日本海にそそぐ海谷渓谷。ブナ-ユキツバキ林を歩きました。落葉広葉樹が一斉に芽吹いて秋の紅葉のように美しい。この季節でも雪渓が各所に残り積雪が多いことを物語っています。樹木の根元は積雪の影響で根曲がり状になっています。雪渓を横断することが多く歩行は十分に注意しなければなりませんでした。2日ほど前に遭難者が出たということでヘリコプターがしばらく渓谷の中を旋回していました。
海川・海谷渓谷の地形および地質
「海谷渓谷一帯は、約350万年前にフォッサマグナの海で海底火山の活動によってできた安山岩質火山角礫岩、溶岩、貫入岩などからできています。千丈の大岩壁は海川の浸食により、隆起した海底火山の断面が露出したもので、高さは600mに達します。渓谷の左右には1200~1600mの火山が連なっています。
海谷高地は1597年(慶長2年)の千丈ヶ岳南-南東斜面が大規模な山崩れを起こし海川をせき止め、土砂が堆積してできた広い河原です。このときできたせき止め湖は上流3㎞にまでおよびました。」海谷渓谷展望台掲示板より
(1)千丈の大岩壁
(2)海底で溶岩や火山角礫岩が堆積した痕
シダの仲間
いろいろなシダが見られましたが、雪渓が解け始めたばかりでまだ、夏緑性のシダは地面から新芽が伸びはじめフィドルヘッド状態のものが多く見られました。今回は下見のつもりで歩いたので改めてよい季節に訪れたいと思っています。サカゲイノデなども見られましたがはっきり葉を展開していないものは特に観察しませんでした。
イワヒバ
イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)
放射状に葉を広げるイワヒバの幼形の変わったものあるいはイワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)
ブナ-ユキツバキ林。上部を夏緑広葉樹に覆われた斜面の岩にコケの仲間と共に生育。クラマゴケの仲間であるがイワヒバと同様に中心の根茎から放射状に葉を広げる。腹葉・背葉ともクラマゴケよりも小さく辺縁には鋸歯がある。胞子嚢はどのようにつけるか確認できていません。胞子嚢穂状なのか葉の脇に一つづつつけるか改めてもう一度行って確認したいと思います。2株を観察。
あくまでも一つの仮説としてですが「ヒメイワヒバ(仮称)」は前葉体から成長しつつあるイワヒバの胞子体の幼形ではないかとも考えられます。前葉体からの胞子体の成長過程をイメージするとき最初からしっかりした葉をつけるのではなく、「ヒメイワヒバ(仮称)」的なか弱く小さな葉の段階が存在することガ想像できます。証明するには胞子を播種して胞子体の成長を確認しなければなりませんが。
一般的にイワヒバの群生地で見られる幼形は非常に小さくても成株と同様のしっかりした葉をつけていますが、ちぎれた葉の一部から根を出して増える(挿し木)など栄養生殖で増えていることも十分に推測されます。今後、群生地でも「ヒメイワヒバ(仮称)」的な個体が見られないかよく観察してみたいと思います。 2018年5月12日
※詳しい方に画像を見て頂いたところ、以下のようなご指摘を頂きました。また、神奈川県丹沢でもイワヒバの範疇に入る個体として「イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)」 同様の個体が見つかっているとの情報を頂きました。
一見してイワヒバとは別物に見えますが、背葉、腹葉の個々の形態は、大きさは別にして、イワヒバと差がないようです。イワヒバの幼形の変わったものかもしれません。胞子嚢をつけた標本が得られればより正確な判断ができると思います。
イワヒバは変異が多く、昔からいろいろな形のものが山採りされ古典園芸植物として栽培されていること。「ヒメイワヒバ(仮称)」もそういう変異の一つに入る可能性はある。また、前葉体からの成長過程の途中ではないかという考え方については、イワヒバなどの小葉類の胞子栽培は難しいと思われ、証明するのはなかなか困難(発芽・成長等が難しい)なことかもしれない。糸魚川の「ヒメイワヒバ(仮称)」が今後どのように成長していくのか興味深い、とのこと。2018年5月15日。
(1),(2)放射状に葉を広げるイワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)
(1)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、腹葉・背葉
(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、葉が出る基部
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、葉の表側
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、葉の裏側
(1)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、腹葉・背葉の表側
(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、腹葉・背葉の裏側
標本2
放射状に葉を広げるイワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)
(1),(2)放射状に葉を広げるイワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、葉の表側
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、腹葉の裏側
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、背葉の表側拡大
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)、腹葉の裏側拡大
(1),(2)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)とイワヒバ比較 - - - -※イワヒバは栽培品(十津川産)
(1)イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)とイワヒバ比較 拡大 - - - -※イワヒバは栽培品(十津川産)
(2)イワヒバ裏側(上)、イワヒバの幼形の変わったものあるいはヒメイワヒバ(仮称)裏側(下)- - - -※イワヒバは栽培品(十津川産)
ヒロハハナヤス
一般的な形にくらべると葉の幅が狭いが、1株しか確認できませんでした。
葉の幅が狭いヒロハハナヤス
ゼンマイ
コケシノブの仲間(コケシノブあるいはヒメコケシノブか)
ブナーユキツバキ林、林内のやや乾燥気味の切り立った岩壁面に着生。葉の大きさは3~8㎝、明るい黄緑色。胞子嚢群は葉の先端にも見られたが中間の羽片にもつけていた。葉の色・胞子嚢群をつける位置・中軸に対し羽軸がつく角度・中軸羽軸の色などを考慮するとコケシノブかヒメコケシノブか判断が難しい。改めて詳しく観察してみたい。
※ご指摘いただいたコメントを掲載いたします。
胞子嚢群が中間の羽片にもついていたということですので、葉形からもコケシノブでよいと思います。
(1),(2)コケシノブの仲間(コケシノブあるいはヒメコケシノブか)
(1),(2)葉の中間の羽片につく胞子嚢群
葉の先端の先につく胞子嚢群
ハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケかコハイホラゴケ)
海谷渓谷でも見られたが船浦山のスギ・ヒノキ林林内で多く見られた。樹冠に覆われた林内に点在する苔むした転石の切り立った側面に群生。根茎には黒褐色~赤褐色の毛が密生。葉の大きさは10~12㎝、濃緑色、葉身は細身で披針形。下部の羽片は開出してつき、最下羽片は反り返り気味につく。裂片が細く長い。胞子嚢群は葉面全体につく。包膜は唇状に浅く切れて開く。
採取した標本からはまだ胞子の状態を確認していません。この季節、胞子の状況が適切に調べられるかどうかわかりませんが、胞子の画像など改めて掲載いたします。
※詳しい方に画像を見て頂いたところ、以下のようなご指摘を頂きました。
ホクリクハイホラゴケの可能性がありますが、ホクリクハイホラゴケは胞子が正常な“種”ですから、胞子の確認が必要です。もし胞子がイレギュラーでしたらコハイホラゴケです。どちらもゲノムはハイホラゴケとヒメハイホラゴケの組み合わせですから、外部形態だけではホクリクハイホラゴケとコハイホラゴケの区別は困難で、胞子の確認が必要です。
(1),(2)切り立った岩壁に群生するハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケか)
(1),(2),(3),(4)ハイホラゴケの仲間、葉身は細身
(1),(2)ハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケか)根茎
(1),(2)ハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケか)葉柄
(1),(2)ハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケか)最下羽片
(1),(2)裂片が細く長いハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケか)羽片
(1),(2)ハイホラゴケの仲間(ホクリクハイホラゴケか)胞子嚢群
チャセンシダ
イワトラノオ?
ウエットな岩壁にコケの仲間と共に生育。葉の長さは15㎜程度と非常に小さく胞子も確認できなかった。
(1),(2)イワトラノオ?
トラノオシダ
コタニワタリ
渓谷内の岩上や岩壁ではよく目にした。
(1),(2)コタニワタリ
イワデンダ
海谷渓谷周辺で見られる凝灰角礫岩の大岩には普通に見られる。
(1)イワデンダ
(2)イワデンダ、葉身裏側
ミヤマベニシダ?
ミヤマベニシダと思われますが、まだ葉を展開していませんでした。
新芽を伸ばし始めたミヤマベニシダ?
(1)ミヤマベニシダ?、葉身
(2)ミヤマベニシダ?、葉柄の鱗片
ヒメサジラン
渓谷内の日陰の切り立った岩壁や大きな転石の日陰の側面に群生。
(1)ヒメサジラン
(2)日陰の切り立った岩壁に群生するヒメサジラン
オシャグジデンダかエゾデンダ
海谷渓谷周辺で大木の樹幹でときどき見られた。御前山 雲臺寺(奈良時代創建)境内の岩上の大木に着生。葉柄基部の鱗片など確認できていない。
(1)オシャグジデンダかエゾデンダ
(2)オシャグジデンダかエゾデンダ が生育する雲臺寺(創建は奈良時代)
※どなたか、確認されたら教えていただきたい。
野の花
美しい野の花が目につきました。※名称が間違っていましたらご指摘お願いいたします。
(1),(2)コシノコバイモイズモコバイモ
この地域の植物に詳しい方から種名の間違いをご指摘いただき訂正いたしました。2022年5月30日
(1),(2)シライトソウにも似ているが小形のショウジョウバカマの仲間か
キノコ
動物
クマに出会うかもしれないと思い少し心配でしたが、大丈夫でした。蝶を観察している人たちが数名、雪渓のそばでネットを振っていました。何を見ているのか尋ねるとクモマツマキチョウだと教えていただきました。