秩父や奥多摩の石灰岩地帯と同じく、釜無山東部には中央構造線外帯に属する中生代の石灰岩地帯が構造線に沿って帯状に存在している。
今回は、この石灰岩地帯を含む地域を歩いた。いろいろな環境に生育するシダを観察する目的で、釜無川のひとつの支流から山頂を目指した。たくさんのシダを見ることはできたが、初めてのコースで同行の方々には悪路を共にしていただくこととなり、ご迷惑をおかけすることとなった。
ヤマトイワナ
再訪時、同行の淡水魚を調べている方が、表紙写真の場所で観察(その後リリース)
最近はアユなど稚魚の放流に伴い、ヤマトイワナに限らず交雑化や混生が進み、純粋な天然分布が分かりにくくなっているとのことである。
ヒカゲノカズラ科 ヒカゲノカズラ属
明るい林縁内や陽当たりのよい林縁斜面にヒカゲノカズラ、大きいヒカゲノカズラ、アスヒカズラが生育。
ヒカゲノカズラ
胞子嚢穂葉2~4㎝。
(1)ヒカゲノカズラ
(2)ヒカゲノカズラ、胞子嚢穂
大きいヒカゲノカズラ
主茎・側枝および葉が、生育環境によって大きくなったヒカゲノカズラかもしれない。胞子嚢穂はヒカゲノカズラよりも短く1.0~1.5㎝であった(これから成長するのかもしれない)。
(1)大きいヒカゲノカズラ
(2)大きいヒカゲノカズラ、胞子嚢穂
(1)(2)大きいヒカゲノカズラ、主茎
(1)(2)大きいヒカゲノカズラ、側枝
(1)大きいヒカゲノカズラ、胞子嚢穂
(2)ヒカゲノカズラの胞子嚢穂(左)と大きいヒカゲノカズラ、胞子嚢穂(右)
※大きいヒカゲノカズラの胞子嚢穂はこれからまだ成長するのかもしれない。
(1)ヒカゲノカズラ、側枝(上)と大きいヒカゲノカズラ、側枝(下)
(2)ヒカゲノカズラ、側枝の茎径(左)と大きいヒカゲノカズラ、茎径(右)
アスヒカズラ
水はけはよいが、ウエットな林縁斜面に生育。
アスヒカズラ
林縁の斜面に群生するアスヒカズラ
(1)(2)アスヒカズラ、葉
2020年5月17日再訪時観察。
ハナヤスリ科 ハナワラビ属
ヤマハナワラビ
標高1600~1700m、表紙の渓谷のそばの陽光地にシバやシロバナヘビイチゴが生育する丈の低い草地に点在して生育。葉はやや厚く光沢がある。裂片の先は鈍頭で辺縁の鋸歯は目立たず鋭くない。
(1)(2)標高1600~1700m、表紙の渓谷のそばの陽光地に生育するヤマハナワラビ
(3)(4)標高1600~1700m、表紙の渓谷のそばの陽光地に生育するヤマハナワラビ
(5)(6)標高1600~1700m、表紙の渓谷のそばの陽光地に生育するヤマハナワラビ
ゼンマイ科 ゼンマイ属
ヤマドリゼンマイ
渓谷沿いの陽当たりのよい草地に高茎草本と共に群生。
コバノイシカグマ科 コバノイシカグマ属
オウレンシダ
石灰岩地帯では大群落を形成し普通種であるが、ほかではまばらに見られる程度。
オウレンシダ
コバノイシカグマ科 オオフジシダ属
イノモトソウ科 イワガネゼンマイ属
イワガネゼンマイ
山頂付近石灰岩地帯では羽片のスリムなイワガネゼンマイがタチヒメワラビと共に群生していた。
イノモトソウ科 ホウライシダ属
ハコネシダ
クジャクシダ
ナヨシダ科 ナヨシダ属
ナヨシダ
石灰岩地帯、石灰岩上に生育。薄暗い林内~多少樹木はあるが明るい環境。
ヤマヒメワラビ
樹林内を流れ下る渓谷沿いの岩上に生育。根茎は長く這い、間隔をあけて葉をつける。葉柄や中軸は瑞々しく柔らかい。葉柄には黒褐色・膜質の鱗片をまばらにつける。包膜は一部開いて胞子嚢をのぞかせる。包膜上には腺点のような突起が見られた。北岳3000m付近で観察されたヤマヒメワラビと同じものかどうか改めて調べる必要がある。
(1)渓谷の岩上にコケ類と共に葉を広げるヤマヒメワラビ
(2)暗い岩壁に群生するヤマヒメワラビ
(1)ヤマヒメワラビ、胞子上面
(2)ヤマヒメワラビ、胞子側面
(1)ヤマヒメワラビ、胞子上面
(2)ヤマヒメワラビ、胞子側面
ナヨシダ科 ウサギシダ属
イワウサギシダ
山頂近くの陽当りのよい石灰岩の岩屑上や岩壁に生育。
(1)(2)陽当りのよい石灰岩の岩壁に生育するイワウサギシダ
チャセンシダ科 チャセンシダ属
アオチャセンシダ
石灰岩の岩壁、岩の割れ目などに生育する。
(1)アオチャセンシダ、葉身
(2)アオチャセンシダ、葉身裏側
コタニワタリ
石灰岩の岩の割れ目に生育する。
(1)石灰岩の岩の割れ目に生育するコタニワタリ
(2)コタニワタリ、胞子嚢群
ヒメシダ科 ヒメシダ属
タチヒメワラビ
釜無山上部、石灰岩地帯に広がる針葉樹林の林縁、ある程度腐植が堆積していると思われる草原斜面にはイワガネゼンマイを含む高茎草本が生い茂る。共に生育しているイワガネゼンマイは羽片の幅が狭い。
標高1200~1300mの釜無山中腹、同じ石灰岩地帯、カラマツ林内でもタチヒメワラビを観察。
(1)(2)林縁に広がる高茎草本の草原斜面に群生するタチヒメワラビ
ヒメシダ科 ミヤマワラビ属''
ミヤマワラビ
釜無山では山頂付近まで普通に観察される。
イワデンダ科 イワデンダ属
イワデンダ
釜無川支流、チャートや砂岩などの岩壁に生育。
トガクシデンダ
釜無山上部、石灰岩上に生育。樹林内の石灰岩上にはナヨシダも生育しており、よく似ているので区別に注意が必要。
(1)(2)明るい石灰岩上に生育するトガクシデンダ(同一個体)
シシガシラ科 ヒリュウシダ属
オサシダ
標高1500m前後で観察。成育する標高の範囲は不明。針葉樹を中心とした自然林の樹林帯の中を流れる渓谷沿いの切り立った岩場に成育。
(1)渓谷沿いの樹林帯内の岩壁に成育オサシダ。標高1500~1700mで観察。
(2)オサシダ、新芽
メシダ科 メシダ属
イッポンワラビ
釜無川支流、渓谷沿いで普通に見られる。
(写真の映りが今一ですみません)
(1)(2)イッポンワラビ、胞子嚢群
タカネサトメシダ
釜無山高所石灰岩地帯で観察。針葉樹林下林床に生育。葉柄は長く、葉身と同長かそれよりも長い。葉柄基部には淡褐色・膜質・広披針形の鱗片をつける。葉の大きさは45~55㎝、卵状三角形、草質、2回~3回羽状に分かれる。胞子嚢群は中肋寄りにつき、包膜の端は和紙を裂いたようにほつれる。
(1)(2)タカネサトメシダ、羽片
(1)(2)タカネサトメシダ、新芽の芽立ち
(1)(2)タカネサトメシダ、葉柄
(1)(2)タカネサトメシダ、葉柄の鱗片
タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ
釜無山高所石灰岩地帯で観察。針葉樹林下、朽ちた倒木上にコケ類と共に林床に生育。外観は小さなヘビノネゴザに似る。葉柄は3~6㎝で葉身の1/3程度。葉柄には褐色・膜質の鱗片をつける。葉身は草質・黄緑色で柔らかく2回羽状、12~16㎝。小羽片は羽軸に広く合着する。包膜の端は和紙を裂いたようにほつれる。付近にはイワウサギシダやタカネサトメシダが生育。
訂正※最初、ミヤマヘビノネゴザとしたが、以下の理由でタカネサトメシダに似た小形のシダと訂正いたします。①ミヤマヘビノネゴザほど下部羽片が短縮していない。②鱗片に栗色が入っていない。2019年10月31日
(1)針葉樹林下朽ちた倒木上に生育するタカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ
(2)タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、葉身
タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、葉柄基部
(1)タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、葉柄
(2)タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、葉柄鱗片
(1)(2)タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、羽片
タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、羽片基部
(1)(2)タカネサトメシダに似た小形のシダミヤマヘビノネゴザ、包膜
ミヤマメシダ
釜無山中腹渓谷沿い(標高およそ1400m)~釜無山上部(標高およそ2000m)まで観察。
葉の大きさは40~70㎝、黄緑色。葉柄および中軸の鱗片は黒に近い黒褐色。
(1)(2)ミヤマメシダ
(1)(2)ミヤマメシダ、葉身下部
(1)(2)ミヤマメシダ、葉柄
メシダ科 シケシダ属
オオメシダ
釜無川支流渓谷沿いおよび釜無山高所沢沿いで観察。林内~林縁、沢沿いのウエットな環境に生育。この季節まだ葉身は展開しつつあり150㎝程度あった。完全に展開すると2m程度になると思われる。
(1)林縁の急な谷筋に生育するオオメシダ
(2)展開しつつあるオオメシダの葉
幼株 釜無山中腹で観察
(1)オオメシダの幼株
(2)オオメシダの幼株、葉身
(1)オオメシダの幼株、最下羽片
(2)オオメシダの幼株、羽片
メシダ科 ノコギリシダ属
標高1500m前後では樹林内ではミヤマシダ、狭い渓谷沿いの草原の林縁ではキヨタキシダが観察された。釜無山上部の石灰岩地帯ではキタノミヤマシダが観察された。
キヨタキシダ
樹林内にはミヤマシダが生育するが、両側の山が迫った狭い河原に高茎草本と共に生育していた。
ミヤマシダ
釜無川支流渓谷沿いでは樹冠に覆わた暗い林道沿いでイッポンワラビと共に普通に見られる。
キタノミヤマシダ
釜無山高所石灰岩地帯で観察。針葉樹林下林床に生育。葉柄には黒褐色の鱗片がやや密につく。葉の大きさは30~40㎝(葉身は20~25㎝)、3回羽状に深裂し裂片には鈍鋸歯がある。中軸裏側や羽軸裏側・小羽軸裏側には毛が生える。胞子嚢群は裂片中肋と辺縁の中間につく。包膜の端には鋸歯がある。
(1)針葉樹林林床に生育するキタノミヤマシダ
(2)キタノミヤマシダ、葉身
(1)キタノミヤマシダ、葉柄の鱗片
(2)キタノミヤマシダ、葉柄基部の鱗片
(1)キタノミヤマシダ、胞子上面
(2)キタノミヤマシダ、胞子側面
(1)キタノミヤマシダ、胞子上面
(2)キタノミヤマシダ、胞子側面
オシダ科 カナワラビ属''
シノブカグマ
オシダ科 オシダ属''
オシダ
シラネワラビ
オシダ科 イノデ属''
ジュウモンジシダ、ツルデンダ、ホソイノデ、イワシロイノデ、トヨグチイノデを観察。
ジュウモンジシダ
渓谷沿いで普通に見られる。
ツルデンダ
1株観察。意外に石灰岩地帯の岩場ではあまり生えていなかった。標高が高いためであろうか。
イワシロイノデ
釜無川支流渓谷沿い樹林内ではやや普通に見られる。胞子嚢群は葉身上側・羽片先からつくが、葉身中部の胞子嚢群はやや辺縁寄りにつき、葉身上部では中間につく。
(1)渓谷沿いの林床に生育するイワシロイノデ
(2)イワシロイノデ、羽片
(1)イワシロイノデ、葉柄上部
(2)イワシロイノデ、葉柄下部
(1)葉身中部~上部の胞子嚢群は中間につくイワシロイノデイ
(2)葉身中部の胞子嚢群はやや辺縁寄りにつくイワシロイノデ
標本2
(1)渓谷沿いの林床に生育するイワシロイノデ
(2)イワシロイノデ、胞子嚢群
(1)イワシロイノデ、葉柄鱗片
(2)イワシロイノデ、中軸鱗片
ホソイノデ
(1)渓谷沿いの林床に生育するホソイノデ
(2)ホソイノデ、羽片
(1)ホソイノデ、葉柄基部の鱗片
(2)ホソイノデ、中軸の鱗片
トヨグチイノデ
樹林帯内石灰岩上やその周辺の林床に生育。6株程度観察。葉の大きさは20~30㎝。葉身の先は鋭くなく鈍頭。胞子嚢群は辺縁寄り。
(1)トヨグチイノデ、葉柄の鱗片
(2)トヨグチイノデ、中軸の鱗片
ウラボシ科 ノキシノブ属''
ナガオノキシノブ
樹林内の石灰岩上に生育。胞子嚢群をつけた株は観察できなかった。
ミヤマノキシノブ
(1)岩壁に生育するミヤマノキシノブ
(2)ミヤマノキシノブ、葉身
(1)ミヤマノキシノブ、胞子嚢群をつけた葉の表面
(2)ミヤマノキシノブ、胞子嚢群
ウラボシ科 エゾデンダ属''
オシャグジデンダ
冬緑性。1400~1500m、いくつかの石組みや岩壁で観察。ちょうどこの季節、葉が枯れる時期であった。葉の大きさは10~20㎝。
(1)(2)林道の石組みに生育するオシャグジデンダ
(1)(2)岩壁に生育するオシャグジデンダ
エゾデンダ
前項のオシャグジデンダよりも標高の高いおよそ標高1800mに生育。樹林帯斜面に留まる大きな角張った転石の切り立った側面に20株程度間隔をあけて群生。岩上にはオシダやシラネワラビなどいろいろなシダが生育していた(岩上なので鹿の食害を免れているのであろうか)。葉は1枚も枯れておらず常緑性(この季節、オシャグジデンダは枯れ始めている)。撮影時17時を過ぎていたので、裏面の毛の有無を確認できなかった。
(1)樹林内の巨岩の側面に生育するエゾデンダ
(2)エゾデンダが生育する巨岩
ウラボシ科 カラクサシダ属
カラクサシダ
渓谷沿い、滝のような落差がある流れのそばの岩上に成育。冬緑生。
(1)渓谷沿いの流れのそばの岩上に成育するカラクサシダ
(2)カラクサシダ
そのほかの植物
バイカウツギ ベニバナイチヤクソウ
(1)バイカウツギ
(2)ベニバナイチヤクソウ
ニシキウツギタニウツギか
ニシキウツギタニウツギか
※詳しい方に教えていただき、訂正いたします。2021年6月28日
シロバナニシキウツギ不明なウツギの仲間あるいはウコンウツギ
シロバナニシキウツギ不明なウツギの仲間あるいはウコンウツギ
※詳しい方に教えていただき、訂正いたします。2021年6月28日
トガスグリ
(1)(2)トガスグリ
※標高1,500m~1600mの釜無川支流渓谷沿いではスグリ(日本固有種)も観察された。
(1)テガタチドリとタチヒメワラビ
(2)ササバギンランか(ピンボケですみません)