南アルプス 釜無山石灰岩地帯その5
釜無川は構造線上を流れ、中央構造線側の構造線(なんという構造線かよく知りません)と糸魚川-静岡構造線とが交差するところで流れが直角に変わります。直角に曲がる上流部の左岸にはジュラ紀の石灰岩地帯が流れに沿って帯状に横たわっています。川沿いの釜無山山麓には採石用の鉱山がいくつかあり、質のよい石灰岩から骨材用の石灰岩を含む石材が掘り出されているようです。ここには石灰岩の岩峰・岩壁や風化した石灰岩のザレ場があり、そのいくつかを歩いてきました。観察されたシダを紹介します。
エゾノヒメクラマゴケ
標本1
好石灰岩性のシダ。石灰岩のザレ場、切り立った岩壁の多少薄い土壌があるところに張り付くように生育。葉は小さく腹葉1~1.5㎜・背葉1㎜。夏に、1~3叉する長さ2~5㎝の胞子をつけた枝を立ち上げる。胞子をつけた枝は1~2回分岐し、葉は腹葉・背葉の区別なく同形になり、 9月頃には枯れて、枯れた胞子をつけた枝は腐らず立枯れして残存する。(タチクラマゴケはエゾノヒメクラマゴケ''とよく似ているが少し大形で胞子をつけた枝は胞子散布後、腐って立ち枯れとしては残らない。)
①②石灰岩のザレ場に生育エゾノヒメクラマゴケ
⑤石灰岩上に生育するエゾノヒメクラマゴケ
⑥エゾノヒメクラマゴケ、胞子のうをつける枝
標本2 日陰に生える個体
石灰岩地''帯の近くの堆積岩の岩壁に生育。葉をやや間隔をあけてつけていたので最初は葉の小さいタチクラマゴケではないかと思われたが、①腹葉・背葉のサイズが小さい。②胞子をつける枝が枯れた後もしっかり残っていることでエゾノヒメクラマゴケであると判断した。
※再度、現地を訪れ葉の大きさを確認したところタチクラマゴケよりもずっと小さくエゾノヒメクラマゴケに訂正いたします。日陰に生育する個体ではやや間隔をあけて葉を粗くつけることがあるようである。2022年10月1日。
①岩壁に生育するエゾノヒメクラマゴケ
②エゾノヒメクラマゴケ
③④エゾノヒメクラマゴケ、胞子のうをつける枝
比較 タチクラマゴケ(相模原市)
①②林縁の土手に群生するタチクラマゴケ
ハコネシダ
樹林下の薄暗い岩壁に生育。
①樹林下の薄暗い岩壁に生育するハコネシダ
オウレンシダ
石灰岩や石灰岩を含む混在岩地帯に広く生育する。
①石灰岩を含む混在岩地帯に生育するオウレンシダ
②オウレンシダ、胞子のう群
イチョウシダ
石灰岩の岩棚や割れ目に生育。付近にはトガクシデンダも生育。
①②石灰岩のザレ場にトガクシデンダと共に生育するイチョウシダ
イワトラノオあるいは”むかご”をつけるイワトラノオに似たシダ
石灰岩の岩棚や割れ目に生育。葉の大きさは8~10㎝、葉柄は葉身よりも短く”むかご”をつけ、小羽片の幅はイワトラノオよりも狭い。大きさはイワトラノオと同じくらい、裂片の幅が狭い。ヒメイワトラノオと比べると葉の大きさは4~5倍の大きさがある。観察時「むかご」は確認できなかったが
※その後、改めて現地で観察し、一部の株でむかごを観察することができた。
①②石灰岩の岩棚や割れ目に生育するイワトラノオあるいはイワトラノオ似のシダ
③イワトラノオあるいはイワトラノオ似のシダ
④イワトラノオあるいはイワトラノオ似のシダ、胞子のう群
⑥羽片の柄基部につく”むかご”
⑦羽片の柄基部につく”むかご”、拡大
⑧羽片の柄基部につく”むかご”
⑨羽片の柄基部につく”むかご”、拡大
クモノスシダ
石灰地帯や石灰岩を含む混在岩地帯ではよく目にする。
①岩壁に生育するクモノスシダ
イワウサギシダあるいはアオキガハラウサギシダ
石灰岩の岩壁や岩棚に生育。
①石灰岩の割れ目に生育するイワウサギシダあるいはアオキガハラウサギシダ
②石灰岩の岩棚に生育するイワウサギシダあるいはアオキガハラウサギシダ
イワデンダ
岩壁に生育。石灰岩やそれ以外の岩に生育。普通にみられる。
①②岩壁に生育するイワデンダ
トガクシデンダ
石灰岩の岩壁やザレ場に生育。
①②石灰岩のザレ場に生育するトガクシデンダ
ツルデンダ
好石灰岩性のシダではあるが、ほかの岩にもよく生育する。
①石灰岩地帯の石組みに生育するイチョウシダ(左)とツルデンダ(右)
イワオモダカ
好石灰岩性のシダ。石灰岩および石灰岩を含む混在岩の切り立った岩壁に生育。生育が確認できたのは二か所で、そのうちの一か所では10株程度がややまとまって生育している。
①②石灰を含む混在岩に生育するイワオモダカ
ビロードシダ
石灰岩や石灰岩を含む混在岩に生育。やや普通にみられる。
①②石灰岩を含む混在岩に生育するビロードシダ
制作中。少しずつ掲載していきます。