、胞子上面
タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か
あるいは棘のあるヤマイヌワラビの個体変異かもしれない
上部を樹冠に覆われた渓谷沿いの岩が露出するウエットな林床に生育。15株以上生育。根茎は直立し根茎最上部には明るい褐色の鱗片が密生し、その中心から1本(あるいは2本)の葉柄をのばす。えんじ色を帯びる葉柄は長く葉身とほぼ同長。葉は1枚で(観察した10株すべてで葉は1枚であったが、刈り取られた跡も見られたので翌年再調査を行う予定。)、大きさは60~90㎝で底辺の広い三角形。羽片は有柄で広披針形、最下羽片では基部の第1第2小羽片は短縮し卵状披針形となる。小羽片は細長く卵状披針形で3~5㎝、基部は広い楔形であるがヤマイヌワラビより狭い。小羽軸上にはホソバイヌワラビやホウライイヌワラビのような明瞭な棘をつける。裂片はのこぎりの刃のように鋭角的につく。胞子のう群は鈎形のものが多く包膜の辺縁は全縁~ややほつれる。胞子は数は60個程度・大きさはおよび形は揃い有性生殖種として問題はないが、全ての胞子で中身が無く透けて見えよく光を通し不稔と推測され雑種と考えられる。また雑種であることを示す現象としては、胞子の付いた葉を乾燥させても胞子は飛散しなかった。また、多くのメシダ属の仲間の胞子は中身が充実している場合は褐色で光は通さず核が確認できる程度である。
※個体数は少なく、葉は1本しかつけないことが多いので現地で観察されても採取は控えるようにお願いいたします。
〇ヤマイヌワラビに似ている点は①小羽軸上に棘が無ければヤマイヌワラビの個体変異と思えるほどよく似ている。葉は草質で暗緑色、3回羽状中裂。②胞子のう群は馬蹄形や鈎形が多く混ざる。
〇ヤマイヌワラビと異なる点は①多くの個体で葉は1本しかつけない。②小羽片はより細長く基部は少し狭い広い楔形。③小羽軸上に明瞭な棘がある。④葉柄は長く葉身と同長。
〇タカネサトメシダに似ている点は①葉柄基部には淡褐色膜質の鱗片を密につける。②葉柄は長く葉身とほぼ同長。③包膜の辺縁には多少ほつれあり。
〇ホソバイヌワラビに似ている点は①小羽軸上に目立つ棘がある。(西沢渓谷ではまだホソバイヌワラビを確認していない。この標高(およそ1200m)でホソバイヌワラビが生育できるか不明である。)
①②渓谷沿いウエットな林床に生育するタカネサトメシダ似のシダとヤマイヌワラビの雑種か
②③渓谷沿いウエットな林床に生育するタカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か
⑤⑥タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、葉柄と葉身はほぼ同長
⑤⑥タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、根茎および葉柄
⑦タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、根茎の周りの鱗片
⑧タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、最下羽片
⑨タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、小羽軸上に棘のある小羽片
⑯⑰タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、1つの胞子のうを壊したようす
⑱⑲タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、1つの胞子のうを壊したようす
⑳タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、胞子上面
㉑タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、胞子側面
㉒タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、胞子上面
㉓タカネサトメシダとヤマイヌワラビの雑種か、胞子側面
ミヤマクマワラビ
ミヤマクマワラビは北面の谷や谷の底部のややウエットであまり光のの差さない森でよく見られます。
①薄暗い森で見られたミヤマクマワラビ
②ミヤマクマワラビ、葉柄の鱗片
オシダ
ミヤマクマワラビより明るくウエットでない森の林床で見られる。ミヤマクマワラビと混生するところもあるが、住み分けているところが多い。
⑤オシダ、葉身下部
イワシロイノデ
ツヤナシイノデに似るが、中軸の鱗片は幅が狭い広披針形。胞子のう群は葉身中部の胞子のう群の付き初めでは小羽片の辺縁寄りにつき葉身上部では中間につく。
標高の高い西沢渓谷ではツヤナシイノデは見られなかった。
①渓谷沿い流れのそばの転石の間に生育するイワシロイノデ
②渓谷沿いの岩場に生育するイワシロイノデ
③イワシロイノデ、胞子を観察した葉
④イワシロイノデ、1つの胞子のうを壊したようす
ホソイノデ
夏緑性。葉柄は短く葉は倒披針形。
①渓谷沿いの崖に生育するホソイノデ
②ホソイノデ、葉柄
トヨグチイノデ
一般に石灰岩地帯で見られることが多いシダであるが、西沢渓谷では花崗岩類の岩場でときどき観察される。
①渓谷沿いのウエットな岩壁に生育するトヨグチイノデ
②トヨグチイノデ、葉身
ホテイシダ
西沢渓谷では、トチ、ミズナラなどの大木には必ずと言っていいほど着生しているが、なかなか近くで観察することは難しい。
①台風などで倒れた木に群生するホテイシダ
ナガオノキシノブ
渓谷沿いの岩上や樹幹に着生する。葉は細長く先端のシャープに伸びて尖る。ノキシノブよりも間隔を空けてつける。
なか近くで観察することは難しい。
①台風などで倒れた木に群生するナガオノキシノブ
②渓谷の大きな転石上に生育するナガオノキシノブ(左)とミヤマノキシノブ(右)
制作中。少しずつ掲載していきます。