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観察会レポート/平成27年12月5日(土) 小網代の森および海岸岩壁周辺

小網代湾から眺める富士山 小網代の森ほか

三浦半島の南端を歩きました。半島南部の中央は台地状でそこから海に向けて川の浸食で谷が形成され、下部では細長い谷戸が形成されています。浸蝕斜面は開発を免れ照葉樹が生い茂っています。谷戸に沿った湿地ではいろいろな湿生植物が生育しています。
海岸線は小規模な砂浜とその端には海に突き出したむき出しの岩場あるいは照葉樹の魚つき林を抱えた岩場などでできています。





スギナの仲間
谷戸に沿って広がる湿地でスギナ、フォーリースギナ(スギナ×イヌスギナ)を観察しました。木道沿いではスギナがいたるところ群生していましたが、湿地の一部ではフォーリースギナを観察しました。観察されたフォーリースギナの大きさは地上部は30㎝程度、側枝の第2袴は主茎の袴と同長のものが多いがやや長いものから短いものまで見られた。茎の表面はスギナのように白粉がついた感じである。

フォーリースギナ(スギナ×イヌスギナ)

フォーリースギナ 小網代の森ほか 湿地に小群落で生育するフォーリースギナ。小網代の森ほか
フォーリースギナ(上左)
湿地に小群落で生育するフォーリースギナ(上右)

フォーリースギナ 小網代の森ほか フォーリースギナ 小網代の森ほか 
フォーリースギナ、主茎および側枝(上左、上右)

フォーリースギナ 小網代の森ほか フォーリースギナ 小網代の森ほか フォーリースギナ 小網代の森ほか
フォーリースギナ、主茎袴部(上左、上中、上右)





ハナワラビの仲間
ハナワラビの仲間はいろいろな個体が見られました。谷戸の奥の照葉樹林の林床ではフユノハナワラビと全体がライム色でやわらかな葉質のハナワラビが見られました。谷戸の底部上部が樹冠に覆われた明るい林床では裂片に鋭い鋸歯を持つオオハナワラビ似のハナワラビが群生していました。

フユノハナワラビ

フユノハナワラビ。小網代の森ほか フユノハナワラビ、栄養葉。小網代の森ほか
フユノハナワラビ(上左)
フユノハナワラビ、栄養葉(上右)




ライム色のフユノハナワラビ

フユノハナワラビの近くで見られました。大きな株でしたが胞子葉はつけていませんでした。
ライム色のフユノハナワラビ。小網代の森ほか
ライム色のフユノハナワラビ

ライム色のフユノハナワラビ。小網代の森ほか
ライム色のフユノハナワラビ




コアジロハナワラビ(仮称)小羽片が鋭く切れ込む常緑のハナワラビの仲間 2016年7月26日訂正

海から奥に伸びる谷戸の奥、高い樹冠に覆われた明るい湿地林床に50株以上が1箇所に群生していました。裂片はオオハナワラビに比べ激しく切れ込み鋭尖頭、胞子は正常であった。モトマチハナワラビに似るが裂片の幅はそれほど狭くない。
コアジロハナワラビ、裂片の辺縁は激しく切れ込む。小網代の森ほか 


コアジロハナワラビ、裂片の辺縁は激しく切れ込む。小網代の森ほか
羽片および小羽片


コアジロハナワラビ、胞子は一部が凹状の背の高い饅頭形。小網代の森ほか コアジロハナワラビ、胞子は充実していて形は全てそろっている。小網代の森ほか
胞子





イワガネゼンマイの仲間
イワガネゼンマイの仲間はイワガネゼンマイ、イワガネソウ、ウラゲイワガネ、キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)などが見られました。

ウラゲイワガネ

ウラゲイワガネ 小網代の森ほか
ウラゲイワガネ

ウラゲイワガネ、羽片裏側には毛がある。 小網代の森ほか
ウラゲイワガネ、胞子のう群と羽片裏側の毛





キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネか?

キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)と思われるが、イワガネソウの有毛typeということも考えられる。葉の裏側には細かい毛が立ち上がらず貼りつく感じでついていた。葉脈は網目状一部平行脈、脈の末端は鋸歯内まで届かず、羽片辺縁はなめらかではなく不規則な鋸歯が目立つ。胞子のう群は辺縁近くまでつく。イワガネソウに有毛のtypeがあるのかもしれない。
キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ 小網代の森ほか
キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ

キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ、一部の羽片の辺縁には不規則な鋸歯が見られる。小網代の森ほか キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ、葉脈。小網代の森ほか
キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ、羽片(上左)
キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ、葉脈(上右)

葉の裏側には葉面にやや貼りつくような毛が生えていた。小網代の森ほか 葉の裏側には葉面にやや貼りつくような毛が生えていた。小網代の森ほか
キソイヌイワガネソウ(ウラゲイワガネ×イワガネソウ)かあるいはウラゲイワガネ、葉裏側の毛(上左、上右)





イノモトソウの仲間
海岸近くの道沿いの低い崖や石垣ではオオバノイノモトソウやイノモトソウ、マツザカシダ、ホウライシダやミツデウラボシ、マメヅタ、トラノオシダ、コバノヒノキシダなどが見られました。




マツザカシダ

マツザカシダ 小網代の森ほか オオバノイノモトソウと共に生育するマツザカシダ 小網代の森ほか
マツザカシダ(上左)
オオバノイノモトソウと共に生育するマツザカシダ(上右)

マツザカシダ、葉脈は辺縁に達する。小網代の森ほか オオバノイノモトソウ、葉脈は辺縁に達する。小網代の森ほか
マツザカシダ、葉脈(上左)
オオバノイノモトソウ、葉脈(上右)





シケシダの仲間
シケシダ・フモトシケシダを思われる個体を観察しました。この季節、生態の写真だけしか撮影できませんでした。木道から降りることができればもっといろいろな種類を見ることができると思いますが、小網代の森では難しいです。

シケシダ

シケシダ 小網代の森ほか




フモトシケシダ

フモトシケシダ 小網代の森ほか





ヤブソテツの仲間
海につながる谷の中の森ではテリハヤブソテツ、ツヤナシヤマヤブソテツ、ナガバヤブソテツ、マムシオニヤブソテツ(ナガバヤブソテツ×ツヤナシヤマヤブソテツ)などが見られました。海岸に近い森(魚つき林)や岩場ではオニヤブソテツ、ヒメオニヤブソテツ、ナガバヤブソテツが見られました。海のそばではオニヤブソテツにくらべるとナガバヤブソテツは山寄りに生育していますが海岸い近い森では境界線では混生しています。
それに対しヒメオニヤブソテツは他のヤブソテツ類が連続的に生えていないところ、海に面した周りから独立して岩場や崖などに生育しています。他の地域でも同様なことが見られますが、他のヤブソテツ類が近づけない(生育できない)ところでしかヒメオニヤブソテツは生育していないように見えます。他のヤブソテツの仲間が生育しているところでヒメオニヤブソテツが観察されない理由としては、他のヤブソテツの仲間が生育しているところではすぐに雑種がをつくることも考えられますし、雑種を含め他のヤブソテツの仲間はヒメオニヤブソテツにくらべ非常に大きく優勢なため貧弱なヒメオニヤブソテツはすぐに絶えてしまうように思えます。
今回、同じ海岸でも少し異なる場所でオニヤブソテツの矮性化した個体がいくつか見られました。これらの個体群はヒメオニヤブソテツ同様波しぶきがかかるような岩場で見られましたが、異なるところは生育環境で、生育している岩壁のすぐ上には魚つき林の森があり林内には大きなオニヤブソテツが群生していて胞子の供給が行われやすいところです。




マムシヤブソテツ(ナガバヤブソテツ×ツヤナシヤマヤブソテツ)と推測される

葉の質は革質でナガバヤブソテツ似、光沢がやや乏しい点や耳垂が発達するところはツヤナシヤマヤブソテツ似と言えます。今回包膜を良い状態で観察できませんでしたが、中心が黒褐色を帯びるかどうか興味があります。
マムシヤブソテツ 小網代の森ほか
マムシヤブソテツ

葉身下部の羽片には鋸歯が目立つ。小網代の森ほか 葉の質は革質、艶はやや弱く、耳垂がつく。小網代の森ほか
マムシヤブソテツ、葉身下部の羽片(上左)
マムシヤブソテツ、羽片(上右)




オニヤブソテツとナガバヤブソテツ

海に面した魚つき林ではオニヤブソテツとナガバヤブソテツが生育しており、森の中ではナガバヤブソテツが、海岸近くではオニヤブソテツがそれぞれ優勢です。境界線では両種が混生しています。
オニヤブソテツ(中央左と中央下)とナガバヤブソテツ(中央右)小網代の森ほか
混生するオニヤブソテツとナガバヤブソテツ

葉身基部の羽片以外は羽片基部が幅の広い楔形となるナガバヤブソテツ。小網代の森ほか 羽片の基部が心臓形~円形になるオニヤブソテツ。小網代の森ほか
ナガバヤブソテツ(上左)
オニヤブソテツ(上右)

羽片基部が幅の広い楔形で辺縁は全縁でなめらかなナガバヤブソテツ。右から伸びる葉はオニヤブソテツ 羽片の基部が心臓形、辺縁には鋸歯があるオニヤブソテツ。小網代の森ほか
ナガバヤブソテツ、羽片(上左)
オニヤブソテツ、羽片(上右)





海岸波しぶきがかかるところに生育する矮性化したオニヤブソテツ

魚つき林直下、海からほぼ垂直に切り立った岩壁に生育していました。葉身の大きさ12~15㎝。葉の質は厚く硬い。上部の魚つき林林床にはオニヤブソテツやナガバヤブソテツが群生しています。
矮性化したオニヤブソテツ 小網代の森ほか
矮性化したオニヤブソテツ

矮性化したオニヤブソテツ、葉身裏側。小網代の森ほか 矮性化したオニヤブソテツ、包膜の中心は栗色~黒褐色。小網代の森ほか
矮性化したオニヤブソテツ、葉身裏側
矮性化したオニヤブソテツ、包膜





ヒメオニヤブソテツ

波しぶきがかかったり潮風が吹き付けるところ、他のヤブソテツ類から隔絶したところ、生育地の周辺にはスゲ類や他の塩性植物しか生育していない環境に生育(少数ずつ群生)しています。今回観察した個体の多くには葉の表面に白く塩分がこびりついていました。葉身の大きさは小さく6㎝~15㎝、葉は厚く硬い。側羽片は4~6対で、羽片の大きさは1~2㎝。羽片辺縁は波打ち平面的ではない。辺縁はところどころで切れ込むなどガタガタしている。包膜は白色。他のオニヤブソテツ類とは羽片の形や大きさおよび包膜の色で区別は容易。
ところで、八丈島で観察したオニヤブソテツの仲間には巨大なヒメオニヤブソテツ?と名前を付けましたが見た目は本土のヒメオニヤブソテツとは全く異なります。包膜が白いところだけが同じです。

ヒメオニヤブソテツ 小網代の森ほか
ヒメオニヤブソテツ

ヒメオニヤブソテツ、葉身。小網代の森ほか ヒメオニヤブソテツ、葉の表面に塩が付着している。小網代の森ほか
ヒメオニヤブソテツ、葉身(上左)
ヒメオニヤブソテツ、塩が付着した葉(上右)

ヒメオニヤブソテツ、胞子のう群 小網代の森ほか ヒメオニヤブソテツ、包膜は白い。小網代の森ほか
ヒメオニヤブソテツ、胞子のう群(上左)
ヒメオニヤブソテツ、包膜(上右)





イノデの仲間
イノデの仲間はアスカイノデ、ミウライノデ(イノデ×アスカイノデ)の2種類が観察されました。イノデの仲間の個体数は多かったのですがこの2種類以外は見つけることができませんでした。





ベニシダやオオイタチシダの仲間
ベニシダ、トウゴクシダ、オオベニシダ、イタチベニシダ(ベニオオイタチシダtype)、オオイタチシダ(オアツバtype、ツヤナシtype、アオニtype)などが見られました。
オオイタチシダ(ツヤナシtype)海岸近くに迫る森の林縁の崖に生育。小網代の森ほか
オオイタチシダ(ツヤナシtype)

オオイタチシダ(ツヤナシtype)羽片。小網代の森ほか
オオイタチシダ(ツヤナシtype)、羽片





ウラボシの仲間
照葉樹の樹幹や石垣などにマメヅタ、ノキシノブ、ミツデウラボシなどが見られました。





おしまいに
小網代の森は木道が整備されていて歩きやすかったです。が、近づいて手に取って観察することができないところも多く、もう少し近づいてシダを観察できればよかったと思いました。生育しているシダの種類については詳しく調べることはできませんでしたが、自然環境ががそのまま残されていることはなによりなことだと思いました。
三浦半島南部から眺める夕日 小網代の森ほか