Top / 観察会レポート / 平成28年5月14日(土)奥多摩鞘口峠周辺


シノブやビロウドシダ(たぶんオシャグジデンダも)が着生するトチの大木 鞘口峠(奥多摩-桧原村

奥多摩湖に架かる浮橋を渡ってサイグチ沢を登り、鞘口峠を経て桧原村側へ抜けました。奥多摩側からの登りは山道にたどり着くまで時間がかかりました。奥多摩湖湖畔沿いではオオヒメワラビ、オウレンシダ、ニシキシダを観察することができました。大きな葉っぱのヤマタバコも見られました。また、乾燥気味の林床では途中ツクバネが群生しているところがあり、付近にはモミなどの針葉樹も生育していました。

登り初めの石垣や乾燥気味の岩が風化したような崖ではツルデンダやイワデンダが見られました。苔むした転石が転がる渓谷沿いではサジラン・ハコネシケチシダ・ツヤナシイノデなどが観察されました。同行の方の話しでは過去にミヤコイヌワラビも見つかっているとのお話でした。

山道を横切る最後の奥多摩有料道路を横断し鞘口峠に向いました。このあたりの林縁ではキヌタソウの群落や淡い藤色の美しいミヤマヨメナ(ミヤコワスレに似ている)が点在して生育していました。その場では、花が美しいので植栽されたものではないかと思いましたが、花を咲かせている株はわずかでした。後で考えると栽培種と比較するためにも、くわしく写真を撮っておけばよかったと思いました。サワグルミの大きな木が占めるウエットな谷沿いではミヤマクマワラビ、渓谷から離れた森ではオシダが見られました。渓谷沿いでは途中何本かのトチの大木が花を咲かせていました。樹幹にはシノブやビロウドシダが着生していました。多分8~9月頃になるとオシャグジデンダも顔をだすのではないかと思われるような大木でした。途中、オシダの生えている林床でミヤマワラビかと思われる個体を観察しましたが、後で画像を確認すると中軸に翼がなく、詰まった形のハリガネワラビであることが分かりました。峠の南側では、同行の方に案内していただきながら夏緑広葉樹の渓谷沿いでナンタイシダやイワシロイノデ、ミヤマシダ、ハコネシケチシダ、ホソバコケシノブなどを観察することができました。

コケシノブ属の仲間

ホソバコケシノブ
標高1000m付近、夏緑広葉樹林内の岩壁に着生。
ホソバコケシノブ。鞘口峠南側 ホソバコケシノブ、包膜は2枚貝状。鞘口峠南側
ホソバコケシノブ(上左)
ホソバコケシノブ、胞子のう群(上右)




コバニイシカグマ属の仲間

オウレンシダ
標高500m、林縁を流れる川沿いの明るい岩場、意外に少なく小さな1群落のみ確認。
オウレンシダ。鞘口峠北側
オウレンシダ




イワデンダ属の仲間

イワデンダ
標高500~600m、乾燥した日陰の崖に生育。
イワデンダ。鞘口峠北側
イワデンダ




ウラボシノコギリシダ属の仲間

ニシキシダ
標高500~600m、湖岸沿いの乾燥気味の林床で点在して生育。
ニシキシダ。鞘口峠北側 ニシキシダ。鞘口峠北側
ニシキシダ(上左、上右)




シケチシダ属の仲間

ハコネシケチシダ
標高600~1000mに生育。標高の高いところではまだ葉を十分に展開しておらず、新芽の先端は巻いていました。峠の南北で見られた。
ハコネシケチシダ。鞘口峠北側 ハコネシケチシダ、羽軸基部の肉芽。鞘口峠北側
ハコネシケチシダ(上左)
ハコネシケチシダ、羽軸基部の肉芽(上右)

ハコネシケチシダ、中軸・羽軸は有毛。胞子のう群は楕円形。鞘口峠北側 ハコネシケチシダ、包膜はない。鞘口峠北側
ハコネシケチシダ、羽片裏側(上左)
ハコネシケチシダ、胞子のう群(上右)




オオシケシダ属の仲間

オオヒメワラビ
標高500~600m、やや明るい林縁に生育。
胞子のう群をつけているが2回羽状の小さなオオヒメワラビ。鞘口峠北側
オオヒメワラビ




ノコギリシダ属の仲間

ミヤマシダ
標高1000m付近夏緑広葉樹林内の渓谷沿い、やや明るい、群落を形成。同行の方に案内していただきました。ミヤマキヨタキではないかとのご意見もありましたが、小羽片の形や根茎が這い間隔をあけて葉をつけている(同行の方が根茎の一部を掘って確認されました)ことなどからミヤマシダとしました。

ミヤマシダ 鞘口峠南側 ミヤマシダ、側羽片の数は少なく羽片の幅は広い。最下羽片はやや下向きにつく。鞘口峠南側
ミヤマシダ(上左、上右)

ミヤマシダ、葉柄下部の鱗片。鞘口峠南側 ミヤマシダ 鞘口峠南側
ミヤマシダ、新芽(上左、上右)
ミヤマシダ、葉柄下部の鱗片(上左、上右)

ミヤマシダ、中軸向軸側溝。鞘口峠南側
ミヤマシダ、中軸

ミヤマシダ、最下羽片はやや下向きにつく。鞘口峠南側 ミヤマシダ、最下羽片。鞘口峠南側
ミヤマシダ、最下羽片(上左、上右)

ミヤマシダ、葉身上部の羽片。鞘口峠南側 ミヤマシダ、胞子のう群は中肋寄りにつく。鞘口峠南側
ミヤマシダ、葉身上部の羽片(上左)
ミヤマシダ、胞子のう群(上右)

ミヤマシダ、葉身中部の小羽片は長楕円形。鞘口峠南側 ミヤマシダ、葉身中部の小羽片は長楕円形。鞘口峠南側
ミヤマシダ、葉身中部の小羽片の形は長楕円形(上左、上右)

ミヤマシダ、包膜の辺縁には細鋸歯がある。鞘口峠南側
ミヤマシダ、包膜




イノデ属の仲間

登り初めのやや標高の低いところではツヤナシイノデ・イノデモドキ・サイゴクイノデなどが観察されましたが、標高を上げると(およそ1000m)渓谷沿いではイワシロイノデが中心になりました。

イノデモドキ
イノデモドキ。鞘口峠北側
イノデモドキ





サイゴクイノデ
サイゴクイノデ。鞘口峠北側 サイゴクイノデ、葉身下部羽片の胞子のう群は耳垂に規則的につく。鞘口峠北側
サイゴクイノデ(上左)
サイゴクイノデ、葉身下部羽片の胞子のう群(上右)



イワシロイノデ
イワシロイノデはツヤナシイノデによく似ていますが、以下の点で区別することができます。

  1. 葉の先は急に狭くならない。(ツヤナシイノデは先端は急に細くなる)
  2. 葉柄・葉身を立ち上げるように展開させる。(ツヤナシイノデは横方向に葉を広げ、葉柄・葉身を立ち上げない)※イワシロイノデの小さい株では外観からではツヤナシイノデとの区別が難しかったので、上記の1,2につきましては訂正いたします。2016年6月5日
  3. 中軸の鱗片は淡い褐色・長卵状披針形~広披針形。鱗片の向きは上を向く部分や下を向く部分が混ざる。(ツヤナシイノデの中軸の鱗片はイワシロイノデよりの褐色が濃い・形は丸く広卵形・鱗片はだいたい上を向いてつける)
    ※ただし、まだ新葉が展開したばかりなので全体の容姿・葉身の形はもう少し時間をかけて観察する必要があると思います。

イワシロイノデ、葉柄および葉身を立ち上げる。鞘口峠南側 イワシロイノデ、葉柄および葉身を立ち上げる。鞘口峠南側
イワシロイノデ(上左、上右)

イワシロイノデ、葉身の先端は急に細くならず、徐々に細くなる。鞘口峠南側
イワシロイノデ、葉身

イワシロイノデ、葉柄下部には幅の広い鱗片が混ざる。鞘口峠南側
イワシロイノデ、葉柄下部の鱗片

イワシロイノデ、中軸の鱗片は淡い褐色で広披針形。鞘口峠南側 イワシロイノデ、中軸の鱗片はいろいろな向きにつく。鞘口峠南側
イワシロイノデ、中軸の鱗片(上左、上右)

イワシロイノデ、、胞子のう群は上側・外側からつく。鞘口峠南側 イワシロイノデ、胞子のう群は中間につく。鞘口峠南側
イワシロイノデ、葉身裏側(上左)
イワシロイノデ、胞子のう群(上右)



オシダ属の仲間

オシダとミヤマクマワラビ
渓谷沿いではミヤマクマワラビが普通に生えていました。オシダは渓谷沿いでも少し見られましたが大きな元気のよい株は渓谷から離れた林床で数株観察することができました。
オシダ。鞘口峠北側 ミヤマクマワラビ。鞘口峠北側
オシダ(上左)
ミヤマクマワラビ(上右)






ナンタイシダ
標高1000m位の渓谷の岩壁に生育。
岩壁に生育するナンタイシダ。鞘口峠南側 岩壁に生育するナンタイシダ。鞘口峠南側
岩壁に生育するナンタイシダ(上左、上右)

ナンタイシダ、葉は3~4回羽状に分かれる。鞘口峠南側 岩壁に生育するナンタイシダ、鋸歯の手前に胞子のう群をつける。鞘口峠南側
ナンタイシダ、葉身(上左)
ナンタイシダ、胞子のう群(上右)




ミサキカグマ
標高500~1000mまで、乾燥ぎみの土手や岩場に普通に生育。
岩壁に生育するミサキカグマ。鞘口峠北~南側 ミサキカグマ、最下羽片下側第1小羽片。鞘口峠北~南側
ミサキカグマ(上左)
ミサキカグマ、最下羽片下側第1小羽片(上右)




ウラボシ科の仲間

サジラン(あるいはイワヤナギシダ)
苔むした転石が転がるウエットな渓谷沿いで転石の側面にコケ類と共に着生。1株のみで胞子のう群はつけず、葉柄基部のようすも詳しく観察できませんでした。

サジラン(あるいはイワヤナギシダ)鞘口峠北側
コケに覆われた転石に着生するサジラン(あるいはイワヤナギシダ)




美しい花や虫

渓谷沿いの林床に生育するフタバアオイ 鞘口峠北側 湖岸の林床にせいいくするハンショウヅル 鞘口峠北側
フタバアオイ(上左)
ハンショウヅル(上右)

湖岸の明るい林床に生育するヤマタバコ 鞘口峠北側 辺縁に鋸歯が目立つコウモリソウの仲間 鞘口峠南側
ヤマタバコ(上左)
辺縁に鋸歯が目立つコウモリソウの仲間(上右)

ハクウンボク 鞘口峠北側 サラサドウダンツツジ 鞘口峠南側
ハクウンボク(上左)
サラサドウダンツツジ(上右)

ヤマタイミンガサ 鞘口峠南側 フジノマンネングサ 鞘口峠北側
ヤマタイミンガサ(上左)
フジノマンネングサ(上右)

キノコ1 鞘口峠北側 キノコ1 鞘口峠北側
キノコ1

ミドリスギタケ 鞘口峠北側 ミドリスギタケ 鞘口峠北側 キノコ2 鞘口峠北側
ミドリスギタケ

ヒイロガサ 鞘口峠北側 ヒイロガサ 鞘口峠北側 ヒイロガサ 鞘口峠北側
ヒイロガサ

キノコ4 鞘口峠
オオトガリアミガサタケ

サカハチチョウ 鞘口峠北側
サカハチチョウ




観察されたシダの仲間

・トウゲシバ
・オオハナワラビ
・ゼンマイ
・ホソバコケシノブ
・カニクサ
・イヌシダ・オウレンシダ
・フモトシダ
・ワラビ
・イワガネソウ・イワガネゼンマイ
・オオバノイノモトソウ
・ハコネシダ・クジャクシダ
・コバノヒノキシダ・イワトラノオ・トラノオシダ
・ミゾシダ
・ゲジゲジシダ・ヤワラシダ・ハリガネワラビ
・イワデンダ・フクロシダ
・ヌリワラビ
・クサソテツ
・シシガシラ
・イヌワラビ・ニシキシダ
・ヒロハイヌワラビ・ヤマイヌワラビ、ヘビノネコザ
・ハコネシケチシダ
・ハクモウイノデ・オオヒメワラビ
・キヨタキシダ・ミヤマシダ
・テリハヤブソテツ、ツヤナシヤマヤブソテツ
・イノデモドキ・ツヤナシイノデ・イワシロイノデ・サイゴクイノデ・ジュウモンジシダ・ツルデンダ
・リョウメンシダ・ナンタイシダ
・オクマワラビ・クマワラビ・ヤマイタチシダ・イヌイワイタチシダ・ベニシダ・オオベニシダ
・シノブ
・ミツデウラボシ
・マメヅタ
・ノキシノブ、ヒメノキシノブ
・ビロードシダ