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観察会レポート/平成28年3月20日(日)神奈川-静岡県境の森
神奈川-静岡県境、藤木川支流を歩きました。
スギ林およびアラカシやヒサカキ、イヌガシなどの照葉樹やフサザクラ、アカメガシワなどの夏緑広葉樹などがよく茂った渓谷に沿って歩きました。スギ林は標高が上がるとすこしずつヒノキ林が中心になっていきました。
渓谷沿いの河原や崖・岩場ではイワヘゴやクリハラン、ヘラシダ、ノコギリシダ、リョウメンシダ、イワガネゼンマイ、イワガネソウ(斑入り)、ミゾシダ、マメヅタ、ノキシノブなどが主に見られました。乾燥気味の林床ではハシゴシダが枯れずに生育していました。今回特徴的であったのは渓谷沿いの崖面や林床でタニイヌワラビやヤノネシダが観察されたことです。
トウゲシバの仲間
普通のトウゲシバとオニトウゲシバヒロハトウゲシバが見られました。普通のトウゲシバは林床がややドライな崖で観察され、オニトウゲシバヒロハトウゲシバは林内渓谷沿いでのウエットな崖で生育していました。湯河原では標高の低いところではオニトウゲシバヒロハトウゲシバが見られますが標高が上がると見られなくなるようです。また、湯河原上部(標高600~800mの箱根外輪山上部)では非常に細い葉のtypeのトウゲシバ(ホソバトウゲシバ)も観察することができます。
普通のトウゲシバは葉がネクタイ形(倒披針形)ですが、胞子嚢をつけない幼株ではオニトウゲシバのように紡錘形の大きな葉をつけることがあります。写真の個体はオニトウゲシバと思われるが、まだ胞子嚢をつけていないので普通のトウゲシバの可能性があります。
また、オニトウゲシバとヒロハトウゲシバは同じと考えてもよいのではないかと考えます。
オニトウゲシバヒロハトウゲシバ
渓谷沿いの水が滴るようなウエットな崖では、長さ3㎝幅6㎜ある大きな葉をつける個体が8株ほど見られました。やや乾燥気味のところでは一般的なトウゲシバが普通に見られました。
オニトウゲシバヒロハトウゲシバ(上左)
オニトウゲシバヒロハトウゲシバ(上左)
オニトウゲシバヒロハトウゲシバ(上右).......................2019年1月7日訂正
紅葉するクラマゴケ
はじめて紅葉するクラマゴケを見ました。この辺りはクラマゴケ・タチクラマゴケが見られました。この季節、胞子のう穂をつけていないのでどちらも紅葉していると両者の区別に迷うことがあります。ふつう腹葉の形で区別は容易なのですがクラマゴケもタチクラマゴケのような一部に広卵形尖鋭頭の腹葉が見られることがあります。
一般的にタチクラマゴケは林縁など明るい草地などを好んで生育しますが林内にも生育します。そのようなところでは冬季は紅葉します。それに対して、今までクラマゴケは紅葉しないものと思っていました。現地では主茎の腹葉と腹葉の間が開いていること腹葉の形が長楕円形であることなどクラマゴケの特徴は現れていましたが、明るい林縁の草地で紅葉し腹葉の中には広卵形尖鋭頭でタチクラマゴケとしたくなる腹葉をつけていることもあります。胞子のう群がついていれば迷うことは無いのですが、ついていないこの季節、区別が難しくなります。
※でも本当にクラマゴケ(タチクラマゴケではなくて)か心配なので夏には胞子のう穂を形成しているか確認します。
クラマゴケ(上左、上右)
・紅葉するカタヒバ
カタヒバとイヌカタヒバ
湯河原ではカタヒバとイヌカタヒバが混在しており、正確に区別するポイントを知っていなければ同定に困ると思います。普通、カタヒバとイヌカタヒバは生育している環境が異なるので普段外観だけでほぼ間違うことなく同定してしまうことが多いのですが、ここ湯河原では、民家の近くでも渓流沿いの岩壁にはカタヒバが生育し、民家から離れていても山道沿いの石垣や側溝の周りではイヌカタヒバが見られます。この季節、両種とも明るいところに生育する個体は紅葉し、イヌカタヒバの特徴であるマツカサ状の冬芽も見られません。ここではルーペで観察しやすい背葉の違いを紹介します。※腹葉は下側に開出気味につく葉、背葉は茎の上側で前を向いてつく葉です。
カタヒバの背葉:中肋に沿ってかまぼこ状に幅広く盛り上がる。
カタヒバの背葉(上左、上右)
イヌカタヒバの背葉:中肋は紙を山折りに折ったように低く筋状に盛り上がる。
イヌカタヒバの背葉(上左、上右)
オオハナワラビシチトウハナワラビに似たシダ
シチトウハナワラビよりも裂片辺縁の鋸歯が鋭く、オオハナワラビに訂正いたします。以前八丈島で見たシチトウハナワラビと同じ形のハナワラビが生育していました。小羽片はオオハナワラビのように半円形ではなく長楕円形。胞子のうは確認できていません。
オオハナワラビシチトウハナワラビに似たシダ(上左、上右)
オオハナワラビシチトウハナワラビに似たシダ、羽片および小羽片.....................2019年1月7日訂正
※参考画像:八丈島のシチトウハナワラビ
マツバラン
以前、熱海の方に案内していただいたマツバランを再び観察。周辺に民家がある石垣に生育。大きな株ですが、陽当たり・風通しのよい石垣に生育しているためか石垣のすき間にブッシュ状に細かい側枝をつけていました。以前案内してくださった方の話しでは湯河原・熱海など坂の多いところでは風通しのよいこのような石垣にときどき見られるとのことでした。
コケシノブの仲間(アオホラゴケ)
渓谷沿いの垂直な岩壁でコウヤコケシノブ、アオホラゴケ、ウチワゴケなどが見られました。アオホラゴケは渓谷の水辺に近いウエットな岩壁にコケの仲間と共に生育していました。
ウラジロの仲間(コシダ)
ウラジロは林内の崖の上方や陽当たりのよい乾燥気味の斜面でよく見られました。陽当たりのよい林道法面でコシダ(1株)にもお目にかかりました。神奈川ではコシダはあまりお目にかかりません。ヤドリギのように2叉を繰り返す枝が特徴です。
キジノオシダの仲間
林内ではオオキジノオ、キジノオシダ両種がよく見られました。川沿いの急傾斜地や崖などでは両種が混生していることも多いのですが、どちらかと言えば崖沿いではキジノオシダ、スギ林斜面林床ではオオキジノオが優勢に生育していました。
コバノイシカグマの仲間
観察地点数は3~4か所と数は少ないですが日陰の崖~乾燥気味の林床まで見られました。
メシダ属の仲間(タニイヌワラビ)
上部はよく茂ったアラカシやウラジロガシなどの照葉樹の樹冠に覆われた渓谷沿いのウエットな岩場や斜面に生育していました。20株程度が点在して生育し、均整のとれた羽片を谷のほうへ広げていました。そのほかのメシダ属の植物も多く生えていると思われるのですが、まだ芽が出ていませんでした。
タニイヌワラビ(上左、上右)
タニイヌワラビ、羽片(上左)
タニイヌワラビ、胞子のう群(上右)
ノコギリシダの仲間
ノコギリシダ
渓谷のそばの岩壁では大きな群落をつくって生育していました。
ノコギリシダ(上左)
ノコギリシダ、胞子のう群(上右)
フイリチリメンノコギリシダ(仮称)
一つのノコギリシダの大きな群落の中にフイリチリメンノコギリシダ(仮称)が6株程度点在して生育していました。羽片は普通のノコギリシダにくらべると細長く葉脈に沿って窪み、外観がちじれた感じに見えます。また羽軸に沿って白い斑が入っていました。雑種・個体変異の可能性があるのではないかと思います。
フイリチリメンノコギリシダ(仮称)(上左、上右)
フイリチリメンノコギリシダ(仮称)、羽片(上左)
フイリチリメンノコギリシダ(仮称)、羽片の斑(上右)
ヤブソテツ属の中間
ヤブソテツ(ツヤナシヤマヤブソテツ・テリハヤマヤブソテツ)、ナガバヤブソテツ、テリハヤブソテツなどが見られました。
イノデ属の中間
イノデは普通に見られ、少し標高を上げるとイノデモドキ、さらに上のほうではカタイノデ(1株)が見られました。渓谷ぞいではヒメカナワラビも観察されました。
ヒメカナワラビ
ヒメカナワラビ(上左)
ヒメカナワラビ、胞子のう群(上右)
カタイノデ
カタイノデ
カナワラビ属の中間
ホソバカナワラビ、コバノカナワラビ、ホソコバカナワラビ、ハカタシダ、オオカナワラビなどが見られました。ホソコバカナワラビは両種が生育するところで見られ、見た目はコバノカナワラビに似ますが叢生せず、根茎は長く這い葉をまばらにつけ、あたり一面に群生します。
コバノカナワラビ
根茎は斜上し、葉を叢生する。
コバノカナワラビ
ホソバカナワラビ
根茎は長く這い、葉は間隔をあけてつける。
ホソバカナワラビ
ホソコバカナワラビ
ホソバカナワラビ、コバノカナワラビ両種が生育するところで観察。根茎は長く這い、葉は間隔をあけてつける。
ホソコバカナワラビ
オシダ属の仲間
マルバベニシダ、オオベニシダ、ベニシダ、イタチベニシ(ベニオオイタチシダ)、オオイタチシダ(アオニオオイタチシダ、ツヤナシオオイタチシダ、アツバオオイタチシダ)、キヨスミヒメワラビ、ミヤマイタチシダ、ナガバノイタチシダ、キノクニベニシダ、トウゴクシダなどが観察されました。
ミヤマイタチシダとナガバノイタチシダ
谷沿いの腐植の堆積したスギ林林床ではナガバノイタチシダ(2株)が生育していました。標高を上げるとミヤマイタチシダが見られるようになりました。この季節ミヤマイタチシダ(2株)は倒れて枯れそうでしたが独特の光沢のある明るい緑色の葉をつけていました。
キノクニベニシダ
トウゴクシダ(最下羽片下側小羽片が発達しないtype)
ウラボシ科の仲間
同行の方が足元の落ち葉に半分埋もれるようにして生育しているヤノネシダを見つけられました。その後周辺をよく見るとあちらにもこちらにも落ち葉の間から独特の葉を小ぞかせていることが分かりました。その後やや明るい渓谷の転石の上に林床に生育する個体とは葉の形が異なるヤノネシダの群生も観察することができました。
ヤノネシダ
薄暗い渓谷脇の林床に生育。地下茎を伸ばし間隔をあけて葉をつけ、10×3m程度の範囲に点在。胞子のう群をつけている葉は見つかりませんでした。
林床に生育するヤノネシダ(上左)
林床に生育するヤノネシダの根茎(上右)
林床に生育するヤノネシダの葉身下部(上左)
林床に生育するヤノネシダの葉身裏側(上右)
ヤノネシダ(葉身下部に粗い鈍鋸歯がある株)
林道わきの渓谷で両側には樹木があるが、上部が開けたやや明るい渓谷の転石の上にコケの仲間と共に群生。胞子のう群をつけた葉も多く確認。
ヤノネシダ(葉身下部に粗い鈍鋸歯がある株)葉身下部(上左、上右)
岩上に群生するヤノネシダ(葉身下部に粗い鈍鋸歯がある株)(上左、上右)
ヤノネシダ(葉身下部に粗い鈍鋸歯がある株)、葉身裏面(上左)
ヤノネシダ(葉身下部に粗い鈍鋸歯がある株)、胞子のう群(上右)
イワヤナギシダ
以前、熱海在住の方に案内していただいたイワヤナギシダを久しぶりに観察。イワヤナギシダは渓谷近くの大きな岩壁に群生。胞子のう群をつけていないとサジランとの区別は難しいですが胞子のう群をつけていれば胞子のう群の長さや角度などで違いは一目瞭然です。同じ岩壁にはカタヒバやイワヒバも着生していました。
岩壁に群生するイワヤナギシダ(上左、上右)
イワヤナギシダの胞子のう群
クリハラン
クリハランはウエットな渓谷では普通に見られますが、樹林内の一つの滝では全面に群生していました。