Top / 観察会レポート / 平成27年10月4日(日)奥多摩ー飯能西部


渓谷沿いの山道を下る
・奥多摩側の上部では赤いチャートが見られましたが、飯能側の切り立った渓谷はきれいな層状チャートでできていました。今回は埼玉県在住のシダに詳しい方に案内していただきました。


渓谷の岩壁は層状チャートから成り立っている 渓谷の岩壁は層状チャートから成り立っている

・奥多摩側から観察を行い飯能側の谷を下りました。少しきつい行程でしたが天気も良く、いろいろなシダに出会うことができました。

奥多摩側で

ウエットな谷筋で
トキワシダやサツマシケシダ、チチブイワガネ、オオヒメワラビなどを観察しました。オオヒメワラビは飯能側でも観察されました。


トキワシダ

渓谷の大きな転石の切り立った側面に着生していました。
河原の大きな転石に着生するトキワシダ トキワシダ、葉身 トキワシダ、羽片
岩壁に着生するトキワシダ(上左)
トキワシダ、葉身(上中)
トキワシダ、羽片(上右)


サツマシケシダ(シケシダ×ナチシケシダ)

林内を走る林道脇ののウエットな岩壁の下部に生育。2形性ははっきりしませんでした。包膜の辺縁が一部巻き込んでいるものや、辺縁が鋭く目立つ鋸歯をつけているものが見られました。
サツマシケシダ、2形性を示さない
サツマシケシダ

サツマシケシダ、胞子のう群 サツマシケシダ、胞子のう群
サツマシケシダ、胞子のう群(上左、上右)

サツマシケシダ、包膜の辺縁には鋭い鋸歯がある。 サツマシケシダ、包膜の辺縁は一部で巻き込む。
サツマシケシダ、包膜(上左、上右)

 
乾燥気味の崖や石垣で
ミヤマウラジロやヒメウラジロが見られました。ミヤマウラジロは一つの谷筋では広範囲にわたり沢山群生していました。


ミヤマウラジロ

ミヤマウラジロ、大きい個体は40㎝になる。 岩壁に群生するミヤマウラジロ
ミヤマウラジロ(上左、上右)

ミヤマウラジロ、葉柄下部には膜質・淡褐色の鱗片をつける ミヤマウラジロ、葉柄・中軸は細くえんじ色
ミヤマウラジロ、葉柄の鱗片(上左)
ミヤマウラジロ、中軸および羽片(上右)

ミヤマウラジロ、葉の辺縁に胞子のう群をつける。 ミヤマウラジロ、葉の辺縁が巻き込みその中に胞子のう群をつける
ミヤマウラジロ、胞子のう群(上左、上右)


山地上部
尾根付近の高木層を形成するものは植林されたスギ・ヒノキを除くとコナラ・シデ類・クリなどで最上部はミズナラ林でした。
尾根付近では葉の大きさが70㎝を超える大きなミサキカグマが見られました。付近にはナンゴクナライシダも見られ遠くからでは形が似ているので区別ができませんでした。近づくと葉の硬さ・葉柄の細さ・葉柄下部の鱗片の色などで容易に区別できました。ナンゴクナライシダは飯能側でも普通に見られました。


ミサキカグマ

葉の大きさが50㎝程度の大きなミサキカグマ ミサキカグマ、最下羽片
ミサキカグマ(上左)
ミサキカグマ、最下羽片(上右)

ミサキカグマ、葉柄下部の鱗片は黒褐色で辺縁は淡くなる ミサキカグマ葉柄下部の鱗片は黒褐色で辺縁は淡くなる
ミサキカグマ、葉柄下部の鱗片(上左、上右)

ナンゴクナライシダ

谷部から山地上部まで、林内で普通に見られました。葉柄に鱗片が多く羽軸や小羽軸に微毛がある個体も見られホソバナライシダとの雑種(タカヤマナライシダ)の可能性があります。
ナンゴクナライシダ
ナンゴクナライシダ

リョウトウイタチシダ

乾燥気味の林内の尾根筋に生育していました。
リョウトウイタチシダ
リョウトウイタチシダ



飯能側で

林床で
沢の周辺の林床ではオオヒメワラビ、ミドリワラビ、シケチシダの仲間、イワガネゼンマイの仲間などが見られました。ミドリワラビは全て倒れていましたが、よく似たオオヒメワラビはまだまだ元気そうでした。両者が近く生えていたので比較して眺めることができ、区別点が分かりやすかったです。


ミドリワラビ

沢より少し上の林床でミドリワラビをまとまって観察することができました。遠目にはオオヒメワラビに似たボリュームのある大きさですがオオヒメワラビと異なり緑色が濃いシダです。葉の一部が黄ばんでいる個体もありもう少し遅かったらよい状態で観察できないかあるいは溶けて見つけられなかったかもしれません。
ミドリワラビ ミドリワラビ
ミドリワラビ(上左、上右)

ミドリワラビ(左)とオオヒメワラビ(右) ミドリワラビ、羽片(下)とオオヒメワラビの羽片(上) 
ミドリワラビとオオヒメワラビの葉身(上左)
ミドリワラビとオオヒメワラビの羽片(上左)

ミドリワラビ、羽軸の付け根の肉芽がある。
ミドリワラビ、羽軸の付け根の肉芽
 
ミドリワラビ、裂片には鋸歯がある ミドリワラビ、胞子のう群は楕円形~鈎型でやや中肋寄りにつく。
ミドリワラビ、小羽片(上左) 
ミドリワラビ、胞子のう群(上右)

シケチシダの仲間

チャートの谷沿いではシケチシダ、タカオシケチシダ、ハコネシケチシダを観察しました。

シケチシダ
シケチシダ 
シケチシダ

シケチシダ、中軸は無毛 シケチシダ、胞子のう群 
シケチシダ、中軸(上左)
シケチシダ、中軸および胞子のう群(上右)





タカオシケチシダ
外観はシケチシダと同じですが、中軸や羽軸裏側に毛が密生します。
タカオシケチシダ タカオシケチシダ、中軸は無毛 
タカオシケチシダ(上左)
タカオシケチシダ、中軸および胞子のう群(上右)





ハコネシケチシダ
ハコネシケチシダ、葉は3回羽状に分かれる。 ハコネシケチシダ、数本の葉をまとまってつける。 
ハコネシケチシダ(上左、上右)

ハコネシケチシダ、羽軸の分岐点の中軸上には肉芽がある。 
ハコネシケチシダ、中軸上の肉芽

ハコネシケチシダ、羽軸裏側は有毛、胞子のう群は細楕円形~楕円形。 ハコネシケチシダ、胞子のう群は細楕円形~楕円形。 
ハコネシケチシダ、胞子のう群(上左、上右)








ホソバイヌワラビ

岩場に周辺などウエットな林床に生育。黄緑色~鮮緑色の柔らかい葉を広げる。羽軸・小羽軸上の刺が特徴。
ウエットな沢沿いを好むホソバイヌワラビ。 ホソバイヌワラビ、羽軸・小羽軸上の刺。
ホソバイヌワラビ(左上) 
ホソバイヌワラビ、羽軸・小羽軸上の刺(上右)



渓谷の岩壁で

チャートは浸蝕に強いためか切り立った渓谷を形成します。岩壁にはイワイタチシダやイワハリガネワラビ、カタヒバ、コケシノブの仲間、シシランなどが着生し、岩壁の下、チャートの岩砕が厚く堆積すようなところや付近の崖にはフジシダ、ウスヒメワラビが群生していました。フジシダは初めてお目にかかりました。葉に光沢のある緑色の美しいシダでした。

シシラン

個体数は少なかったですがシシランも観察できました。岩壁やの木の幹の基部に着生していました。
シシラン 切り立った岩場に生育するシシラン
シシラン(上左、上右)






ホソバコケシノブ

コケシノブ科のホソバコケシノブ、コウヤコケシノブ、ウチワゴケなどがいたるところで見られました。今回は早足での観察会なので、これらの小さなシダをていねいに観察することはできませんでした。いろいろな環境のところにたくさん生育していましたので、いつかゆっくり観察してみたいと思いました。
コケシノブ コケシノブ、胞子のう群
ホソバコケシノブ(上左)
ホソバコケシノブ、胞子のう群(上右)

ウスヒメワラビ

旬の美しさは見られませんでしたが、一面に群生しているところもありよい季節にあらためて見てみたいと思います。
ウスヒメワラビ ウスヒメワラビの胞子のう群、包膜はない。
ウスヒメワラビ(上左)
ウスヒメワラビ、胞子のう群(上右)




イワハリガネワラビ

岩場やその周辺に生育
岩場に群生するイワハリガネワラビ イワハリガネワラビ 
イワハリガネワラビ(上左、上右)

イワハリガネワラビ、胞子のう群。 イワハリガネワラビ、包膜。
イワハリガネワラビ、胞子のう群(上左)
イワハリガネワラビ、包膜(上右)


フジシダ

チャートの岩屑が堆積したような斜面や岩壁に群生していた。単羽状・披針形・光沢のある緑色の葉をつけ、葉身の先端を長く伸ばしその先に無性芽をつけて繁殖する。
堆積した岩屑上に群生するフジシダ 切り立った岩壁面に群生するフジシダ
フジシダ(上左、上右)

フジシダ フジシダ フジシダ
フジシダ(上左)
フジシダ、無性芽(上中、上右)

フジシダ フジシダ
フジシダ、羽片(上左)
フジシダ、胞子のう群(上右)

おしまいに
だんだん日の暮れるのも早くなり、やや早足で見て回りました。留まってゆっくり観察する時間があまりとれませんでした。機会があればこの魅力的な渓谷を再び訪れたいと思います。