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観察会レポート/平成27年11月7日(土) 大雄山最乗寺周辺
箱根外輪山明神ヶ岳の北東の裾野に位置する大雄山の森を歩きました。大雄山最乗寺の森は樹齢を経たスギの大木からなる林が参道に沿って長く続き、シダの仲間を含め興味深い植物が数多く見られました。今回もいくつか興味深いシダを観察することができました。
タチクラマゴケ
・苔むした石垣や石造物にタチクラマゴケが生育していました。林床には広くクラマゴケが生育しています。2種類は住み分けています。タチクラマゴケは生育場所によって腹葉・背葉の2形を示さず同形の葉をつけて胞子のう穂を高く立ち上げることがありますが、ここ大雄山では胞子のう穂は明確ではなく、腹葉・背葉の2形で胞子のうをつけることがあります。ただ栄養葉と違って胞子のうをつけている枝の腹葉・背葉は中肋に対しシンメトリーです。
コヒロハハナヤスリ
同行の方に案内していただきコヒロハハナヤスリを観察することができました。石を埋め込んだテラスのようなところ、石の間から生育。個体数は多い。
コヒロハハナヤスリ
黄葉するコヒロハハナヤスリ(上左)
コヒロハハナヤスリ、栄養葉(上右)
葉の質の薄いオオハナワラビ似のハナワラビ
この森の中は冬でも暖かいためか常緑性(この季節まで昨年の栄養葉が完全な状態で残存)葉の質が薄く、葉の色は明るい鮮緑色、葉柄には毛が密に生える。栄養葉の中軸は羽片ごとにある程度折れ曲がり、下部の羽片の柄は長い。大木のスギは生育する林内、林縁に位置し林床はやや明るい。穏やかな丘陵地の上部に8株程度まとまって生育。以前大雄山で撮影したオオハナワラビ1・オオハナワラビ2と比較してご覧ください。
葉の質の薄いオオハナワラビ似のハナワラビの仲間(上左、上右)
葉の質の薄いオオハナワラビ似のハナワラビの仲間、中軸(上左、上右)
オオハナワラビとモトマチハナワラビの雑種?
・2m四方の範囲に5株ほどまとまって生育。どの株も羽片・裂片の幅が狭くオオハナワラビではないように見えます。モトマチハナワラビの血が入っている可能性があります。胞子葉はつけていませんでした。
オオハナワラビとモトマチハナワラビの雑種?標本1(上左)
オオハナワラビとモトマチハナワラビの雑種?標本1、羽片(上右)
オオハナワラビとモトマチハナワラビの雑種?標本2(上左)
オオハナワラビとモトマチハナワラビの雑種?標本3(上右)
マツバラン
ケヤキの大木の裏側でマツバランが元気よく育っていました。同行の方に案内していただきました。よくこんな木の裏側まで調べて見つけたものだと皆さんで感心されていました。
樹幹に着生するマツバラン(上左)
マツバラン、側枝(上右)
キヨスミコケシノブ
キヨスミコケシノブはよい状態で観察することができました。他では観察したことが無いのですがここ大雄山ではやや風通しのよい樹幹(地上部~3m)に生育するようです。コウヤコケシノブもよく見られますが道沿いの切り立った岩壁が多く樹幹では基部に見られることがあります。もっとウエットなところにはアオホラゴケも見られます。この3種の住み分けは大雄山の樹齢を経た巨木とそれらの樹木によって形づくられている森の空間が生み出しているように感じます。
キヨスミコケシノブ(上左、上右)
キヨスミコケシノブ、葉身(上左)
キヨスミコケシノブ、新芽の毛(上右)
オオバノイノモトソウ(硬葉type)オオバノヌマズイノモトソウ(仮称)
・苔むした石積みの間からオオバノヌマズイノモトソウ(マツザカシダとオオバノイノモトソウの雑種の可能性がありますが、斑入りのオオバノイノモトソウということも考えられます。)が生育。以前から大雄山周辺ではオオバノイノモトソウ(硬葉type)オオバノヌマズイノモトソウ(仮称)の幼株が見つかっていたが、今回は成株でした。葉の質は非常に硬く、側羽片は4~5対あり、春に出た葉には羽片の中肋に沿って斑が入っていましたが、夏以降に出た葉では斑は不明瞭でした。大きな株でしたが胞子葉はつけてません。すぐ近くではマツザカシダの幼株が生育していました。
オオバノイノモトソウ(硬葉type)オオバノヌマズイノモトソウ(仮称)(上左)
石垣に生育するオオバノイノモトソウ(硬葉type)オオバノヌマズイノモトソウ(仮称)(上右)
オオバノアマクサシダ
・渓谷沿いでは2m近い葉を広げるオオバノハチジョウシダがよく見られます。その中で、数は少ないですが2か所でオオバノアマクサシダが観察されました。オオバノアマクサシダはオオバノハチジョウシダの幼形成熟個体と言われ、オオバノハチジョウシダの幼株のような形態を持ちながら胞子のう群をつける成株です。典型的なオオバノアマクサシダからオオバノハチジョウシダに非常によく似たオオバノアマクサシダまで見られます。
オオバノアマクサシダ(上左、上右)
ホソバイヌワラビ
・川沿いの支流のウエットな源流部ではホソバイヌワラビやタカオシケチシダ、ヘラシダなどが生育していました。2段のオオカサゴケも見られました。
ホソバイヌワラビ(上左)
ホソバイヌワラビ、小羽軸上の刺(上右)
ヘラシダ
ヒカゲワラビ
・ヒカゲワラビは渓谷沿いで観察しました。皆さんで歩いていたのですが、あたりにはヒメワラビやミドリヒメワラビが多く、最初はヒメワラビと間違えて見過ごしてしまいました。帰り道ようやく観察することができました。
ヒカゲワラビ
最下羽片の柄が長いヒカゲワラビ(上左)
ヒカゲワラビ、胞子のう群(上右)
オオキヨズミシダ
・スギ林内を流れる沢沿いの切り立った崖に生育。確認できた株は少なく2~3株程度。
溶岩や火山泥流などでできた崖に生育するオオキヨズミシダ (上左)
オオキヨズミシダ 、羽片(上右)
オオキヨズミシダ 、羽片裏側(上右)
オオクジャクシダ
・沢沿いではあるが沢より少し上の樹齢を経たスギ林林床ではオオクジャクシダが生育。正確に数は数えていないが、見渡した感じでは10株程度がややまとまって生育。
オオクジャクシダ
オオクジャクシダ、葉柄基部の鱗片(上左)
オオクジャクシダ、羽片表面(上右)
イワヘゴ
・谷部を横切る林道沿いで上部を樹冠に覆われた林道脇でイワヘゴが5株ほどまとまって生育していた。
イワヘゴ(上左)
イワヘゴ、葉柄基部の鱗片(上右)
メヤブソテツ
上部をスギなどの樹冠に覆われたウエットな石組みの間でメヤブソテツを観察しました。
メヤブソテツ
最下羽片の柄が長いヒカゲワラビ(上左)
メヤブソテツ、胞子のう群(上右)
キノクニベニシダ
・渓谷に沿った谷ではキノクニベニシダがまとまって生育する谷筋がありました。谷筋からやや上に上がった林床斜面ではナガバノイタチシダがまとまって生育しているのですが今回は再確認できませんでした。
キノクニベニシダ(上左)
キノクニベニシダ、葉身(上右)
オオカサゴケ
今回、同行の方から、大雄山では過去にコタニワタリやサジランも確認されているということを伺いました。また、次回歩く時には何が見つかるか楽しみにしたいと思います。