2023伊豆 筏場周辺のシダ2
7月14日、筏場周辺を再度歩いてきました。前回4月22日に歩いた時はまだ胞子が観察できないシダが多かったので、再度胞子の採取・観察を目的に同じ地域を歩いてきました。新たにいくつかのシダが観察されたこと、胞子の観察により新たなことがわかり、前回の報告を訂正しなければならないことがありました。
ヒカゲノカズラ
川沿いの岩上や岩が露出する砂礫地に群生するヒカゲノカズラ。
①川沿いの岩が露出する砂礫地に群生するヒカゲノカズラ
オニトウゲシバ
川沿いの日陰の崖に生育。葉は紡錘形で長さは2㎝に達する。
コハイホラゴケ
前回の報告では、ハイホラゴケとして掲載したシダですが、雑種のコハイホラゴケに訂正させていただきます。ウエットな空気に包まれた渓谷沿いの日陰の切り立った岩壁下部で数か所で観察。葉の大きさは5~9cm。1つの胞子のうを壊して胞子を観察すると充実した胞子は少なく雑種あるいは無融合生殖種と推測できる。
①岩壁下部に群生するコハイホラゴケ
②コハイホラゴケ、根茎および葉のつき方
③コハイホラゴケ、葉
④コハイホラゴケ、胞子のう群および包膜
⑤コハイホラゴケ、1つの胞子のうを壊したようす
イズハイホラゴケ
前回の報告では、雑種のセイタカハイホラゴケとして掲載したシダですがイズハイホラゴケに訂正させていただきます。スギ林内、水が染み出るウエットな岩場、15~30㎝の葉を岩上岩壁に群生、胞子を観察した葉は30㎝程度。胞子を観察すると、形・大きさが整った胞子が60個程度観察でき、有性生殖種と推定されイズハイホラゴケであることがわかりました。
以前、詳しい方からお話をお聞きしたことを再度載せさせていただきます。
「イズハイホラゴケはオオハイホラゴケとハイホラゴケのゲノムを併せ持つ雑種起源の4倍体有性生殖種。同じゲノムを併せ持つセイタカホラゴケは3倍体雑種。」
①林内の水が滴る傾斜のきつい岩屑地に群生するイズハイホラゴケ
オオハイホラゴケ
非常にウエットな空気に包まれた岩壁や岩棚に群生。葉の大きさは20~30㎝(葉身の幅は8~10㎝)、大きく幅の広い葉を広げる。
①ウエットな空気に包まれた岩棚の上に30㎝を超える葉を立ち上げ群生するオオハイホラゴケ
⑤オオハイホラゴケ、葉身下部の羽片
⑥オオハイホラゴケ、羽片および胞子のう群
ムクゲシケシダ
前回の報告では、胞子葉はまだ出ていませんでした。今回は胞子を観察することができました。
胞子のようすについて、シケシダの仲間では雑種でなくても多少胞子の大きさ・形が乱れることはあるのですが、ムクゲシケシダではまるで雑種ではないかと思うほど乱れていることがあります。以前、箱根で初めてムクゲシケシダに出会ったときのことですがその頃は胞子を観察し始めてまだ観察数が少なかったため、どの株も胞子が乱れていて雑種に違いないと考え、ムクゲシケシダとほかのシケシダ類との雑種をいろいろな組み合わせを考えました。ところが胞子が乱れていることがムクゲシケシダの特徴そのものであることがわかりました。胞子が乱れることはシケシダ類の分類の難しさに関係しているのかもしれません。
①スギ林内の沢沿いに生育するムクゲシケシダ
③ムクゲシケシダ、胞子葉の葉身
④ムクゲシケシダ、胞子葉の羽片
シケシダ
林縁に50㎝はある立派なシケシダであった。やや光沢があり、胞子を調べてみた。
①林縁の草むらに生育するシケシダ
ムクゲムサシシケシダ
林道のすぐわきに群生。胞子葉は大きく90㎝に達する。胞子葉の形は長楕円状披針形で羽片は間隔を空けてつける。ムクゲシケシダに似ている点は①葉柄や葉身に長い毛が密生する。②包膜は有毛。シケシダに似ている点は①葉の形が長楕円状披針形。②包膜の辺縁は巻きこむ。
①林道わきの林縁に群生するムクゲムサシシケシダ
②ムクゲムサシシケシダ、栄養葉
③ムクゲムサシシケシダ、胞子葉
セイタカシケシダ
スギ林床に生育。
①スギ林床に生育するセイタカシケシダ
タニイヌワラビ
樹木に覆われた川沿いの浸食崖に点々と生育していた。
カラクサイヌワラビ
川のそばのスギ植林地に生育。確認できたのは1株。
①川のそばのスギ植林地に生育カラクサイヌワラ
②カラクサイヌワラビ、葉身裏側
③カラクサイヌワラビ、羽片裏側
ハコネシケチシダ(2回羽状複葉・無毛型)
前回の報告では、まだ胞子が観察できなかった株です。胞子のう群は不稔の胞子のうをつけ胞子は全く観察できない様子で雑種の特徴を示していました。ハコネシケチシダの仲間といえます。
ハコネシケチシダはシケチシダとイッポンワラビとの雑種といわれています。よく見られるハコネシケチシダは3回羽状中~深裂し植物体は有毛ですが、この地で観察された株は無毛・小羽片がほとんどきれこまない2回羽状複葉型です。
①川沿いのスギ植林地林床に点在して群生するハコネシケチシダ(2回羽状複葉・無毛型)
②ハコネシケチシダ(2回羽状複葉・無毛型)、中軸および胞子のう群
③ハコネシケチシダ(2回羽状複葉・無毛型)、葉身裏側
④ハコネシケチシダ(2回羽状複葉・無毛型)、羽片裏側
キヨタキシダ小羽片鋭頭型(トガリバキヨタキシダ:仮称)
前回の報告では、キヨタキシダとほかのDiplaziumとの雑種ではないかと考えて掲載したシダですが、胞子観察の結果は、雑種ではなく有性生殖種であることを推定させるものでした。
①キヨタキシダ小羽片鋭頭型
②キヨタキシダ小羽片鋭頭型、小羽片
③キヨタキシダ小羽片鋭頭型、裂片基部の胞子のう群
②キヨタキシダ小羽片鋭頭型、小羽片
②キヨタキシダ小羽片鋭頭型、小羽片の胞子のう群
②キヨタキシダ小羽片鋭頭型、胞子側面
②キヨタキシダ小羽片鋭頭型、胞子上面
キヨタキシダ
広く普通に見られるキヨタキシダ。大きさは50~80㎝。2回羽状複葉。小羽片の先端は鈍頭。生態写真は撮影し忘れました。
①キヨタキシダ、葉身(一部)
イワヘゴ
イワヘゴとイヌイワヘゴの判別については、葉身上部~頂部のようすでまず判断して間違いないようである。中間型も見られるが、その時は、中軸の鱗片などをいくつかの相違点を調べることにしている。
イワヘゴは、葉身上部~頂部の羽片は開出してつき、羽片は鎌曲しない。(多少鎌曲することがある)
①林内の遊歩道沿いに生育するイワヘゴ
イヌイワヘゴ
イヌイワヘゴは、葉身上部~頂部の羽片は開出してつき鎌曲する。
①ウエットな沢近くに生育するイヌイワヘゴ
②イヌイワヘゴ、葉身上部~頂部の羽片は開出してつき鎌曲する
③イヌイワヘゴ、イヌイワヘゴ、葉身下部羽片
オオクジャクシダ
沢沿いの林床や開けた林縁でも見られた。羽片は多少波打つ。
①川のそばのスギ植林地に生育するオオクジャクシダとイヌイワヘゴ(左)
②オオクジャクシダ、葉柄の明るい鱗片
③オオクジャクシダ、葉柄~中軸の明るい鱗片
④オオクジャクシダ、葉身上部の胞子のう群
⑤オオクジャクシダ、葉身下部の胞子のう群
⑥オオクジャクシダ(左)とキヨズミオオクジャク(右)の羽片比較
⑦オオクジャクシダ(左)とキヨズミオオクジャク(右)の羽片裏側比較
キヨズミオオクジャク
林内の森で1株確認。オオクジャクシダよりも少ないのかもしれない。羽片は波打たず平面的。
①川のそばの雑木林に生育するキヨズミオオクジャク
②キヨズミオオクジャク、葉柄基部の鱗片
③キヨズミオオクジャク、葉柄中部の鱗片
④キヨズミオオクジャク、中軸の鱗片
⑤キヨズミオオクジャク、羽片
⑥キヨズミオオクジャク、胞子のう群
胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ(アイアスカイノデ×イノデモドキ)
最下羽片の胞子のう群の付き方はハタジュクイノデ(アイアスカイノデとイノデモドキの雑種)であるが、葉身上部では胞子のう群は辺縁寄りではなく中間につく。イノデ類が群生するスギ林内の崖に生育。
①スギ林内の崖に生育する胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ
②胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ、葉身
③胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ、羽片
④⑤胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ、最下羽片の胞子のう群の付き方
④胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ、葉身中部羽片の胞子のう群
⑤胞子のう群が中間につくハタジュクイノデ、葉身上部羽片の胞子のう群
カタイノデモドキ(カタイノデ×イノデモドキ)
カタイノデに似るが、中形のイノデの仲間であるカタイノデ(葉身35~45㎝)に比べるとずっと大きく60㎝程度あった。最下羽片の胞子のう群は耳垂似沿って1個ずつつくことが多く同定の目印の一つになる。