Top / 観察会レポート / 平成28年9月25日(日)奥多摩 鋸山山麓
奥多摩 鋸山山麓を歩きました。渓谷や痩せ尾根、林道沿いの崖や岩場、落葉広葉樹の森、植林地の常緑の森などさまざまな環境とそこに好んで生育するシダやそのほかの特徴的な植物を観察することができました。
イワヒバ属の仲間
切り立った岩場ではイワヒバやスギ林林床ではクラマゴケを観察しました。
クラマゴケ
クラマゴケ(上左)
クラマゴケ、胞子のう穂(上右)
ハナワラビの仲間
夏緑広葉樹林内ではフユノハナワラビやアカハナワラビが見られました。スギ植林地な林床ではナツノハナワラビやナガホノナツノハナワラビが見られました。
アカハナワラビ
夏緑広葉樹林内、木漏れ日が差し込むような明るい林床にほかの草本類と共に生育。5×5mの範囲に20株程度まとまって生育。小形のハナワラビで観察地では栄養葉の幅は8~12㎝度・胞子葉高さは地上から15~30㎝。この季節、葉はまだ紅葉せず葉の色は白くかすれた感じがあり薄い緑色。葉の先端(羽片・裂片)は尖る。
フユノハナワラビとアカハナワラビの雑種か
フユノハナワラビかあるいはフユノハナワラビとアカハナワラビの雑種ではないかと思われます。胞子の充実はもう少し先でした。小羽片の先端は鈍頭であるところはフユノハナワラビに似ていますが、先端は細かい鋸歯が見られます。付近にはたくさんアカハナワラビが生育していましたの胞子の状態を調べる必要があると思います。
フユノハナワラビとアカハナワラビの雑種か(上左、上右)
ナツノハナワラビ
地上部の共通柄は40㎝程度。栄養葉の大きさは40㎝程度あり、大きな株でした。胞子葉はすでに枯れていました。栄養葉は3~4回羽状に分かれ、中部の羽片は長楕円形。
ナツノハナワラビ(上左)
ナツノハナワラビ、栄養葉中部羽片(上右)
ナガホノナツノハナワラビ
地上部の共通柄は30~40㎝程度。栄養葉の大きさは35~45㎝程度ありました。胞子葉は30㎝程度。まだ胞子を飛ばしていませんでした。栄養葉は2~3回羽状に分かれ、中部の羽片は線形。
ナガホノナツノハナワラビ(上左)
ナガホノナツノハナワラビ、栄養葉中部羽片(上右)
ナガホノナツノハナワラビ、胞子葉、羽片
コケシノブの仲間
渓谷近くのウエットな岩場や岩壁ではコウヤコケシノブやウチワゴケが見られました。標高を上げていくとややドライな岩壁ではヒメコケシノブが見られました。
ヒメコケシノブ
やや標高の高いところ。あまりウエットではない切り立った岩壁や樹幹基部に着生。葉は小さく葉の大きさは2~4㎝。2回羽状に分かれ、中軸は無毛。小羽片の先は鈍頭・全縁。胞子のう群は葉身の先端にまとまってつく。
岩壁に群生するヒメコケシノブ(上左)
ヒメコケシノブ(上右)
ヒメコケシノブ、葉身(上左)
ヒメコケシノブ、葉身表側(上右)
ヒメコケシノブ、胞子のう群表側(上左)
ヒメコケシノブ、胞子のう群裏側(上右)
ウサギシダ属の仲間
エビラシダ
薄暗くウエットな林内で、岩壁や急傾斜の沢の脇などに群生していた。
エビラシダ(上左)
エビラシダ、葉柄(上左)
沢沿いの岩壁に群生するエビラシダ(上左)
岩場に群生するエビラシダ(上右)
チャセンシダの仲間
・気になっていたイワトラノオの仲間を観察しました。イワトラノオとミタケトラノオと思われる個体の胞子を観察しました。
イワトラノオ
渓谷沿い。上部が樹冠に覆われ薄暗くウエットな岩壁に生育していました。葉の大きさには変化が大きく3~12㎝。2~3回羽状に分かれ、葉の色は黄緑色~鮮緑色、葉の質は薄く柔らかい。羽片は楕円形で裂片の先は鈍頭。胞子のう群は小羽軸に接するようにしてつき、短い線形。胞子数は60以上確認でき有性生殖種。
イワトラノオ、胞子:上面から見たようす(上左)
イワトラノオ、胞子:側面のようす(上左)
イワトラノオ、胞子:上面から見たようす(上左)
イワトラノオ、胞子:側面のようす(上左)
イワトラノオ、胞子:上面から見たようす(上左)
イワトラノオ、胞子:側面のようす(上左)
ミタケトラノオか(コバノヒノキシダ×イワトラノオ)
ミタケトラノオはコバノヒノキシダとイワトラノオの雑種と推定される。樹冠に覆われた林内を走る林道沿いの石垣に生育。付近にはコバノヒノキシダ、イワトラノオ、クモノスシダ、イセザキトラノオなどが生育。葉の大きさは12~18㎝。羽片が三角形、コバノヒノキシダに似て葉の色は濃緑色。葉の質もイワトラノオよりも厚い。
※画像を撮影していません。改めて生態写真および胞子の画像を掲載したいと思います。
クモノスシダ
樹冠に覆われた林内を走る林道沿いの石垣、石垣はセメントで隙間を固められている。クモノスシダが点々と生育。葉の大きさは8~20㎝。長く伸びた葉身の先端には無性芽ができている。
クモノスシダ(上左)
クモノスシダ、無性芽(上右)
イセサキトラノオ(コバノヒノキシダ×クモノスシダ)
コバノヒノキシダとクモノスシダの雑種と推定される。スギ林内ウエットな林道沿いの4~5mはあるセメントで固められた高い石垣にイワトラノオの仲間やコバノヒノキシダやクモノスシダ、イセサキトラノオが見られました。イセサキトラノオはその付近を捜すと5~6株観察することができました。葉の大きさは8~15㎝。羽片はへら形~チャセンシダ形で葉身先端はクモノスシダ似にて細長く伸びることがある。
ハリガネワラビの仲間
夏緑広葉樹林林床ではハリガネワラビは普通に見られ、切り立った岩場ではアイハリガネワラビが見られました。イワハリガネワラビは生育を確認することはできませんでした。
アイハリガネワラビ(ハリガネワラビ×イワハリガネワラビ)
観察会ではイワハリガネワラビとお話ししましたが、アイハリガネワラビに訂正いたします。胞子をいくつ観察しても形や大きさが乱れ雑種であることが分かりました。考えられるのはアイハリガネワラビでハリガネワラビとイワハリガネワラビの雑種と推定します。
生育していた岩壁はほぼ垂直であまりウエットではありませんでした。時間の関係で周辺をくまなく探す時間はありませんでしたが観察地の岩壁には成株が1と未成株が2株しか確認できませんでした。岩壁の下部の林床にはハリガネワラビが普通に生えていました。
観察された個体の葉の大きさは20~30㎝。葉の形や質はハリガネワラビとイワハリガネワラビの中間的。①葉柄は細く直径は1~1.5mm、わら色~黄緑色。②胞子のう群は中間につく。③包膜上には長い毛と短い突起状の毛とが混ざる。④胞子については数は55~60程度確認できるが胞子の大きさや形が乱れている。
アイハリガネワラビ、葉柄基部(上左)
アイハリガネワラビ、葉柄(上右)
アイハリガネワラビ、胞子数、左右の画像は同じ検体を撮影(上左、上右)
ヤブソテツ属の仲間
ツヤナシヤマヤブソテツ、テリハヤマヤブソテツ、テリハヤブソテツが見られました。
テリハヤマヤブソテツ
ウエットなスギ林内では葉の大きい(10㎝×4㎝)テリハヤマヤブソテツが見られました。
テリハヤマヤブソテツ(上左、上右)
イノデ属の仲間
スギ林内ではイノデ゙・アイアスカイノデ・イノデモドキ・サイゴクイノデ・ツヤナシイノデ・カタイノデなどが点々とあるいはまとまって群生していました。その中では雑種も見られタカオイノデとアカメイノデが見られました。
ツヤナシイノデ(上左)
サイゴクイノデ(上中)
カタイノデ(上右)
アカメイノデ(ツヤナシイノデ×カタイノデ)
アカメイノデはツヤナシイノデとカタイノデの雑種と推定されます。観察された個体は大きくはの長さは80~100㎝。特徴は①葉身の色や形のにはカタイノデの面影がありカタイノデの黒味がかった黄緑色に濃緑色を加えた感じ。②まわりのカタイノデよりも大きい個体が見られる。③葉柄下部の鱗片はやや幅の広い卵状披針形で、中央に濃い栗色が入ったり鱗片全体が濃い栗色であったりする。④胞子のう群は中間につく。
アカメイノデ(上左、上右)
アカメイノデ、羽片(上左)
アカメイノデ、胞子のう群(上右)
タカオイノデ(ツヤナシイノデ×アイアスカイノデ)
タカオイノデはツヤナシイノデとアイアスカイノデの雑種と推定され、特徴は①葉身の色は鮮緑色~濃緑色。①葉柄下部にはツヤナシイノデ似の幅の広い鱗片をつける。②葉柄下部の鱗片にはアイアスカイノデに似て中央に栗色が入る鱗片が混ざる。③胞子のう群はアイアスカイノデに似てやや辺縁寄りにつく。
タカオイノデ
カナワラビ属の仲間
岩場ではハカタシダ、ナンゴクイナライシダ。スギ林などではリョウメンシダが見られました。
オシダ属の仲間
岩場の山地ではヤマイタチシダ、ミサキカグマ、リョウトウイタチシダ、オオベニシダ、エンシュウベニシダ、クマワラビなどが見られました。シギなどの植林地ではベニシダやオクマワラビ、アイノコクマワラビなどが見られた。
リョウトウイタチシダ
乾燥気味の岩が露出する急傾斜地に生育。
リョウトウイタチシダ(上左)
リョウトウイタチシダ、葉柄下部の鱗片(上右)
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ
※再度、現地を訪れ、エンシュウベニシダではなくマルバヌカイタチシダモドキであることを確認し、訂正いたしました。2022年5月28日
胞子は飛んでいました。葉身を立ち上げ、葉柄下部の鱗片は濃褐色披針形でまっすぐ~多少纏わりつくようにやや湾曲してつく。小羽片の幅は広く先端は円頭~鈍頭、辺縁にははっきりとした鋸歯がり、上部の小羽片はマルバベニシダに似る。胞子のう群はやや中肋寄りにつく(ベニシダ程度)。
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ(上左)
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ、最下羽片(上右)
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ、葉柄下部の鱗片(上左、上右)
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ、羽片(上左)
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ、羽片裏側(上右)
マルバヌカイタチシダモドキエンシュウベニシダ、葉身上部の胞子のう群
アイノコクマワラビ(クマワラビ×オクマワラビ)
クマワラビとオクマワラビの雑種と推定される。スギ林林床で見られました。観察された個体は大きく葉身の大きさは70~80㎝。小羽片の先はやや尖り、葉の表面では葉脈に沿って窪む。胞子のう群は葉身の上から2/3程度までつき、胞子のう群をつけた羽片は短縮せず早く枯れることは無い。
アイノコクマワラビ(上左)
アイノコクマワラビ、葉の表面(上右)
アイノコクマワラビ、胞子をつけた葉身の先(上左)
アイノコクマワラビ、胞子をつけた葉身の裏側(上右)
ウラボシ科の仲間
樹幹や崖の岩の上ではマメヅタ、ミツデウラボシ、ノキシノブ、ヒメノキシノブ、ミヤマノキシノブ、渓谷の水辺ではカラクサシダが見られました。
ヒメノキシノブ
ノキシノブよりも標高の高いところで見られることが多いです。樹幹や岩上に生育。
ヒメノキシノブ(上左、上右)
ミヤマノキシノブ
一般に標高の高いところで生育しています。観察された個体の葉の大きさは5~10㎝と小さく、胞子のう群は確認できませんでした。有柄で葉の表面は光沢のないマット状。
ミヤマノキシノブ(上左、上右)
カラクサシダ
水しぶきが飛び散る段差のある渓谷内でウエットな空気に包まれた中、大きな転石の上に一緒に生育するコケ類の上に立ち上がるような形で群生していました。
カラクサシダ
カラクサシダ、葉身(上左)
カラクサシダ、胞子のう群(上右)
ビロードシダ
渓谷沿いの日陰の岩壁に20枚程度の葉を垂下させた小さな群落で生育。
コケの仲間
地衣
シアノバクテリア
キノコ
キホウキタケの仲間(上左、上右)
ウスタケの仲間(上左、上右)