Top / 観察会レポート / 平成28年1月9日(土)小田原西部久野-三竹周辺その1
1月9日久野~三竹にかけて歩きました。天気が良く、この季節にしては心地よくシダを見て回ることができました。
イノデの仲間
南に開けた緩やかなスギ植林地ではイノデ類がよく生育していましたやはり雑種のほうが多いように思えました。ドウリョウイノデ、オオタニイノデ、ミウライノデ、アイアスカイノデ、イノデなどが見られました。アスカイノデは確認できませんでした。
カナワラビの仲間
ハカタシダ、オオカナワラビ、オニカナワラビ、ヤマグチカナワラビ(ミドリカナワラビ×オオカナワラビ)が見られました。そのほか、地域のフィールドで見た看板には一つの山の山頂部斜面にホソバカナワラビが群生が見られると記されていました。
ミドリカナワラビとオオカナワラビの雑種と推定されるヤマグチカナワラビは南向きの谷部に開けた杉林で、平坦な林床にイノデ類と共に生育していました。同行の方から教えていただきましたが、注意して観察しないとちょっと変わったオオカナワラビとして通り過ぎるところでした。観察地の付近ではオオカナワラビは確認できましたが、ミドリカナワラビは見つけることができませんでした。発見された方からは、両親が見つかっていないし胞子を正確に調べてみない限り断定は難しとのことでした。
大形のオオカナワラビかヤマグチカナワラビか(ミドリカナワラビ×オオカナワラビ)
特徴:2m四方のところに10株程度生育。1本づつ間隔をあけて茎を立ち上げる。葉柄・中軸は緑色。観察された個体の大きさは50~90㎝。葉の質は厚いが柔らかく、鮮緑色~濃緑色。7~8対の羽片と頂羽片ともつ。下部の第1~2の羽片では基部下側の1~2の小羽片はよく発達する。羽片基部の小羽片が一番大きく以降はやや小さい。胞子のう群は小羽片の前側および後ろ側の辺縁寄りにつく。オオカナワラビに比べると以下の点が異なる。
①オオカナワラビにくらべ間隔をあけて葉をつける。②オオカナワラビにくらべ羽片基部下側小羽片がよく発達し上のほうの羽片までつく。③オオカナワラビにくらべ上部の羽片にくらべ下部の羽片は大きく葉の形は三角形に近づく。④オオカナワラビの葉身は平面的であるが、羽片や小羽片は平面的ではなくやや巻き込んだり波打ったりする。⑤オオカナワラビよりも葉の質は厚みがあるわりに柔らかい。⑥オオカナワラビの小羽片は大きさはほぼ一定であるが、中間や先端の小羽片にくらべ基部のものほど大きい。⑦オオカナワラビにくらべ胞子のう群は大きいものと小さいものがあり大きさが不均一。
大形のオオカナワラビかヤマグチカナワラビか、葉身(上左)
大形のオオカナワラビかヤマグチカナワラビか、下部羽片(上右)
オニカナワラビ
オシダ属の仲間
ナガバノイタチシダ
谷戸の奥のスギ林最上部の段に群生。およそ10m四方。点在しながら(間隔を置きながら)10~15株まとまって生育。
ナガバノイタチシダ
ナガバノイタチシダ、最下羽片
ヒメイタチシダ
上部をスギやヒノキの樹幹に覆われた山地中~上部の林道脇、側面の崖(傾斜のきつい土手)に4株生育。
ヒメイタチシダ
エンシュウベニシダあるいはマルバベニシダ
鱗片が濃褐色・葉は濃緑色・基部小羽片の幅が広く、辺縁の切れ込みが目立つ。
丘陵地上部やや乾燥気味のヒノキ林林床に1株生育しているのを確認。その場ではマルバベニシダかエンシュウベニシダか判断ができず、見つけられた方が1月10日、シダの会室内会に持参され、マルバベニシダということになりました。
エンシュウベニシダあるいはマルバベニシダ
エンシュウベニシダあるいはマルバベニシダ 、葉柄基部の鱗片(上左、上右)
エンシュウベニシダあるいはマルバベニシダ 、下部羽片(上左)
エンシュウベニシダあるいはマルバベニシダ 、羽片(上右)
エンシュウベニシダあるいはマルバベニシダ 、胞子のう群(上左、上右)
キノクニベニシダ
イノモトソウの仲間
オオバノハチジョウシダ、オオバノアマクサシダ、ハチジョウシダモドキ、イノモトソウ、オオバノイノモトソウ、マツザカシダなどが見られました。
ハチジョウシダの仲間は本土では初めて観察することができました。胞子のう群をつけない個体は中軸がほとんどなく各右辺の幅が広い個体で付近では10株程度見られました。近くで葉の辺縁に胞子のう群つけた中軸のある大きな個体(葉の大きさは40㎝)も見られました。
オオバノアマクサシダ
オオバノアマクサシダもオオバノハチジョウシダと混生するようにして観察されました。オオバノアマクサシダの近くでは白い斑の入った幼株がよく観察され、オオバノアマクサシダの幼株には間違いないと考えられます。ただしオオバノハチジョウシダの幼株がどのようなものか確認できていません。オオバノハチジョウシダの幼株にも白い斑が入っているかもしれません。
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オオバノアマクサシダ
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オオバノアマクサシダ、幼株
アイコハチジョウシダコハチジョウシダ(ハチジョウシダモドキ)
谷筋の樹齢を経たスギ植林地林床他のシダ植物が繁茂する中でともに生育。胞子をつけた個体は他の林床植生と同じ大きさであるが、小さな株は他の植物をかき分けてやっと見つかるといった具合である。観察さてた谷では5m四方の範囲に10株程度確認。そのうち胞子のう群をつけたものは2株。ていねいに探せばもっとたくさん生育していると思われる。特徴:葉の大きさは35~45㎝、やや軸折れ(幼株では軸折れが明確)が確認でき、葉の質はハチジョウシダよりも薄くやわらかい。側羽片はやや斜上してつけ、羽片基部は広いくさび型、小羽片基部の葉脈は羽軸から直接出たりでない場合もある。中軸の先及び羽軸にはとげが目立つ。
アイコハチジョウシダコハチジョウシダ(ハチジョウシダモドキ)
アイコハチジョウシダコハチジョウシダ(ハチジョウシダモドキ)
アイコハチジョウシダコハチジョウシダ(ハチジョウシダモドキ)、胞子のう群(上左)
アイコハチジョウシダコハチジョウシダ(ハチジョウシダモドキ)、小羽片基部の葉脈(上右)
フモトシダの仲間
フモトシダ、ケブカフモトシダ、フモトカグマ、ウスバイシカグマを観察することができました。
ウスバイシカグマに非常によく似たシダ
丘陵地上部、やや乾燥気味のヒノキ林林床に生育。ウスバイシカグマに似たシダは大きな株で葉の大きさは80~90㎝あり、葉身の幅は30~40㎝、長楕円形。羽片の幅も広く7~8㎝。最初、発見された方に見せていただいたときは、艶は乏しいですがリョウメンシダ見えました。裏返してポケット状の包膜を見てはじめてフモトシダの仲間であることが分かりました。こんなに葉身や羽片の幅が広いフモトシダの仲間は今まで見たことがありませんでした。ウスバイシカグマだとすれば今まで観察されている分布域とは大きく異なるので興味深いことです。
なお、1月10日のシダの会室内会で同定していただいた結果は「ウスバイシカグマに似ている点もあり、もしかすると外来品かも知れないが、葉の切れ込み具合と胞子嚢群が辺縁に近いことから、現段階ではイシカグマにせざるを得ない」とのご回答をいただいています。
イシカグマとの相違点を明確にするために高知県室戸市・四万十市・八丈島・屋久島の4地点のイシカグマの画像も掲載いたします。
ウスバイシカグマに非常によく似たシダ特徴は以下の通りです。イシカグマと異なるところについては相違点を比較して記載します。
①葉身や羽片の幅が広く卵状長楕円形。葉身先端は徐々に細くなるが長く伸びることは無い。(イシカグマの中には幅の広い個体も見られるが一般的には葉身や羽片の幅は狭く披針形。葉身先端は細くなり先端は穂状に細く伸びる個体も多い)
②イシカグマにくらべ葉の質は薄く柔らかい。(イシカグマの葉は硬い)
③葉の表側葉脈上にはやや長い毛が生え、光沢が乏しくなる。(イシカグマの表側はほとんど無毛で独特の強い光沢がある)
④小羽片は有柄。羽軸に沿って両側に隙間ができる。(イシカグマの小羽片の柄は非常に短く、羽軸似沿っては隙間はほとんど無い場合が多い)
⑤羽片は3回羽状に分かれる。下部羽片3回羽複生状。上に行くに従い3回羽状深裂。(イシカグマは葉身や羽片の広い個体でも羽片の下部だけ3回羽状、以降先端まではほとんど2回羽状複生となる)
⑥胞子のう群の位置はやや内側につく。(イシカグマは辺縁に接するようにつく)
⑦葉脈は辺縁まで達しない。(イシカグマは辺縁まで達する)
⑧根茎の毛は地中にあるため確認できないが新芽の鱗片・毛は濃い褐色。(根茎の毛はイシカグマは明るい褐色、ウスバイシカグマは濃い褐色)
②について
葉の質は薄く柔らかいウスバイシカグマに非常によく似たシダ
③について
ウスバイシカグマに非常によく似たシダ、葉の表側の毛(上左、上右)
④について
ウスバイシカグマ、羽片の先のほうまで小羽片の柄が確認できる(上左)
ウスバイシカグマ、下部小羽片の長い柄がつき、表側からも包膜がやや内側につくことがわかる(上右)
⑥について
ウスバイシカグマに非常によく似たシダ、胞子のう群(上左、上右)
ウスバイシカグマに非常によく似たシダ、葉脈は辺縁に達しない。(画像は不鮮明なので機会があれば再度撮影します)
以前、川崎市生田緑地でオニヒカゲワラビの成株が1株確認されましたが、観察しやすいところに生育していたためか残念なことに数年後には姿を消してしまい、それ以降観察されていません。このウスバイシカグマに非常によく似たシダも周りできちんと保護しなければ姿を消してしまう危険性があります。葉の一部でも採取は厳に控えなければならないと思います。
ウスバイシカグマとの違いが分かるようにいろいろな葉の色・形のイシカグマ(室戸市産、四万十市産、八丈島産、屋久島産)を載せます。
葉身・羽片は披針形、2回羽状に分かれるイシカグマ(上左、上右)
ウスバイシカグマ葉身・羽片が広いイシカグマ(上左)
葉身・羽片は披針形、3回羽状に分かれるイシカグマ(上右)
※「2009年3月28日室戸市産、葉身・羽片が広いイシカグマ」は2009年3月29日四万十市興津産、ウスバイシカグマに訂正いたします。2019年12月2日
イシカグマ、中軸表側(上左)
イシカグマ、中軸表側(上中)
イシカグマ、中軸表側(上右)
2回羽状のイシカグマ、葉身下部(上左)
3回羽状のイシカグマ、葉身中部(上右)
2回羽状イシカグマ、基部小羽片(上左)
3回羽状イシカグマ、小羽片(上右)
3回羽状イシカグマ、羽片裏側(上左)
2回羽状イシカグマ、羽片裏側(上右)
フモトカグマ
フモトカグマは1株だけ成株を観察することができました。この地域よりもやや北部の大雄山では大きな群生地が確認されていますが、その周辺ではあまり観察されていないようです。今回も群生は確認できませんでした。
フモトカグマ
フモトカグマ、羽片表側(上左)
フモトカグマ、羽片裏側(上右)
葉柄・中軸表側にも毛が生えるフモトシダのtype(ケブカフモトシ)
ケブカフモトシは夏緑広葉樹や照葉樹の林で尾根沿いの斜面や乾燥気味の土手などで観察することができました。
葉柄・中軸表側にも毛が生えるフモトシダのtype(ケブカフモトシ)
葉柄・中軸表側にも毛が生えるフモトシダのtype(ケブカフモトシ)、羽片
毛のほとんど生えないフモトシダのtype(ウスゲフモトシダ:仮称)
腐植が堆積するスギ林床斜面に生育。
葉の表面や裏面および中軸上にほとんど毛のないフモトシダ。スギ林などウエットな樹林下でときどき見られますが、フモトシダと区別されることなくフモトシダの範疇に入れられているようです。
毛のほとんど生えないフモトシダ
毛のほとんど生えないフモトシダ、葉柄は無毛(上左)
毛のほとんど生えないフモトシダ、羽片表側は無毛(中)
毛のほとんど生えないフモトシダ、羽軸裏側も毛が目立たない(上右)
毛のほとんど生えないフモトシダ、葉の表面(上左)
毛のほとんど生えないフモトシダ、の裏側(上右)
毛のほとんど生えないフモトシダ、胞子のう群(上左)
毛のほとんど生えないフモトシダ、包膜(上右)
タニイヌワラビ
常緑性のメシダ属の仲間の1種類。同行の方が谷筋の最上部、山地中~上部ではあるがウエットな針葉樹林下林床5×10mの範囲に10株程度生育していました。観察会では以前、大雄山で1株観察したことがあるだけです。
タニイヌワラビ
タニイヌワラビ、羽片(上左)
タニイヌワラビ、羽片裏側(上右)
その他の植物
ニッケイ
スギ林斜面林床に生育していました。同行の方からヤブニッケイとの区別点を教えていただきました。ニッケイは葉柄と葉身の境が不明瞭。
ニッケイ(上左)
ニッケイとヤブニッケイ(上右)
バクチノキ
観察地内でときどき小さな株が見られた。その後、社叢林内に親株と思われる株が生育していました。同行の方からバクチノキの名前の由来を教えていただきました。
林内に生育するバクチノキの小株(上左)
バクチノキ、葉柄脇には蜜腺(上右)