秩父の名峰武甲山と北麓に広がる森。2023年5月21日武甲山北麓

2023年5月21日、武甲山北麓を歩きました。現地ではシカの食害が少なく、多くのところで豊かな林床の森が広がっていました。一つの森ではオオクジャクシダと思われるシダとキヨズミオオクジャクと思われるシダが見つかり観察会ではこの2種ではないかとご案内しました。その後、現地で撮影した写真を見ても釈然としないので、6月10日に再訪し再度観察した結果、すべてキヨズミオオクジャクとしました。
オオクジャクシダが多く生育している谷も見られ、観察会ではキヨズミオオクジャクではないかとご案内したシダも見られましたが、撮影した写真では正確に確認できませんでしたので、再度武甲山へ行って確認を行いました。結果はキヨズミオオクジャクと確認できるシダは見られずすべてオオクジャクシダでした。観察会参加のみなさまには訂正させていただきます。再訪の途中(山梨から雁坂峠を超えて武甲山に向かう)、奥秩父大血川上流でチチブホラゴケなどを観察しました。併せて記載させていただきます。

ホソバコケシノブ
植林地内の切り立った岩壁にホソバコケシノブが群生。
林内に点在する巨岩の側面の岩壁に群生するホソバコケシノブ。2023年5月21日 武甲山北麓 ホソバコケシノブ、包膜。2023年5月21日 武甲山北麓
①林内に点在する巨岩の側面の岩壁に群生するホソバコケシノブ
②ホソバコケシノブ、包膜





チチブホラゴケ
大血川上流の渓谷沿い、非常に薄暗い切り立った岩壁に生育する。根茎には赤味を帯びた黒褐色の毛が密生する。葉は葉柄を含め3~5cm、灰暗青緑色で艶が無くマットは質感。裂片の先はアオホラゴケよりもやや尖る。包膜は先が広いラッパ形。
薄暗い切り立った岩壁に生育するチチブホラゴケ。2023年6月10日 大血川上流 チチブホラゴケ、葉身は灰暗青緑色で艶が無くマットは質感。2023年6月10日 大血川上流 
①薄暗い切り立った岩壁に生育するチチブホラゴケ
②チチブホラゴケ、葉身

チチブホラゴケ、根茎には赤味を帯びた黒褐色の毛が密生する。2023年6月10日 大血川上流 チチブホラゴケ、偽脈は見られない。2023年6月10日 大血川上流 
③チチブホラゴケ、根茎
④偽脈は見られないチチブホラゴケ

チチブホラゴケ、葉脈上には細長い細胞な並び、辺縁にも1層の細胞が並んでいるように見える。偽脈は無い。2023年6月10日 大血川上流 チチブホラゴケ、包膜は開口部が大きなラッパ状。2023年6月10日 大血川上流 
⑤チチブホラゴケ、葉の細胞
⑥チチブホラゴケ、包膜

チチブホラゴケ(左)とアオホラゴケ(右)の比較。2023年6月10日 大血川上流 チチブホラゴケ(左)とアオホラゴケ(右)の比較。2023年6月10日 大血川上流 
⑦チチブホラゴケ(左)とアオホラゴケ(右)の比較 
⑦チチブホラゴケ(左)とアオホラゴケ(右)の比較





イワイヌワラビ
大血川上流の渓谷沿い、ウエットな空気に包まれた岩壁に生育。葉は25~40㎝、紡錘形。
ウエットな空気に包まれた岩壁に生育イワイヌワラビ。2023年6月10日 大血川上流 イワイヌワラビ、胞子のう群。2023年6月10日 大血川上流
①ウエットな空気に包まれた岩壁に生育するイワイヌワラビ
②イワイヌワラビ、胞子のう群





ミドリワラビ
再訪時に出会う。スギ・ヒノキ林林床に点在して生育。オオヒメワラビに似るが、葉が濃い緑色。裂片は中裂する。 
林内で濃い緑の葉を広げるミドリワラビ。2023年5月21日 武甲山北 ミドリワラビ、葉柄には褐色の鱗片をつける。2023年5月21日 武甲山北
①林内で濃い緑の葉を広げるミドリワラビ
②ミドリワラビ、葉柄の鱗片

ミドリワラビ、羽片。2023年5月21日 武甲山北 ミドリワラビ、小羽片。2023年5月21日 武甲山北
③ミドリワラビ、羽片
④ミドリワラビ、小羽片

ミドリワラビ、胞子のう群。2023年5月21日 武甲山北 ミドリワラビ、胞子のう群。2023年5月21日 武甲山北
⑤⑥ミドリワラビ、胞子のう群
 





テリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)
最初、羽片に耳垂が発達していないのでツクシヤブソテツかとも思いましたが、周辺には耳垂が発達する個体も多く見られ、この個体は耳垂が発達しないテリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)でした。
耳垂が発達しないテリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)。2023年5月21日 昭和電工工場裏 テリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)、包膜は白っぽい。2023年5月21日 昭和電工工場裏
①耳垂が発達しないテリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)
②テリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)、包膜は白っぽい

テリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)、胞子数は30個程度確認、無融合生殖種。2023年5月21日 武甲山北 テリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)、胞子数は30個程度確認、無融合生殖種。2023年5月21日 武甲山北 
③④テリハヤマヤブソテツ(ヤブソテツ)、1つの胞子のうを壊したようす





キヨズミオオクジャク
谷筋の一つの森ではキヨズミオオクジャクが点在して生育。個体数は多い。葉の大きさは、35~80㎝、黄緑色~緑色、葉身中央部が最大幅となる、葉柄~中軸の鱗片は褐色~黒褐色(最基部にはやや明るい黒褐色の鱗片が見られる)、小羽軸にもわずかに黒褐色の鱗片がつく。最下羽片はあまり短縮しない。葉の表面で葉脈に沿って窪む。胞子のう群の位置は中間~やや辺縁寄り。
このシダを観察したとき、はじめ、胞子のう群の付く位置からすべてオオクジャクシダであると最初思ったが、その後、①鱗片の色(葉柄・中軸・羽軸)、②最下羽片の大きさ形、③葉身の形からキヨズミオオクジャクであると判断した。
オオクジャクシダの中には、鱗片が明褐色のものだけでなく鱗片が黒褐色を帯びるものも見られること、また胞子のう群の位置も羽片の辺縁寄りにつくものばかりではなくやや中間寄りにつくものも見られるので判断に迷った。
ウエットな谷筋の林床に生育するキヨズミオオクジャク(葉の長さ80㎝)。2023年5月21日 武甲山北 森の上部で見られたやや小形のキヨズミオオクジャク。2023年5月21日 武甲山北 
①ウエットな谷筋の林床に生育するキヨズミオオクジャク
②森の上部で見られたやや小形のキヨズミオオクジャク

キヨズミオオクジャク、葉身。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、羽片。2023年5月21日 武甲山北 
③キヨズミオオクジャク、葉身
④キヨズミオオクジャク、羽片

キヨズミオオクジャク、葉柄の鱗片。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、葉柄の鱗片。2023年5月21日 武甲山北
⑤⑥キヨズミオオクジャク、葉柄の鱗片

キヨズミオオクジャク、中軸の鱗片。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、羽軸(裏側)に少数つく鱗片。2023年5月21日 武甲山北 
⑦キヨズミオオクジャク、中軸の鱗片
⑧キヨズミオオクジャク、羽軸(裏側)に少数つく鱗片 

キヨズミオオクジャク、葉柄基部の鱗片。長さ10mm程度。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、中軸の鱗片。長さ3~4mm。2023年5月21日 武甲山北 
⑨キヨズミオオクジャク、葉柄基部の鱗片、写真⑫の鱗片
⑩キヨズミオオクジャク、中軸の鱗片、写真⑫の鱗片

キヨズミオオクジャク、葉柄最基部にみられるやや明るい黒褐色の鱗片。2023年5月21日 武甲山北 
⑪キヨズミオオクジャク、葉柄最基部にみられるやや明るい黒褐色の鱗片、写真⑫の鱗片 
 

キヨズミオオクジャク、葉。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、葉柄。2023年5月21日 武甲山北 
⑫キヨズミオオクジャク、葉
⑬キヨズミオオクジャク、葉柄

キヨズミオオクジャク、胞子のう群(葉身上部)。長さ10mm程度。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、胞子のう群(葉身下部)。2023年5月21日 武甲山北 
⑭キヨズミオオクジャク、胞子のう群(葉身上部)
⑮キヨズミオオクジャク、胞子のう群(葉身下部)

キヨズミオオクジャク、胞子のう群。2023年5月21日 武甲山北 
⑯キヨズミオオクジャク、胞子のう群

キヨズミオオクジャク、胞子数は30個程度確認。無融合生殖種。2023年5月21日 武甲山北 キヨズミオオクジャク、胞子数は30個程度確認。無融合生殖種。2023年5月21日 武甲山北 
⑰⑱キヨズミオオクジャク、1つの胞子のうを壊したようす





イワヘゴ
渓流のそばのスギ林林床に生育。1株。葉は大きく1mに達する。
渓流のそばのスギ林林床に生育するイワヘゴ。2023年5月21日 武甲山北 イワヘゴ、葉は1mに達する。2023年5月21日 武甲山北
①渓流のそばのスギ林林床に生育するイワヘゴ
②イワヘゴ、葉身

イワヘゴ、葉柄の鱗片。2023年5月21日 武甲山北 イワヘゴ、中軸鱗片および胞子のう群。2023年5月21日 武甲山北
③イワヘゴ、葉柄の鱗片
④イワヘゴ、中軸鱗片および胞子のう群

イワヘゴ、葉の表面では脈の線が見える、かわずかに窪む程度。2023年5月21日 武甲山北
③イワヘゴ、葉の表面

イワヘゴ、中軸の鱗片には棘状の突起がある。2023年5月21日 武甲山北 イワヘゴ、胞子数葉32個確認できる、無融合生殖種。2023年5月21日 武甲山北
③イワヘゴ、中軸の鱗片
④イワヘゴ、1つの胞子のうを壊したようす





フジオシダ(オクマワラビ×オシダ)
オクマワラビとオシダの雑種と推定される。シダ類が旺盛に生育する林床で周囲のシダに比べ大きく目立つ。葉身は紡錘形で葉身の基部に向けて羽片が短縮している。観察された胞子のようすは、胞子数は60個程度確認、大きさに大小があり・形が歪で雑種と判断できる。
シダ類が群生する林床で大きな葉を広げるフジオシダ。2023年5月21日 武甲山北 
①シダ類が群生する林床で大きな葉を広げるフジオシダ

フジオシダ、葉の裏側。2023年5月21日 武甲山北 フジオシダ、葉身は紡錘形~ネクタイ形。2023年5月21日 武甲山北 
②フジオシダ、葉の裏側
③フジオシダ、葉身

フジオシダ、葉柄下部。2023年5月21日 武甲山北 フジオシダ、葉柄。2023年5月21日 武甲山北 
④フジオシダ、葉柄下部
⑤フジオシダ、葉柄 

フジオシダ、羽片。2023年5月21日 武甲山北 
④フジオシダ、羽片

フジオシダ、中軸の鱗片。2023年5月21日 武甲山北 フジオシダ、胞子のう群。2023年5月21日 武甲山北 
⑥フジオシダ、中軸の鱗片
⑦フジオシダ、胞子のう群

フジオシダ、胞子数は57個程度確認、大きさに大小があり・形が歪で雑種の特徴が現れている。2023年5月21日 武甲山北 フジオシダ、胞子数は57個程度確認、大きさに大小があり・形が歪で雑種の特徴が現れている。2023年5月21日 武甲山北 
⑧⑨フジオシダ、1つの胞子のうを壊したようす





オンガタイノデ(サイゴクイノデ×ツヤナシイノデ)
武甲山北麓ではイノデの仲間も多く見られた。イノデ、アイアスカイノデ、イノデモドキ、カタイノデ、サイゴクイノデ、ツヤナシイノデ、ツルデンダ、ジュウモンジシダなど。
オンガタイノデは、サイゴクイノデとツヤナシイノデの雑種と推定され、周りに生えるイノデの仲間よりも大きく目立つ。葉の色はサイゴクイノデに似て淡緑色~黄緑色であるがそれよりもやや艶のある葉をつけていた。葉柄下部の鱗片にはサイゴクイノデに似て栗色が入るだけでなくツヤナシイノデ同様の幅の広い大きな鱗片が混ざっていた。
沢沿いのイノデの仲間が群生する中で大きな葉を展開するオンガタイノデ(サイゴクイノデ×ツヤナシイノデ)とサイゴクイノデ(右下)。2023年5月21日 武甲山北 オンガタイノデ(サイゴクイノデ×ツヤナシイノデ)、葉柄下部にはサイゴクイノデに似て鱗片中央に栗色が入りツヤナシイノデ似の幅広く大きな鱗片が混ざってつく。2023年5月21日 武甲山北 
①沢沿いのイノデの仲間が群生する中で大きな葉を展開するオンガタイノデとサイゴクイノデ(右下)
②オンガタイノデ(サイゴクイノデ×ツヤナシイノデ)、葉柄下部には幅広く大きな鱗片が混ざってつく。









そのほかの植物

林床に咲くシロバナタツナミソウ。2023年5月21日 武甲山北 鋭い鈎爪のような棘を持つジャケツイバラ。2023年5月21日 武甲山北 
①林床に咲くシロバナタツナミソウ
②鋭い鈎爪のような棘を持つジャケツイバラ





尾根沿いのややドライな林床に生育するウメガサソウ。2023年5月21日 武甲山北 尾根沿いで見られたイチヤクソウ。2023年5月21日 武甲山北 
③尾根沿いのややドライな林床に生育するウメガサソウ
④尾根沿いで見られたイチヤクソウ