御岳山‐大岳山周辺を歩きました。沢沿いの散策路の周辺は苔むした転石や岩壁が広がり周辺の林床はとんど何も生えていませんでした。すぐに気づいたことは、一見コケの緑は美しく見えるのですが、以前、林床に茂っていたやや大形の林床植生(アカソの仲間・カメバヒキオコシ・ギンバイソウ・キバナアキギリ・タマアジサイ・テバコモミジガサ・ナンゴクナライシダ・シケチシダ・ハコネシケチシダ・イッポンワラビ・ミヤマクマワラビ・ミヤマイタチシダ)などが全くと言っていいほど見られないことです(多分、もっと小形の貴重な植物も同様に被害を受けていることと思います)。渓流から続く山の斜面はきれいに掃き清められたようになっていました。すべてシカの食害と思われます。登山者や参拝者が多いところでは、食害は見られませんが、少し中に入ると食害はひどくなります。ただ4足歩行のシカでも歩けないような切り立った岩壁や崖は以前のまま豊かな植生が維持されていました。同行の方のお話では、このような状況になったのはここ2~3年のことで、以前の豊な植生をよみがえらせるためには広範囲にシカ柵の設置が必要とのことでした(八ヶ岳周辺では、一部の植生を保護する保護柵ではなく、広範囲にシカ柵が設置されている場所もあり、人が柵の扉を開閉して出入りしている)。以前の豊かな植生を知るものとしては岩園周辺だけでも豊かな植生がよみがえってほしいものです。
ここでは大岳山や岩園の岩壁に生育するシダを紹介します。岩壁に生育しているためかろうじてシカの食害を免れています。
以前(9年前)に歩いた御岳山岩園(ロックガーデン)と御岳山周辺の山(奥の院・鍋割山・上高岩山)の画像もご参考ください。
スギラン Lycopodium cryptomerinum
同行の方に教えていただくまで近くの岩上に生育するスギランに気づきませんでした。岩上であるためシカの食害を免れた。秩父多摩甲斐国立公園指定植物。
岩上に生育するスギラン
ホソバコケシノブ Hymenophyllum polyanthos.
ウエットな岩壁に群生する。生育に適した環境では普通にみられる。コケシノブ属の1つの胞子のう内の胞子の数は64‐32の関係とは異なり、同定の目安の一つとなる。
①ウエットな岩壁に生育するホソバコケシノブ
②胞子を観察したホソバコケシノブ
⑤1つの胞子のうを壊したようす。確認できた胞子数111個程度
⑥1つの胞子のうを壊したようす、確認できた胞子数122個程度
⑦1つの胞子のうを壊したようす。確認できた胞子数116個程度(分解用の針先についた5個を加えている)
⑧⑨ホソバコケシノブ、胞子
ヒメコケシノブ Hymenophyllum coreanum.
ウエットな所からややドライな所まで、やや明るい岩壁に群生する。胞子のう群は葉身の先端につく。
①②やや明るい岩壁に群生するヒメコケシノブ
イワハリガネワラビ Thelypteris musashiensis
地表には生育せず岩壁に生育する。ハリガネワラビよりも葉の質は薄い。葉身は線形で先端で短縮する。葉柄は淡緑色で褐色の鱗片がつく。最下羽片は短縮せず、胞子のう群は中間につく。包膜上には毛はなく突起が見られる。
①岩壁に群生するイワハリガネワラビ
②イワハリガネワラビ、葉身
③イワハリガネワラビ、胞子のう群
④イワハリガネワラビ、包膜
オウレンシダ Dennstaedtia wilfordii.
同行の方から、「ここは石灰岩が見られるところ」そこにはオウレンシダが生育していました。この辺りはところどころで石灰岩が見られるようです。
①石灰岩周辺でよく見られるオウレンシダ
ハコネシケチシダ Athyrium christensenianum.
以前の群生地で。春先シカに完全に地上部を食べられた後、再度芽を伸ばしていた。新芽はわずか2~3株見られた程度で、以前の60~70㎝の多きな葉を群生させていたころの見る影もない。
①2度目の新芽を展開していたハコネシケチシダ
ミツイシイノデ Polystichum × namegatae.
サイゴクイノデとカタイノデの雑種と推定される。集合場所の駅のそばの川沿いの林床にはサイゴクイノデやカタイノデが生育しており両者の雑種のミツイシイノデが見られら。両親の特徴がよく表れ同定しやすい雑種である。カタイノデに似ている点は葉柄基部に黒い鱗片をつけ、胞子のう群は中間につける。サイゴクイノデに似ている点は葉身下部羽片では胞子のう群が各耳垂に優先して規則正しくつく。
①川沿いの林床に生育するミツイシイノデ
②ミツイシイノデ、葉柄基部の鱗片
③ミツイシイノデ、葉身下部羽片の胞子のう群
④ミツイシイノデ、胞子のう群
イヌイワイタチシダ Dryopteris saxifragi-varia.
イワイタチシダと混生している。ヤマイタチシダとイワイタチシダの中間のような形。イワイタチシダに比べて葉は緑色が強く葉の幅は広い。葉柄や中軸の鱗片は開出気味につくものとそうでないものが見られる。無融合生殖種。
標本1
①イヌイワイタチシダ、葉柄の鱗片
②イヌイワイタチシダ、中軸の鱗片および胞子のう群
標本2
③林内の岩壁に生育するイヌイワイタチシダ
④イヌイワイタチシダ、葉柄の鱗片
イワイタチシダ Dryopteris saxifraga.
葉は幅の狭い線形~披針形。葉は白緑色で光沢はない。葉柄。中軸の鱗片は開出してつき、先端は上を向く。有性生殖種。
①林内の岩壁に生育するイワイタチシダ
オオクボシダ Micropolypodium okuboi.
日陰の切り立た岩壁に生育。シカの食害から免れて生育している。秩父多摩甲斐国立公園指定植物。
①切り立た岩壁に生育生するオオクボシダ(左下)とヒメノキシノブ(上)
②切り立た岩壁に生育生するオオクボシダ
ミヤマノキシノブ Lepisorus ussuriensis var. distans.
シカの食害が激しい渓流沿いの岩壁。同行の方に群生地を教えていただく。シカが首を伸ばしても届かないのであろう。
①渓流の岩上に群生するミヤマノキシノブ
②ミヤマノキシノブ、葉柄
花
①アオフタバラン
②キヌタソウ
少しずつ掲載いたします