Top / 観察会レポート / 平成27年9月19日(土)奥多摩日原稲村岩周辺
稲村岩の「石灰岩の痩せ尾根植物群」
鷹巣山と稲村岩の分岐から稲村岩の山頂にかけては石灰岩の岩肌がむき出しの険しい登りになります。(鷹巣山方面も大変険しい山道とのこと同行の方から伺いました)
痩せ尾根の植物群落はどこでも魅力的な植物が数多く見られますが、石灰岩という条件が加わりさらに興味深い植生を観察することができました。
石灰岩の岩峰で見られたシダ
ツルデンダ、クモノスシダ、ヤマクラマゴケ、イワヒバ、シノブ、フクロシダなどを観察しました。
シノブ
クモノスシダ
ヤマクラマゴケ
栄養葉の腹葉と背葉はややゆがんだ卵形で込み合ってつける。腹葉の大きさは2㎜前後。葉の辺縁には鋸歯があり、先端は鋭く尖る。一見タチクラマゴケに見えるが、タチクラマゴケのように胞子のうを抱えた葉をまばらにつけた枝を高く立ち上げることは無い(タチクラマゴケは明瞭な胞子のう穂を形成しない)。ヤマクラマゴケは少しわかりにくいが胞子のう穂を形成。ヤマクラマゴケの胞子のう穂は側枝の先に葉を非常に込み合ってつけ、腹葉・背葉の2形をなし、腹葉・背葉の形は左右対称となり、込み合ってつけた各葉の脇に胞子のう抱える。胞子のう穂の下部の腹葉は大きく発達する。
ヤマクラマゴケ(上左、上右)
ヤマクラマゴケ、葉の辺縁の鋸歯(上左)
ヤマクラマゴケ、左は栄養葉、右は胞のう穂(上右)
ヤマクラマゴケ、胞子のう穂表側(上左)
ヤマクラマゴケ、胞子のう穂裏側(上右)
石灰岩地帯の岩場で見られたシダ
稲村岩の下部の岩壁や山麓の岩場では、ツルデンダ、クモノスシダ、イワトラノオなどの小形のシダと双眼鏡でしか確認できない近づき難い岩場ではトキワシダやキンモウワラビ・シシラン・イワヒバ・カタヒバなども見られました。
山頂に至るまでの夏緑広葉樹林の林は山腹の植林地にくらべると林床は明るく岩場では
そのほかイワハリガネワラビ、ミヤマクマワラビ、ミヤマイタチシダ、ハコネシダ、イワイタチシダ、コウヤコケシノブ、ホソバコケシノブ、ヒメコケシノブなどが見られました。
岩峰下部、樹林内のウエットな石灰岩の岩壁
ヒメコケシノブ
山地上部、夏緑広葉樹林が広がる急な斜面、林床にはところどころ岩が露出しヒメコケシノブやホソバコケシノブが群生していました。
ヒメコケシノブ(上左、上右)
ヒメコケシノブ、葉身(上左)
ヒメコケシノブ、胞子のう群(上右)
コウヤコケシノブ
河原の巨大な転石の切り立った岩壁、上部が樹冠に覆われているが風通しがよく乾燥気味の環境に生育していた。
コウヤコケシノブ(上左、上右)
イワイタチシダ
葉柄や中軸の鱗片の付き方を確認できませんでしたのでイヌイワイタチシダの可能性もあります。
イワイタチシダ
イワハリガネワラビ
イワハリガネワラビ、胞子のう群(上左)
イワハリガネワラビ、包膜(上右)
稲村岩山麓~中腹の林床で見られたシダ
日原の集落から、稲村岩と鷹巣山の山麓までのみちはほぼ樹林帯でオウレンシダが主なシダでウエットな渓谷沿いの岩が露出した林床には光沢のある葉をつけたテリハヤマヤブソテツがちらほら見られました。もともとオウレンシダは冷涼な気候あるいはやや高地へ行くと普通種ですがこんなにたくさん生えているところはあまり見ないように思います。地質との関係も考えられるのかと思いました。
オウレンシダ、オオバノイノモトソウ、ミサキカグマ、オクマワラビ、ツヤナシイノデ、ヤマイタチシダ、オオヒメワラビ、テリハヤマヤブソテツ、テリハヤブソテツ、ツヤナシヤマヤブソテツ、チチブイワガネ、ヌリワラビ、キヨタキシダ、ナツノハナワラビ、サクライカグマ、イワノキシノブ、カラクサシダ、ウチワゴケ
クロノキシノブ山地性のノキシノブか イワノキシノブ(ノキシノブ4倍体)
[※当時はまだクロノキシノブという名前が一般化していなかったためか「山地性のノキシノブ」という表現になってしまいました。2022年4月15日
川の近くのスギ林内の苔むした岩上に生育していました。葉の大きさは15~25㎝、葉の表面にはやや光沢があり厚く硬い。葉は平よりもやや扇形で中軸を中心として左右に葉を広げる。葉の辺縁は巻かない。黒褐色~赤褐色の鱗片に密に覆われた根茎からやや間隔をあけて葉をつける。分かりにくいが写真左下にはヒメノキシノブが生育しておりヒメノキシノブとミヤマノキシノブの雑種の可能性も考えられます。
山地性のノキシノブかイワノキシノブ(上左)
山地性のノキシノブかイワノキシノブ、胞子のう群(上右)
イワノキシノブ、根茎(上左、上右)
カラクサシダ
水は流れていませんが谷筋のウエットな林内の苔むした大きな転石上に群生していました。
カラクサシダ(上左)
カラクサシダ、胞子のう群(上右)
チチブイワガネ
チチブイワガネ、葉の表側(上左)
チチブイワガネ、葉の裏側(上右)
テリハヤマヤブソテツ
イワトラノオ
オオヒメワラビ
ミサキカグマか、あるいはサクライカグマか
小さな個体で葉身の幅および長さは10㎝程度でしたが胞子のう群をつけていました。河原の石灰岩の転石に生育していました。
サクライカグマ(上左)
サクライカグマ、胞子のう群(上右)
麓の集落や畑の周辺・林縁や石垣で見られたシダ
日原の集落を歩くと「万寿の水」と命名されたおいしい水がのめる水飲み場があります。古い説明を読むとこの一帯は地質が石灰岩のためか飲料水となる水が乏しく明治になってやっと日原川の対岸の沢からわざわざ飲料水を引いたとのことが書かれていました。日本ではこのようなところは他にはないのではないかと思います。道路沿いの石垣や岩壁も石灰岩からできているようでした。
ナガホノナツノハナワラビ、クラマゴケ、セフリイノモトソウ、アイトキワトラノオ、コバノヒノキシダ、ヒメウラジロ、イワオモダカ、テリハヤブソテツ
イワオモダカ
石垣に数か所にわたり見られました。イワオモダカは植栽されたものではありませんが、近くの民家の庭先で栽培されたものから胞子が飛んで繁殖したものと考えられます。本来の生育場所はもっと深い山中の岩壁ではないかと思います。
イワオモダカ
クラマゴケ
林縁の石灰岩の石垣の周りで見られました。側枝の先に特徴的な胞子のう穂を立ち上げていました。
クラマゴケ(上左)
クラマゴケ、胞子のう穂(上右)
アイトキワトラノオ
葉の厚さなどトキワトラノオのようにも見えますが、葉身の幅が広いものも見られアイトキワトラノオとします。
アイトキワトラノオ(上左)
アイトキワトラノオ、最下羽片(上右)
ヒメウラジロ
どういうわけか民家の石垣など人工物の岩の間を好むようです。
ヒメウラジロ(上左)
ヒメウラジロ、胞子のう群は(上右)
中軸に翼を形成するオオバノイノモトソウかアイイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ) セフリイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ) [#e01017ac]
渓谷沿いの陽当たりのよい人家の周辺の石垣に生育していました。この個体セフリイノモトソウの周りにはオオバイノモトソウが生え、同じ石垣ではありませんが近くではイノモトソウも観察されました。
中軸に翼を形成するオオバノイノモトソウかアイイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ) セフリイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ) 、羽軸の基部の翼(上左)
中軸に翼を形成するオオバノイノモトソウかアイイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ) セフリイノモトソウ(イノモトソウ×オオバノイノモトソウ) (上右)2019年10月12日訂正
石灰岩の岩壁で見られた種子植物(草本)
石灰岩の岩峰では土壌と呼べるものは乏しく岩のすき間に植物が根を張り生育している状態です。草本類ではこの時期、花の少ない季節ですが、いろいろ美しい花を観察することができました。珍しい山野草の葉やツツジの仲間もいろいろ見られたので、きっと春ならばもっと美しいのではないかと思いました。
チシマゼキショウ、シュロソウ、ウラハグサ、マメヅタラン、コウシュウヒゴタイ、イカリソウ、キヌタソウ、ナガバノコウヤボウキ、華奢なシロヨメナの仲間、イワギボシ、ギンリョウソウモドキ、ダイモンジソウ
華奢なシロヨメナの仲間
茎は葉ごとに折れ曲がり、葉には5~6の粗い鋸歯があり先端は尖り、葉柄は無い。頭花は茎の先に1~2個つけ、舌状花は6~7枚つける。毛の有無は拡大画像を撮らなかったので不明。
華奢なシロヨメナ(上左)
華奢なシロヨメナ、頭花(上右)
ギンリョウソウモドキ
チシマゼキショウ
ダイモンジソウ
キヌタソウ
コウシュウヒゴタイ
石灰岩地帯を好むそうです。
コウシュウヒゴタイ(上左、上右)
イワギボシ
葉柄には紫色の斑点が見られます。花は美しい藤色です。
イワギボシ
イワギボシ、花
マメヅタラン
オケラ
オケラ(上左、上右)
石灰岩の岩壁で見られた種子植物(木本)
石灰岩の岩峰では野生のヒノキ、ネズなどの針葉樹、チチブミネバリなどのカンバの仲間、オオウラジロノキやヤマザクラの仲間などがまず目につき、次にツツジの仲間やツゲなどの灌木類が岩に貼りつくように生育しています。
メギ、ミズナラ、ヤマグルマ、ヤマボウシ、オオウラジロノキ、チチブミネバリ、ツゲ、アブラツツジ、トウゴクミツバツツジ、アワブキ、ネズ、ツクバネ
ツクバネ
黄緑色の柔らかい葉をつけます。付近には宿主であるヒノキやネズが生えていました。
ツクバネ(上左)
ツクバネ、実(上右)
ミズナラナラガシワ
※訂正しました。2022年4月16日
木は灌木状で枝先にドングリをつける。
(1)(2)ミズナラナラガシワ
枝の先端にだけ花をつけるナガバノコウヤボウキ
石灰岩地で栄養分が乏しいためでしょうか、コウヤボウキのように枝の先端にしか花をつけていませんでした。花をつけている枝は2年枝のようです。
枝の先端に花をつけるナガバノコウヤボウキ(上左、上右)
ツゲ
オオウラジロノキ
同行の方が岩壁の下で拾った実です。たべられるそうです。
オオウラジロノキ、果実
稲村岩麓の林床で見られた種子植物
オクモミジハグマ
夏緑広葉樹林の急な林床斜面に生育。同行の方に名前を教えていただきました。きれいな舌状花です。
イワニンジン
同行の方から、イワニンジンはフォッサマグナの周辺に生育する「フォッサマクナ要素の植物」と教えていただきました。
イワニンジン
ヤマミズ
ヒメシノブゴケ
ハミズゴケ
杏子色のキノコ(ニカワジョウゴタケ)
ベニチャワンタケモドキ
ホウキタケの仲間
石灰岩の岩峰に生育
ホウキタケの仲間
おしまいに
今回は秋に見られる草花も紹介しましたが、春の若葉や花の頃もきっといろいろな興味深い植物が見られることと思います。